ベトナム最大の経済都市であるホーチミン市は、今まさに都市構造の大きな転換点を迎えており、2030年には、ロンタイン空港を中心に劇的な変貌を遂げる。

2024年末のメトロ1号線開業を皮切りに、2030年の2号線完成を見据えた都市鉄道網の整備が本格化しており、その影響は単なる交通インフラの拡充にとどまらない。

TOD(Transit Oriented Development:公共交通指向型開発)を軸とした「多核型」都市モデルへの再編が、ホーチミン市全体の構造を根本から変えつつある。

本レポートは、2026年3月に実施した現地調査と、2025〜2026年の最新統計と現地報道をもとに、ホーチミン市の不動産市場における動向と、2030年に向けた発展シナリオを考察したものである。

具体的には、2025年〜2026年の最新の不動産マクロ市場を外観しながら、ホーチミン市におけるメトロ整備計画の全体像、1号線沿線で顕在化した資産価値の上昇実績、そして2号線着工に伴う北西軸エリアの新たな投資機会について、ビジネスの視点から考察していきたい。

本記事の執筆・監修者
株式会社InfoBase 代表取締役

三浦 賢弥

Kenya Miura

・ベトナム市場調査・戦略立案に約8年関わり、中小中堅企業から大手企業まで累計500社以上のベトナム進出支援に携わる。

・ベトナム留学→修士号取得→政府機関→民間コンサル会社を経てベトナム歴10年超。今後も、人生をベトナムに全振り。

【資料ダウンロード】ロンタイン空港を中心としたホーチミン市周辺交通インフラの将来像(2030年)

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都市鉄道網の整備に伴うホーチミン市不動産市場のマクロ動向

ホーチミン市の不動産市場は2025年に底打ちから回復期に入り、新たな成長サイクルへ(2025年におけるホーチミン市不動産市況の主な回復要因)出所:ベトナム現地報道の情報を精査してInfoBase作成。

ホーチミン市の不動産マクロ環境について、都市鉄道の開発との文脈で考察すれば、「構造不況からの底打ちと供給制約」「高級〜高価格帯への偏重」「周辺省も含めた広域都市圏化」「Thu Duc(トゥードゥック)市を核とする多極構造」という文脈で整理でき、ここにメトロ・環状道路等のインフラ投資が乗る構図となっている。

ホーチミン市の不動産市況を振り返ると、2023年前後までの法規制・金利要因で不動産市場は大きく減速したが、2025年には底打ちから回復期に入り、新たな成長サイクルに入ったとする現地報道や専門家コメントも多い。 一方で、価格の高止まりや高級・高価格帯への供給偏重といった課題もなお指摘されている。

この回復の要因については、主に以下の3つが挙げられる。

まず、法的枠組みである。2024年8月1日から、2024年土地法(改正土地法)、2023年住宅法(行政手続きの簡素化、社会住宅用地の確保・義務付け、多層集合住宅の安全管理強化、個人による小規模集合住宅の分譲・賃貸に対する規制強化など)、2023年不動産事業法(分譲地販売の要件・制限強化、開発業者の自己資本比率・債務水準に関する新要件、プロジェクト規模に応じた最低自己資本比率の義務付け等)が一斉に施行され、これに基づく詳細政令も順次整備されたことで、プロジェクトの承認、土地の評価、財務上の義務に関連するボトルネックが徐々に解消されつつあるとされる。 これにより、市場の透明性向上や投資家の信頼回復にポジティブな効果が現地では観測されている。

ホーチミン市環状3号線の完成予定地図 出所:saigontimes.vn

第2に、交通インフラ整備の進展による後押しである。メトロ1号線【ベンタイン(Ben Thanh)–スオイティエン(Suoi Tien)間】は2024年12月22日に商業運転を開始し、2025年には通年での営業運転が行われるようになった。 同時期に、ホーチミン市環状3号線では2025年中の一部区間の供用開始と2026年初頭の全面開通を目標に工事が加速しており、Thu Duc市区間などで高架橋脚の完成が進む等、完成段階に向けた最終局面に入っていると報じられている。

今後、ホーチミン市は2030年までに都市鉄道ネットワークの中核となる3路線(メトロ1号線およびその延伸区間、2号線Ben Thanh〜Tham Luong区間、Thu Thiem〜ロンタイン空港都市鉄道)の完成を目標に掲げている。 2号線については、2026年1月15日にBen Thanh〜Tham Luong区間の起工式が行われ、翌16日から本格的な建設工事が開始されており、2030年前後の完成を目標としている状況だ。

さらに、An Phuインターチェンジや国道50号線の拡張などの主要な交通インフラプロジェクトが郊外地域のアクセシビリティを改善し、周辺省を含む広域での不動産需要を押し上げている。

第3に銀行金利である。2025年の大半を通じて、主要銀行の住宅ローン優遇金利(固定期間)はおおむね年5〜7%台で推移し、一時の急騰局面からは落ち着きを取り戻した。 こうした金利環境と政府・銀行による若年層向け優遇パッケージ(例:社会住宅向け6.1%程度の固定金利プログラム)により、エンドユーザーの実需を一定程度下支えする効果が現れたと評価されている。

ハノイ市とホーチミン市における不動産市場の発展要因の比較

比較項目ハノイ市ホーチミン市
主な成長要因都市内インフラの再編
(環状道路、渡河橋の建設)
広域接続性と分散化
(メトロ、高速道路、近隣省との接続)
重要インフラ環状道路2号線・3号線、橋メトロ、Ben Luc〜Long Thanh高速道路、環状道路3号・4号線
開発の方向性環状道路沿いへの波及
中心部から環状道路周辺の新都市区へ需要がシフト
衛星都市化
北東部や近隣省(ドンナイ等)への都市圏拡大
投資家の行動市内志向が低下し、市外への投資が加速住宅需要が中心部から拡大された周辺エリアへ拡散
市場の牽引役都心部の実需層と環状道路沿いの新規開発衛生都市への人口分散

住宅市場

ホーチミン市の住宅市場を概観すると、総合不動産サービス会社のCBREやJLLなど各社のレポートを総合すれば、2025年以降、新規供給は法的ボトルネックの解消や大型プロジェクトの再始動により徐々に改善に向かう一方で、依然として全体の供給水準は限定的である。 とりわけ、高価格帯・ハイエンド案件への供給偏重が続いており、アフォーダブル〜中級(ミドル)セグメントの住宅需要はなお十分には満たされていないと評価されている。

そのため、短期的には個別プロジェクトやセグメントによって価格調整がみられるものの、中長期的には土地・建設コストの上昇やインフラ整備の進展を背景に、価格上昇圧力が残るとの見方が多い。

また、今後数年間のホーチミン市および周辺エリアの戸建住宅(タウンハウス・ヴィラ)供給については、メトロ1号線の商業運転開始(2024年末)によりアクセス性が一段と高まったThu Duc市を中心とする東部エリアや、南部沿岸部であるCan Gio(カンザー)地区の大規模タウンシップ・プロジェクトの進捗を背景に、徐々に拡大していくことが期待される。

分譲マンション市場(Condominium)

ホーチミン市のコンドミニアム市場ではハイエンド中心に新規供給が進んでいる。【ホーチミン市コンドミニアムの新規供給戸数(四半期別)】
出所:CBRE “HO CHI MINH CITY REAL ESTATE MARKET | Q4 2025”

CBREの2025年レポートによれば、旧ホーチミン市エリアでは2025年通年を通じてコンドミニアムの新規供給が依然として限定的であり、その多くは既存大型プロジェクトの次期フェーズからの供給で占められた。 2025年第4四半期には、旧ホーチミン市で3,135戸の新規コンドミニアムが発売されており、これは年間供給のかなりの部分を占める水準である。

新築販売価格はプロジェクト・立地によるばらつきがあるものの、一次市場での新規供給の中心はハイエンド〜高価格帯であり、中心部の一次販売価格は前年を上回る水準を維持している。 多くのレポートでは、一次販売価格の前年比上昇率は概ね一桁台にとどまる一方で、ブランド力の高い一部プロジェクトでは二桁の上昇を示す事例も報告されている。

CBREやJLLなどの各種資料を総合すると、2025年通年のホーチミン市におけるコンドミニアム新規供給は、おおむね約6,000〜7,000戸レンジと推計され、そのうち相当部分がハイエンド〜高級といった高価格帯セグメントに属する。

高級層の価格上昇が右肩上がりで続いており、 2025年後半にかけてその傾向が強まっている。【ホーチミン市コンドミニアムの平均一次販売価格】出所:CBRE “HO CHI MINH CITY REAL ESTATE MARKET | Q4 2025”

2026年については、JLLの見通しではホーチミン市のハイエンドアパート市場で年間約7,500〜8,000戸程度の新規供給が見込まれており、新規供給の多くは東部エリアなどに位置する既存大型プロジェクト後続フェーズから供給されるとされている。

一方、ホーチミン市と周辺省を含む拡大都市圏ベースでは、戸建・タウンハウス・マンションを合わせた住宅の新規供給が、2026年前後にかけて合計で数万戸規模に達する可能性が指摘されており、その中でもビンズオン(Binh Duong)省など北部・東部の衛星都市が重要な供給源になるとの見方が強い。

戸建住宅・タウンハウス等

ホーチミン市における土地付き住宅の新規供給の推移
出所:CBRE “HO CHI MINH CITY REAL ESTATE MARKET | Q4 2025”

CBREによれば、2025年第4四半期には旧ホーチミン市エリアの戸建住宅・タウンハウス等の新規供給が約4500戸に達し、過去数年と比較して突出した水準を記録した。 年間ベースでも戸建系の新規供給は主に2025年第4四半期に集中しており、通年の総供給の過半を同四半期が占める構図となっている。

この急増を牽引したのが、ホーチミン市Can Gio地区に位置するメガ・タウンシップ「Vinhomes Green Paradise(Can Gio Coastal Urban Area)」をはじめとする大規模タウンシップ群である。 Vinhomes Green Paradiseは約2,870haの大規模埋立地を活用した海洋観光・都市複合エリアとして計画されており、観光・リゾート機能と都市居住・商業機能を併せ持つESG型の沿岸スマートシティとして開発が進められている。

プロジェクト全体では、タウンハウス、ヴィラ、マンション等を含めて数万戸規模(おおむね6万戸前後)の住宅供給が想定されており、完成後はホーチミン市および南部エリアにおける中長期的な住宅供給不足を緩和する重要なストックとなることが期待されている。

今後数年間のホーチミン市およびその周辺エリアにおける戸建住宅供給は、東部および南部沿岸部の新しいタウンシップ・プロジェクト(Vingroup、Masterise、GS E&Cなど大手デベロッパーによる案件)の進展に支えられ、2026年以降も拡大基調が続くとの見通しが示されている。

ホーチミン市における土地付き住宅の平均一次価格推移
出所:CBRE “HO CHI MINH CITY REAL ESTATE MARKET | Q4 2025”

プロジェクト全体では数万戸規模の住宅(マンションおよび戸建住宅)の供給が計画されており、ホーチミン市および南部エリアの将来的な住宅供給不足を緩和する重要な役割を担うと期待されており、合計64,000戸の住宅(マンションおよび戸建住宅)が市場に供給される予定である。

今後数年間のホーチミン市およびその周辺エリアにおける戸建住宅供給は、東部および南部沿岸部の新しいタウンシップ・プロジェクト(Vingroup、Masterise、GS E&Cなど大手デベロッパーによる案件)の進展に支えられ、2026年以降も拡大基調が続くと予想される。

オフィス市場

ホーチミン市のオフィス需要は一貫してグレードAビルが市場を牽引【ホーチミン市オフィス純吸収面積】
出所:CBRE “HO CHI MINH CITY REAL ESTATE MARKET | Q4 2025”

2025年以降、ホーチミン市1区CBD(Central Business District:都市の中心部にある官公庁、企業オフィス、商業施設が集中するビジネスの中心区域)エリアでは、依然としてブランド力の高いGrade Aビルを中心に堅調な需要がみられる一方、新規供給の増加や拡張需要の減速により、市場全体の空室率はやや高止まりの状態が続いている。

一方、Thu ThiemやPhu My Hungなどの新都心候補エリアではGrade Aオフィスの供給拡大が進んでおり、テナント企業は同等水準のスペックを持つ新築物件に対して賃料交渉力を発揮しやすい環境となっている。 その結果、市全体としては賃料水準が急落することは避けられているものの、特にGrade Aではオーナー側がインセンティブや賃料調整を通じて稼働率の確保を図る、テナント寄りの市場環境が続いている。

ホーチミン市のオフィス市場ではグレードAの賃料は高水準で安定。グレードBは空室率が徐々に上昇。
【ホーチミン市オフィス市場の平均賃料と空室率(グレードA・B別推移)】出所:CBRE “HO CHI MINH CITY REAL ESTATE MARKET | Q4 2025”

小売・商業施設市場

ホーチミン市小売市場の賃料推移(CBD・非CBD別)
出所:CBRE “HO CHI MINH CITY REAL ESTATE MARKET | Q4 2025”

2025年以降、ホーチミン市の中心部および周辺部では、新規モールや複合施設の開業が続いているものの、プライムロケーションのストック自体は限定的であり、高品質なリテールスペースの不足感が強い。 CBREのデータによれば、2025年時点でホーチミン市CBDにおける空室率は過去最低の3.4%まで低下し、非CBDエリアにおいても空室率は5.8%と穏やかな水準を維持している。

こうしたタイトな需給を背景に、ホーチミン市の募集賃料は2024年比で3〜6%程度上昇しており、2026年の新規プライム供給も限定的と見込まれることから、今後も一定の賃料上昇圧力が続くとの見方が有力である。

ホーチミン市メトロ整備計画の全体像と都市の拡張

ホーチミン市都市鉄道網(HCMC Metro)路線図の計画イメージ図。Saigon Metro Systemによる非公式のメトロ整備計画マップ。

ホーチミン市の都市鉄道(メトロ)は、7路線・総延長約350km超の都市鉄道網を2035年までに基本整備し、2045年までに延伸区間を含めて全体ネットワークを完成させることを目標としている。 2024年末には1号線(Ben Thanh〜Suoi Tien、約19.7km)が開業済みであり、2号線(Ben Thanh〜Tham Luong、約11.3km)は2026年初頭に着工、2030年頃の完成が見込まれている。

この他、2030年にかけてBen Thanh〜Thu Thiem線Thu Thiem〜Long Thanh空港線を含む複数路線の案件が同時に始動する構想が示されている。

メトロ2号線が完成する2030年前後に稼働する段階では、Ben Thanh周辺〜Tham Luong(旧12区方面)にかけて都心再開発・高密度住宅化が一段と進み、既存の低層住宅エリアの再区画整理とあわせて、北西方向へ伸びる内陸軸に沿った都市拡張が進展すると見込まれている。

このネットワーク拡大に合わせて、市は各駅周辺でTODを通じた高密度な都市開発・土地利用転換を段階的に進め、土地価値・利用価値の向上によって都市鉄道投資の財源補完も図る方針を示している。

非公式ではあるもののSaigon Metro Systemによって示されているメトロ整備計画マップ。

開通済みの1号線の概要

ライン名計画総延長・区間将来の延伸方向
メトロ1号線現在営業中のBen Thanh〜Suoi Tien区間に加え、西側An Ha方面への都市内延伸と、東側のThu Thiem〜ロンタイン空港方面への都市鉄道計画を含めた場合、総延長は約40km超となる案が検討されている
(正確な総延長は今後の詳細設計により変動の可能性あり)
・西方のAn Ha(Binh Chanh 県)方面へ都市内延伸し、ホーチミン市西部の住宅・工業地区と結節させる計画案あり

・東方のビンズオン新都市、ドンナイ省ビエンホア市、ロンタイン国際空港方面への都市間延伸

計画中である2号線以降の計画概要

ライン名区間(起点–終点)備考
メトロ2号線Ben Thanh駅 – Tham Luong駅(第1期:約11.3km区間)2026年1月に本格着工開始、工期約57カ月を見込み。2030年までに完成を目標
・ホーチミン市が「2030年までに完成させる3つの主要路線」の一つとして位置付け
メトロ3A号線Ben Thanh(1区中心・1号線・2号線との結節)〜Pham Ngu Lao〜Cong Hoaロータリー〜Hung Vuong〜Hong Bang〜Kinh Duong Vuong〜Tan Kien駅
・車両基地(Binh Thanh・Binh Chanh方面)約19.8km
・メトロ1号線と接続し、東のミエンドン新長距離バスターミナルと西のミエンタイ長距離バスターミナルを結ぶ「東西公共交通軸(バス結節軸)」として、都市鉄道計画上の重点候補路線となっている。

・着工時期・投資スキームは2026年時点では検討中であり、今後のFS結果・財源確保により具体化が進む予定。
メトロ3B号線Cong Hoaロータリー(3Aと接続)〜Nguyen Thi Minh Khai〜Xo Viet Nghe Tinh〜国道13号〜Hiep Binh Phuoc(Thu Duc市北端のデポ・車両基地)
約12.2km(地下約9.1km・高架約3.1km)
・将来はHiep Binh Phuocからビンズオン省Thu Dau Mot市方面へ延伸し、ビンズオン省側の都市鉄道1号線と接続する構想が示されているが、2026年時点では概念設計段階にとどまっている。
メトロ4号線北側郊外のDong Thanh(Hoc Mon郡)Thanh Xuanから、南部Hiep Phuoc新都市まで至る南北幹線約35.75km北側郊外のDong Thanh(Hoc Mon郡)〜Thanh Xuanから、南部Hiep Phuoc新都市に至る南北幹線(延長約35〜36km)の都市鉄道として計画されている。2020年代前半以降、民間デベロッパーによるPPP

・総合開発提案が複数報じられており、市が財務・建設当局と連携して投資スキームを検討中。具体的な事業主体・実施時期は2026年時点で未確定。
メトロ5号線約23.39km(サイゴン橋〜新Can Giuoc長距離バスターミナル)2030年時点では主に投資スキームの確立・設計・用地取得が中心となり、本格的な建設・開業は2030〜2035年フェーズに位置付け。
メトロ6号線Ba Queo交差点(Tan Binh区・Truong Chinh通り、2号線Tham Luong側のゲートウェイ)〜 〜 Phu Lamロータリー(6区・5号線・国道1A接点)・2号線(Ben Thanh〜Tham Luong)と3A号線(Ben Thanh〜Tan Kien)を結ぶショートカット的な接続路線であり、西部・南西部から北西部・空港方面への乗り換え時間を短縮する接続路線として位置付け。
トラムT1号線サイゴン川沿いBa Son地区(1号線Ba Son駅付近)を起点に、1区中心北縁〜3区・5区の幹線道路(具体案は複数パターン)を経由し、西部のMien Tay長距離バスターミナルまで結ぶトラム路線として計画。起点側のBa Sonでメトロ1号線(Ben Thanh – Suoi Tien)と接続、西側終点のMien Tayバスターミナルでは将来のメトロ3A(Ben Thanh〜Tan Kien)・5号線南西区間との乗換結節を想定。

メトロ優先路線(1〜6号線)に比べると投資優先度は低く、2030年までにはルート確定・BRT/バスとの役割分担整理が中心で、本格建設は2030年以降の長期案件と見込まれている。

ホーチミン市メトロ1号線

ホーチミン市メトロ1号線の路線図 出所:La Quinta

東西軸の基幹インフラと新生活圏

先述の通り、メトロ1号線(ベンタン〜Suoi Tien、東バスターミナルまで)は2024年12月に商業運行を開始している。現在はホーチミン市初の都市鉄道として、都心1区とThu Duc市(旧東部地区)を結ぶ東西軸の基幹的な公共交通として機能しつつある。

開業から約1年となる2025年12月時点で、1号線は累計約1,900万回の乗車回数を記録し、月平均で約150万人・日平均で5万〜5万2000人前後が利用していると報じられている。祝祭日には1日10万人超を記録する日もあり、交通渋滞緩和への一定の貢献が現地メディアで指摘されている。

不動産開発・投資への影響も大きい。Savills Vietnamによれば、ホーチミン市のアパート供給は2027年までに5万戸超になる見通しで、そのうち約49%がメトロ1号線沿線に位置するThu Duc市に集中すると予測されている。

メトロ1号線の開通が示す実績

実際、メトロ1号線沿線では、Vincom Mega Mall Thao DienEstella Place、ハイテクパーク近接のOneHubなど、駅近・沿線立地を活かした複合商業・オフィス案件高い賃料水準高稼働率を実現していると報じられている

CBREや2025年末の現地報道によれば、メトロ1号線沿線では建設段階からコンドミニアム価格が50〜70%程度上昇した案件が多く、運行開始前後の数年間で、一部物件では累計で2倍近い値上がりも確認されている。特にBa Son、Thao Dien、An Phuなど主要駅周辺では、直近1年だけでも20〜25%前後の価格上昇が見られるという。

メトロ1号線の沿線には40件以上の分譲マンション開発が進んでおり、その多くはハイエンドから高級セグメントに位置付けられ、中心部に近いほど価格は上昇傾向にある。

  • Estella Heights: 初期販売時は3,500万〜3,800万ドン/㎡台だった物件が、現在は概ね1億2,000万ドン/㎡前後で取引されているとされる。
  • Gateway Thao Dien(2015年発売): 当初4,000万ドン/㎡前後から、現在は約1億4,000万ドン/㎡程度まで上昇したとの報道がある。
  • Q2 Thao Dien(2018年発売): 当初6,000万ドン/㎡前後だった価格が、現在は最大で2億ドン/㎡(約8,400米ドル)近くまで上昇した事例も紹介されている。
Estella Heights(エステラ・ハイツ)はホーチミン市THU DUC市(旧2区)で人気のESTELLA(エステラ)の正面に2017年に完成したコンドミニアム。ディベロッパーは世界的に有名なシンガポールのKeppel land。当初3,500万〜3,800万ドン/㎡が、現在は1億2,000万ドン/㎡超とされ、ほぼ3倍水準と報じられる。 写真出所:TCBM

さらに、2025年7月にはホーチミン市商工局が、メトロ1号線の駅構内に日用品やサービスを提供する商業スペースを設置する試行プログラムを提案した。これは同年5月に小売大手Saigon Co.opが提起した案を踏まえたもので、コンビニ・ミニスーパー、飲食、デジタル決済サービスなどを一体化し、「交通+キャッシュレス決済+日常の買物」を組み合わせた駅ナカ型の商業モデルを構築することを狙いとしている。

以下、筆者が2026年3月にホーチミン市現地で実際撮影した写真である。

2026年3月にホーチミン市現地で筆者(三浦)が撮影。ベンタイン駅のメトロ1号線の入口。入口の背景にある構想ビルはホーチミン高島屋も入居している大規模な複合施設サイゴンセンター(Saigon Centre)。右手に見える高層ビルはビテクスコ・フィナンシャルタワー(Bitexco Financial Tower)
2026年3月にホーチミン市現地で筆者(三浦)が撮影。撮影時点では商業施設のリーシングが進んでおらず、地下空間には広大な余白が目立つ。今後の駅ナカ開発や、TOD(公共交通指向型開発)による付加価値の創出が待たれる。
2026年3月にホーチミン市現地で筆者(三浦)が撮影。ホーチミン市メトロ「ベンタイン駅」の現況。 現時点では1号線の単独運用に留まるが、将来的な2号線の接続により、同駅は市内最大の交通結節点(ハブ)としての機能を確立する。ホーチミンの都市構造を再定義する重要拠点としてのポテンシャルを注視したい。
2026年3月にホーチミン市現地で筆者(三浦)が撮影。日立製作所製の新型車両。高架駅に到着するブルーのラインを纏った車両。ホームドアの設置やバリアフリー設計など、日本の鉄道技術とノウハウが随所に投影されており、ホーチミン市の公共交通における新たなスタンダードを体現している。
2026年3月にホーチミン市現地で筆者(三浦)が撮影。Tan Cang(タンカン)駅から撮影。メトロ1号線の開通により、ビンタイン区の交通利便性は大幅に向上した。最高層ビル「ランドマーク81」を中心としたハイエンドなレジデンス・商業エリアは、今後のホーチミン市における「職・住・遊」が近接する都市モデルの先行事例として、引き続き高い注目を集めている。

ホーチミン市メトロ2号線

メトロ2号線の路線計画図① 出所:ASEAN urbanist
メトロ2号線の路線計画図② 出所:VnExpress

ホーチミン市北西部の都市拡張:2号線TOD開発による高密度居住圏の形成

メトロ2号線(Ben Thanh〜Tham Luong:延長約11.3km、うち地下約9.3km・高架約2km、地下駅10・高架駅1)は、都心と北西部の住宅エリアを結ぶ「第二の幹線メトロ」として位置付けられている。 2026年1月15日に本体工事が正式に着工しており、用地補償・立ち退きは原則完了済みで、工期約57カ月を経て2030年第4四半期の完成を目標としている。

総投資額は約47.8兆VND(約18〜21億USD)で、中央政府とホーチミン市の公的資金により主に賄われる。 ベンタイン駅で既存のメトロ1号線と接続することで、都心核の結節性を高めると同時に、Cach Mang Thang Tam通り〜Truong Chinh通りなど現在渋滞が深刻な幹線道路沿いの自動車交通負荷を大幅に軽減し、都心〜Tan Binh区〜12区〜北西部への通勤を公共交通中心へシフトさせることが期待されている。

不動産開発の観点では、ホーチミン市は決定第3065/QD-UBNDなどにより、メトロ2号線の全駅とTham Luong車両基地の周辺約1km圏をTOD(Transit Oriented Development)エリアとして設定し、特にTham Luong車両基地、Pham Van Bach駅、Tan Binh駅、Bay Hien駅、Ben Thanh駅等をパイロット拠点として、高密度住宅・商業・オフィスの混在する複合開発への転換を進める方針を示している。 Cach Mang Thang Tam通りやTruong Chinh通り周辺の中密住宅地でも、今後、中高層住宅や複合用途ビルへの更新が想定されている。

メトロ1号線と2号線における不動産への影響と都市開発における意味の比較

観点メトロ1号線メトロ2号線
不動産への影響・開業済みで実需が顕在化し、東部(Thu Duc市)マンション市場の主な価格押し上げ要因になっている。

・Vincom Mega Mall Thao Dien、Estella Place、OneHub High-tech Parkなど、駅近大型商業・オフィス案件は高い賃料と稼働率を実現し、沿線の商業不動産投資も活発化。
・2026年1月に本体工事が着工し、工期約57カ月を経て2030年第4四半期の完成が目標とされている。沿線の地価・住宅価格はまだ「期待先行」の段階だが、土地収用の完了とともに再開発案件の仕込みが進みつつある。

・Truong Chinh通りやCach Mang Thang 8通り、Tan Binh区・Tan Phu区・10区など、既成中密住宅地での再開発ポテンシャルが高いとされ、メトロ2号線各駅の1km圏を対象としたTOD前提の混合用途開発用地の選定・準備が進められている。
都市開発における意味「運行実績を持つ初の都市鉄道」として、東部の衛星都市・新都心と都心を結ぶ役割を担い、東部インフラ集中的投資の軸となっている。

・将来的には、東側へのインターチェンジ拠点拡充や1号線の延伸計画(Thu Duc行政センター〜ロンタイン空港方面への都市鉄道計画など)と組み合わさることで、東部広域の都市開発を牽引することが期待される。
・2025年の国会決議188/2025/QH15で導入されたホーチミン市向け特別メカニズムのもと、TODと一体で進める先行プロジェクトの一つとされており、「インフラ投資と都市開発を一体化する新しい都市開発モデル」の試行案件として注目されている。

・都心〜北西部の中所得住宅地・工業エリアを縦断するため、既成住宅地の高度利用や地下空間の活用、公共施設・商業・住宅が混在するコンパクトシティ型開発を同時に進める構想が示されている。
メトロ2号線プロジェクトにおける用地収用の完了地点を捉えた写真。沿道の既存建物が撤去され、建設工事に向けた空間的確保が物理的に示されている。長年課題とされていた用地取得が具体化したことは、インフラ実装に向けた大きな進捗と言える。 出所:Tuoi Tre
メトロ2号線の敷設が予定されているCach Mang Thang Tam通りの現況を捉えた写真(2025年12月頃)。手前側を中心に用地引渡しの完了が確認でき、物理的な開発準備が着実に進行していることが見て取れる。現在は低層から中層の既存建築が密集する過密エリアであるが、鉄道開通に伴う交通結節点としての機能強化により、今後は高層化や商業・オフィス機能の集約といった急速な都市再編が加速していくと予測される。
25ヘクタール以上の広さを誇るTham Luong(タムルオン車庫)の予定地。メトロ2号線の運行管理センターとなる予定であるが、現状では野原が広がる。 出所:Tuoi Tre

その他都市外と結ぶ鉄道(国鉄系・高速鉄道等)

メトロ計画以外に、都市外と結ぶ鉄道(国鉄系・高速鉄道等)として、以下の主要プロジェクトが進められている。

南北高速鉄道(ハノイ~ホーチミン市)

国家鉄道ネットワーク計画および2024年国会決議に基づき、南北高速鉄道はハノイ市Ngoc Hoi駅を起点、ホーチミン市Thu Duc市内のThu Thiem駅を終点とする全長約1,540kmの路線として承認されている。

Thu Thiem駅は、北南高速鉄道に加え、Thu Thiem–Long Thanh空港鉄道やBien Hoa–Vung Tau鉄道、将来の都市鉄道ネットワークと結節する南部広域の鉄道の中心地と位置付けれる。

ベンタイン – カンゾー(Ben Thanh – Can Gio)高速メトロ(VinSpeed)

ホーチミン市は2025年12月、ベンタイン〜カンゾーを結ぶ高速都市鉄道プロジェクトについて投資方針を承認し、Vingroup傘下のインフラ会社VinSpeedを事業投資主体として選定した。 計画では、市中心部の9月23日公園(Ham Nghi–Le Loi交差点付近)を起点とし、Can Gio地区のVinhomes Green Paradise Can Gio都市開発プロジェクトに隣接する約39haの用地を終点とする。

当面はベンタン駅とカンゾー駅の2駅を先行整備し、その後需要に応じて途中4駅(Tan Thuan、Tan My、Nha Be、Binh Khanh)を追加する段階的整備案が検討されている。

メトロ2号線の開発と日本企業にとって商機

メトロ2号線は、先述の通り、都心〜北西部の既成市街地を再編する大規模な交通インフラであり、日本企業にとっても「①インフラ関連ビジネス」「②TOD・都市開発関連ビジネス」で中長期的な機会が生まれると考えられる。

インフラ・鉄道分野では、日本はメトロ1号線で設計・施工・車両・システム、運営体制構築まで広く関与しており、ベトナム政府も日本の都市鉄道ノウハウへの期待を繰り返し表明している。

メトロ2号線は市予算・国内資金を中心とする方針で、技術規格は欧州標準かつ自動運転レベルGoA4の採用が決定しているが、技術移転を伴う外国パートナーとの連携も認められており、信号システム、自動運行、電力設備、安全保安装置、保守システムなどの分野で日本企業の参入余地がある。 また、運行・保守・駅運営、人材育成などソフト面での協力にも一定のニーズが見込まれる。

ホーチミン市はメトロ2号線沿線で、Tan Binh区約5.1ha、Tan Phu区約26ha、10区〜Tan Binh区間で約41ha等のTOD用地を公式に指定しており、今後、段階的に投資家選定や土地オークションを実施する計画である。 これらの区画では、中高層住宅・オフィス・商業施設が一体となった新しい都市拠点の形成が想定されている。

メトロ1号線沿線でも実証されつつある「駅直結型モール」「駅近高層オフィス」「駅近レジデンス」のモデルは、Ben Thanh、Bay Hien交差点周辺、Tham Luong車両基地エリアなどメトロ2号線の主要駅でもTOD開発の有力な選択肢とみなされており、日本の商業施設運営や複合開発ノウハウが活きる余地がある。

ホーチミン市で今後発展が予測される交通指向開発(TOD)概念図 出所:InfoBase作成
写真はホーチミンメトロ1号線の駅構内であるが、小売や飲食店等のサービスは依然として限られている。 出所:Hanoi Times

駅ナカ・駅チカの商業プラットフォーム化も期待される。2025年にはホーチミン市産業貿易局が、メトロ1号線の駅構内に日用品や飲食などを提供する小売スペースを設けるパイロット導入を公式に提案しており、決済、買物、サービスを一体化した新しい駅型リテールセンターの形成を目指している。 このモデルが定着すれば、将来的に2号線の駅でも小売・飲食の出店余地が拡大する可能性が高い。

特に、Tan Phu区の約26ha区画では「地下空間の積極活用」と「高密度の住商混在」が計画条件として示されており、駅直結のショッピングモールや地下街型の商業空間、駅上・駅前の路面店エリアを一体的に企画できる開発プラットフォームとして構想されている

ホーチミン市はこれらTOD用地の競売・入札を通じて、デベロッパーに対し「駅を核とした複合商業・住宅開発」を求めており、小売・飲食・サービス業にとっては、①駅構内の小区画店舗、②駅直結モール内テナント、③駅前通り沿いの路面店という三つのレイヤーで新たな出店機会が生まれると見込まれる。

終わりに:都市鉄道整備がもたらす都市構造の転換と投資機会

ホーチミン市の不動産市場は、メトロ1号線の稼働実績を先行指標に、2号線の着工を機に構造的な転換期を迎えつつある。インフラ整備と連動したTOD開発は既成市街地の再編と多極的な都市形成を促進しており、日本企業にとってはインフラ関連にとどまらず、TOD・都市開発分野においても多様なビジネス機会が創出されるだろう。

2030年のベトナム南部(ホーチミン市周辺)は、ロンタイン空港を中心に劇的な変貌を遂げる。

下記資料では、ホーチミン市周辺の主要な交通インフラである環状3号線、空港直結鉄道、地下鉄2号線など最新のインフラ将来像を詳説しているので、ダウンロードしてご活用頂きたい。

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【資料ダウンロード】ロンタイン空港を中心としたホーチミン市周辺交通インフラの将来像(2030年)

参考文献

不動産市場動向

都市開発・計画

交通インフラ(メトロ)