InfoBase代表
三浦 賢弥

本レポートの執筆・監修者

株式会社InfoBase 代表取締役 三浦賢弥

500社以上のベトナム進出支援経験:日本企業向けベトナム市場調査・戦略立案に約8年関わり、中小中堅企業から大手企業まで500社以上のベトナム進出支援に携わる。
・10年以上のベトナムとの関わり:ベトナム留学、ベトナム地域研究を通じた修士号取得、日本政府機関・民間コンサルティング会社を含め、産官学で10年以上、ベトナムと関わる。

2026年2月のテト、私はベトナム・フエに滞在していた。約3ヶ月ぶりの訪問だったが、街を歩きながら改めてその変貌ぶりに目を見張った。不動産開発の加速現代的なスーパーマーケット大型ショッピングモールの台頭——肌で感じるその勢いを、カメラに収めながら街を巡った。

この10年で何度もフエを訪れてきたが、都市景観の変わりようは毎回驚きをもたらす。かつての古都の面影を残しながらも、経済発展の波は確実に、そして力強くこの街を変えつつある。

本記事では、統計データと現地の生の情報、そして筆者が実際に撮影した写真を交えながら、フエ市の経済発展の現状将来性最新動向とともに解説する。あわせて、日本企業にとって有望なビジネス領域についての持論も述べていきたい。

フエ市の経済概況と中期展望

中規模・高成長の中部都市「フエ市」:フエ市の経済概況(出所)ベトナム政府の公式統計や現地報道を基にInfoBank作成。

ーフエ市とは?日本企業が知るべきポイントとは?

フエ市はベトナム中部に位置する、「古都」と「成長都市」という二つの顔を持つ都市である。 ベトナム政府はトゥアティエン・フエ省全域を対象に、2025年に中央直轄市( centrally administered city)として正式に格上げし、同地域は今後の重点開発エリアとして位置付けられている。

阮朝の都として世界遺産を抱え、観光・文化都市として確立したブランドを持ちながら、国の計画では2030年までに「文化・観光・専門医療・高等教育のセンター」かつ「デジタル・グリーン産業を備えたスマートシティ」となることが打ち出されている。

これに加え、フーバイ国際空港の拡張新都市・工業団地イオンモールを含む商業施設群Hue-S(スマホアプリ)に代表されるデジタル都市基盤が整備されつつあり、ハノイやホーチミンほどコストが高騰していない中で、「中規模でありながら成長ポテンシャルの高い中部都市」として、日本企業にとって今後、新たな進出候補地となり得る都市である。

フエ市の基本的な経済指標

指標フエ市全国合計(参考)全国比の概算
面積約4,947km²約331,200km²約1.5%
人口約1,260千人約100.3百万人約1.3%
域内総生産:GDP(名目)約 82兆ドン(約32~33億ドル)約 11,511.9兆ドン(4,763億ドル)約0.6~0.8%
1人当たりGDP約2,840米ドル 2024年見込み値約5,026ドル全国平均の約65%
実質GDP成長率6.72〜7.09%(2024年速報・レンジ)約 8.0〜8.02%
輸出額(財)約 13億ドル前後(2024年省公表・報道ベース推計約4,750.4億ドル約0.27%

上記の表は、フエ市(トゥアティエン・フエ省域を基礎とする中央直轄市)の基本的な経済指標を、ベトナム全国と対比して整理したものである。 面積約4,947km²人口約126万人規模の地方都市でありながら、経済規模としては全国の約1%前後を占める中小規模の経済圏と言える。

域内総生産(GRDP)は名目約82兆ドン(約32〜33億ドル)と推計され、全国合計(約11,512兆ドン)に対して0.6〜0.8%程度の水準に位置する。 一人当たりGDPは2024年見込みで約2,840ドルとされており、ベトナム全国平均(約5,026ドル)のおおよそ65%にとどまることから、住民所得水準はなお全国平均を下回っている。

一方で、2023〜2024年の実質GRDP成長率は概ね7%前後と、全国平均(約8%)に迫る伸びを維持しており、観光やサービス業の回復・拡大を背景に、着実な成長軌道にある。 また、2024年の財の輸出額は約13億ドル規模と見込まれ、全国輸出総額に対しては約0.3%と小さいものの、伸びしろは大きい。

総じて、一人当たり所得は全国平均より低いが、その分、人件費地代などのコスト競争力を有しており、潜在力に比してまだ開発余地の大きい中部中核都市と評価できる。

フエ市の主要産業構造

世界遺産を抱える観光・文化都市「フエ市」:世界遺産:グエン朝王宮、国際アートフェスティバル
(出所)Travelthru,Laguna Lan Coの画像を引用しInfoBank作成。

フエ市の主要産業は、①観光・サービス(遺産都市機能)、②産業・建設・製造業、③農林水産業の三つに大別できる。

  • 観光・サービス(遺産都市)

世界遺産宮廷文化、各種フェスティバルなどを活かした観光・文化関連産業が、フエ市経済の中核を担っている。国内外からの観光客数はコロナ禍後に力強く回復しており、観光収入は数兆ベトナムドン規模に達するまでに拡大している。これに伴い、ホテル・リゾート、飲食、小売といったサービス分野への民間投資が活発化している。

  • 産業・建設・製造業

観光に次ぐ第二の柱として、産業・建設・製造業の比重が高まっている。GDPに占める「産業・建設」の割合はおおむね3割超とされ、自動車組立(キムロン・モーターズ)をはじめ、ゴム手袋、建材などの製造プロジェクトが稼働を開始しつつある。今後も、工業団地の拡張新規投資の誘致により、工業の存在感は一段と増すことが見込まれる。

  • 農林水産業

農林水産業のGDP比率は、おおむね1割弱まで低下しているものの、地域の雇用と食料供給を支える基盤産業であり続けている。特に、米作や水産物、林産品は、地場産業や加工業とも結びつきながら、地域経済の安定に寄与している。

フエ市の新たな産業と発展計画|IT・デジタル産業

Hue Sとはフエ市が提供する公式スマートシティアプリ(出所)Google Playを基にInfoBank作成。

フエ市は「観光・文化の街」であると同時に、IT・デジタル産業を新たな主要産業として位置付けている。中期的な都市戦略では、デジタルトランスフォーメーション、スマートシティ、金融・ITサービス、教育・医療サービスなどの知識・技術集約型サービスを重点分野として育成する方針が掲げられている。

具体的には、An Van Duong 新都市内に約30ha規模のソフトウェアパークを整備し、IT企業やスタートアップ、研究開発拠点を集積させる「Hue Software City(仮称)」構想を推進している。このエリアは、将来的に中部地域におけるICT・デジタル産業のハブとなることが期待されている。

また、フエ市はITを活用した先進的な都市運営にも注力している。代表的な取り組みがモバイル向けスーパーアプリ「Hue‑S」であり、トゥアティエン・フエ省のスマートシティサービスとデジタル政府機能を一体的に提供するプラットフォームとして設計されている。一つのアプリで、行政手続、公共サービス、生活関連情報へのアクセスを完結させることを目指している点が特徴である。

Hue‑S では、土地利用計画、停電情報、洪水・自然災害、交通状況、環境・大気質、感染症関連情報などがリアルタイムで公開されているほか、住民からの現場通報機能も備えている。これまでに受理・処理された通報件数は累計で数万件規模に達しており、市民参加型の行政運営を支える基盤となっている。

このように、フエ市は世界遺産都市でありながら、Hue‑S をはじめとするデジタル基盤を核として、行政・生活・観光・安全に関する情報を一元的に提供する、ベトナム有数のスマートシティ先進地域へと進化しつつある。

地理的優位性|ベトナム南北経済軸の中継拠点

チャンマイ・ランコー経済特区(EZ)2006年に首相の署名により設立され、27,000ヘクタールを超える面積を誇る。 出所:現地報道 Bao Dau Tu

チャンマイ・ランコー経済特区(EZ)2006年に首相の署名により設立され、27,000ヘクタールを超える面積を誇る。 出所:現地報道 Bao Dau Tu

フエ市は、南北軸と東西軸の交点に位置するという点で、地理的な優位性が高い経済圏に属している。ベトナム中部重点経済圏の一角として、南北を結ぶ幹線道路(国道1号線)と南北鉄道の結節点にあり、ハノイ〜中部〜ホーチミンを結ぶ国内物流・人流の中継拠点として機能しやすい立地である。このため、製造業・物流・サービスが南北いずれの方向にも展開しやすい。

さらに、フエ市はミャンマー〜タイ〜ラオス〜ベトナムを結ぶ東西経済回廊(East–West Economic Corridor)のルート上にも位置しており、陸路による国際物流のポテンシャルを有する点も特徴である。

フエ市周辺の拠点の中でも、チャンマイ・ランコー経済特区(Chan May–Lang Co Economic Zone)は、フエ市とダナン市の中間に位置する国家レベルの経済区である。国道1号線と南北鉄道が通過し、港湾・産業・観光を一体的に開発する方針の下で整備が進められており、将来的に中部沿岸部の重要な産業・物流拠点としての役割が期待されている。

成長初期市場としてのフエ市 |コスト優位と将来性

左:人口比較(ベトナム中央直轄市6都市) 右:一人当たりGDPの比較(中央直轄市6都市)中央直轄市6都市で比較しても、フエ市は発展余地が大きい。  出所:ベトナム政府の公式統計や現地報道を基にInfoBank作成。

ベトナム中央直轄市6都市における人口・一人当たりGDPの比較

都市推計人口規模(概数)1人当たりGDP(米ドル換算)
フエ市約126万人約2,840ドル(2024年見込み)
ハノイ市約860万人約6,700〜7,100ドル(2024年実績〜2025年シナリオ)
ハイフォン市約160万人約7,300〜7,600ドル(2024年推計)
ダナン市約130万人約5,500〜6,000ドル(2024年推計)
ホーチミン市約1,000万人約7,500ドル(2024年推計)、2025年目標8,500ドル
カントー市約130万人約4,500〜5,000ドル(2024年推計)

フエ市の人口は約126万人とされ、ダナン市やカントー市と同程度の中規模都市である。労働力規模や都市機能を支えるうえで十分なボリュームを持ちつつ、ハノイ市やホーチミン市のような大都市ほど過密でも高コストでもない点が特徴である。

一方で、一人当たりGDPは約2,840米ドルと全国平均を下回り、ハノイ市、ホーチミン市、ハイフォン市といった先行する中枢都市と比較すると、所得水準はなおキャッチアップ途上にある。これは裏を返せば、人件費や地代などのコスト面で競争力を発揮しやすい余地が残されているとも言える。

フエ市は「既に成熟した大都市」ではなく、成長初期段階にあり、コスト競争力と将来の伸びしろの両方が見込める中位規模・高ポテンシャル都市として位置付けて捉えることが重要であると筆者は考えている。

なぜ今フエなのか ― 都市発展の条件が揃う理由

フエ市は中央直轄市に2025年より正式に格上げ

ベトナムにおける中央直轄市と省の主な違い

項目中央直轄市
6市(ハノイ、ホーチミン市、ハイフォン、ダナン、カントー、フエ)。28省(2025年の統合後)。
地位・性格国の政治・経済・交通等の中枢都市で、人口・都市化・経済規模が相対的に大きい都市に付与される都市単位。広い地域を管轄する一般的な地方単位で、都市部と農村部を併せ持つ地域が多い。
中央との関係名称どおり「中央直轄」で、中央政府との連絡・調整機能が強く、国家レベルのプロジェクト・インフラが集中しやすいとされる。同じく中央の下に置かれるが、政治・経済上のハブ機能というより、地域ブロックの代表・調整役の性格が強い
行政機関省人民評議会・省人民委員会に相当する「市人民評議会・市人民委員会」が置かれ、権限・組織構造は省とほぼ同じ枠組みで規定。省人民評議会・省人民委員会が置かれ、中央からの指示の受け皿かつ下位行政単位への分権主体として機能。
主な機能・役割国家レベルの金融・産業・交通・教育・研究等のハブとして、広範な都市インフラ整備、都市計画、国際連携(姉妹都市・国際機関等)を担う。農業・林業・鉱業なども含む地域経済全般の発展、インフラ整備、社会サービス提供など、より総合的な地域行政を担う。

ベトナム国会は2024年11月30日、トゥア・ティエン・フエ省全域を基礎とする「フエ市」を中央直轄市として設置する決議(決議175/2024/QH15)を採択し、2025年1月1日付でフエ市は正式に中央直轄市となった。

ベトナムにおける中央直轄市とは、地方行政区画上、省と同格の地位を持ち、中央政府の直接の管轄を受ける都市を指す。 日本でいえば、都道府県レベルの権限と財政・計画権限を持つ大都市に相当するイメージである。

この結果、フエ市はハノイ市、ハイフォン市、ダナン市、ホーチミン市、カントー市に続き、ベトナムで6番目の中央直轄市となった。 政府および省の承認済み計画では、フエ市(旧トゥア・ティエン・フエ省)は「文化・観光・専門医療の中核」「科学技術・高等教育の拠点」「強い海洋経済拠点」として発展させる方針が打ち出されている。

中央直轄市への移行により、中央政府との直接的なパイプが強化され、インフラ整備や都市開発に関する中央予算の配分大型プロジェクト特別措置の獲得がより行いやすくなることが期待される。

フーバイ国際空港、2023年より第2旅客ターミナルが供用開始

2023年に新規開業したフーバイ国際空港の新規旅客ターミナルT2 出所:現地メディア VnExpress

フエ市の玄関口であるフーバイ国際空港では、新旅客ターミナルT2が2019年に着工され、空港公社ACVによる約2.3兆ドン(約9,800万ドル)の投資で建設された。 T2は2023年4月28日に供用開始され、その後正式開業し、フエ観光の本格的な回復・拡大を支えるインフラとなっている。

新ターミナルT2の設計処理能力は年間500万人(うち国内旅客約400万人、国際旅客約100万人)であり、旧ターミナルが年間約150万人規模であったのに比べて、旅客受け入れ能力は大きく拡張された。 これにより、ハノイ・ホーチミンなど主要都市との路線拡充や今後の国際線増便に対応できる、余裕のあるキャパシティを確保している。

日本-フエ間の直行便

フエの玄関口であるフーバイ国際空港は「国際空港」の名称を持つものの、日本からの直行便は現時点では就航していない。東京など日本各地からフエへ向かう際は、通常、ホーチミン市またはハノイで乗り継ぐ形となっており、移動時間や乗り換えの負担は一定程度発生している。個人的な希望に加え、フエの観光・ビジネス需要の拡大を踏まえ、将来的には日本からの直行便就航が実現することを切に願っている。

イオンモール・フエが新規開業|近代的小売の発展

2024年9月21日に開業した「イオンモール・フエ」 出所:Aeon Mall Hue公式サイト”hue.aeonmall-vietnam.com

イオンモールのベトナム7号店となる「イオンモール・フエ」は、2024年9月21日に開業し、ベトナム中部地域では初のイオンモール出店となったイオンモールの発表によれば、基本商圏は車で30分圏内の約65万人と想定されており、複数の世界遺産を有する古都フエという特性を活かし、地域住民に加えて観光客の需要も取り込んでいく方針である。

同モールは、敷地面積約8.6ha、延床面積約13.8万㎡、賃貸面積約5.1万㎡、約140店舗という規模を持ち、フエ市最大級であると同時に、中部地域でも有数のショッピングモールとなっている。 約7割のテナントがフエ初出店ブランドで構成されており、衣料、生活雑貨、家電、エンターテインメントなど多様なカテゴリを取り揃えている。

イオンモールのほか、GO!(Central Retail)やWinmartなどの進出により、ショッピングモール、スーパーマーケット、大型量販店が集積するモダントレード(近代的小売)のネットワークが、フエおよび周辺エリアで着実に拡大している。 こうした大型モールや近代的スーパーマーケットの連鎖的な開業は、伝統的な市場中心の流通構造から、「モール・スーパー・専門店+EC」を組み合わせた新しい消費スタイルへ移行しつつあることを示している。

日本企業にとっては、小売、飲食、専門店、サービス業などを展開しやすい近代的な商業施設のプラットフォームがフエでも整備されつつあることを意味し、テナント出店や提携、プロモーションなど、多様なビジネス機会が生まれつつあると捉えられる。

2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。「イオンモール・フエ」の向かい側に位置する高級ショップハウス(店舗兼住宅)を中心とした商業・居住区「An Cuu Galleria(アンクウ・ガレリア)」フエの有力な不動産開発会社である IMG Hueが手掛ける。
2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。「イオンモール・フエ」の野菜売り場で撮影。「オーガニック」、「健康」といったキーワードが並び、品質や安全性を訴求している。
2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。いずれの写真も「イオンモール・フエ」の食品売場で撮影。左から、日本産りんご、冷凍ピザ、日本製うどん、バター。食の欧風化、近代小売・流通の発展、和食の普及、冷凍冷蔵物流網の発展を象徴している。

フエ市南北2つのエリアで進む新都市プロジェクト

フエ市では、中央直轄市への移行と歩調を合わせる形で、新都市開発住宅社会住宅を含む大規模不動産プロジェクトが相次いで計画・実施されている。

アン・バン・ユオン(An Van Duong)新都市:

フエ市南部のAn Van Duong新都市は、将来的な「新都心」エリアとして位置付けられており、行政センター予定地やイオンモールに加え、社会住宅・総合住宅・商業施設を組み合わせた複数の大型開発プロジェクトが並行して進められている。

その一例が「社会住宅プロジェクト Khu E – An Van Duong New Urban Area」である。Thanh Thuy地区に位置し、約3.8ha(38,000㎡超)の敷地に、総床面積約18.1万㎡、25〜70㎡の集合住宅1,975戸を供給する計画で、総投資額は約2兆740億ドン(約7,900万ドル、土地使用料除く)とされている。 2026年第3四半期の着工、2030年第3四半期までの完成・稼働を目標としており、新都市部における中低所得層向け住宅ストックの拡充が期待されている。

2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。建設中の20階建て(地下2階)の高級マンション・商業複合ビル「フーミアン・プリズマ(Phu My An Prisma)」ヴォ・グエン・ザップ(Vo Nguyen Giap)通りとト・フゥ(To Huu)通りの交差点付近にあり、写真のヴォ・グエン・ザップ通りを直進するとイオンモールフエに至る。
2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。写真の奥に見えるのがイオンモールフエ。モール手前の土地にも水田が広がる。数年後には大きく景色が変わりそうだ。

An Van Duong 新都市内では、XH1・XH6・XH1(C区)など複数の社会住宅プロジェクトが計画されており、合計で数千戸規模の住宅供給が見込まれている。 具体的には、XH1-B区で約1,200戸、XH6-E区で約1,900戸、XH1-C区で約1,000戸に加え、一部区画では商業住宅(タウンハウス・低層住宅)も併設される計画である。 これにより、従来は水田や養殖地だったエリアが、一気に中高層住宅を中心とした都市型の居住地へと転換しつつある。

北部1区(Khu do thi phia Bac 1):北側の新興ニュータウン:

フエ市北部1区(Khu do thi phia Bac 1)の開発予定地 出所 Dau Tu Online

2026年1月に投資方針が新たに承認されたフエ市北部の「北部1区都市(Khu do thi phia Bac 1、Huong An・Kim Traエリア)」は、約36.4haの新都市プロジェクトで、総投資額は約4,110億ドン(約1.7億ドル、土地使用料等を除く)と報じられている。

計画では、約725戸のタウンハウス(商業住宅)と約515戸の社会住宅用集合住宅(総床面積約3.9万㎡)に加え、10万㎡超の商業・サービス床、幼稚園・中学校、公共施設などを整備し、約3,473人の居住人口を想定している。 北部エリアにおいても、住宅と商業、公共サービスを組み合わせた一体的な都市開発が進められようとしている点が特徴である。

フエ市における交通・医療インフラの発展

フエ中央病院(Hue Central Hospital) 出所:Benh Vien Trung Uong Hue

市内では複数の交通インフラ整備のプロジェクトが進行中である。 延長約9.6kmの新道路として、An Van Duong新都市(ゾーンE)からフーバイ国際空港近くの国道1号線交差点までを一直線で結ぶ計画であり、総投資額は約1,143億ドン(約4,500万ドル)、工期4年の都市重点インフラと位置付けられている。 完成すれば、空港と新都心(イオンモール、行政センター等)を直接連結するアクセス動線が形成される見通しである。

国家レベルのインフラとの連結という観点では、フエ市を通過する東側南北高速道路の区間整備・拡幅や、国道49号線を含む幹線道路網の強化が進められている。 これにより、フエ市はベトナム南北軸と東西経済回廊を結ぶ交通結節点としての機能を高める計画となっている。 南北高速鉄道(高速鉄道)計画においても、フエは中部地域の主要停車駅候補と想定されており、将来的には鉄道による高速アクセスの向上も見込まれる。

医療インフラについても、フエ市はベトナム全国でも有数の医療拠点である。フエ中央病院(Hue Central Hospital)は1894年創設のベトナム最古の西洋式病院であり、中部および中部高原一帯をカバーする国立レベルの基幹病院として位置付けられている。

近年では、第2施設(Phong Dien地区)の整備に加え、クアンナム中央総合病院を第3施設として再編する計画も進められており、中部一帯の高度医療提供体制の中核としての役割が一段と強まっている。

2025〜2030年に向け、フエ省・フエ市は「新都市・医療サービス複合プロジェクト」を含む一連の都市・医療関連プロジェクトに対し、国家予算、ODA、優遇ローンから合計約6.3兆ドン(約2.52億ドル)の投資を要請している。 その中心的な位置を占めるのがフエ中央病院の拡張・高度化プロジェクトであり、研究・教育機能を備えた医療クラスターの形成を通じて、「医療・ヘルスケアの中核都市」としてのプレゼンス向上が期待されている。

フエ市の有望産業分析 ― 次に伸びる5つの投資領域

このようにフエ市は都市発展の各条件が揃いつつ有るが、今後、日本企業が着目すべき有望ビジネス領域として、筆者は①消費市場(小売・飲食等)、②リゾート施設・観光客向けホテル、③製造業(サプライチェーンの高度化・脱炭素化)、④医療関連ビジネス、⑤住宅・都市開発の5つを挙げたい。

消費市場(小売・飲食等)

フエ市の消費市場(小売・飲食など)は、都市化の進展や住宅・商業開発、モダントレードの拡大を背景に、今後10年にわたり着実な拡大局面に入ると見込まれる。 日本企業にとっても、有望な進出領域として注目すべき市場と考えている。

前述した通り、イオンモール・フエ館内には、総合スーパーに加え、MUJI(良品計画)をはじめとする日本ブランドや、ファッション、生活雑貨、飲食、エンターテインメントなど約140店舗が出店しており、「近代的なワンストップ消費空間」として機能している。

これまで伝統市場や小規模店舗が中心だったフエに、日常の買い物から週末レジャーまでを一カ所で完結できる大型消費拠点が生まれたことで、住民の可処分所得の使い道消費行動大きく変わりつつある

イオンモール・フエは、行政センターや住宅・オフィスが集積するAn Van Duong新都市の一角に位置しており、周辺の人口増加と都市化の進展とともに、中長期的に商圏が拡大していくことが期待される。

加えて、2024年12月にはCentral Retailがフエ市フオンチャー(Huong Tra)町に、床面積3,000㎡超の「mini go! Huong Tra」を開業した。 「Eat – Shop – Play」をコンセプトとした近代的スーパーマーケットとして、食品・日用品から耐久消費財、簡易的なエンタメ機能までを一体で提供し、周辺住民にとっての新たな日常型ショッピング拠点となりつつある。

2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。2024年12月、フエ市郊外Huong Traに新規オープンしたミニスーパー「mini go! 」。フエ市中心からバイクで15〜20分に位置する箇所にも近代的なスーパーが誕生。将来、北部1区(Khu do thi phia Bac 1)プロジェクトとして北側の新興ニュータウンのエリアとなることが期待されている。
2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。同じくmini go! Huong Tra店舗内で撮影。フエ市郊外にも輸入果物、日本企業の飲食料品、パック詰めの生鮮肉が購入できるチャネルが整備されつつある。
2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。同じくmini go! Huong Tra店舗内で撮影したベーカリーショップ。チーズパンやクリームパンなどが販売され、食の欧風化を象徴している。
2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。一方で、1899年創業でフエ市内最大かつ最古の伝統市場であるDong Ba市場。写真は果物を売る店。輸入産のりんごも見られる。定価はなく、価格は店主と交渉して決まる。
2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。同じくDong Ba市場内にある肉屋。量り売りで売られ、基本的には近隣エリアで屠殺された肉がそのまま短時間で運ばれ、棚に並ぶ。
2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。フエ市中心部に位置するスーパーマーケット「Go! Hue」の生鮮肉売り場。伝統的市場と異なり、グラム当たりの価格が明確であり、産地の明記もある。写真右手には日本のスーパーと同じようにパック詰めされた生鮮肉も見られる。
2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。同じくスーパーマーケット「Go! Hue」の生鮮魚売り場。主に地元産の魚が並ぶ。
2026年2月に筆者がフエ現地で撮影。同じくスーパーマーケット「Go! Hue」の惣菜売り場。手前のおにぎりの他、フライドポテト、フライドチキン、ホットドッグなどの揚げ物・ホットスナックが目立つ。

リゾート施設・観光客向けホテル

フエの中心部にそびえ立つ「ヴィンコム・プラザ・フンブオン(Vincom Plaza Hung Vuong)」地上34階建てで、フエ市内で最も高い建物の一つで、5つ星ホテルの「メリア・ヴィンパール・フエ(Meliá Vinpearl Hue)」が入っている。 出所:tripadvisor

現地報道によれば、2025年、フエ市は推計約630万人の観光客を受け入れ、そのうち約190万人が外国人旅行者であった。 急速に拡大する観光需要を背景に、行政側も「5つ星レベルのホテル・リゾート開発プロジェクトへの投資呼びかけ」を行うなど、高級宿泊インフラの強化を重要課題として位置付けている。

フエ市とダナン市の中間に位置するLaguna Lang Co(ラグーナ・ランコー)は、約280ヘクタールの敷地を持つバンヤンツリーグループ運営の統合型リゾートである。 18ホール・チャンピオンシップゴルフコース(パー71)を中心に、バンヤンツリーやアンサナなどの高級ホテル、スパ、ビーチアクティビティが一体となった高付加価値リゾートだが、フエ市中心部からは車で約1時間半を要し、こうした本格的リゾート施設はフエ周辺でも数が限られる。

ラグーナ・ランコー(Laguna Lang Co)はバンヤンツリー・グループが手掛ける280ヘクタールの広大な統合型リゾート 出所:Laguna Lang Co

フエ観光局によれば、ここ20年ほどの間で3〜5つ星ホテルの数は大きく増えておらず、4〜5つ星クラスの客室数が限られるため、ピークシーズンにはしばしば満室となり、価格競争力や受入余力の面で他都市に劣る状況が続いている。 2024年10月時点で、フエ市には宿泊施設が約900軒存在し、そのうちホテルが205軒、3〜5つ星の評価を受けているホテルは24軒程度にとどまる。

一方で、観光客の宿泊ニーズは高級志向・長期滞在志向へとシフトしているものの、フエのホテルストックには老朽化した物件も多く、大規模リノベーションや新築投資は十分とは言えない。 実際、2024年になってようやくLa Vela Hue HotelLangco Bay Retreat Resortの2施設が新たに5つ星認定を取得し、フエにおける5つ星宿泊施設は10軒となったに過ぎない。

メリア・ビンパール・フエ(Meliá Vinpearl Hue)は2018年開業、213室を有する5つ星ホテルで、2022年にMeliáブランドへリブランドされた。 市中心部に立地する比較的新しい大規模ホテルとしては依然数少ない存在であり、今後の高級宿泊需要の取り込みにおいて重要な役割を担っている。

製造業(サプライチェーンの高度化・脱炭素化)

Kim Long Motor Hue:フエ市に拠点を置く、大規模な自動車製造・組み立て企業。チャンマイ・ランコー経済特区に600ヘクタール以上の産業団地を開発し、電気バス(EVバス)や自動車の製造、部品の現地化を目指す。 出所:KIM LONG MOTOR

2024〜2025年:ベトナム中央直轄市6都市における平均月給水準(概算)

2024〜2025年:ベトナム中央直轄市6都市における平均月給水準(概算) 
出所:現地メディア等を基にInfoBank作成。
地域平均月給水準(USD換算)
フエ市約300~340USD/月
ハノイ市約380 ~400USD/月
ホーチミン市約380 ~400USD/月
ビンズン省約380 ~400USD/月

2024〜2025年時点のフエ市の平均月給は、おおむね300〜340ドル程度と推計され、ハノイ市(約380〜400ドル)、ホーチミン市(約380〜400ドル)、ビンズオン省(約380〜400ドル)といった主要製造拠点よりも低い水準にある。 このため、人件費面では一定のコスト競争力を有しているといえる。

2025年には、A Luoi県のA Dot国境経済区内で約140ha規模の「Huong Lam工業団地」新設計画が承認された。 このうち約77.9ha(全体の約55.7%)が生産・倉庫用地として割り当てられ、木材加工、建材、農産品加工、繊維・履物などの製造業を重点誘致セクターとして位置付けている。

また、2025年末には、VSIP(ベトナム・シンガポール工業団地)が参画する、総投資額約3,000億ドン(約1.14億ドル)規模の「La Son工業団地(ゾーン1)」計画がフエ市で承認された。 約467haの敷地を有し、「グリーン・スマート・サステナブル工業団地」をコンセプトに、クリーンテック、電子、深加工、支援産業、ロジスティクス、ハイテクなど高付加価値産業の誘致を目指している。

フエ市は産業政策として「グリーン・スマート・サステナブル工業」を掲げ、クリーンテックや電子、深加工型製造、支援産業、ロジスティクスを優先セクターとして明示している。 単なるローコスト組立拠点ではなく、サプライチェーンの高度化・脱炭素化と整合する投資先としての方向性を明確にしており、工業団地開発もこの方針に沿って進められている。 こうした動きは、コスト競争力とサステナビリティを両立させたい日本企業にとっても追い風となり得るだろう。

医療関連ビジネス

フエ中央国際病院2プロジェクトのレンダリング画像 出所:現地メディアDau Tu Online

先述の通り、フエ市はベトナム国内でも有数の医療拠点であり、年間100〜110の国際専門家・学生の訪問団(約500人)を受け入れ、高度な専門医療・研修・国際共同研究を行う「地域の医療・教育ハブ」として機能していることから、日本・韓国・米国・フランス・ドイツなどとの長年の協力関係がある。

2024年4月には、フエ中央病院において第2国際病院「Hue Central International Hospital 2(国際センター2)」の起工式が行われた。 同プロジェクトでは、約4000億ドン(建設費約3000億ドン+医療機器約1000億ドン)を投じて、地上6階・地下1階、延床約2.1万㎡、国際基準の病床300床を新設し、ハイブリッド手術室、人工腎(血液透析)システム、全自動検査システム、PACS・LIS・HISが連携した包括的画像診断システムなど最新設備一式を導入する計画である。

ベトナム政府および保健省は、フエ中央病院を国際クラスの病院へアップグレードする方針を明確にしており、国家の医療ネットワーク計画(2021〜2030年・2050年ビジョン)とも連動させながら、今後数年間にわたり高度診断装置、手術機器、集中治療機器、情報システムなどへの継続的な投資を進めていくとしている。

また、フエ市はウェルネス・医療ツーリズムの開発方針を掲げている。 フエ中央病院と観光局が連携し、歯科診療、美容・形成外科、美容医療などを含む多様な医療パッケージを用意し、ヘルスチェックや治療と観光を組み合わせたプログラムとして商品化を進めているほか、温泉やスパ、瞑想・仏教文化体験と組み合わせたヘルスケアツアーの整備も進められている

住宅・都市開発

Huong AnとKim Traの北部都市エリア1プロジェクトの将来イメージ。2025年12月に投資方針が承認されたばかりで、現状では農地が広がる。 出所:現地メディア Vn Economy

フエ市は住宅・都市開発において、中間層向け住宅の「量的拡大」と質的アップグレード」の両面で政策を進めている。実際、2025年末には3件の大型社会住宅プロジェクトについて投資家募集を開始している。

  • An Van Duong新都市Bゾーン「XH1」:約1.8551ha、約1,200戸、総投資額約1.19兆VND(約4,500万ドル)。
  • Phong Thai地区プロジェクト:26.17ha、約1,680戸(タウンハウス)、投資額約1.43兆VND(約5,400万ドル)。
  • Huong An地区プロジェクト:4.03ha、約1,581戸、投資額約1.77兆VND(約6,700万ドル)。

こうした数千戸規模の都市型住宅プロジェクトが、南部・西部・北部の各エリアで同時並行的に進んでおり、フエ市では「都市化の本格進展に伴う住宅ストック整備」が本格的に動き始めた段階にあるといえる。

このほか、旧来団地の建て替え・高層化も進行している。市中心部では、老朽化したDong Da団地の再開発プロジェクト(投資額約1.3兆VND、敷地約8,664㎡)が進められており、地下3階+地上25階建て・669戸の高層マンション「Hue Heritage(仮称)」への建て替え計画が進行中である。

さらに、フエ市はThuan Hoa–Phu Vang地区で約150haの新都市プロジェクト(投資額約19.7兆VND=約7.57億ドル)を計画している。 このプロジェクトでは、約2,700戸の住宅に加え、サービスセンター、学校、公園、医療・娯楽施設などを整備し、約1万人規模の人口を収容する新たな都市拠点を形成する構想である。

当該プロジェクトでは、全体用地の少なくとも20%を社会住宅用地として確保することが義務付けられており、「中間層向け住宅+社会住宅+商業・公共施設」を一体的に整備する大規模都市開発として設計されている。 すなわち、住宅は単体プロダクトではなく、「都市開発パッケージ」の中核要素として位置づけられていると言える。

これらの動向を踏まえると、①新築マンション・戸建ての開発、②老朽団地・既存住宅地の再生、③街区インフラ・公共空間・スマートホーム/スマートシティ技術の導入、④省エネ・環境配慮型住宅の普及といった分野で、設計・建設・資材・設備・運営管理を組み合わせたビジネス機会がフエ市で広がりつつある。

まとめ|「古都」と「成長都市」という二つの顔を持つフエ市の発展を期待

フエ市は、世界遺産都市という確固たるブランドを持ちながら、2025年の中央直轄市昇格を機に、観光・製造・医療・デジタルといった多様な成長軸が同時に動き始めた稀有な局面にある。一人当たり所得はまだ全国平均を下回るが、それはコスト競争力と伸びしろの裏返しでもある。

筆者自身、この街の変化を今後も定点観測し続けたいと考えている。「古都」と「成長都市」という二つの顔を持つフエが、次の訪問時にどう変わっているか——それを確かめることが、今から楽しみでならない。

参考文献

行政・都市格

経済成長・投資動向

インフラ・交通

産業・技術開発

都市開発・社会住宅

観光・商業

医療・ヘルスケア