この記事の執筆者

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。

なぜ日本企業によるベトナム市場調査はうまく行かないのか?

私はベトナム市場調査・進出コンサルティング業界に約10年ほど関わり、数百社のベトナム市場調査プロジェクトに携わってきた。この経験を通じて、ベトナム市場調査に関連し、多くの日本企業に共通する3つの課題を感じている。

  • 形式的にベトナム市場調査を実施したものの、期待通りの成果物を得られていない
  • 調査結果を受け取っても、具体的なベトナム事業のアクションに繋げられていない
  • 市場調査会社やコンサルティング会社を、自社のベトナム事業推進にうまく活用できていない

こうした課題意識のもと、この記事では「ベトナム市場調査を発注する事業者側」の視点に立ち、以下の4つの重要な点をお伝えしたい。

  1. 成果物としての市場調査レポートの質を落とさない発注方法
  2. ベトナム市場調査にかかる費用の落とし所・費用感
  3. ベトナム市場調査に要する期間とスピード感の維持
  4. 「調査して終わり」を防ぎ、社内の事業を前に進めるための方法

これから初めて調査を発注する会社から、すでに何度か発注経験のある会社まで、基礎から応用まで一つの記事にまとめたため、ボリュームのある内容となっている。ぜひ関心のある章から読んでいただければ幸いである。

ベトナム市場調査を事業に活かす4つの結論

資料作成まで伴走できてこそ、本物のベトナム進出パートナー

本記事の結論を先に述べておくと、ベトナムでの事業を成功させる鍵は、自社の知見やネットワークだけに頼らないことにある。知名度やブランドに囚われず、ベトナムに本当に詳しい市場調査・コンサルティング会社が持つ知見とネットワークを、必要な分だけリーズナブルな価格で活用し、調査レポートや提携パートナーのリストアップだけで終わらせないこと。

そして、成長戦略や事業シナジーのストーリーを踏まえた資料・事業計画にまで落とし込み、社内の検討を実務的に前へ進めてくれるパートナー会社と連携すること。これが最も重要なポイントだ。その具体的な方法についても、本記事の中で詳しく解説していきたい。

ベトナム市場調査が「調査して終わり」で止まってしまう理由

ベトナムで事業を展開したい・している会社にとって、市場調査はあくまでビジネスを展開する上での手段でしかなく、目的ではない。しかし、多くの調査会社やコンサルティング会社にとっては調査すること自体をゴールとして捉えてしまっている節があり、これが発注者と調査会社の間でのギャップとなっている。

ベトナム市場を調べることは誰にでもできる。今や生成AIを使えば、モノの数分でどの業界の調査レポートも出力できる。では、ベトナム事業を前に進める・ビジネスを成功させるという観点から、どのような市場調査・コンサルティング会社に発注すべきか。そうした企業に本質的に求められることは私の考えと経験によれば、以下の3つだ。

  • ベトナム現地のリアルな動向と実態を詳細に理解しているか?
  • ベトナム現地企業とのネットワークやトップ層とのパイプを有しているか?
  • ベトナムを含む海外事業における成長戦略や事業展開時のシナジー創出、ストーリーへの落とし込みという想像力と高度な資料作成能力を有しているか?

の3点である。恐らく前半2つは想像しやすいだろうし、後述もする。最も私が重要である3番目については結論ファーストの視点に乗っ取り、この段階で述べておきたい。

本質的なベトナム調査会社・コンサルティング会社に求められる3条件

正解のないベトナム進出タイミング、どう見極めるか?

本当にベトナム市場調査は必要ですか?

経済成長が著しいベトナムでは、市場環境の変化も激しく、政府のトップダウンによって法規制が短期間で変わることも珍しくない。だからこそ、進出のタイミングは最重要課題になる。進出が早すぎれば市場規模はまだ未成熟で小さく、遅ければすでに競合がひしめいている。どの市場領域を見ても、大抵は外資系・ローカルの先駆者が存在し、競争そのものを避けることは難しい。

こうした環境下では、暴論であることは重々承知の上で言えば、ベトナムでのビジネスは「やってみないと分からない」というのが私の実感に近い。それを失敗と呼ぶべきかどうかは別として、事業活動を仮説に基づいて進めながら改善を繰り返し、アジャイル的に前進させていくことが望ましいと私は考えている。

もちろん、投資規模が数億円〜数十億円に及ぶ製造業、不動産、エネルギー、インフラといった業種では、市場調査がより重要な経営判断の一部になることは踏まえた上での話だ。

一方で、企業が市場環境を無視して無策のまま突っ走り、とりあえず進出するということは現実には起こり得ない。そもそも社内、特に上層部からの承認が下りないためだ。

ベトナム進出、押さえておきたい3つの視点

市場調査だけでは、ベトナム進出は前に進まない

ただ、海外事業を担当する担当者の多くはベトナム専任ではなく、複数の市場を同時に見なければならない立場にある。日々の業務に忙殺される中で、ベトナム事業を前に進めたい気持ちはあっても、必要な情報収集や資料作成に十分な時間を割けないというのが実情だろう。

そこで力を発揮するのが、ベトナムに詳しいコンサルティング会社だ。社内を説得するための資料作成(ドキュメンテーション)を代行してくれること。単なる調査レポートに留まらず、社内の上層部に説明できるだけの十分な量と深さを備えていること。

そして、発注者側の成長・拡大戦略を咀嚼した上で、「なぜベトナム市場で事業を展開するのか」という論拠を備えたストーリーと、事業シナジーを社内外で訴求できる資料にまで仕立て上げること。これらを一貫して実現できて初めて、真の「ベトナム進出コンサルティング会社」と呼べるのではないだろうか。

ベトナム進出担当者の負担と真のコンサルティング会社が担う3つの役割

コンサル会社は「受注後の熱意」で選ぶべき理由

コンサルティング能力そのものに加えて重要なのが、クライアント(発注者)の気持ちにどれだけ寄り添い、調査・戦略構築・資料作成のコミュニケーションに時間を割いてくれるかという姿勢だ。

調査会社・コンサルティング会社にとっての原価は、突き詰めれば人件費である。売上を追うあまり案件を抱えすぎ、担当者が受注前の営業には必死である一方、受注後の支援が手薄になってしまう会社を、私自身これまで何度も見てきた。

こうした会社を見抜き、熱意に溢れた支援会社を選び抜くことが、ベトナムでの事業を成功させる上で欠かせない視点になる。

ベトナム進出コンサル会社は「受注後の熱意」で選ぶべき理由

ひとことで語れるほど単純じゃない。「ベトナム市場調査」

ベトナム市場調査とは、ベトナム進出や事業拡大を検討する際に、現地の市場規模・競合環境・消費者ニーズを、データと実態の両面から把握する活動を指す。

ただし、一口に「ベトナム市場調査」と言っても、その中身は一様ではない。下図のように、調査は大きく「目的」「調査手法」「推進方法」という3つの軸で分類できる。

  • 目的に応じた分類では、成長性を検証する市場調査、消費者調査、競合調査、M&A目的の市場調査、ビジネスDD、営業活動を目的とした市場調査、実現可能性調査(FS)など、何を明らかにしたいかによって調査の設計が変わる。
  • 調査手法に応じた分類では、デスクリサーチ、定量調査(アンケート)、定性調査(インタビュー・ヒアリング)、店頭調査・視察調査、視察ツアー、テストマーケティングといった、情報の集め方の違いがある。
  • 推進方法に応じた分類では、調査項目を事前に合意して1ヶ月〜数ヶ月かけて実施するプロジェクト型、必要なタイミングで単発の助言を受けるスポット型、数ヶ月単位で顧問的に伴走し特定業界を定点観測するリテイナー型(定点観測型)がある。
ベトナム市場調査の分類

こうした分類が生まれる背景には、ベトナム市場特有の難しさがある。日本国内の常識やロジックがそのまま通用しない海外市場であり、しかも経済発展のスピードが著しい。だからこそ、ベトナム市場調査の難易度は、想定以上に高くなる。人口動態、市場の成長性、消費者心理、流通構造、法規制環境、商習慣――そのいずれもが、日本国内市場とは異なる論理で動いているからだ。

だからこそ、調査に着手する前に明確にしておくべきことがある。「自社はこのベトナム市場調査で、何を明らかにしたいのか」という目的だ。調査目的の解像度を上げておくこと。これが結果として、コストを最小限に抑え、得られる情報の質を最大限に高める、最も確実な近道になる。

ベトナム市場調査が「特に」重要とされる6つの理由

繰り返しだが、事業推進において、市場調査そのものはゴールではなく、意思決定に至るための一過程にすぎない。しかし「ベトナム」を前提とすると、この過程の重要性は他国以上に高くなる。その理由は主に6つあると考えている。

ベトナム市場調査が「特に」重要とされる6つの理由

ベトナム経済成長のスピードが速く、市場環境が目まぐるしく変化するから

ベトナムは長期的に高い経済成長率を維持してきた国だ。名目GDPは2015年の約2,370億ドルから2025年には約4,940億ドルへと、10年間で約2倍に拡大した。コロナ禍の2020年・2021年も東南アジアで唯一プラス成長を維持し、2025年の実質GDP成長率は8.02%と2011年以来の最高水準を記録している。

これほどのスピードで経済が成長する市場では、数ヶ月前のデータや先行事例が、現在の消費行動や競合状況とすでに一致しないことも珍しくない。BtoB業界においても、急な法改正によって市場が一気に動くことがある。

進出フェーズにもよるが、市場調査は一度きりのプロジェクト型で完結させるのではなく、定点観測やアジャイル的なアプローチを何らかの形で継続していく姿勢が重要だと考える。

ベトナムの名目GDP・実質GDP成長率の推移(2000〜2026年)

「安価な製造拠点」と「有望な消費市場」という二面性を持つから

ベトナムは長らく、日本企業にとって人件費の安い製造拠点として捉えられてきた。しかし一人当たりGDPが5,000ドルを超えた今、中間層の拡大に伴い、有望な消費市場としての顔も併せ持つようになっている。

「安価な人件費」と「所得水準の向上」は本来相反する動きだ。だからこそまずは、自社がベトナムをどちらの市場として捉えているのか、根本的な認識を揃えることが重要になる。

ベトナムの一人当たりの名目GDPの推移(1990〜2026年)

進出のタイミングの見極めが非常に難しいから

ベトナム市場への進出タイミングに、絶対的な正解はない。経済全体は高い成長性を維持しているが、進出が早すぎれば市場そのものがまだ未成熟で、需要の規模が小さすぎるという壁にぶつかる。逆に進出が遅すぎれば、すでに競合製品・サービスがひしめくレッドオーシャンと化しており、後発として入り込む余地が限られてしまう。

一方で、勝ち筋も存在する。「進出がやや早い」と思われるタイミングで市場に入り、赤字を先行させながらも地道に営業活動を積み重ねてきた企業が、結果としてその市場のトッププレイヤーに収まっているケースを、これまで数多く見てきた。市場が立ち上がる前から現地での認知形成や関係構築を進めておくことで、後から市場が本格的に伸び始めた局面で優位に立てるという構図だ。

ただし、こうしたマーケティング・営業活動への先行投資に耐えられるのは、体力や資本力のある企業であることが多いのも事実。だからこそ、自社がどのタイミングで、どの程度のリスクを取って市場に入るべきかを見極めるための市場調査、すなわち「今、この市場に入るべきかどうか」自体を検証する調査の重要性が高まってくる。

ベトナム進出フェーズ別の収益性の変化

ベトナムは日本人が想像する以上に、多様性のある国だから

ベトナムは南北に細長い国土を持ち、地域によって消費者の気質や商習慣が大きく異なる。「ベトナム市場」を一つの塊として捉えると、実態を見誤りかねない。

商業都市としての歴史が長く、外資との接点が多かったホーチミンを中心とする南部は、新しいものや変化への抵抗が少なく、トレンド感度も高い。新製品・新サービスへのトライアル意欲が旺盛なため、市場導入をまずホーチミンから始める企業も多い。商習慣としても商談のスピード感が比較的早く、合理性やコスト効率を重視した意思決定が見られる。

一方、政治の中心であるハノイを含む北部は、品質や信頼性を重視した購買行動が特徴で、比較的保守的な傾向がある。新しいブランドへの切り替えには時間がかかりやすいが、一度築いた信頼関係やブランドロイヤルティは長期的に維持されやすいとも評される。商習慣面では、行政機関や国営企業との関係が深い土地柄もあり、意思決定における階層性・手続きの重視や、人脈・面子を含む関係構築に時間をかける傾向が南部より強い。

ベトナム北部・南部のビジネス特性比較

ベトナムでは統計・データが十分に整備されていないから

ベトナムでは政府統計や業界データの整備がまだ発展途上にあり、日本のように二次情報だけで市場の全体像を描くことは難しい。

まず業界団体としてのまとまりが薄く、日本のように各業界団体が独自にデータを集計・公表している例は多くない。地方政府ごとに統計の粒度や更新頻度にもばらつきがあり、全国横断で信頼できる数字を揃えること自体が容易ではない。

ベトナム消費者側の実態を捉えることも一筋縄ではいかない。副業収入や家族単位での複数の収入源、税務申告と実態の乖離に加え、零細な個人商店や屋台といったインフォーマルセクターの経済活動は、そもそも統計上に十分反映されていないことが多い。公式データはあくまで「氷山の一角」であり、現場の実態とはギャップが生じやすい。

だからこそ、現地事情に精通し、統計に表れない一次情報を対面のヒアリングや現場観察から的確に拾い上げられるベトナム現地調査員の存在が不可欠になる。

ベトナムにおいて公式統計に表れにくい「伝統小売」の存在

ベトナム現地の商習慣が特有だから

ベトナムでは、日本の商習慣の延長線上では読み解けない、独特の商慣行が根強く残っている業界が多い。例えば流通の各段階で中間マージンが積み重なる構造や、取引の慣行としてリベートが発生するケースは珍しくなく、こうした商流の実態は、公式な取引条件や価格表だけを見ていても見えてこない。

会計面でも、いわゆる二重帳簿(税務申告用と実態管理用の帳簿を使い分ける慣行)が一部で残っているとされ、財務データだけを鵜呑みにすると、実際の収益構造や取引規模を見誤るリスクがある。M&Aやビジネスデューデリジェンスの場面では、この乖離をどう見抜くかが調査の精度を大きく左右する。

こうした商習慣は業界によっても様相が異なる。建設・不動産では許認可プロセスに絡む慣行、医薬品・医療機器では代理店を介した独特の流通構造、小売では棚代やプロモーション費用の負担ルールなど、それぞれの業界に特有の「暗黙のルール」が存在する。統計やレポートには表れないこうした現地事情を把握するには、その業界に精通した現地の実務家や有識者の知見が欠かせない。

2026年にトー・ラム書記長が国家主席を兼任した新体制下、
企業に見過ごされてきたベトナムの商慣行を是正する動きが強まっている

ベトナム市場調査が「想定以上に難しい」理由

ベトナム市場調査は、日本国内の感覚のまま進めると想定以上につまずきやすい。ここでは、私の過去の経験に基づいて、現場で実際に起こりやすい3つの難しさを取り上げる。

①ベトナム現地の一次情報が取りにくい

新興国を対象とした市場調査に共通する話かもしれないが、ベトナムでは、インターネット上で公開されている公知情報がそもそも限定的だ。しかも、真偽の定かでない情報も少なくない。生成AIを使えば手軽かつ安価に大量の情報を収集できるが、その内容を鵜呑みにはできない

結局のところ、ものを言うのは足を使って集めたローデータだ。企業のマネージャー層、有識者、顧客、競合など、ビジネスモデル上に存在する複数の関係者に個別にヒアリングし、地道にかき集めた情報こそが、競合他社との差別化につながる。統計や業界レポートだけでは埋まらない情報が大半を占めており、二次情報に頼った調査設計では、実態からかけ離れた結論に至りやすい。

AIや検索だけではベトナム市場全体像の一部しか見えていない

調査の目的によって、必要となる一次情報も変わってくる。

例えばM&Aを目的とした調査であれば、買収候補のロングリストを作成する段階では、ベトナム企業データベースを保有する調査会社に依頼するだけで十分なケースが多い。しかし、そこからショートリストへ絞り込む段階に入ると、話は変わってくる。対象企業に出資・M&Aを受け入れる意向があるかどうかを、直接ヒアリングして確かめる必要が出てくるのだ。

一方、営業活動の強化や見直しを目的とした市場調査であれば、中心となるのは顧客となり得る企業や競合企業へのヒアリングだ。中でも競合企業へのヒアリングは難易度が高い。情報を開示する義理のない相手から、本音を引き出さなければならないからだ。

こうした定性情報の収集には、相応の時間と人的コストがかかる。発注前の段階で、あらかじめ織り込んでおきたい。

ロングリストは「データ」で、ショートリストは「ヒアリング」で作る

②「ベトナム人に聞けば分かる」とは限らない

現地の声を拾うことは重要だが、ベトナム人に聞けば必ず正しい答えが得られるわけではない。変化のスピードが速いベトナムでは、市場調査に「未来予測」の要素が必然的に含まれてしまう。

しかし、今の消費者に将来の嗜好や行動を直接尋ねても、まだ経験したことのない生活様式を自ら言語化することは難しい。iPhoneが存在しない時代に、消費者がiPhoneを思い描けないのと同じ理屈だ。都市鉄道(メトロ)が発展していないホーチミン市の住民に、複数路線が開通した後の生活様式を尋ねても、答えは通り一辺倒なものになりやすい。

以前、ベトナム小売業界の10年後の姿や、ベトナムの食文化が10年後にどう変化するかを予測し、そこから逆算して戦略を策定するプロジェクトをマネジメントした経験がある。

こうした未来予測型の調査で成果を出すには、高度な質問設計スキルを持つ調査員が、取得したデータから示唆を抽出するという、極めて難易度の高い作業が必須になる。当初、自社内のベトナム調査員が出した調査結果は、わざわざヒアリングをしなくても発想できるような、ありきたりの内容であった。

これと関連して、調査チームの体制も成果を左右する。理想は、ベトナムに詳しい日本人マネージャーと、現地で深い情報を拾えるベトナム人調査員の両方が含まれる体制だ。ベトナム人調査員のみでは、日本企業が本質的に知りたい意図を汲み取ることが難しく、逆に日本人のみでは、現地の深い情報に手が届きにくい。提案書の段階で、こうした体制と、未来予測に対する具体的な示唆提示能力がどこまであるかを見極めたい。

なぜ日本人×ベトナム人の混成チームが必要なのか?

③調査会社の選定が難しい

ベトナム市場調査サービスを提供する会社は、予想以上に多い。しかも各社で得意領域は異なり、消費財に強い会社もあれば、BtoB・製造業のヒアリングに強い会社、政策・規制動向の解釈に強い会社もある。価格帯も会社によって様々だ。市場調査の発注に不慣れだと、紹介を受けた会社や知名度のある会社にそのまま依頼してしまいがちだが、一旦立ち止まって考えてほしい。自社の目的に合った調査会社を見極めるには、複数社への相見積もりと、提案内容の比較検討が欠かせない。

ここで一つ付け加えておきたいのは、必ずしも大手企業やブランド力のある調査会社に依頼することが最適解とは限らないという点だ。大手に依頼すれば、ある程度体裁の整った答えは出てくる。しかし市場調査で本当に重要なのは、その結果がその後の具体的なアクションにつながるかどうかである。どれだけ洗練された戦略を描いても、ベトナム現地の事情に照らし合わせて実行可能なものでなければ、絵に描いた餅で終わってしまう。

実際には、規模こそ大手には及ばないものの、ベトナム事情に精通し、南北の両エリアにベトナム人調査員を配置し、現地企業との深いパイプを持つブティック系の調査会社も存在する。ブランド力や体制の大きさだけでなく、こうした「実行可能な示唆」を引き出せる会社かどうかを含めて、目的や予算に応じて使い分けていく視点が求められる。

ベトナム市場調査の発注先において”大手だから安心”とは限らない理由

ベトナム市場調査、7つの手法をどう使い分けるか?

ベトナムを対象とした市場調査には、デスクリサーチからヒアリング調査まで、目的や予算に応じてさまざまな手法が存在する。ここでは代表的な7つの手法を取り上げ、それぞれの費用感や使いどころを説明したい。重要なのは、費用対効果とのバランスを見ながら、目的に最も適した手法を選び抜くことだ。

デスクリサーチ(デスクトップ調査)

既存の統計・レポート・ニュースなどをもとに基礎的な市場理解を深める手法。デスクリサーチそのものが無効というわけではないが、生成AIによってある程度の情報が手軽に入手できるようになった現代では、情報そのものとしての価値はかつてより低下している。

そのため、2026年の段階では、「情報を得る」というより、「ファクトチェックや資料の体系的な整理を外部に任せる時間を買う」という発想で捉えるのが良いと私は考えている。費用は各社・スコープによって幅があるが、数十万円程度が相場感であり、業界や難易度によって工程数は大きく変わるものの、100万円を超えると私個人としては割高に感じてくる。

生成AI登場前後でのデスクリサーチの価値

定量調査

主に消費者向けのアンケート調査を指す。見極めのポイントは、各社が保有する消費者パネルの質だ。インターネットパネルを用いた消費者調査を提供する会社は多く、価格も比較的安価だが、回答の質が伴わないケースもある。理由としてはきちんと向き合って回答してくれるベトナムの回答者の割合が、決して多くないためだ。

費用面では見劣りするものの、推奨したいのは調査員が対面で一人ひとりからアンケートを取る形式である。費用は割高だが、データの質と解像度が高い。数百人規模の定量調査を対面で実施する場合、費用は数百万円規模になることも多かった。

ベトナム定量調査(アンケート)の手法比較

項目インターネットパネル調査対面調査
費用感安価(数十万円程度)割高(数百人規模で数百万円規模)
回答の質ばらつきあり(きちんと向き合わない回答者が一定数)高い(データの質・解像度が高い)
見極めのポイント各社が保有する消費者パネルの質調査員のヒアリングスキル
向いているケーススピード・コストを優先したい初期仮説検証精度の高いデータが求められる本格調査

定性調査

消費者向けのデプスインタビューに加え、ベトナム企業へのヒアリング調査も定性調査の主要な手法となる。企業ヒアリングでは、主に顧客となり得る企業、競合となる企業、提携パートナー候補企業の3者を対象に聞き取りを行っていくことになる。

ベトナム消費者調査においては、数字だけでは見えてこない「なぜそう考えるのか」という意思決定の背景を掴みたい場面で特に効果を発揮する。価格設定の妥当性や商品コンセプトへの反応など、アンケートでは表層的な回答しか得られない論点も、対面での深掘りによって本音に近い情報を引き出せる。BtoB商材においても、業界のキーパーソンに直接話を聞くエキスパートインタビューは有効な手法となる。

ベトナムでは現地の人脈・ネットワークを持つ調査員かどうかが、得られる情報の質を大きく左右する。費用は対象者数やヒアリング時間によって変動するが、消費者インタビューであれば1人あたり数千円〜数万円、企業のマネージャー層を対象としたヒアリングであれば1社あたり数万円〜数十万円が目安となる。

調査対象別の主な聞き取り内容・費用目安・難易度

対象主な聞き取り内容費用目安難易度
消費者(デプスインタビュー)価格妥当性、商品コンセプトへの反応、購買の決め手1人あたり数千円~数万円
顧客企業購買の意思決定プロセス、既存取引先への不満点1社あたり数万円~数十万円低〜中
競合企業営業体制、価格戦略、拡大方針1社あたり数万円~数十万円高(情報開示の必然性がない相手から本音を引き出す必要あり)
提携パートナー候補出資・提携への意向確認1社あたり数万円~数十万円低〜高(警戒心を解きながら意向を探る必要あり)
BtoBエキスパート業界動向、専門的知見案件により変動

店頭調査

スーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストア、専門店といった売場を実際に歩き、競合商品の品揃え、価格帯、陳列位置、POPやプロモーションの内容を一つひとつ確認していく現場調査。棚のどの位置を確保できているかも、重要な観察ポイントの一つだ。

「今、実際の売場で何が起きているか」を自分の目で確認できる点に最大の価値がある。特にベトナムは南部と北部で主要小売チェーンの勢力図や品揃えの傾向が異なるため、複数都市を回ることで地域差も見えてくる。

調査結果は写真撮影と簡易レポートにまとめる形が一般的で、店舗数や調査項目にもよるが、比較的低コストで着手しやすい手法でもある。

ベトナムにおける店頭調査の対象(伝統小売店、コンビニエンスストア、スーパー、ドラッグストア)

視察ツアー

視察ツアーも、立派な市場調査の一種として位置づけておきたい。現地企業との情報交換を通じて有益な情報を得られることが多く、ベトナムでの事業展開を検討する日本企業が、まず最初に取り組むべき手法だと言える。

ここで日本企業にとって難しいのが、現地でのアポイント取得だ。訪問先は企業だけでなく、政府機関、業界団体、工業団地・病院・学校といった各種施設にまで及ぶ。現地企業とのコネクションを持つパートナーにアポ取得を依頼することを、推奨する。

ベトナムにおいてアポイントを取得しにくい視察先の例

テストマーケティング・ポップアップストア

本格展開の前に小規模なテストを行い、実際の市場の反応を検証するテストマーケティングの重要性は、年々高まりつつある。

ベトナムは経済成長のスピードが速く、消費者の購買力や好みが短期間で変化しやすい。そのため、過去のデータや先行事例が、現在の消費行動と一致しないケースも多い。加えて、流通チャネルの多様性と複雑さもその一因だ。伝統的なチャネル(個人商店・市場)とモダンチャネル(スーパー・コンビニ)、さらにEC・ライブコマースが併存しており、商品カテゴリーによって最適なチャネルの組み合わせが異なる。

ベトナムにおけるテストマーケティングの有効性

生成AIの登場によって、机上でのデスクリサーチはある程度瞬時にできる時代になった。しかし、AIが導き出す答えはあくまで既存データの延長線上にある「もっともらしい仮説」に過ぎず、変化の速いベトナム市場における唯一の正解を最初から言い当てることはできない。

だからこそ、AIで仮説の精度をある程度高めたら、その先は小規模なテストマーケティングを通じて、現地の実際の反応を見ながら軌道修正を重ねていくアジャイル的なアプローチが、時代にもベトナムの現地事情にも合った進め方だと言える。

1店舗・1エリアといった小さな単位でまず試し、消費者の反応を見ながら商品仕様や価格、チャネルを調整し、次のテストへとつなげていく。この「小さく試して、素早く学ぶ」サイクルこそが、机上の仮説を現地の最適解へと近づける最短ルートになるだろう。

オンライン調査(SNS分析・ソーシャルリスニング)

ベトナムは平均年齢が若く、若年層人口が多い上に、スマートフォンの普及率も非常に高い。Zalo・Facebook・TikTokなどを活用したソーシャルリスニングや、ECモールのレビュー分析といった「デジタルネイティブ世代向けの調査手法」も、有用性を増している。

ベトナムにおける主要SNSプラットフォームの月間利用率(2025年2月)

業種別に見る、ベトナム市場調査の設計ポイント

製造業

大手企業であればサプライヤー探索、中堅・中小企業であれば販路開拓が調査のメインテーマとなりやすい。当初はベトナム国外への輸出拠点としての位置づけが中心だったが、近年は生産した製品をベトナム国内市場そのものへ売り込んでいく動きが拡大している。

先述の通り、背景には、ベトナムの所得水準の向上がある。一人当たりGDPが5,000ドルを超え、中間層が拡大する中で、これまで輸出専用ラインとして稼働していた工場が、ベトナム国内市場向けの製品も並行して手掛けるようになるケースが増えている。

FDI(海外直接投資)の動向を見ても、ベトナムを製造拠点として捉える流れそのものは依然として強い。加えて近年では、ベトナム一国の労働コストや内需だけでなく、ASEANの地理的中心に位置する立地を活かし、周辺国への輸出も見据えた広域的な生産・供給拠点としてベトナムを位置づける企業も増えつつある。

ベトナムにおける登録済み外国直接投資額(2021年~2025年)と2025年ベトナムにおける外国直接投資(FDI)の業種別割合

こうした流れの中で、製造業における市場調査は、目的に応じて次のように切り分けて設計する必要がある。

  • 輸出拠点としての調査:部材調達先の信頼性、労務・物流コスト、周辺国への輸出網や関税・貿易協定の活用可能性
  • 内需開拓のための調査:国内需要の規模・成長性、競合の輸入品動向、現地の流通チャネル(伝統小売・モダントレード・EC)への対応可否

特に内需開拓を目的とした調査は、新しい論点が多い。これまで輸出向け生産を前提としてきた企業にとって、現地の消費者ニーズや価格感度、流通構造の理解を一から組み立てる必要があるためだ。この点で、輸出拠点としての調査とは求められる知見の質が異なってくる。

消費財・食品

消費者調査は、ベトナムにおいて伝統的に行われてきた調査領域だ。日用消費財の調査市場は歴史が長く、ベトナム地場系・欧米系・日系の調査会社が揃っているため、相見積もりによる選定はそれほど難しくない。

ただし、消費財・食品業界においても、BtoBかBtoCかで調査設計は大きく異なる。工場投資を伴う場合は精緻な市場規模・成長率の算出が肝となる一方、BtoC向けであれば消費者の嗜好・購買行動を捉える消費者調査が中心となる。

ベトナム消費者による日本の製品・サービス・コンテンツ全般への好意度の理由

また、消費財領域では、調査で仮説を検証するだけでなく、テストマーケティングやポップアップストアを通じて実際の店頭で反応を確かめる動きも一般的だ。例えば、ショッピングモールや商業施設で期間限定の売場を設け、価格帯・パッケージ・接客方法を変えながら消費者の反応を観察することで、本格展開前に商品仕様を磨き込める。

工場投資を伴うBtoB展開とBtoC展開における市場調査方法の比較

項目工場設備投資を伴う場合
(BtoB寄り)
BtoC向け展開
調査の肝精緻な市場規模・成長率の算出消費者の嗜好・購買行動の把握
主な手法デスクリサーチ、定量データ分析消費者インタビュー、定量調査(アンケート)
検証方法需要予測・投資回収シミュレーションテストマーケティング、ポップアップストア

BtoB商材

機械設備、部材、業務ソフトウェアといったBtoB商材は、消費者調査ではなく、顧客企業・競合企業への直接ヒアリングが調査の中心になる。顧客企業に対しては、購買の意思決定プロセス、予算感、既存の取引先に対する不満点などを聞き込み、競合企業に対しては、営業体制、価格戦略、拡大方針などを探ることになる。

BtoB調査の難しさは、対象が非上場企業の場合、情報開示の義務がないためヒアリングでしか実態がつかめない点にある。特に競合企業へのヒアリングは、相手にヒアリングの意図を悟られずに本音を引き出す高度なスキルが求められ、対象1社あたり数十万円〜、プロジェクト全体では数百万円規模になることも珍しくない。

飲食・サービス業・小売業

飲食・小売・フィットネスといった対面サービス業では、立地選定と現地の生活導線の理解が調査の核になる。商圏内の人口動態や競合店舗の状況だけでなく、実際に現地に足を運び、曜日・時間帯ごとの人の流れや、モール内でのテナント配置、賃料水準を肌感覚で掴む店頭調査・視察調査の重要性が高い。

また、南部と北部で外食・消費行動の傾向が異なるため、1号店をどのエリアから始めるかという意思決定自体が、事実上の市場調査の一部になる。ブランドの認知形成にはSNSでの評判形成が大きく影響するため、オンライン調査(SNS分析・ソーシャルリスニング)と店頭調査を組み合わせる設計が有効だ。

GISツールによる人口分布・商圏分析の例。現在の商圏分析は「徒歩・バイクでの到達圏」を前提に設計されているが、メトロ網の拡大により鉄道+徒歩移動が主流化すれば、「駅からの距離」を軸にした商圏の再定義が必要になる。多店舗展開を進める企業にとっても、出店戦略そのものを見直すタイミングが近づいている。(出所)GISドライブベトナム

不動産・インフラ・電力・エネルギー

政策動向や法規制の改正を定期的に収集する必要性が、他の業種以上に高い分野だ。電力・エネルギー分野は「決まるまでが長く、決まってからの反動が大きい」という特徴が見られる。

象徴的な例が、電力開発の基本方針を定める第8次国家電力開発基本計画(PDP8)だ。当初は2021年からの計画として策定される予定だったが、石炭火力の代替エネルギーを巡る議論が長引き、当初予定から2年半遅れて、首相決定第500号にて最終決定され、即時発効した。この間、多くの電源開発プロジェクトが宙に浮いた状態が続いた。

ベトナム電力政策をめぐるタイムライン

「政策が決まらない間は投資が止まり、インセンティブが効いている間は開発が集中し、切れると再び停滞する」というサイクルが繰り返されてきたことになる。2025年には、2024年に改正された電力法を踏まえて改定版PDP8が承認され、原子力・LNG火力・新エネルギーなどの発電計画が追加されるとともに、洋上風力の開発目標も上方修正された。しかし、直接電力購入契約(DPPA)制度など、実務に直結する制度は依然として未整備の部分が多い。

大型インフラ・エネルギー案件では、中央政府レベルの政策動向に加え、地方人民委員会の許認可プロセスや既存の国営企業との関係性まで含めた調査設計が求められる。政策の「目標」と実際の制度整備スピードにはギャップが生じやすく、継続的にウォッチできる調査体制が望ましい。

こうした大型投資案件のパートナー探索においては、ベトナム大手企業のマネジメント層とのパイプを持つ会社に依頼することが重要である。案件組成のために、果たす役割は大きいと言える。一方で、こうしたパイプの有無は、企業のウェブサイトや提案書だけでは判断がつきにくい。過去の類似案件でどのような経営層にアプローチし、どこまで意向を引き出せたのか、具体的な実績を確認しながら発注先を見極めることが望ましい。

ベトナム大型案件調査における関係者の整理

M&A関連調査(企業選定・スクリーニング)

M&Aを目的とした調査では、まず対象業界そのものの成長性を見極める。そのうえで、買収候補となり得る企業のロングリストを作成し、そこからショートリストへと絞り込んでいく。これが基本のプロセスになる。

ロングリスト作成の段階では、ベトナム企業データベースを保有する調査会社に依頼すれば十分だ。業界内の主要プレイヤーを幅広く洗い出すことができ、スクリーニングの初期段階としてはそれで機能する。

しかし、ショートリストへの絞り込みとなると話は別だ。ベトナムでは非上場企業が多く、財務情報の開示レベルも企業によってばらつきがある。そのため、データベース上の情報だけで絞り込みまで完結させることは難しい。売上規模や成長率といった定量情報だけでは、買収候補としての適格性――オーナーの株式保有比率、後継者問題の有無、既存株主との関係、簿外債務の可能性など――までは見えてこないからだ。

ベトナムM&A候補企業の絞り込みプロセス

ショートリストへの絞り込み段階に入ると、公開情報の収集だけでは足りなくなる。対象企業に出資・M&Aを受け入れる意向があるかどうかを、直接ヒアリングして確かめる必要が出てくるのだ。この段階のヒアリングでは、相手企業の警戒心を解きながら本音を引き出さなければならず、通常の市場調査以上に高度な調整力が求められる。

つまりM&A前の業界調査は、二段構えで設計する必要がある。「データベースで広く網羅する段階」と、「現地の人脈・交渉力を使って深く絞り込む段階」だ。どちらか一方だけでは、案件組成にはつながりにくい。

ショートリスト段階で確認すべき定性情報のチェックリスト

確認項目データベースで分かるかヒアリングが必要な理由
売上規模・成長率
オーナーの株式保有比率△(登記情報である程度分かる場合も)実質的な意思決定権者の把握には直接確認が必要
後継者問題の有無×非公開の家族・経営状況に関わるため
既存株主との関係×複雑な株主間契約や暗黙の合意は開示されない
簿外債務の可能性×財務諸表の外にあるリスクのため、実地確認が必要
コンプライアンス上のリスク(許認可の有効性、労務・環境規制の遵守状況、過去の行政指導・摘発歴など)×許認可証の名義貸しや、未申告の労務・環境違反は公開情報に表れず、現地の実務家・関係当局への確認や現場視察でしか把握できないため

ベトナム市場調査の発注前チェックリスト

市場調査を発注する際のコツとして、ここで特別に触れておきたいことがある。それは、調査会社との相談・調整・交渉において、発注者側が主導権を持って進めるための工夫だ。

最終的な見積もり金額、発注に至るまでのスピード感、そして成果物の認識相違を防ぐこと――そのいずれの場面でも効果を発揮するのが、調査したい内容(調査項目)を、ドラフトでも構わないので自社であらかじめリストアップしておくという方法である。

もちろん、あえて調査項目のたたき台を提示させず、調査会社自身に提案書として作成させることで、その会社の力量や提案力を見極めるというアプローチもある。しかし基本的には、自社としてどこまでの項目を押さえたいのかを事前に整理しておくことを推奨したい。この一手間が、調査スコープのブレを防ぎ、費用対効果を高めることにつながるからだ。

ここでは、進出可否の判断から戦略策定まで、一般的に押さえておきたい調査項目を2つの段階に分けて整理する。

ベトナム市場調査を発注する際に調査項目をドラフトでもリストアップしておくべき理由

市場環境を把握するための項目

一見基礎的に見える項目が多いが、実際に掘り下げていくと奥が深い領域だ。ベトナム市場の成長性や現状、そこに潜むリスクや課題を捉える項目が中心となる。

  • 市場規模・成長性:対象業界・カテゴリーの市場規模、過去数年の成長率、今後の予測を把握する。ベトナムでは統計が未整備なため、複数ソースの数字を比較・補正する視点が欠かせない。公式統計だけで数値を積み上げられない場合は、人口・所得水準・類似カテゴリーの普及率といった関連指標から、フェルミ推定で規模感を推計することも少なくない。
  • 競合他社の動向:主要プレイヤーのシェア、新規参入・撤退の動き、価格帯、製品ラインナップ、マーケティング施策を確認する。非上場企業が多いベトナムでは、公開情報だけで競合の実態を把握することは難しい。特にシェア率は重要な指標であるにもかかわらず、整備されたデータが思いのほか少ないのが実情だ。
  • ターゲット顧客のニーズ・購買行動:誰が、何を、どこで、いくらで買っているかを明らかにする。年齢層・地域(南部・北部の違い)・所得階層別の違いも含めて把握する必要がある。BtoCの場合はとりわけ重要になるが、BtoBであっても、商流の中で実質的に誰が顧客となり、どのようなニーズを持っているのかを適切に捉えることが大切だ。
  • 流通チャネルの構造:小売チャネルが複雑なベトナムでは、特に重要な項目だ。伝統的小売(個人商店・市場)、モダンチャネル(スーパー・コンビニ)、EC・ライブコマースの比率や使い分け、有力な代理店・ディストリビューターの情報を押さえておきたい。

ベトナム市場調査における主要確認項目と注意点

確認項目押さえるべきポイントベトナムならではの注意点
市場規模・成長性対象業界・カテゴリーの規模、過去の成長率、今後の予測統計未整備のため、複数ソースの比較・補正やフェルミ推定が必要
競合他社の動向シェア、新規参入・撤退、価格帯、製品ラインナップ、マーケティング施策非上場企業が多く、シェアデータが特に把握しにくい
ターゲット顧客のニーズ・購買行動誰が・何を・どこで・いくらで買っているか南部・北部などの地域差、BtoB/BtoCで着眼点が異なる
流通チャネルの構造伝統小売・モダンチャネル・EC/ライブコマースの比率と使い分け小売チャネルの複雑さがベトナム特有の難所

参入条件を把握するための項目

市場環境が把握できたら、次に「実際にどう入るか」を左右する条件を確認する。

  • 規制・法制度・許認可:業界特有の規制、輸入関税、ライセンス取得の要件、最近の法改正動向を確認する。特に外資規制の有無と内容は要チェックの項目であり、規制がある業種では、そもそも市場参入を検討する上でクリティカルな調査項目となる。
  • 外資規制の内容によっては、独資でのベトナム進出が難しいと結論づけられる場合もある。その際は、出資・合弁・M&Aといった可能性を含め、考えられるスキーム案を検討することが重要になる。調査会社への依頼と並行して、合弁比率の設計や現地パートナーとの資本構成といった実務対応まで、現地の法律事務所やコンサルティング会社と詰めておきたい。
  • ベトナムの規制運用には解釈の幅が残ることも多く、省庁間、あるいは中央政府と地方政府とで判断が分かれるケースもある。机上の法令調査だけで完結させず、現地の実務家への確認を組み合わせることが望ましい。
  • 提携・パートナー候補の情報:代理店、合弁先、M&A対象となり得る現地企業の情報やリストを、進出方式の検討と並行して収集しておく。ロングリストの作成からショートリストへの絞り込みまで、対象会社を絞り込むための条件設定や評価項目をあらかじめ用意しておく必要がある。

これらの項目をあらかじめ整理した上で調査会社に相談すれば、見積もりの比較検討がしやすくなるだけでなく、項目の増減を通じた価格交渉など、発注者自身が主導権を握って調査プロジェクトを推進しやすい環境が整う。

ベトナム参入条件チェック表

確認項目押さえるべきポイントベトナムならではの注意点
規制・法制度・許認可業界特有の規制、輸入関税、ライセンス取得要件、最近の法改正動向外資規制の有無・内容が特に重要
進出スキーム(独資/合弁/M&A)外資規制の内容次第で選択肢が変わる合弁比率・資本構成は現地法律事務所と詰める必要あり
規制運用の実態中央政府と地方政府、省庁間で判断が分かれることがある机上の法令調査だけでなく、現地実務家への確認が必須
提携・パートナー候補の情報代理店・合弁先・M&A対象のロングリスト~ショートリスト絞り込みの条件設定・評価項目を事前に用意しておく

現場で起きるベトナム市場調査の落とし穴

ここまで手法や会社選びのポイントを解説してきたが、実際の現場では、事前の想定と発注後の現実にギャップが生じるケースが少なくない。ここでは、実際によく遭遇する4つの落とし穴を取り上げる。

成果物の調査レポートが「求めていた量・深さ」を満たしていない

発注前に思い描いていた成果物のイメージと、実際に納品されたレポートの量や深さが噛み合わないケースは、特にプロジェクト型の市場調査でよく起きる。

仕様書や見積依頼書の段階では「〇〇について調査する」という項目レベルの合意はできていても、「どのくらいの粒度で、何件のヒアリングに基づいて、どこまで踏み込んだ示唆を出すのか」という深さの認識までは揃っていないことは私自身も苦い経験をしたこともあった。

これを避けるには、発注前の段階で、

  • 過去の類似プロジェクトの成果物サンプルを見せてもらう
  • ヒアリング対象者数(誰に、どの役職者レベルに、何名、どのように聞くかまで)
  • 調査項目ごとのボリューム感や深さ

を具体的にすり合わせる、といった形で、成果物のイメージを発注先とすり合わせることが推奨される。

この点で一つの目安になるのが、「何でもできます」という調査会社ほど、実は注意が必要だという経験則だ。ベトナム市場調査は領域によって得意・不得意が分かれるのが実情であり、むしろ「この領域は対応できるが、この部分は難しい」と事前にはっきり伝えてくれる調査会社の方が、結果として信頼できることが多いと肌感で感じる。

できないことを正直に言う姿勢は、裏を返せば、対応できる範囲については責任を持って深く掘り下げてくれると私自身の経験から申し添えておきたい。

発注前に想定していたベトナム市場調査の成果物と実際に納品された成果物のギャップイメージ

「紹介だから安心」という思い込みに注意

既存の取引先や知人からの紹介で調査会社を選ぶケースは多いが、紹介されたというだけで、自社の目的に合った調査ができるとは限らない。紹介元が評価しているポイントと、自社が今回の調査で重視したいポイントが、必ずしも一致するわけではないからだ。

紹介はあくまで候補を知るきっかけとして活用し、最終的な発注判断は、これまで述べてきたチェックポイント(人員体制、現地ネットワーク、成果物の深さ)に照らして、自社自身で行う必要がある。

紹介元の評価軸と自社の評価軸は一致しないことも多い

紹介元が評価しているポイント自社が今回重視したいポイント
(例)対応の丁寧さ、価格の安さ現地ネットワークの深さ、成果物の深さ、人員体制

提携先候補が見つからないとき、疑うべきこと

提携先候補やパートナー企業の探索を依頼したものの、条件に合う相手が見つからない、あるいは打診しても反応が芳しくないというケースもある。

この背景には、ベトナム特有の商習慣が関係していることが多い。ベトナム企業、特に国営企業や大手ローカル企業では、意思決定がトップダウンで動く傾向が強い。担当者レベル・ボトムアップで提携の意向を伝えても、その情報が経営層にまで上がらず、途中でブロックされてしまうケースは珍しくない。

調査会社やコンサルティング会社が「ドアノック」役として先方への打診を代行してくれる場合も多いが、そのドアノックが、実際にどの階層の相手に対して、どのような形でアプローチされるのかは、依頼前に確認しておきたいポイントだ。現場の担当者止まりのアプローチなのか、経営層に直接話を通せるパイプを持っているのかによって、同じ「探索」という言葉でも結果は大きく変わってくる。

他方、ベトナム現地パートナーを探す条件が厳しすぎて見つからないというケースもある。

アプローチの種類到達する階層結果
現場担当者止まりのアプローチ担当者レベル経営層まで届かず、ブロックされやすい
経営層に直接話を通せるパイプ経営層・トップ提携の意向を直接確認できる

良いレポートが、良い意思決定に直結するとは限らない

市場調査を実施し、レポートも受け取ったが、結局その後の具体的なアクションに結びつかないというケースも、決して珍しくない。
こうした事態は、ベトナムの実情を知らず、現地ネットワークも持たないものの、知名度やブランド力だけは高いという調査会社に発注してしまった場合に起こりやすい。市場の全体像は整理されていても、「では、この結果を踏まえて自社はどう動くべきか」という一歩踏み込んだ示唆までは提示されず、レポートを受け取って終わりになってしまうのだ。

繰り返しになるが、ベトナム進出はタイミングの見極めが難しい。早すぎれば市場自体がまだ小さく、遅すぎればすでに競合がひしめくレッドオーシャンと化している。調査結果によっては「今回は進出を見送る」という意思決定もあり得るが、多くの場合、進出の是非は五分五分ではなく、難易度の高い市場をどう攻略するかという問いに行き着く。

この「一筋縄ではいかない市場を、どう攻めるか」を具体的な戦略・事業計画にまで落とし込めるかどうかこそ、市場調査を超えた進出コンサルティングの力量が問われる部分であり、個人的には最も腕の見せどころだと感じている。

だからこそ調査会社を選ぶ際は、市場の現状を整理する力だけでなく、その先のアクションまで踏み込んだ提案ができるかどうかを、提案書の段階で見極めておきたい。

調査会社とコンサルティング会社の対比表

比較項目市場整理止まりの調査会社アクションまで踏み込むパートナー
アウトプット市場の現状整理(レポート)現状整理+「自社はどう動くべきか」の示唆
難易度の高い市場への向き合い方「進出可否」の判断材料提示のみ「どう攻略するか」の戦略・事業計画への落とし込み
提案書で見極めるポイント現状分析の網羅性その先のアクション提案の有無

ベトナム市場調査、費用の落とし所と期間の目安

ベトナム市場調査の費用は、調査の方法・スコープ(調査項目)・対象業界・戦略策定まで含むかどうかによって大きく変動する。ここでは目安となる費用感と、費用を左右する要因を整理する。自社の予算感に合わせて適切な調査方法を選ぶための参考にしてほしい。

手法別の費用相場

手法費用感の目安
デスクリサーチ10万円〜100万円未満(100万円を超えると割高な水準)
定量調査(アンケート・ネットパネル)数十万円〜100万円程度。対面での大規模調査は数百万円になりやすく、スコープによっては100〜300万円が消費者調査としてよくある金額帯
定性調査(消費者インタビュー)1人あたり数千円〜数万円
定性調査(企業ヒアリング)1社あたり数万円〜数十万円
競合調査(非上場企業・外資系企業対象)ヒアリング対象1者あたり数十万円〜、プロジェクト全体で数百万円
戦略策定を含む総合調査500万円〜800万円程度

同じ手法でも、対象業界の難易度(非上場企業か上場企業か、外資系企業を含むか)や、調査対象者の階層(現場担当者かマネージャー層か)によって、費用は数倍単位で変わってくる。見積もりを比較する際は、金額だけでなく「誰に、何を、何名分聞くのか」というスコープの中身まで確認しておきたい。

スポット型なら数万円から、推進方法別の費用・期間感

市場調査の進め方には、大きく3つの型があり、それぞれ費用と期間の考え方が異なる。

ベトナム市場調査の形態(スポット型・プロジェクト型・リテイナー型)
  • プロジェクト型:一般的に「市場調査」といえば、この形態を指すことが多い。調査項目を事前に合意した上で、1ヶ月〜数ヶ月かけて体系的に実施する。費用は前述の手法別相場がそのまま当てはまり、複雑・大規模な調査や戦略策定まで含む場合は500万円〜800万円程度の規模になることもある。
  • スポット型:必要なタイミングでコンサルタントから口頭ベースの助言を単発で受ける形式。時間単価での契約が一般的で、1回あたり数万円〜十数万円程度から依頼できる場合が多く、本格的なプロジェクト型調査に進む前の仮説検証に向く。レポートや資料作成を重視するプロジェクト型とは異なり、コミュニケーションそのものに価値を置く調査形態と言える。
  • リテイナー型(定点観測型):数ヶ月単位の契約で顧問的に伴走してもらい、特定業界・領域を継続的にウォッチする形式。月額固定の契約が一般的で、単発の調査より1回あたりの単価は抑えられるものの、契約期間全体では相応の予算が必要になる。特定業界の動向を定点観測したい場合に向いている。

元ベトナム市場調査会社の立場から推奨したいのは、まずスポット型で仮説出しを行い、有望なテーマが見えた段階でプロジェクト型の本格調査に進む、あるいは進出後はリテイナー型で市場環境の変化を継続的に追う、というように、事業のフェーズに応じて型を使い分ける進め方だ。この使い分けが、費用対効果の面でも合理的だと考えている。

なぜ費用に差が出るのかー4つの要因

市場調査の見積もりに影響を与える最大の要素は、調査会社の人員稼働量、つまりヒアリングやインタビュー実施にかかる工数だ。もう少し解像度を上げると、以下のような要因に分解できる。

  • 調査項目のボリュームと深さ:調査する項目数や、1項目あたりどこまで深く掘り下げるかによって、必要な工数は大きく変わる。
  • 対象業界の難易度:非上場企業や外資系企業を対象とする場合、情報開示のハードルが高く、費用も上がりやすい。
  • 調査対象者の階層:一般消費者か、企業のマネージャー層・経営層かによって、謝礼水準やヒアリングの難易度が変わる。
  • 戦略策定の有無:調査結果の報告に留めるか、事業計画や展開スキームの提言まで含めるかで、必要な工数が大きく変わる。調査結果を踏まえた戦略的なアクションの提示や、自社で事業を推進するための資料作りまで求める場合は、そうした業務に対応できるコンサルティング会社に依頼することが望ましい(調査会社とコンサルティング会社の違いはこの点にある)。

発注前にこれらの要因を整理し、自社が本当に必要としているスコープはどこまでかを明確にしておくことが、コストを抑えながら質の高い調査結果を得るための第一歩になる。

ベトナム見積金額を構成する4つの構成

【総まとめ】ベトナム市場調査、発注前後で押さえるべき点

ここまで、ベトナム市場調査の基礎から、手法・業種別の設計思想、費用感、そして現場で起きやすい落とし穴まで解説してきた。最後に、発注前・発注後を通じて押さえておきたいチェックポイントを整理する。

発注前に確認したいこと

  • 調査の目的(市場理解・手法選定・発注検討のどの段階か)を明確にしているか
  • 調査項目をドラフトでもよいので自社であらかじめリストアップしているか
  • 成果物のボリューム感・深さについて、サンプルを見せてもらうなどして事前にすり合わせているか
  • 「何でもできます」という会社より、得意・不得意を正直に伝えてくれる会社かどうかを見ているか

調査会社を見極める視点

  • 日本人とベトナム人、両方の調査員が在籍する体制になっているか
  • ベトナム現地企業・トップ層との具体的なネットワークが提案書に明記されているか
  • 統計に表れない一次情報を、対面のヒアリングや現場観察から拾い上げる力があるか
  • 受注前だけでなく、受注後も熱意を持って伴走してくれそうか

調査を「終わり」にしないために

  • 調査結果を、事業計画や展開スキームまで落とし込む資料に仕上げてくれるか
  • 「なぜベトナムで事業を展開するのか」という論拠とストーリーを、社内の上層部に説明できる形にしてくれるか
  • 進出タイミングに絶対的な正解はないと理解した上で、仮説検証を繰り返すアジャイル的な姿勢を自社としても持てているか

ベトナム市場調査は、それ自体が目的ではなく、事業を前に進めるための一過程にすぎない。知名度やブランドだけで調査会社を選ぶのではなく、現地の実態を理解し、ネットワークを持ち、そして何より「調査した先」まで一緒に考えてくれるパートナーを見極めること。それが、ベトナムでの事業を成功に導く最も確実な近道になる。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。