ベトナム市場に参入した日本企業の多くが直面する課題のひとつに、流通・ディストリビューションの構築がある。自社で販売網をゼロから作るには時間とコストがかかり、かといって信頼できる代理店を見極めるのも容易ではない。

この課題に対する提携候補のひとつとして、InfoBankはDigiworld Corporation(日本語名:デジワールド、ベトナム語名:CTCP Thế Giới Số)に注目している。今回、InfoBankは同社への取材を実施し、事業の実態と成長戦略について話を聞いた。1997年創業、ノートPC市場でシェア40%超、Xiaomiでは50%超を扱う同社は、単なる輸入商社ではなく、ブランドの市場参入から販売後までを請け負う「MES(マーケット・エクスパンション・サービス)」を事業の核としている。

デジワールドの売上構成と売上推移(2015年〜2024年)【出典:デジワールド提供】

ベトナムICT流通最大手デジワールドの会社概要と沿革

Digiworld(デジワールド)の前身は1997年設立のHoang Phuong有限会社だ。2003年にDigiworld Corporationへ改組すると同時にAcerの正規販売代理店となり、2004年にハノイ、2006年にダナンへ支店を開設した。2015年にはホーチミン証券取引所(HOSE)に上場している。設立から現在に至るまで、事業内容の軸は一貫してICT機器を中心とした流通・小売支援にあるが、M&A成長戦略の中核に据え、扱う商材と流通チャネルを段階的に広げてきた。

項目内容
設立年1997年
上場日2015年8月3日
2025年度 売上高約10億米ドル
流通網全国16,000〜20,000カ所の小売拠点
従業員数768名
取扱ブランド45社以上

主力はICT領域である。ノートPC・タブレット市場(市場規模10億ドル)ではシェア40%超のディストリビューターとなっており、携帯電話市場(40億ドル)ではXiaomiのシェアが50%超、Appleでも国内2位に位置づけられている。

オフィス機器(50億ドル)と家電(48億ドル、Xiaomi MDA製品の代理店)を合わせ、Apple、Xiaomi、HP、Dellなど複数のブランドのベトナム国内流通・小売展開を担っている。

デジワールドが持つICT機器ディストリビューションネットワーク【出典:デジワールド提供】

デジワールド独自のMESビジネスモデルとは

デジワールドのビジネスモデルは、モノを右から左へ流すだけの流通業ではなく、ブランドの市場参入から販売後までを一気通貫で支援する形をとっている。

提供する機能は、市場分析(市場調査・事業計画・登録支援)、フルディストリビューション=4PL(輸入・倉庫・配送)、営業・マーケティング(チャネル戦略・店頭実行・ブランド戦略)、デジタル(Eコマース・D2Cソリューション)、アフターサービスの5つに整理される。

このビジネスモデルのもとでは、海外ブランドは自社でベトナムに法人を設立せずに、市場調査から店頭展開、販売後のサポートまでを委託できる。運営面では、ERP・DMSによるデータ管理体制と、オンライン・オフライン双方をカバーする流通網を組み合わせている。

デジワールド独自のMESビジネスモデル【出典:デジワールド提供】

デジワールドの成長を支えるM&A戦略

デジワールドのM&A投資方針3つの軸とは

デジワールドの売上構成は、ノートPC・タブレット33%、携帯電話27%、オフィス機器29%、家電8%、消費財3%(2025年度)であり、ICT中心の構造からカテゴリー分散が緩やかに進んでいる。この拡張を担ってきたのがM&Aであり、同社にとってM&Aは付随的な手段ではなく、成長戦略そのものと位置づけられているためだ。

投資方針は、既存の流通網に新たなブランド・製品を追加する、自社エコシステムに新たな小売・流通チャネルを加える、新しい業界への参入パスとする、という3つの軸に整理できる。実際のM&A案件はこの方針に沿って積み上げられてきた。

デジワールドのオフィス【出典:デジワールド提供】

主要M&A案件とその狙い

2017年に90%出資したCL業界経験16年のFMCGディストリビューターであり、消費財領域における小売網への足がかりとなった。2021年にDai Tin Pharma合弁設立したDPharmaは、GSP/GDP基準を満たす6つの倉庫網と、16チェーン270薬局・病院100・薬局107・個人クリニック104という医療流通ルートをもたらした。

さらに、2022〜23年に75%を取得したAchisonは、安全用品・産業用機器という新領域への入口となり、買収後は北部工業団地へも展開を広げている。2017〜24年にかけて出資比率を高めたB2Xアフターサービス機能の内製化を担い、2023年に出資したVietmoneyは中古ICT市場への接近を狙ったものだったが、2025年には持分の大半を売却し関連会社化する形で方針転換している。

これらの拡張は、流通インフラ・営業網・ERPという同一のプラットフォームを複数カテゴリーで活用するモデルで進められている。Doan Hong Viet会長は年間2〜3件のM&Aを実施する方針を掲げており、これはデジワールドの事業内容を単一カテゴリーに留めず、小売・流通の複数領域へ広げるための成長戦略を掲げている。

デジワールドのM&A戦略【出典:デジワールド提供】

デジワールドの好業績を支える外部環境

デジワールドの直近の業績を見ると、増収を上回るペースで増益が進んでいる。2026年第2四半期の純売上高は前年同期比+33%、純利益は+107%。2026年上半期でも純売上高+44%、純利益+98%となっており、利益の伸びが売上の伸びを上回っている。2015〜2025年の10年間では売上高CAGR20%、純利益CAGR18%、ROE約21%という水準で推移してきており、直近の成長ペースはこの長期トレンドと比べても高い水準にある。

背景には、中間層の所得増加、小売チャネルの近代化(フォーマル化)、都市化の進展、政府の後押し政策といったマクロ環境がある。同社が掲げる「売上・利益CAGR15%、ROE15%超」という目標も、こうした環境を前提としたものと見られる。

デジワールドの業績(2025年〜2026年)【出典:デジワールド提供】

日本企業にとっての提携先候補としての価値

ヘルスケア・消費財・産業資材への事業拡張

ここまでの紹介を振り返ると、デジワールドはPCやスマートフォンなどIT機器のディストリビューターという印象が先に立つかもしれない。しかし同社の事業内容は、M&Aを通じた成長戦略によって、ヘルスケア(DPharmaを通じた医薬品流通、16チェーン270薬局・病院100・薬局107・個人クリニック104というルート)、日用消費財(CLによるFMCG小売網)、産業資材(Achisonの安全用品・産業用機器)にまで広がっている。

ベトナムでの小売・流通網の構築は、IT機器メーカーに限らず、化粧品・日用品・健康食品・医療機器といった分野の日本企業にとっても長年の課題であり続けてきた。現地の小売・卸チャネルは地場企業が握っている部分が多く、外資が単独で全国規模の販路を構築するには時間がかかる。

業種の垣根を越えるベトナム流通市場の再編

デジワールドが複数カテゴリーで小売・流通網とライセンス対応(GSP/GDP基準の倉庫など)を並行して持っているというビジネスモデルは、IT機器以外の分野で参入を検討する日本企業にとっても、提携先の候補として検討する余地は大きいだろう。

提携当たっては、価格設定や在庫管理の主導権、エンドユーザーデータの扱い、専売条件をどう設計するかといった論点を整理しておく必要がある。とはいえ注目すべきは、デジワールドが自動車・ヘルスケア・産業資材へと事業領域を広げ続けている点だ。これは、ベトナムの流通市場そのものが業種の垣根を越えて再編されつつあることを示すものであり、IT機器分野に限らず、幅広い日本企業にとって注視する価値のある動きだと言えるだろう。