環境省の「令和8年度 我が国循環産業の海外展開事業化促進業務」において、株式会社浜田(大阪府高槻市、代表取締役・濵田篤介氏)による「北部ベトナムにおけるWEEE資源循環システム構築・実証事業委託業務」が採択された。
同社は今後、北部ベトナムを皮切りに、廃棄される電気電子機器(WEEE)の適正な回収・リサイクル体制の構築に向けた概念実証(PoC)を進める。ベトナムでは電気電子機器廃棄物の発生量が増加傾向にあり、環境・健康面での対策は喫緊の課題となっている。今回、同社事業戦略推進部の先田葵希氏に、ベトナムの電子廃棄物を取り巻く現状と、同社が描く処理体制構築の戦略について詳しく話を伺った。
ベトナムの電子廃棄物、処理の実態と課題
電子廃棄物の高値買取とリサイクル構造
ベトナムでは、非公式な回収業者である「インフォーマルセクター」が数多く存在し、廃棄電子機器(WEEE)を市場より高値で買い取っているのが実情だ。WEEEには金属など有用な資源が多く含まれる一方、水銀やフロンといった有害物質も含まれる。インフォーマルセクターはこの有害物を適正処理せず不法投棄する一方、資源価値の高い部分のみを取り出して回収・売却しており、こうした構造が高値買取を可能にしている。
対照的に、リサイクルライセンスを保有する正規業者は、有害廃棄物の処理費用を必ず負担しなければならないため、排出事業者に対して提示できる買取価格はインフォーマルセクターに劣ってしまう。結果として、正規リサイクラーが市場から排出物を回収しづらく、インフォーマルセクターによる回収が主流となっているのが現状だ。
先田氏は「規制やライセンス制度は整備が進んでいるものの、運用面ではまだ発展途上にあり、コスト構造の違いからインフォーマルセクターが価格競争力を持ちやすい状況にある」と説明する。制度と実態のギャップをいかに埋めていくかが、今後の大きなテーマになるとみられる。

排出源で分かれる電子廃棄物の回収
工場や企業から排出される産業廃棄物については、リサイクルライセンスを保有した廃棄物リサイクラーがすでに回収を担っている。一方、消費者から直接排出される、いわゆる「家庭ゴミ」としてのWEEE——スマートフォンやパソコン、テレビ、空調機器、冷蔵庫など電気電子機器全般——については、インフォーマルセクターが提示する価格の前に、正規ライセンス業者が集めることができていない状態が続いている。産業由来と消費者由来とで、回収の担い手が大きく異なる点が、ベトナムの電子廃棄物問題の複雑さを物語っている。
ベトナムにおける家電売却の慣習
市民の側も、インフォーマルセクターに持ち込めば高値で買い取ってもらえることを認識しており、自発的に持ち込むケースが一般的だという。また、市民が都市ゴミ(廃品回収)業者に引き渡すために不要になった家電を家の前に置いておくと、それが回収されていくという実態も確認されている。
先田氏は、日本と比較した際の構造的な違いにも言及する。日本では家電に関して「家電リサイクル法」が制定されており、テレビ・冷蔵庫・エアコン・洗濯機の家電四品目については、製造業者等や指定引き取り場所へ集積され、環境省より認定を受けた処理業者のみでしか再商品化できないという厳格な法規制が敷かれている。
一方でベトナムには、日本のような家電に特化した規制が未整備であり、WEEEの適正な処理に関する社会規範や意識が十分に定着していない。消費者から直接排出されるWEEEについては、リサイクルライセンスを保有したリサイクラーが集めることが難しい状態が続いているといい、こうした習慣の醸成が、今後の回収体制構築における課題の一つとなっている。

不適正処理が招くベトナムの環境汚染
インフォーマルセクターによる鉛や水銀などの有害廃棄物の不法投棄、あるいは野焼きは、近隣の土壌汚染・河川汚染を引き起こしている。ベトナムでたびたび指摘される大気汚染についても、こうした不適正処理が一因となっているとみられ、いわゆる「リサイクル村」と呼ばれる地域では、周辺住民の健康被害やベトナム全体の環境汚染につながっているという。
もっとも、こうした課題は環境・健康面にとどまらない。正規業者が事業として成立しづらいという経済合理性の問題も並行して存在しており、環境負荷の低減という観点だけでなく、経済的なメリットを市民にどう感じてもらうかが、今後の回収スキーム構築における重要なテーマになるという。
ベトナムEPR規制とメーカーの責任
ベトナムでは2020年環境保護法により、製造・輸入事業者に「リサイクル責任」(第54条)と「廃棄物の収集・処理責任」(第55条)の2つの責任が課されている。2022年制定の政令08/2022/NĐ-CPで詳細が規定され、WEEE(電気電子機器)についても2025年1月からリサイクル責任の対象に組み込まれた。
同制度のもとでは、対象事業者は「リサイクルを実施する」か「ベトナム環境保護基金へ財政的に拠出する」かのいずれかを選択することが法律上義務付けられている。リサイクルを選択した場合は、①自らリサイクルを実施する、②リサイクルサービス事業者に委託する、③中間組織(PRO)に委任する、のいずれか、またはこれらの組み合わせによって義務を遂行することができる。義務的リサイクル率・規格は品目ごとに定められ、3年ごとに引き上げられる。
この規制の施行により、メーカー・輸入業者はリサイクル事業における重要なステークホルダーとなった。適正処理ができる業者への委託ニーズが高まりつつあることが、今回のPoC実施の背景の一つになっているという。

【InfoBank整理】データで見るベトナム電子廃棄物
以下は、先田氏への取材内容とは別に、InfoBankがベトナムの電子廃棄物を巡る制度・市場データを整理したものである。
ベトナムEPRの対象範囲とは
ベトナムにおける電子廃棄物の定義は、EPR導入にあたり発出された2022年環境保護法政令第08/2022/NĐ-CP号第86条および附則XXIIに基づく。同政令はEPR(生産者拡大責任)対象製品を商品包装、蓄電池・電池、潤滑油、タイヤ・チューブ、電気・電子機器、道路交通車両の6グループに分類している。
対象範囲は欧州委員会の電気電子機器廃棄物(WEEE)指令の分類にソーラーパネルを加えたもので、具体的には冷蔵庫・エアコンなどの冷媒設備、タブレット・テレビなどの画面付き機器、電球・蛍光灯、電子レンジ・洗濯機などの大型設備、カメラ・オーディオ機器などの中小型設備、パソコン・プリンター・携帯電話などの通信機器、ソーラーパネルが含まれる。
ベトナムのEPRで指定された電子廃棄物の一覧
| 小分類 | 具体的製品 |
| 冷媒設備 | ・冷蔵庫、冷凍庫、自動冷凍装置、自動販売機 ・固定式・ポータブル式各種エアコン |
| 画面、画面のある機器 | ・タブレット、ノートパソコン ・テレビ、パソコン、その他のモニター |
| 電球 | ・電球 ・蛍光灯 |
| 大型設備 | ・簡易式電気コンロ、電気コンロ、赤外線調理器、オーブン、電子レンジ ・洗濯機、乾燥機 |
| 中型・小型設備 | ・カメラ、ビデオカメラ ・オーディオ機器:スピーカー、アンプ |
| 通信機器 | ・デスクトップ、デスクトップパソコン用ハードディスク ・プリンター、コピー機 ・携帯電話 |
| ソーラーパネル | ・ソーラーパネル |
ベトナム電子廃棄物、2035年までの発生予測
The Global E-waste Statistics Partnershipのデータを基にした推計によると、ベトナムにおける電気電子機器の市場投入量は2015年の354キロトンから2035年には1,100キロトンに達すると予測されている。これに伴い電子廃棄物の発生量も2015年の172キロトンから2035年には555キロトンまで増加する見込みで、市場投入量・発生量ともに右肩上がりの拡大傾向が続く。

ベトナムの電子廃棄物処理を支える二重構造
ベトナムにおけるE-waste処理は、許認可を取得した「フォーマルセクター」と、法制度上認められていない「インフォーマルセクター」の2つのフローが並存し、フォーマルセクターが主に産業廃棄物を、インフォーマルセクターが家庭由来の一般廃棄物を処理するという住み分けがなされている。フォーマルセクターには許認可を受けた有害廃棄物処理事業者が含まれ、現地報道によれば、2020年7月時点でその数は119社、総処理能力は年間15万トン。うち電子廃棄物処理の許可を受けているのは電気・電子部品処理49事業者、電球処理55事業者にとどまる。
一方インフォーマルセクターでは、家庭で廃棄された電子廃棄物は廃品回収事業者や中間買取事業者に収集・買い取られたのち、家族経営の伝統的なビジネス形態「リサイクル村」で部品ごとに分解・再生される。回収された鉄・銅・鉛等は再生資源として流通するが、排ガス・排水処理を施さない初歩的な技術が多く、環境汚染や安全上の問題を引き起こしているとされる。こうした家庭由来の電子廃棄物の収集・分類・リサイクルに携わるインフォーマルセクターの労働者は、専業・副業合わせて全国で約200万人存在すると見られている。

日本の処理技術、ベトナムで活かす
浜田社は国内において、金属スクラップから産業廃棄物まで、多種多品目の廃棄物取扱いに関する知見を蓄積してきた。電気電子機器に加え、太陽光パネルのリサイクル実績も持つ。ベトナムのWEEE規制では太陽光パネルも電気電子機器のカテゴリーに含まれており、こうした国内で培ったノウハウをそのまま応用できる領域があるという。
ただし先田氏は、日本のノウハウがそのまま適用できるとは限らないとも語っており、特に電気電子機器(WEEE)の回収の部分については、今回のPoCの中で実際に検証していく必要があるとの認識を示す。同社が強みを発揮しやすいのは、回収後の電気電子廃棄物のリサイクル工程であり、経済合理性と環境合理性を両立させながら、いかに効率よくリサイクルを推進していくかが焦点になるという。
今回のPoCでは、インフォーマルセクターとの共存を前提としながら、いかに回収量を確保できるかが大きな課題になるという。回収量が確保できなければ事業の採算性が成立しないためだ。加えて、日本と比較して精錬技術の発展状況が異なる中、高いリサイクル率を維持しながら効率的にリサイクルする方法論の確立も、検証テーマの一つになるとしている。

ベトナム電子廃棄物処理、今後の展望
浜田社はまず北部ベトナムを対象にWEEEリサイクル事業を実施し、将来的にはベトナム全土への展開、さらに近隣アジア諸国への波及効果も視野に入れている。
現地との連携を通じて実効性のある回収スキームを構築し、世界における環境負荷低減の実現とともに、持続可能な社会の形成に貢献していく方針だ。急速な経済成長とともに電子廃棄物の発生量が増加の一途をたどるベトナムにおいて、浜田社の取り組みが適正処理体制構築の一つのモデルケースとなるか、今後のPoCの進捗が注目される。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長
三浦 賢弥
KENYA MIURA
筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。
ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。
