日本の国内市場が縮み続けるなか、ベトナムへの販路開拓に乗り出す中小企業が増えている

東南アジアの中でも頭一つ抜けた経済成長を続けるベトナムは、地方のメーカーや中小企業にとって有力な次の一手になりつつある。一方で、動き出したものの期待どおりの成果が出ず、撤退を検討する企業があるのも事実だ。多くの場合、市場の可能性の問題というよりも、進め方の問題であることも多い。

中小企業のベトナム・シンガポール進出支援を手がけるマイアクシス合同会社https://myaxis-vn.com/)の黒田義明代表に、ベトナム販路開拓の基本的な考え方から実務上の注意点まで、幅広く話を聞いた。市場調査をどのタイミングで行うか、日本とベトナムの商習慣はどう違うのか、日本ブランドはどう活かせばいいのか。「まず何から始めればいいかわからない」という段階の企業にも参考になるよう、支援現場で繰り返し見えてきた七つの実践ポイントを、基礎から順を追って解説してもらった。

ポイント①ベトナム市場の理解から販路開拓は始まる

ベトナムの展示会・商談会を市場調査と組み合わせる

ベトナムへの第一歩として、展示会への出展自治体やジェトロが主催する商談会への参加、現地視察といった行動は、市場の雰囲気をつかむうえで有効な機会だ。実際に現地に足を運ぶことで得られる情報や人との縁は、非常に重要なものがある。

ただ、こうした活動の効果を最大化するには、事前に押さえておくべきことがある。自社商品がベトナム現地でどんな立ち位置にあるのか、競合はどのような商品か、自社製品のどこに優位性があるのか。この点を把握しないまま商談の場に臨むと、せっかくの機会を十分に活かしきれず、商談も盛り上がらないまま終わることが多い。黒田氏によれば、ベトナム市場や企業が求めるニーズを事前に理解しておくことで、商談会でのマッチング率も格段に高められるという。

ベトナム市場を知ることが販路開拓のコストを下げる

中小企業にとって、調査にまとまった費用をかけることへのハードルは高い。だが考え方を逆にしてみると、ベトナム市場への理解が浅いまま展示会や商談会を重ねるほうが、時間も費用もかえってかかることが多い。

現地の需要傾向や競合環境をある程度把握したうえで動けば、同じ展示会でも商談の質が変わり、次の一手の精度も上がる。大がかりな調査でなくても、入手できる市場ニーズや業界情報を事前に頭に入れておくだけで、見えてくるものは変わってくる。ベトナム市場を知ることは、その後にかかるコストや回り道を減らすための、地味だが確実な準備だ。

神奈川県加工食品展示会(写真提供)マイアクシス合同会社
神奈川県加工食品展示会(写真提供)マイアクシス合同会社

ポイント②中小企業がつまずくベトナムの商習慣の違い

ベトナムの商談は「メリットの提示」から始まる

日本のビジネスでは、まず挨拶があり、名刺交換があり、時間をかけて信頼関係を築いてから商流を作るという進め方が一般的だ。この商習慣に慣れた感覚のままベトナムに入ると、最初に大きなギャップを感じることになる。

ベトナムのビジネスでは、「その商品を扱うと、どんなメリットがあるのか」「利益はどのくらい見込めるのか」という実利の確認が、関係構築と並行して早い段階から始まる傾向がある。この商習慣の違いを知らないまま進めると、信頼関係を積み上げることに時間をかけすぎて、肝心のビジネスの話が一向に前に進まないという状況に陥りやすい。

会食を活かすには、示せる価値を先に準備しておく

対面の食事や酒席は、ベトナムでも関係を温める場として意味を持つ。ただ、会食はあくまでも関係構築の入口であり、ビジネスを前に進めるためには別の準備が必要になる。自社商品が相手にとってどんな価値を持つのかを事前に整理して臨むことで、食の席での会話の質もぐっと変わってくる。

日本流の「まずは関係から」という進め方を否定する必要はないが、ベトナムでは「関係づくり」と「メリットの確認」が同時進行で進む場面も多い。その感覚を頭に入れておくだけで、商談の場での戸惑いはずいぶん減るはずだ。

三陸・常磐水産加工品輸出商談会(写真提供)マイアクシス合同会社
三陸・常磐水産加工品輸出商談会(写真提供)マイアクシス合同会社

ポイント③日本らしさは変えず、伝え方を現地に合わせる

ベトナムにないものを探す発想から一度離れてみる

ベトナムへの進出にあたって「現地に合わせなければ」と考えるあまり、商品コンセプトそのものを変えようとするケースがある。パッケージを現地風にする、味を調整する、価格を下げる。こうした対応が必ずしも正解にならないのは、ベトナムでは今も日本ブランドへの信頼と関心が高く、「日本製であること」「日本らしいこと」自体が大きな付加価値になっているからだ。

商品やサービスの根幹にある日本らしさはそのまま活かしながら、それをどう伝えるかという部分を現地の感覚に合わせて工夫する、というのが実態に即したアプローチといえる。

その好例として黒田氏が挙げたのが「護符コーヒー」だ。ベトナムではカフェチェーンが広く根付いており、コーヒー・カフェ市場として見れば飽和しているように思える。そこに、アイスコーヒーに黄色い護符を巻きつけるというひと工夫を加えただけで、SNSで一気に拡散し、連日若者が詰めかける話題店になった。

全く新しいカテゴリを開拓しなくても、既存の市場に日本文化的な要素やアイデアを掛け合わせるだけで、新たな需要が生まれることを示している。「ベトナムに全くないものを探さなければいけない」という思い込みは、一度外してみたほうがいい。

ベトナム・ホーチミン市のカフェで、カップやグラスに黄色い護符を巻き付けたユニークな見た目でSNSを中心に大流行しているドリンク(写真出所)Tuoi Tre Cuoi Online
ベトナム・ホーチミン市のカフェで、カップやグラスに黄色い護符を巻き付けたユニークな見た目でSNSを中心に大流行しているドリンク(写真出所)Tuoi Tre Cuoi Online

日本ブランドの価値は、伝え方の工夫で最大化できる

黒田氏は、商品やサービスの日本らしさを変える必要はなく、それをいかに現地の人々に届けるかに知恵を絞ることが大切だと語る。ベトナムでは「安いものより高いものが信頼される」という側面もある。日本のデフレが長く続いた感覚とは逆で、価格の高さが品質の証として受け取られることが多い。例えば、粉ミルクが高価格のまま長年にわたって支持され続けているのも、品質と安全性への揺るぎない信頼があるからだ。

こうした傾向の背景には、ベトナムならではの子どもへの支出文化がある。父母だけでなく、両家の祖父母までが一人の子どものためにお金をかけるという家族の消費構造が根付いており、食の安全や教育に関わる支出は非常に厚い。水産物・加工食品・和牛といった食品カテゴリへの販路開拓相談が多いのも、こうした文化的な背景と深く結びついている。

ポイント④ディストリビューターは選ぶより育てる

日本での知名度は、ベトナムの棚とは関係しない

「有名なディストリビューターに扱ってもらえれば、あとは広がっていく」と期待する企業は多い。だが現実には、大手ディストリビューターにはすでに多くの商材が集まっており、入っても埋もれてしまうリスクがある。黒田氏が昨年から現地で日本酒の試飲会を重ねる中で、印象的な光景を目にしたという。ホーチミン市内の高級スーパーの酒売り場で、日本ではほとんど知られていない九州のある蔵元の銘柄が、棚の上から下まですべてを占めていたのだ。

ベトナム市場への参入からおよそ10年。日本での知名度は関係なく、適切なディストリビューターと組み、長年かけてその関係を積み上げてきた結果がそこにある。なお、日本酒の現地での受け入れられ方にも傾向がある。日本人が好む淡麗辛口の大吟醸系はあまり響かず、甘さがあって見た目も華やかなものが好まれやすい。「日本で人気のもの」をそのまま持ち込むだけでは刺さらない点も、あわせて頭に入れておきたい。

ベトナム日本酒試飲会(写真提供)マイアクシス合同会社
ベトナム日本酒試飲会(写真提供)マイアクシス合同会社

「輸出して任せる」では、ベトナムの販路は動かない

「輸出してあとは任せた」では動かない。前述の蔵元も、最初から大手を狙ったわけではなく、当初はまだ規模の小さいディストリビューターと組み、SNS運用・試飲会・サンプリングといった活動を一緒に積み重ねながら5〜6年かけて今の棚を確保してきた。自社商品を扱うメリットを継続的に示しながら、現地パートナーと一緒に育てていく姿勢こそが、ベトナムでの販路開拓において成果への最も確かなルートになる。

ポイント⑤ベトナム販路開拓は3〜5年で考える

ベトナムは景気が良く成長著しい市場だけに、進出すれば早期に手応えが得られるはずだという期待を持って動き始める企業は多い。ところが実際には、1〜2年で目に見える成果が出ることは少なく、現地の支援者の目には、関係がようやく育ち始めたタイミングで撤退しているように映るケースが少なくないという。

ベトナムでの販路開拓は、現地のパートナーとの信頼関係を丁寧に積み上げながら、一緒に市場を育てていくプロセスだ。黒田氏によれば、そのサイクルが本格的に回り始めるまでには、おおむね3〜5年の時間がかかるという。

裏を返せば、その時間軸を最初から織り込んで動いている企業ほど、焦らず関係を深めることができ、結果として成果につながりやすい。参入前の段階で「どのくらいの期間、腰を据えて取り組めるか」を社内で確認しておくことが、ベトナム市場で長く戦えるかどうかの分岐点になる。

ポイント⑥販路開拓を止めない法規制・通関への備え

通関で数か月止まる、ベトナムの法改正リスク

ベトナムは法改正が比較的頻繁に行われ、その前後で行政の手続きが全般に止まりやすい傾向がある。「輸送会社に任せておけばいい」という感覚でいると、現地に到着した商品が通関で止まったまま数か月動かないという事態に陥ることも実際に起きている。

取材時点での直近の事例として、取引のある現地スーパーへの和牛の搬入が差し止められたり、サンプル検査の要件が突然引き上げられたりといったことが法改正を境に発生しているという。盆栽についても、ベトナムにたどり着いたものの法改正の狭間に落ち込み、長期間止まったままになっている案件があるとのことだ。

こうした状況への対応力は輸送会社のネットワークや通関当局との関係によって大きく左右されるため、ディストリビューター選びが通関力の差にも直結することを意識しておきたい。法改正のタイミングや規制の変化は事前に予測しにくい部分もあり、日本の感覚で組んだスケジュールは現地では想定外の形で崩れることがある点も、あらかじめ頭に入れておくべきだろう。

ポイント⑦ベトナム市場の伸びしろを正しく見極める

東南アジアを一周した自治体や企業の関心が、インドをはじめとする新興市場へと広がりを見せている。新しい市場を視野に入れること自体は自然な流れだ。ただ、インド市場は地域による差が非常に大きく、商習慣や文化の多様性もあって、参入に向けた準備には相応の時間と体制が必要になる。大手企業でも腰を据えた投資が求められる市場だけに、リソースが限られる中小企業にとっては、自社の状況に照らして慎重に見極めることが大切だ。

一方でベトナムは、統計的にも伸びしろが十分残っており、多くの企業が表面的に捉えているこの市場の姿は、実態のほんの一部にすぎないと黒田氏は言う。アプローチや切り口を変えることで、日本企業がまだ入り込める余地は十分にある。次の市場を探すことも大切だが、その前にベトナムでやれることを尽くせているかを改めて確認してみることも、一つの判断軸になるのではないだろうか。

まとめ:ベトナムにはまだ中小企業の入る余地がある

七つの実践ポイントを振り返ると、根底にある考え方は共通している。一つ目は、展示会や商談会に臨む前に、まずベトナム市場を理解することだ。自社商品の立ち位置や現地ニーズを把握しておくことが、その後のあらゆる活動の精度を上げる。

二つ目は、日本とベトナムの商習慣の違いを正しく理解することだ。日本らしさという付加価値はそのまま活かしながら、相手にとってのメリットを明確に示す準備をしてから商談に臨む。

三つ目は、現地パートナーと3〜5年かけて一緒に育てていく姿勢を最初から持つことだ。ディストリビューターも含め、短期の成果を求めすぎず、関係を積み上げていくことが最終的な成果への近道になる。

「ベトナムにはまだ宝が埋もれている」という黒田氏の言葉が印象に残った。日本企業が当たり前に培ってきた品質・安全性・商品企画力は、ベトナムでも確実に評価され始めている。商品の日本らしさは変えず、伝え方を工夫し、法規制や通関の実態も踏まえながら、現地パートナーと腰を据えて取り組んでいく。その姿勢で臨める中小企業にとって、ベトナムへの一歩を踏み出すのに遅すぎるタイミングはまだない。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。

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