大手測定器メーカーアンリツ株式会社は、2026年5月に、高性能電子回路基板(PCB)の開発・製造を手がけるMeiko Electronics Vietnam Co., Ltd.(以下、メイコーベトナム社)において、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)「MS46122B」「MS46524B」が採用されたことを発表した。

InfoBankでは今回の発表を機に、アンリツベトナムへの取材とあわせ、公開情報に基づくベトナム市場の現状について整理した。

日本本社設備での評価から、ベトナム工場での完結へ

近年、AIサーバー先進運転支援システム(ADAS)などの分野では、データ伝送の高速・大容量化が急速に進んでいる。こうした動向に伴い、PCBの高周波特性の評価・品質保証の重要性は一段と高まりつつある。

こうした重要性の高まりの中、アンリツが公開した導入事例記事によると、メイコーベトナム社では従来、高周波特性の評価に日本の本社設備を活用していたが、評価完了までに一定の時間を要していた。そのため、結果を設計・製造現場へ迅速にフィードバックする点で改善余地があり、品質保証プロセスの効率化が課題となっていたという。

コンパクトUSBベクトルネットワークアナライザ MS46122B(写真出所)アンリツ株式会社

採用の決め手は「測定安定性」と「現地サポート」

今回の採用で決め手となったのは、アンリツのVNAが持つ高精度かつ安定した高周波測定性能に加え、ベトナム現地拠点での迅速な技術サポート体制であった。

これにより、メイコーベトナム社はVNAの導入を通じて、高周波特性評価を自社工場内で完結できる体制を構築でき、評価期間の短縮と、顧客への技術提案力の向上を同時に実現したという。

AI・半導体が変えるベトナム電子産業

AI・半導体需要が牽引――ベトナムPCB・電子産業が急成長

AIサーバーやADASの普及が加速する中、ベトナムの電子産業は急速な拡大期を迎えている。

公開情報によれば、ベトナムのコンピューター・電子製品・部品の輸出額は2025年1,078億ドルに達し、前年比48.4%増という目覚ましい成長を記録した。電子機器はベトナムの輸出全体の3分の1を占め、単一カテゴリーとして初めて1,000億ドルを突破した最大の輸出品目となっている。

ベトナムの電子・コンピュータ部品輸出額の推移 出所:Vietnam+ “Electronics exports surpass 107 billion USD in 2025

こうした成長の背景にあるのが、製造拠点としてのベトナムの地位向上だ。ベトナムはかつて「安く部品を組み立てる国」というイメージが強かったが、近年は「高付加価値な電子部品をつくる国」へと変貌を遂げつつある。

AIサーバーでは半導体・メモリ・周辺機器との間で高速・大容量のデータを伝送する必要がある。自動車のADASでも、カメラ・センサー・レーダーから得た膨大な情報を低遅延で処理することが求められる。このような用途では、高周波信号の伝送特性が製品性能に大きく影響するため、PCBの設計や製造精度が不十分な場合、信頼性の低下につながる。AIサーバー自動車のように高い安定性が求められる分野では、PCBが製品競争力を支える重要な要素となっている。

ベトナム政府は2024年に「2030年までの半導体産業発展戦略と2050年ビジョン」を策定。外資誘致やサプライチェーンの移転を背景に成長基軸が続いている。写真出所:cafef.vn

PCB製造への投資加速――ベトナムに日系・中国系が相次ぎ参入

こうしたトレンドを受け、PCB製造への投資も活発化している。

たとえばメイコー社は2026年4月、ベトナム・フート省にPCB製造の子会社を設立し、新たな工場を建設すると発表した。新会社の資本金は5,000万米ドルで、ASEAN地域における旺盛な顧客需要が既存工場の生産能力を上回る見込みだ。

また、中国勢の動きも見逃せない。Victory Giant Technology Groupの子会社がバクニン省で2億6,000万ドル(約405億円)規模のPCB工場プロジェクトを推進しており、2026年10月の正式稼働時には2,300名のスタッフを雇用する予定となっている。

ChatGPTのような生成AIや機械学習の急速な普及により、膨大なデータを処理できる高性能な専用サーバー(AIサーバー)を求める企業やデータセンターが増加している(写真出所):vietnam.vn

背景にある、ベトナム製造業の高度化

この採用の背景について、アンリツベトナムは「製造品目の高付加価値化・高周波化が進んだことが主因」と説明する。これまでベトナムではコンシューマー向けの付加価値品が中心だったが、サムスン社などの一部生産移管や台湾系企業の進出により、より高度な品質保証が求められるようになってきたという。

さらに、メイコー社でも工場の建設・拡張が進む中で、設計から品質保証までを現地で完結させる体制が求められるようになった。アンリツベトナムは、そのような体制では測定器の有無が評価のスピードを左右し、製品の短納期対応力にも直結すると見ており、こうした環境変化が今回のVNA採用につながったと説明している。

AIサーバー需要が測定ニーズを押し上げる

ベトナム市場全体で見ると、アンリツベトナムはAIサーバー向け需要の拡大を最大の成長要因とみている。NVIDIAをはじめとする各社のデータセンター投資が急増しており、それに伴ってAIサーバーに搭載される電子部品の品質保証ニーズが高まっているという。

品質保証の現地化が、次の競争力になる

アンリツベトナムは、主力事業について「測定器によるBtoB向け品質保証ソリューション」と説明する。スマートフォン、IoT機器、無線LAN(Wi‑Fi)・5G対応製品などで、出荷前の品質試験に同社の測定器が幅広く使われているという。顧客は日系企業に限らず、米国・台湾・中国・韓国系まで多様化している。

今後はAIサーバー関連に加え、衛星関連や工場自動化も成長領域として見込んでいる。半導体分野では特にホーチミンを中心とした南部でビジネスポテンシャルが高まっており、アンリツベトナムも現地でのサポート体制を整えている。さらに、測定機器単体の提供にとどまらず、自動化を含めた試験ソリューション提案にも注力していく方針だ。

まとめ:メイコーベトナム社の事例が示す、評価体制の現地化

メイコーベトナム社のVNA導入は、評価機器の採用事例にとどまらない。それは、品質保証を現地で完結させ、開発サイクルそのものを加速するための体制転換である。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。