ベトナム市場向けにWebで情報を発信しようとすると、現地ライターの確保、翻訳と校正、画像や動画の準備と、公開までの工程が長くなりがちだ。こうした工程を生成AIで社内に取り込む動きが広がりつつある。
2026年5月に多言語コンテンツ生成AIエージェント「ObotCRAFT(オーボットクラフト)」の提供を始めた株式会社ObotAIの北見好拡代表取締役社長に、ベトナム語のSEO記事と動画の制作で何が変わるのかを聞いた。
翻訳したページが現地の検索に表示されない理由
チャットボット事業で見えた発信前の課題
ObotAIは2019年の創業以来、自治体や企業向けに多言語チャットボットを提供してきた。外国語での問い合わせ対応は自動化できるようになったが、導入企業や商談先と話を重ねるうちに、北見氏はその手前の段階で止まっている企業が多いことに気づいたという。
「ホームページの記事やお知らせが日本語のままで、現地の人に見つけてもらえていない。海外からの流入を増やしたいのに、アクセスがほとんどない企業が少なくありませんでした」。
海外向けページを用意している企業でも、中身の多くは日本語記事を翻訳したものだった。現地で検索される言葉は日本とは異なるため、翻訳しただけでは検索結果に表示されにくい。

現地スタッフの経験を検索データで再現する
同社では社内で多言語コンテンツを制作する機会が多く、その過程で「この言い方は現地では使わない」「この話題は外国語では検索されない」といった指摘が繰り返し出ていた。
こうした判断を個々のスタッフの経験だけに頼らず、検索データと生成AIで再現できる仕組みにしたいというのが開発の出発点だ。構想から約5か月で、2026年5月10日にサービスを開始した。現在はベトナム語を含む9言語・15か国に対応している。
「翻訳」と「現地化」は処理の出発点が違う
ベトナム語の検索データから記事の構成を組み立てる
北見氏によると、開発で最も時間を要したのは文章を生成する部分ではなかった。「文章そのものは今の生成AIで一定の水準に達します。難しかったのは、現地で検索されている言葉を集めて、記事の設計図に落とし込む工程です」。
検索データ、Xの投稿、YouTubeの動画やコメントはそれぞれ形式が異なり、そのまま生成AIに渡しても記事の構成にはならない。現地のトレンドや言い回しを取得し、どの順番で使うかの設計に最も多くの時間をかけたという。
翻訳では日本語原稿が出発点になるため、言葉は置き換わっても、取り上げる話題や見出しの順番は日本語のまま残る。ObotCRAFTはまずベトナム語で実際に検索されているキーワードと検索数を取得し、ベトナム語の競合ページがどのような構成で書かれているかを分析したうえで、最初からベトナム語で執筆する。

日本語の資料は参考として渡すにとどめる。違いが表れやすいのは見出しの順番で、日本語では用語の説明から入る記事でも、ベトナムでは価格や手続きの手順が先に検索されている場合がある。その場合は記事の構成そのものを入れ替える。翻訳を前提にした制作では、こうした入れ替えは起こりにくい。
表現の面でも差は出る。取材時に見せてもらったベトナム語のデモ記事では、タイトルに「từ A đến Z(AからZまで)」という言い回しが使われていた。日本語のSEO記事でいう「基礎解説」「完全ガイド」に相当するベトナム語の定番表現で、日本語の原稿を訳す方法からはまず出てこない。XやYouTubeのコメントから現地の利用者が実際に困っていることや使っている言葉を拾い、本文に反映しているのも、辞書どおりではなく日常的に使われる言葉で書くためだ。
汎用AIとの差は「何を、どの順番で書くか」
汎用の生成AIに直接ベトナム語で書かせる場合との違いについて、北見氏は「一文ごとの自然さだけを比べれば大きな差は出ません」と率直に話す。差が出るのは、何について、どの順番で書くかという部分だ。ObotCRAFTは記事を作成するたびに現在の検索キーワードや検索順位を取得するため、学習時点の知識に頼る汎用AIより情報が新しい。
また、記事を標準・ハウツー・比較・まとめ・完全ガイド・事例紹介の6種類の型に分け、型ごとに構成のルールを固定しているため、担当者の習熟度によって品質がばらつきにくい。キーワード調査から競合分析、構成、本文、画像、HTML出力までが一つの画面で完結する点も、毎月数十本の記事を制作する企業にとっては作業量を大きく左右するという。
AI検索を前提にしたベトナム向けSEO
検索の仕組みそのものも変わりつつある。GoogleのAI Overviewsのように、AIが検索結果の上部に回答をまとめて表示する機能では、質問への答えが明確に書かれた箇所が引用されやすい。そのためObotCRAFTでは、H2見出しの3割以上を「費用はいくらかかりますか」のような疑問文にし、見出しの直後に2〜3文で結論を書く構成を採っている。
あわせて、現地の利用者の声や、ユーザー企業が編集機能で加える自社の事例・数値といった一次情報を盛り込み、表やFAQで機械が読み取りやすい形に整える。公開後は、記事がAI検索でどう扱われているかを採点する機能で状態を確認し、評価の低い箇所を修正していく。

一方で、ベトナムを含むアジアのSEO市場はまだ発展の途上にある。北見氏はAIを使った市場リサーチを通じて、日本でいう「ビッグワード」、つまり検索数の多いキーワードがまだ空いている状況が見えてきたと話す。インドネシアでも同様の傾向があり、キーワードを先に押さえたところが有利になる段階だという。現地語での発信を早く始める意味は、ここにもある。
AIに任せる工程、人が判断する工程
AIに任せるべきではない領域も明確にしている。一つは事実の確認だ。価格、法令や制度、営業時間、資格要件などは、生成AIがもっともらしく誤った内容を書くことがあり、読み手も気づきにくい。「特にベトナムは制度の変更が多いので、公開前に人が一次情報にあたる必要があります」。
二つ目は、どの市場で誰に何を売るのかという企業としての方針で、AIのリサーチ機能でペルソナ分析やインサイトを得ることはできても、最終的な判断は企業自身が担う。
三つ目は宗教、歴史、政治に触れる表現など文化に関わる判断で、北見氏は「下書きまではAI、公開してよいかどうかは人が判断するべき」と考えている。
外国語がわからない日本人担当者でも制作できるよう、各言語の仕上がりがネイティブにとって自然かを日本語で解説する検証機能も用意した。ただし、操作画面は日本人が使う前提で作られており、同社も完成した記事を現地の事情がわかる人に確認してもらう運用を勧めている。
記事と動画を同じ内容で届け、発信を続ける
ベトナムでは、Googleだけでなく、TikTokやYouTube、Facebookで情報を探す人が多い。スマートフォンから直接インターネットに触れてきた利用者が多い市場だけに、記事だけでは届く範囲が限られる。ObotCRAFTには2026年9月にTikTokやInstagram向けの動画を生成する機能が加わり、ベトナム語のリール動画も作成できるようになった。
北見氏は「記事と動画を同じ内容でまとめて制作できる点は、実際の反応を見ても有効だと感じています」と話す。今後は現地で使われているプラットフォームのデータを取り込んだキーワード調査の拡充や、ベトナム語ナレーションを含む動画生成の強化も検討している。
最後に、ベトナム市場で発信を続けたい日本企業へのメッセージを聞いた。北見氏が強調するのは、まず現地で何が検索されているかを調べること、そして継続することだ。完成度の高い記事を1本出すより、月に数本でも現地語で発信し続けるほうが成果につながりやすい。
翻訳の外注費や制作時間がかさみ、途中で止まってしまう企業も多いが、生成AIで下書きを作り、現地の事情がわかる人が最終確認をする体制にすれば、社内に現地語の担当者がいなくても続けられる。「ベトナム事業を担当されている方には、まず1本、現地語で制作してみることをお勧めします」。
ObotCRAFTのサービス紹介ページ https://obot-ai.com/obotcraft/index.html

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長
三浦 賢弥
KENYA MIURA
山形県山形市出身。筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。
ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。
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