日本人の海外旅行先として伸びているベトナムが、結婚の記念写真を撮る場所としても選ばれ始めた。2025年の日本人訪問者数は前年比14%増の81万人に達し、2026年に入っても春先まで2桁の伸びが続いた。

旅行予約の動向を見ると、ダナン、ホーチミン、ハノイの3都市に人気がほぼ均等に分かれ、目的に応じて行き先を選ぶ段階に入っている。観光や食にとどまらず、人生の節目を残す場所として見られるようになった変化を受け、ハワイや欧米を中心に展開してきたウェディング事業者(くふうウェディング)が、アジアで初めての撮影地にベトナムを選び、11月から事業を始める。

日本人のベトナム渡航、2026年春は2桁増が続く

訪問者81万人、前年比14%増で5位の送客市場に

ベトナム統計局によると、2025年に同国を訪れた日本人は81万4,000人で、前年比14.4%増となった。国・地域別では中国、韓国、台湾、米国に次ぐ5位で、日本はベトナムにとって上位の送客市場に位置する。ベトナム全体の外国人訪問者数は2,116万8,000人と前年比20.4%増で過去最高を更新し、ASEAN加盟国の中で最も高い伸びを記録した(ベトナム統計局、ASEAN事務局)。

2026年に入っても日本人の渡航は伸びている。各国政府観光局の統計によると、日本人のベトナム渡航者数は3月から6月まで4カ月連続で前年同月比15〜19%増となった。7月、8月は前年並みに落ち着いたものの、8月の渡航者数は9万1,161人と、シンガポールとほぼ同じ規模に達している。

2026年3〜8月の累計で、ベトナムはタイと2万6千人差の43.8万人。韓国が突出する一方、台湾・タイ・ベトナムが第2グループを形成している(出所:各国政府観光局、基準は各国統計に従う)

春休みの予約は前年の2倍、人気は3都市に分散

旅行アプリ「NEWT」を運営する令和トラベルが2026年3月に公開した調査では、春休み・卒業旅行シーズンにあたる3月出発のベトナム旅行の予約件数が前年同月比で2倍となり、同アプリの海外旅行予約に占めるベトナムの割合は4.5%から7.8%に上がった。

都市別の内訳は、ダナンが33.2%、ホーチミンが33.0%、ハノイが30.5%とほぼ三等分されている。ビーチリゾートの中部、都市観光と食の南部、歴史的な街並みと世界遺産の北部と、都市ごとに異なる体験が確立されており、3都市とも日本からの直行便があることが、目的に合わせて行き先を選ぶ動きを支えている。

同調査は1社の予約データに基づくものだが、ベトナムが一つの観光地としてではなく、都市ごとに別の目的で訪れる国として位置づけられてきたことがうかがえる。費用面でも、物価と為替を合わせた上昇率はコロナ前と比べて主要な渡航先の中で最も低いと同社は算出しており、旅先としての安定感が需要の底を支えている。

韓国・台湾でなくベトナム、後発市場を選んだ判断

北から南へ縦断視察、「行きやすさ」を基準に選定

ベトナムでのフォトウェディング事業を始めるのは、株式会社くふうウェディング(東京都中央区)が運営するリゾート挙式プロデュースサービス「MY FAVORITE PART」だ。プロデュースを担当する鈴木英雄氏は、ハワイや欧米でオーダーメイドのウェディングを長く手がけてきた。アジアに撮影地を広げるにあたり、各地を見て回った末に選んだのがベトナムだった。

ハノイからフーコック島まで、北部・中部・南部の撮影地を自由に組み合わせる。都市ごとに異なる表情を一つの国の中で選べることがベトナムの特徴【画像提供:くふうウェディング】

視察ではハノイからダナン、フエを経て南部まで北から南へ縦断し、人、街並み、撮影スポットの豊かさを確かめた。ハノイに着いた日には2時間ほど街を歩き、「ここでウェディングドレスを着て撮れば映える」と感じる場所が何カ所も見つかったという。

選定の基準は「観光地として有名かどうか」ではなく「行きやすい国かどうか」だった。新郎新婦が海外旅行として訪れたとき、撮影と観光、食事のバランスが取れる国であることを重視した。北部の歴史的な街並み、中部の世界遺産とビーチ、南部の都市と島という多様さは、前述の「3都市に人気が分かれる」構図と重なる。同社はハノイ、ホーチミン、ホイアン、フエ、ダナン、フーコック島、ニャチャンなどを撮影エリアとし、都市をまたぐ撮影や2日間にわたる撮影にも対応する。

ニャチャン沖の島に広がるリゾート。ビーチと街並みの両方を持つことが、ビーチ主体の他のアジア地域にはない強みとされる【画像出所:Shutterstock】

ドローン映像で差別化、競合の少ない領域を狙う

フォトウェディングの需要だけを見れば、韓国や台湾の方が展開しやすいという議論は社内に当初からあった。それでもベトナムを選んだのは、写真に加えてドローンによる空撮映像を標準で組み込む形で展開している事業者がほとんどなく、新しい市場を開く余地があると判断したからだ。写真のみのサービスが多い市場で、映像を含めた商品設計で区別を図る狙いがある。

ベトナムの売り方についても、ダナンをビーチリゾートとして単体で売る手法とは一線を画す。鈴木氏は、ホーチミンからフーコック島へ、あるいはクイニョン周辺といったエリアに可能性を見ており、街並みと自然を組み合わせられる点で、ビーチ主体の他のアジアの地域と比べても優位があると考えている。パッケージプランを設けず、二人の希望を聞いて撮影ルートをゼロから組み立てる方式も、「ベトナムは行き尽くした」という層に別の景色を提案するための設計だ。

フランス統治時代の面影を残す建築を背景にした撮影。街並みそのものを撮影地にできる点が、ハワイや欧米とは異なるベトナムの魅力【画像提供:くふうウェディング】

現地クリエイターと組み、価格より質で体制を整える

撮影地の選定には、ベトナムの写真家の技術水準も影響した。鈴木氏はSNS上でベトナムの作品を目にする機会が多く、表現の幅を選定理由の一つに挙げる。撮影体制は、ハノイを拠点に活動する日本のフォトグラファーチームを起点に、現地のカメラマンやヘアメイクが加わる形で組んだ。提携先の選定では相場より高い報酬になる場合でも、その水準で確実に仕上げられるかを話し合って決めており、価格より質を優先する方針を取っている。

一方で、現地ならではの前提条件もある。良いロケーション同士が車で離れていること、北部・中部・南部で雨季の時期が異なること、ドローンの飛行許可の申請から回答までに時間を要することだ。視察時にフエで激しい雨に遭い、街が冠水した経験から、開催は雨季を避けた乾季に限定した。撮影当日は日本とベトナムの混合チームが同行し、日本語で意思疎通ができるスタッフが常駐する。

年間2500万人目標の観光国、日本市場の伸びしろ

ベトナム政府は2026年の外国人訪問者数の目標を2,500万人に置き、1〜9月で1,770万人と前年同期比14.5%増で推移している。日本からの訪問者も上位市場の一つとして着実に積み上がっており、今回の参入は、観光以外の目的でベトナムを訪れる需要を取り込もうとする動きの一例といえる。同社は今後、ハノイからサパへ向かう列車での撮影など、ベトナムの移動そのものを作品にする構想も温めている。

観光や食を目的とした旅行先として定着しつつあるベトナムは、結婚という人生の節目を記録する場所としても選ばれ始めている。街並み、世界遺産、ビーチという異なる表情を一つの国の中で組み合わせられることが、日本人にとってのベトナムの価値を、単なる旅行先から思い出を残す場所へと広げている。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

山形県山形市出身。筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。

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