2026年4月、トー・ラム書記長による国家主席の兼任と、史上最年少となるレ・ミン・フン新首相の就任により、ベトナムは新たな指導体制へと移行した。

本レポートでは、ベトナム新指導部の政策方針を読み解くとともに、2030年に向けて新指導部が取り組むべき山積するベトナムの構造課題を俯瞰し、これらの領域において日本企業がいかなる役割を担い得るのかを考察したい。

本記事の執筆・監修者
株式会社InfoBase 代表取締役

三浦 賢弥

Kenya Miura

・ベトナム市場調査・戦略立案約8年関わり、中小中堅企業から大手企業まで累計500社以上のベトナム進出支援に携わる。

・ベトナム留学、修士号取得、政府機関、民間コンサル会社を経てベトナム歴10年超。

ベトナムの判断材料を配信中

ニュースでも出てこないベトナムの変化、届けます。

ダウンロードはこちらから

資料をみたい

サンプルがすぐに見れます。
情報入力の必要はありません。

購入情報をみたい

銀行振込またはクレジットカードにて、レポートストアより購入できます。

ベトナム新体制(2026-2030年)|トー・ラム書記長とレ・ミン・フン首相

2026年4月、トー・ラム書記長が国家主席を兼任し権力集中が進む。新首相には元中央銀行総裁のレ・ミン・フン氏がベトナム史上最年少の55歳で就任。(出所)InfoBank作成。

2026年1月の第14回党大会、そして4月の第16期国会を経て、ベトナムの統治体制は大きな節目を迎えた。トー・ラム書記長が国家主席を兼任することとなり、さらに史上最年少の55歳でレ・ミン・フン新首相が誕生した。

この新体制は、今後5年間のベトナムの方向性を「誰が」「何を」決めていくのかを規定するものとなる。

【2026年4月決定】ベトナム「5柱」新体制|書記長・国家主席・首相・国会議長の顔ぶれ

2026年1月の第14回党大会でトー・ラム氏が書記長として続投。前首相・前国家主席は中央委員会から外れ、4月の国会で新首相レ・ミン・フン氏の選出につながった。(出所)現地メディア及び政府公開情報をもとにInfoBank作成。

2026年4月7日、ベトナム国会はトー・ラム共産党書記長を新たな国家主席に選出し、書記長と国家主席という最重要2ポストの兼任体制が固まった。これまで個人への過度な権力集中を抑えてきたベトナムの集団指導体制と比較すれば、注目すべき動きである。

新首相には元中央銀行総裁のレ・ミン・フン氏(55歳)が就任した。埼玉大学(現・政策研究大学院大学)への留学経験を持つ知日派であり、日本企業にとっては対話の糸口が増える人事として期待できる。

一方で、国会議長にチャン・タイン・マン氏、書記局常務にチャン・カム・トゥ氏が座り、要職にはラム氏の古巣である公安省や故郷フンイエン省の出身者が目立つ点も見逃せない。

ベトナム第14回党大会(2026年1月)総括

ベトナム共産党第14回全国代表大会、2026年1月20日午前に正式開幕した。出所:Bao Dien Tu Chinh Phu

ベトナムでは5年に1度、共産党全国代表者大会が開催され、国家の針路が実質的に決定される。2026年1月19日から23日にハノイ国家会議場で開かれた第14回党大会では、トー・ラム氏が書記長として続投(任期2026〜2031年)する一方、ファム・ミン・チン前首相とルオン・クオン前国家主席は第14期中央委員会リストから外れ、党中枢を退いた。

この人事こそが、結果的に同年4月の国会における新首相レ・ミン・フン氏の選出へ繋がる伏線となった。今後、トー・ラム書記長は党内序列第1位として政治局を主宰し、名実ともにベトナムの最高指導者として国政を主導していくことになる。

トー・ラム書記長の権力構造|書記長・国家主席兼任がベトナム政治にもたらす構造変化

トー・ラム氏は党書記長と国家主席を兼任し、党・国家両系統の要職を握る。集団指導体制が揺らぎ、人事・政策の決定権が個人に集中する懸念が識者の間では指摘されている。(出所)現地メディアVGPをもとにInfoBase作成。

トー・ラム氏は党書記長と国家主席を兼任することで、共産党系統と国家系統の双方の頂点に立つ構造が見て取れる。書記長としては中央軍事委員会書記、そして汚職・浪費・腐敗行為防止中央指導委員会委員長を兼ね、国家主席としては人民武装力量統帥の地位も握る。

ベトナムでは従来、書記長・国家主席・首相・国会議長に権限を分散させる「集団指導体制」が基本とされてきただけに、党トップが国家主席を本格任期で兼ねる今回のケースは異例だ。人事・政策の最終決定権がラム氏個人に収斂しやすい構造と言える。

ベトナム新旧指導部の比較|チン前首相・クオン前国家主席による体制

前指導部(ファム・ミン・チン前首相とルオン・クオン前国家主席)と比較すると、制度面では「権力集中・統治強化」の色合いがやや強まる一方、経済政策ではチン前首相の路線をベースに「成長加速・DX・イノベーション」をさらに前面に押し出した布陣となっている。

ファム・ミン・チン前首相は公安・組織部門を経て台頭した政治家色の強いタイプで、党内組織運営や人事・統治体制の構築に強みを持ち、首相としては成長と制度改革のバランスを取るスタイルであった。一方、レ・ミン・フン新首相は1970年生まれの比較的若い指導者で、国家銀行総裁を最年少で務めた金融・マクロ経済の専門家色が強い。

また、クオン前国家主席は人民軍出身であったが、在任期間は2年弱と短く、権力基盤の厚さや長期的な路線提示という点ではラム氏より弱かったとされる。

ベトナム共産党政治局員19名|出身地・経歴から読む権力バランス

ベトナム政治局員19名(第14回党大会:2026〜2030年期)【出所】現地国営メディアNhan DanをもとにInfoBank作成
ベトナム政治局員19名(第14回党大会:2026〜2030年期)【出所】現地国営メディアNhan DanをもとにInfoBank作成

第14回党大会で選出された政治局員19名の顔ぶれは、今後5年間のベトナム政治の方向性を読み解く最重要の手がかりである。出身地で見ると北部9名・中部5名・南部5名と北部優位の構成で、なかでもトー・ラム書記長の地元フンイエン省出身者の起用も目立つ。

経歴別では党務・組織系が最多を占めているが、公安系と軍系の層も依然として厚く、書記長の出身母体である公安系の存在感は際立つ。

ベトナム新政権の閣僚人事|副首相6名と各省大臣

政治局員19名の出身地は北部9名・中部5名・南部5名と北部優位の構成で、党中央書記局や宣伝・内政・検査など党務系の要職経験者も多く名を連ねる。(出所)現地国営メディアNhan DanをもとにInfoBank作成

レ・ミン・フン首相の下、6名の副首相と各省大臣が出揃い、新政権の陣容が確定した。副首相とそれぞれの担当領域は以下の通りとなる。

  • ファム・ザ・トゥック常任副首相(産業・インフラ・通商)
  • ファン・ヴァン・ザン副首相兼国防相(国防・対外関係)
  • ファム・ティ・タン・チャ副首相(社会・労働・文化)
  • ホー・クオック・ズン副首相(科学技術・農業環境)
  • グエン・ヴァン・タン副首相(経済・金融・投資)
  • レ・ティエン・チャウ副首相(法制・司法・教育)

上記の6名で分野別に担当が明確化されている。なかでもグエン・ヴァン・タン氏はFDI・ODA動員、ベトナム国際金融センター関連、国有企業改革を所管しており、ベトナムビジネスに関わるす日本企業にとって最も接点の多い重要な存在となるだろう。

レ・ミン・フン新首相とは何者か?|実績・人脈・権力基盤

2026年4月7日、ベトナム史上最年少の55歳で首相に就任したレ・ミン・フン氏。元中央銀行総裁というテクノクラート型リーダーの登場は、今後の経済政策にどう影響するのか見ていきたい。

レ・ミン・フン新首相の略歴・経歴|金融畑でキャリアを積んだ元中央銀行総裁

レ・ミン・フン氏は統一後最年少の政府指導者で、元国家銀行総裁のテクノクラート型人物。2024年党中央組織委員長を経て、2026年4月に首相に選出され財政強化を担う。(出所)現地国営メディア”Nhan Dan”をもとにInfoBank作成
レ・ミン・フン氏は統一後最年少の政府指導者で、元国家銀行総裁のテクノクラート型人物。2024年党中央組織委員長を経て、2026年4月に首相に選出され財政強化を担う。(出所)現地国営メディア”Nhan Dan”をもとにInfoBank作成

1970年ハティン省生まれのフン氏は、公共政策を専門とし、1993年にベトナム国家銀行に入行して以降、一貫して金融・国際協力の現場を歩んできた人物である。

日本の埼玉大学大学院政策科学研究科(現・政策研究大学院大学、GRIPS)への留学経験を持つ知日派としても知られる。2016年には国家銀行総裁に就任し、マクロ経済の安定運営を担った。

レ・ミン・フン新首相 就任演説の要点|5つの重点方針

レ・ミン・フン新首相は就任演説で、2026~2031年に年平均10%超のGDP成長を掲げ、科学技術・デジタル変革、グリーン転換、人材育成を柱とする5つの重点方針を示している。(出所)現地国営メディア等をもとにInfoBank作成

2026年4月7日、国会での就任演説に立ったレ・ミン・フン新首相は、2026〜2031年の任期中に年平均10%超のGDP成長を掲げ、「単なる成長ではなく飛躍的発展」を目指すと宣言した。具体策として、以下5つの重点方針を掲げている。

  1. 現代的・国民奉仕型政府の構築
  2. 高成長かつ持続可能な経済運営
  3. 行政機構の効率的運営
  4. 団結・協働の政府
  5. 清廉・規律ある政府

上記の重点方針のもと、科学技術・デジタル変革、グリーン転換、人材育成を柱に据えた。外資・民間への姿勢は引き続き前向きで、日本企業にとっては環境・再エネ・省エネ分野、教育・研修サービスや高度人材関連、さらに建設・資機材・エンジニアリング領域での商機拡大が予測される。

レ・ミン・フン首相の人物像|金融専門性・最高指導部との縁故・政治基盤の課題

ベトナム国家銀行総裁時代のフン氏 (写真)PetroTimes

人口ボーナス期が2036年頃に終了すると見込まれるベトナムは、高成長期の終焉を徐々に迎えつつある。この局面で求められるのはマクロ経済の安定と財政規律の堅持であり、フン氏の経歴はまさに現在の国家的ニーズに合致する人選といえる。

フン氏は2016年から2020年末まで国家銀行総裁を務め、マクロ経済の安定維持、外貨準備の積み増し、銀行システムの近代化を推進した。とりわけ決議42号の成立を主導し、約303兆ドンに及ぶ不良債権処理を進めた実績は大きい。

柔軟な金融政策でインフレ抑制と為替安定にも貢献。退任後は党中枢で人事・組織改革にも関与した。大言壮語を好まず地道な実務を重ねる実務型リーダーとして、識者からの評価は高い。

フン新首相の強みは大きく2点に整理できる。第一は金融・マクロ経済分野の専門性で、過去の信用拡大による資産バブルやインフレ急騰といった「経済的冒険主義」への抑止力として機能することが期待される。

第二は最高指導部との個人的信頼関係である。父・故レ・ミン・フオン元公安相がトー・ラム書記長の上司であった縁故は、党と政府の摩擦を和らげる基盤となる。一方で弱みを挙げれば、書記長への権力集中による首相の自律性の狭さと、地方行政経験の不足による政治基盤の薄さが指摘される。総じてフン氏は、マクロ安定志向の慎重な経済運営者と予測される。

ベトナム2030年国家戦略|トーラム体制が描く構造改革

ベトナム新指導部が描く2030年までの国家戦略は、高成長の実現と持続可能な発展の両立にある。しかし現実には、中所得国の罠、人口高齢化、米中対立など構造課題が山積している。ベトナムが日本企業にとって重要な投資先であり続けるかどうか、ラム氏のこれまでの主要政策を振り返りつつ、2030年をターゲットとした主要トピックスについて述べたい。

ベトナム新指導部が直面する2030年の壁

トー・ラム書記長が掲げる平均10%成長目標に対し国際機関予測は5%台に留まり、新指導部は中所得国の罠、インフラ制約、人口高齢化、米中対立など山積する構造課題への対応を迫られる。(出所)現地報道、各国際機関が公表する統計等をもとにInfoBank作成。

トー・ラム書記長が掲げる「高成長」と「持続可能な発展」の同時達成は、新指導部にとって極めて大きなチャレンジとなる。

平均10%成長という政府目標に対し、世界銀行やIMFなど国際機関の予測は5%台にとどまっており、そのギャップは決して小さくない。新指導部は、中所得国の罠、裾野産業の脆弱性、電力・インフラ制約、労働コスト上昇、米中対立下の地政学リスクなど、山積する構造課題への対応を迫られている。

持続可能な発展という観点からも、経済成長モデルの転換、環境規制・カーボンニュートラル対応、人口動態の変化といった中長期の論点が控えており、短期の景気対策では解決しきれない重い宿題が並ぶ構図だ。

ベトナムが進める2030年構造改革の重点分野|エネルギー・産業・制度を貫く3つの柱

ベトナムは2030年に向け、原発稼働を含むエネルギー転換、半導体・EV・デジタル技術産業の育成、国営企業改革、税務のデジタル化など多岐にわたる構造改革を国家的プロジェクトとして推進している。

ベトナム政府は2030年に向け、エネルギー・産業・制度の三層にわたる構造改革を国家的プロジェクトとして推進している。

まずエネルギー分野では、再エネ中心の電源構成だけでは電力逼迫と脱炭素の両立が困難との認識から、2035年までの初の原発稼働を目標に据え、法整備・安全規制・運営体制の構築が進む。

産業育成では、半導体・EV・レアアースを軸にグローバル・サプライチェーン再編の受け皿となることを狙い、科学技術・イノベーション主導の成長モデルへの転換を急ぐ。

デジタル領域では、2026年1月1日施行の「デジタル技術産業法(DTI法)」がAI、半導体、データサービス、デジタル資産に関する包括的な法的枠組みを整備し、高度デジタル人材の育成を後押しすることが期待される。

2026年1月16日、国防省傘下のViettel(ベトナム軍隊工業通信グループ)がハノイ市ホアラック・ハイテクパークで国内初の半導体チップ製造工場の着工式を実施した。出所:Quan doi nhan dan

税務・関税の分野では、700万超の税番号をデータベース連携するなど、オンラインビジネスを含む税務管理のデジタル化が加速している。国営企業改革も赤字整理と株式化を漸進的に進めているが、非効率やガバナンス課題は依然として残る。

都市開発では2030年までに都市化率50%超を掲げ、交通・デジタルインフラの整備を通じた生産性向上と生活の質改善を図る。

日本企業にとっても、これら改革の進捗は事業機会とリスクを同時に左右する最重要の注視ポイントとして押さえておきたい。

トーラム書記長の主要政策まとめ|就任から現在までの改革年表

党第14回全国代表大会の結果を発表するトーラム書記長 出所:[VIETNAM.VN]

2024年8月に書記長へ就任したトー・ラム氏は、前チョン政権の反腐敗路線を継承しつつ、経済成長の加速と制度改革を前面に打ち出してきた。

具体的には、決議57号で科学技術・DXを国家戦略に据え、決議66号・68号では法制度そのものを再設計。中央省庁を18から13へ、地方を63省市から34省市へ大胆に統合し、公務員約15万ポストを削減するなど、大規模な行政スリム化を断行した。

単なる「安定重視の後継者」ではなく、制度そのものを作り替えにかかる改革派としての色彩が年々濃くなっていると言えるだろう。

トーラム体制における主な政策

年月主な施策
2024年5月国会で国家主席に就任(公安相から昇格)。反腐敗キャンペーンの中心人物としての実績を背景に、「汚職撲滅と政治安定の継続」を打ち出す。
2024年7月党政治局がグエン・フー・チョン書記長の病気療養専念を公表し、ラム氏が書記長代行に就任。指導部の空白回避と政治安定を優先した布陣が整えられる。
2024年8月党中央委員会がトー・ラム国家主席を新書記長に選出。前政権の「反腐敗・全方位外交」路線を基本的に踏襲しつつ、経済成長の加速と制度改革を前面に打ち出す新体制が発足する。
2024年12月決議57号(57-NQ/TW)を採択。科学技術、イノベーション、デジタルトランスフォーメーション(DX)の発展を掲げ、2030年に向けて、デジタル技術でASEAN上位3カ国入り、GDP比2%をR&Dに支出、国家予算の3%を科学技術開発に割り当てるなどの目標を設定。科学技術人材の育成プログラムの開発・実施や、国内外の専門家・科学者の活用とネットワーク強化方針を明記。
2025年1月中央省庁再編方針の公表:2025年前半を目処に中央省庁を大規模に再編する方針が示され、18省8機関体制から5省4機関を削減し、13省4機関体制へ移行する案が公表された。各省配下の総局も13のうち12を廃止し、全体で約500部局を削減するなど、縦割り解消とスリム化を推進。
2025年1月決議59号(59-NQ/TW)を採択。国際統合をベトナムの新時代における戦略的原動力と位置づけ、経済面ではデジタル、グリーン、循環経済の発展や科学技術の競争力向上を目指す。政治・防衛・安全保障面では、パートナー国との関係構築や政治的信頼性の強化、独立と主権の維持を目指す。
2025年4月政治局決議66号(66-NQ/TW)の採択:ベトナムの法制度全体を再設計し、2030年の中上所得国入り、2045年の先進国入りを目指す国家改革指針。立法・行政・司法の運用を一体で刷新し、管理志向の制度から権利尊重・市場機能重視への転換に言及。
2025年5月決議68号(68-NQ/TW)を採択。2025年までに矛盾や重複などの法規制のボトルネックを基本的に解消し、2028年までに投資・ビジネス関連の法体系を改善、投資環境のASEAN上位3カ国入りを目指す。科学技術・イノベーション、DX、金融センターや自由貿易区など新規分野の法整備を重点化。
2025年6月地方行政単位の再編決議:63省市を34省市(28省+6中央直轄市)に大幅統合。中央・地方を合わせて、機構再編の過程で約15万の公務員ポストが削減されたと報じられ、ドイモイ以降で最大規模の行政再編とされる。
2025年6月2025年6月1日施行の政令70/2025/ND-CPにより、電子インボイス制度が大幅に拡張され、年間売上10億ドン以上の個人事業主にも電子インボイスの発行が義務化された。
2025年末税務管理法の改正:国会は2025年12月10日に改正税務管理法No.108/2025/QH15を公布し、2026年7月1日から施行することを決定。
2025年8〜9月エネルギー安全保障決議:トーラム書記長が、2030年までの国家エネルギー安全保障(2045年ビジョン)に関する政治局決議70-NQ/TWに署名。電力の安定供給、温室効果ガス排出削減、必要に応じた原子力発電への移行を通じて、急速かつ持続可能な成長需要に応える方針を打ち出す。
2025年8〜9月教育・人材決議:政治局の4つの重要決議の一つとして、教育と人材育成に関する決議71-NQ/TWを提示。2045年までにベトナムが現代的で公平かつ質の高い国民教育システムを確立し、世界上位20カ国入りを目指すことを目標とする。国家予算支出の少なくとも20%を教育と人材育成に充て、そのうち少なくとも5%を教育投資に、3%を高等教育に充てることを明記。
2026年1月共産党全国代表者大会(第14回党大会):ラム書記長が続投となり、今後5年間の平均成長率目標「10%以上」、2045年までの高所得国入りが正式な党方針として確認される。
2026年4月第16期国会の開幕時点で、政府は新たな13省4機関体制のもと、17人の大臣・省庁トップを再編・任命。

下記、これまでのトーラム氏が主導した代表的な施策についても振り返りたい。

ベトナム中央省庁再編|18省8機関→13省4機関体制の狙い

トーラム書記長の主導のもと、2025年7月1日、地方行政の効率化を目的として、現行の63省・市を34省・市(6中央直轄市+28省)に大幅に再編・合併(出所)現地国営メディア等をもとにInfoBank作成

2025年2月、ベトナムは中央省庁を18省8機関から13省4機関体制へ大幅に再編した。財務省と計画投資省の統合、農業・農村開発省と天然資源・環境省の合併による農業環境省の新設、建設省と運輸省の一本化、科学技術省と情報通信省の統合などが一気に実行されている。

表向きは「機構の合理化」「行政効率化」と説明されるが、束ね直された領域を眺めると、マクロ経済運営、インフラ・都市開発、デジタル・科学技術、環境・農業といった、成長ドライバーであると同時にガバナンスリスクも大きい分野に集中している。トーラム体制の地盤固めと、重点領域への政策資源の集中を同時に進めた再編と読み解くのが自然であろう。

ベトナム地方行政再編|公務員15万削減・63→34省統合

2025年2月に改編されたベトナムの中央省庁(出所)InfoBank作成
2025年2月に改編されたベトナムの中央省庁(出所)InfoBank作成

2025年7月1日、トーラム書記長の主導のもと、63省・市が34省・市(6中央直轄市+28省)へ大胆に統合された。象徴的なのはビンズオンやバリア・ブンタウを取り込んだ「大ホーチミン市」の誕生で、GRDPは合併前の1,778兆ドンから2,716兆ドンへ跳ね上がり、ハイフォンやドンナイも都市圏として一段格上げされた格好だ。

県級を廃した省・社の2層構造化により、管理コスト削減と都市圏主導の成長が狙いとされる。もっとも、地方の人事・財政権を中央に引き寄せる効果も大きく、トーラム体制の権力基盤固めと表裏一体の再編と見るのが実情に近いだろう。

国営企業の改革とコングロマリット企業の台頭

ベトナムの代表的なコングロマリット企業(複合企業)【出所】InfoBank作成
ベトナムの代表的なコングロマリット企業(複合企業)【出所】InfoBank作成

トーラム体制が高成長と持続可能な発展の両立を描くうえで、明確に前面に出てきているのが地場コングロマリットの存在だ。政府は2030年までにグローバル・サプライチェーンに組み込まれる民間コングロマリットを20社以上創出する目標を掲げ、国有・民間を問わず「経済の牽引役」として正面から位置づけている。

ビングループ、ホアファット、マサン、FPT、ビエッテル、ペトロベトナムなどは、不動産・製造・通信・エネルギー・金融・小売へと事業領域を広げ、リスク分散と多角化によって安定成長を確保してきた企業群だ。

政府側から見れば、大型インフラや都市開発をまとめて引き受ける実務能力、EV・デジタル・グリーン成長など新産業への俊敏な投資、国際資本や技術を受け止めるパートナー機能という三つの役割を、一括して託しやすい相手でもある。

公共投資と国営コングロマリットがインフラ・エネルギー・デジタル基盤の大型案件を牽引し、民間・FDIと連携しながら付加価値の高いサプライチェーンを国内に呼び込む——これがトーラム体制の産業政策の骨格と読み取れる。

ベトナム税制改革|税務・関税の透明化が進む

ベトナムのeTaxアプリは、税務総局(GDT)が提供する公式の電子税務システム・アプリで、主に「eTax Mobile」という名称でスマホから個人の申告・納税を行える仕組みになっている。出所:VNExpress

トーラム体制下のベトナムは、税務・関税の取り締まり強化と制度そのものの透明化を一体で進めている。2025年には個人所得税法が大幅に改正され、基礎控除・扶養控除の引き上げと累進税率区分の簡素化が実現。所得把握の強化と引き換えに、税制をより近代的で公平なものへ作り替える立て付けだ。

さらに決議68号(2025年5月)では、世帯・個人事業主を対象とした一括納税制度の廃止と申告納税への全面移行が打ち出され、零細レベルまでコンプライアンスを引き上げる象徴的な一手となった。これまで現場の裁量や「あいまいな運用」に依存しがちだった領域が、ルールとデータに基づく管理へと移行していく流れの浸透を期待したい。

【コラム】フンイエン省が注目される理由

トーラム書記長の故郷:フンイエン省の主要プロジェクト(出所)InfoBank作成。

ベトナムでは伝統的に、最高指導者の出身省に国家予算やインフラ投資が流れ込む傾向がある。トー・ラム書記長の故郷フンイエン省も例外ではなく、足元ではすでに象徴的な大型案件が動き出している。

米トランプ・オーガニゼーションと不動産大手キンバックシティ(KBC)の合弁による総投資額約15億ドルの複合型リゾート開発、ビングループ傘下ヴィンホームズによる750haを超える超大型ニュータウン「オーシャンパーク2・3」、さらに鉄鋼大手ホアファットの6件目となる工業団地案件が2025年12月末に新たに承認されるなど、リゾート・住宅・工業のいずれの領域でも動きが加速している。

ハノイに隣接する地の利と政治的求心力が重なり、今後5年間は最もホットな投資先の一つとなる公算が大きい。

2030年ベトナム政府が直面する7つの構造課題—高所得国入りへの正念場

新指導部の任期である2030年までのベトナム経済を見通すうえで、新指導部が取り組むべき構造的課題は少なくない。これらの課題に新指導部がどのように対応し、その過程で日本企業にとってどのような好機が生まれるのか、今後の動向が注目される。

元中銀総裁フン首相が挑む、ベトナムのマクロ安定戦略とドン防衛ライン

消費者物価上昇率(CPI・前年比%)の推移・ベトナム政府総支出の推移予測(出所)IMF

ベトナム政府は2026〜2030年の平均成長率10%を掲げつつ、インフレ率を年4.5%以下に抑え、通貨ドンの安定を維持する「成長とマクロ安定の両立」を中核課題に据えている。2026年のインフレ率についてはOECD・ADBが3.8%前後、テコムバンクも3.6〜4.0%と見ており、政府目標を下回る安定レンジが想定される。

為替についても、貿易黒字とFDI流入が続く限りリスクは限定的との見方が主流だが、米ドル金利や米中対立、地政学リスクはドン下落圧力の潜在要因となる。金融政策・財政・制度改革を連動させた包括的な安定枠組みの構築が急がれており、元ベトナム中央銀行総裁でもあるレ・ミン・フン首相の手腕が期待される。

中所得国の罠を越えられるか——ベトナム労働生産性と高所得国入りへの分水嶺

ベトナムにおけるスキルミスマッチの度合い(出所)ベトナム統計総局およびIMFスタッフによる試算

ベトナムが2045年までの高所得国入りを実現するうえで避けて通れないのが、「中所得国の罠」と労働生産性の課題である。IMFの分析によれば、ベトナムの労働市場には構造的なスキルミスマッチが根深く存在する。一方では、技術者や専門職など高度技能を要する職種で適切な人材が確保できず、他方では事務職や単純作業の現場に大卒人材が滞留する「資格過剰」が拡大している。

とりわけ貿易財セクターでは、高スキル労働者がその能力に見合わない処遇に置かれる傾向が強く、賃金格差にも直結している。教育投資の拡充にとどまらず、産業構造の高度化と労働市場のマッチング機能の強化を一体的に進められるかが、今後10年の生産性向上の分水嶺となるだろう。

人口ボーナス期の終焉2036年——ベトナム労働市場を揺さぶる少子高齢化

ベトナム高齢者人口の予測(2024年〜2048年)・ベトナムの人口ボーナス期・高齢化社会
・超高齢社会への移行予測(出所)General Statistics Office of Vietnam ” VIETNAM POPULATION PROJECTIONS2024-2074”

ベトナムの労働市場を中長期で揺さぶる最大の要因は、想定を上回るスピードで進行する少子高齢化である。ベトナム統計総局によれば、60歳以上の人口は2024年の1,420万人から2034年には2,750万人へとほぼ倍増する一方、0〜5歳児は2024年の約920万人から2029年には770万人へと、わずか5年で140万人減少する見通しだ。

2007年に始まった「人口ボーナス期」も、2019年時点の予測より3年早い2036年頃に終了するとされており、「豊かになる前に老いる」リスクが現実味を帯びている。安価で潤沢な労働力を前提としてきた進出戦略は、この10年で確実に転換を迫られることになる。

ベトナム製造業の次なる課題——裾野産業育成と国内付加価値率向上への道筋

ベトナム製造業のサプライチェーン(出所)国際労働機関よりInfoBank作成。

ベトナム経済の成長エンジンは依然として製造業と輸出にある。2026年第1四半期のGDPは前年同期比7.83%増、うち製造業は9.73%の伸びでGDP寄与の約44%を占めた。一方で、主力の輸出品目である電子機器輸出は中国などからの中間財輸入に大きく依存し、国内付加価値比率の低さが長年の弱点とされてきた。

政府はこうした構造課題に対し、2025年9月施行の政令205/2025/ND-CPで優遇対象となる裾野産業製品の範囲を拡大し、研究・人材育成・技術移転・品質検査・ブランド開発などに最大50〜70%の費用補助を打ち出している。

ベトナム戦略産業2030:半導体・EV・レアアースで「組立基地」から「技術立国」へ

ベトナム政府による半導体設計エンジニア数の目標値・国別の半導体産業の発展ステージ(出所)InfoBank作成。

ベトナム政府は2030年に向け、半導体・EV・レアアース・原子力発電等を次世代の戦略産業に位置づけ、分野ごとの制度整備と投資誘致を急いでいる。特に半導体は、SynopsysやQualcommなど外資の進出が相次ぎ、設計エンジニアも増加基調にあるなど、チャイナプラスワンの受け皿として国際的な評価が高まっている分野だ。

一方で、R&D・前工程プロセス・設計の高度人材は依然として不足し、半導体クラスターを擁するマレーシアや台湾には水を空けられているのが実情である。レアアース開発や2035年稼働を目標とする原発計画と並び、この10年で「組立基地」から「技術立国」へ脱皮できるかが問われている。

グローバルサプライチェーンの要衝ベトナム——チャイナプラスワン

チャイナプラスワンとしてのベトナム(写真)CAFE F

ベトナムは、中国に深く組み込まれつつも、それを補完・代替する「チャイナプラスワン」の中核的な生産拠点として、エレクトロニクスや繊維を中心にグローバルサプライチェーンにおける重要度を急速に高めている。一方で、米中対立や南シナ海情勢などの長期化により、「中国の隣にある中国代替地」というポジションゆえの地政学リスクも着実に積み上がっている。

米中対立と関税回避を背景に、中国からの生産移転先としてベトナムを選ぶ企業が急増しており、日本企業のみならず中国・台湾・欧米企業もベトナムでの生産機能を強化している。その一方で、米中対立が激化した際には、関税・輸出規制・原産地規則の厳格化などにより、迂回輸出の疑いをかけられやすい立場にある。

インフラ戦略——南北高速鉄道・メトロ・ロンタイン国際空港・電源開発

建設中のロンタイン国際空港の旅客ターミナルビル。写真:VINACONEX

ベトナム政府は2030年に向け、インフラ投資をGDPの約4割規模まで引き上げ、道路・港湾・空港などのハードインフラと物流・DXを組み合わせた「成長の土台づくり」を最重要課題の一つに据えている。ここでは国家レベルで推進される主要インフラについて述べておきたい。

南北高速鉄道:2030年までにハノイ–ヴィン間およびニャチャン–ホーチミン間の優先区間を着工し、2045年までの全線完成を視野に、全長約1,540km級の高速旅客鉄道網を段階的に整備する方針である。現在、多くの地方ですでに用地取得が進行中とされ、2026年12月の着工開始が予定されている。

・メトロ(都市鉄道):ホーチミン市では既に1号線が開業済みであるが、さらに7〜8本の都市鉄道(メトロ・モノレール等)、総延長約350kmを2035年までに基本整備する計画が進められている。ハノイでも同様に、2021年開業の2A号線(高架)に続き、複数路線が建設・計画中であり、地下区間を含む3号線や日本が支援する1号線などが進行中で、長期的には10路線が予定されている。

・ロンタイン国際空港:ドンナイ省に建設中の最大級のハブ空港で、ホーチミン中心部から東へ約40kmに位置し、2026年末の正式開港を目指して工事が進められている。

ホーチミン市における将来のメトロ路線図の整備イメージ

高速道路:ベトナム政府は「2030年までに高速道路総延長5,000km」を公式目標に掲げており、南北高速道路の完成と西側・国境方面への延伸を軸に、現在の約3,000km弱からさらに約2,000kmを整備する計画である。

発電所(電源開発):ベトナムは「第8次国家電力開発計画(PDP8)」改定版を軸に、再エネ拡大とニントゥアン原発再開を柱とする発電所開発を進めており、2030年までに風力2.6〜3.8万MW、太陽光1.2万MW級、さらに2030〜35年には原子力4〜6.4万kWの運転開始を見込んでいる。

ベトナム気候変動対策・GX・防災セクター

ベトナムは気候変動の影響を深刻に受ける国の一つであり、台風・洪水などの被害が増加しているとの認識のもと、防災・気候変動適応をODA協力の優先分野と位置づけている。

直近でも、2026年、日本政府はベトナムに対し、グリーントランスフォーメーション(GX)と気候変動対策を柱とする総額約900億円規模の新たな政府開発援助(ODA)を供与することで合意しており、今後この領域のビジネス発展が見込まれる。

案件概要

案件名対象地域供与限度額主な目的金利償還期間据置期間調達条件
災害に対して強靭な農村開発計画ベトナム北部山岳地域215.90億円小規模基礎インフラ整備により、アクセス改善・農業生産性向上・洪水被害軽減を実現し、生活環境改善・格差是正・気候変動への強靱性強化に寄与年2.25%30年10年ンタイド
北部山岳・丘陵地帯における地域コミュニティの生産支援のための気候変動適応インフラ整備計画ベトナム北部山岳地域176.66億円小規模基礎インフラ整備により、公共サービス・市場アクセス改善、農業生産性向上、給水能力向上を通じて生活環境改善・格差是正・気候変動対応を強化年2.30%30年10年アンタイド
グリーン成長及び気候に対する強靭性のためのGXプログラムローンベトナム全体500.00億円GX・グリーン成長・気候変動対策の政策改善を支援し、国家レベルでの気候変動対策目標の達成に寄与年1.50%30年10年アンタイド

ベトナム新指導部下で日本企業が果たすべき役割

筆者としては、フン新首相の誕生はグリーン・人材・インフラ分野において日系企業にとって確かな追い風になると見ている。ただし、その一方でトー・ラム書記長への権力集中と党主導の意思決定プロセスは、今後も政策不確実性の火種として残り続けるのではないか、という懸念も拭えない。

人事・政策の最終決定権がラム氏個人に収斂しやすい構造の中で、金融畑出身のフン氏はマクロ安定を重視する慎重な経済運営者だと多くの識者が指摘している。

もっとも、書記長への権力集中によって自律的に動ける余地は狭く、加えて地方行政経験の乏しさに起因する政治基盤の弱さという課題も見逃せない。そもそもベトナムは共産党一党体制の下、党が国家を指導する構造にあり、新首相フン氏にどこまで実権が委ねられるのか——ここが今後の最大の焦点になるだろう。

また、ラム書記長が掲げる平均10%成長という野心的な目標と、世界銀行やIMFなど国際機関の5%台という予測との間に横たわる大きなギャップがある。

これは決して新指導部は、中所得国の罠、生産性向上、人口高齢化と賃金上昇、裾野産業の脆弱性、半導体・EV・レアアースといった重要産業の育成、ロンタイン空港や発電所などのインフラ整備、さらには環境規制・カーボンニュートラルへの対応など、山積する構造的課題への同時並行的な取り組みを迫られる——率直に言えば、極めて厳しい舵取りを強いられる立場にある。

レ・ミン・フン首相、副首相、閣僚ら(写真)vietnam.vn

しかし裏を返せば、こうした難題の数々こそ、まさに日本企業が果たすべき役割と重なり合う領域だと考えられる。2026年に合意された総額約900億円規模のGX関連ODAは、単なる資金協力にとどまらず、日本の環境技術・省エネ設備・水処理・防災インフラといった分野に政策的な追い風をもたらす枠組みだと捉えたい。フン首相が掲げる「持続可能な高成長」という旗印と、日本の脱炭素ソリューションとの親和性は極めて高いと言っていいだろう。

さらに注目したいのは、Viettelによる国内初の半導体工場の着工に象徴されるように、ベトナムが設計および後工程の領域で急速に存在感を高めつつある点である。その一方で、前工程プロセスや研究開発を担える高度人材は依然として不足しており、日本の半導体装置・材料・検査メーカー、そして高専や大学発のエンジニアリング研修事業者にとっては、教育と実装の両面から入り込める余地がむしろ大きく広がっていると見ている。

ベトナムの政治動向については今後も慎重に注視していく必要があるが、同国政府が高度かつ持続的な経済発展を模索していく過程で直面するであろう構造的課題において、高度な技術・ノウハウ・知見、そして資金力を兼ね備えた日本企業が果たし得る役割は、間違いなく大きいだろう。

この記事のレポートのダウンロードはこちら

資料をみたい

サンプルがすぐに見れます。
情報入力の必要はありません。

購入情報をみたい

銀行振込またはクレジットカードにて、レポートストアより購入できます。

最新レポート