ベトナムの農業・食品業界で、コメと畜産という二つの基幹事業を軸に急速な多角化を遂げてきた企業グループがある。2000年設立、25年以上の歴史を持つタンロングループだ。投資会社SIBA HOLDINGSを通じて畜産大手BAFコメ事業のA An Foodなどを傘下に収め、2030年までに地域を代表する農業・食品コングロマリットとなることを目指している。

今回、同グループでグローバル戦略・事業開発部門ディレクターを務めるダオ・ティ・トゥ・フオン氏への取材と、同社からの情報提供をもとに、タンロングループおよび中核企業BAFの事業実態を紐解いた。急拡大を続ける同グループの全体像は、日本企業がベトナム農業・食品市場でのパートナーシップを検討するうえでも、有力な手がかりになるはずだ。

ベトナム農業・食品大手タンロングループとは

タンロングループの事業構造

タンロングループは2000年設立、25年以上の歴史を持つベトナムの総合農業・食品グループである。コメ、畜産、機械工学、農産物商品取引を主な事業領域とし、2030年までにベトナムおよび地域を代表する農業・食品コングロマリットとなることを目標に掲げている。

2025年12月時点の財務規模は総収益30億ドル、総資産20億ドルに達し、一次産業を出発点としながらも複合的な事業ポートフォリオを持つ企業グループへと成長を遂げつつある。

同グループを率いるのは、会長のチュオン・シー・バー(Truong Sy Ba)氏である。バー氏は自らが株式の98%を保有する投資会社「シバホールディングス(SIBA HOLDINGS)」のオーナーでもあり、この投資会社を通じて畜産大手BAF( Vietnam Agriculture Joint Stock Company)コメ事業のA An Foodなど、有力企業を次々とグループの傘下に加えてきた。

投資会社SIBA HOLDINGSの戦略

タンロングループによる株式買収の変遷

投資会社としての位置付け

SIBA HOLDINGSは、タンロングループが長年培ってきた「食」に関わる事業基盤を土台にしながら、有望な企業に出資してグループの傘下に加えていく役割を担う投資会社である。単に資金を出すだけでなく、出資先の企業がタンロングループの持つ原料調達力や販売網といった資産を活用できるようにすることで、出資先とグループ双方の成長を後押しする点に特徴がある。

運用資産総額は8億米ドルに上り、2030年までにベトナムおよび東南アジア地域を代表する農業・食品コングロマリットを構築するという、タンロングループ全体の目標を実現するための中心的な役割を担っている。

BAF・A An Foodへの出資を通じたグループ成長

(写真出所)Công ty Cổ phần Nông nghiệp BAF Việt Nam

SIBA HOLDINGSがその存在感を大きく示したのは、2022年1月4日にBAFの株式1,599万株を取得し、保有比率20.5%超で主要株主となったことだった。当時ベトナム農業(BAF: Vietnam Agriculture Joint Stock Company)は既に畜産業界で有力な地位を築いていた企業であり、この出資によってタンロングループのエコシステムに正式に組み込まれることになった。

その後もSIBA HOLDINGSはBAFへの出資比率を段階的に引き上げ、2024年には保有比率を合計40%まで拡大している。並行して2023年にはコメ事業を担うA An Foodの主要株主にもなり、タンロングループの二つの基幹事業であるコメと畜産を、投資という形で一体的に統括する体制を整えてきた。

原料調達・流通で生まれる強み

SIBA HOLDINGSの強みは、出資先企業がタンロングループのエコシステムに接続することで得られるシナジーにある。たとえばBAFの場合、タンロングループはベトナム国内の年間穀物輸入量の25%以上を占める飼料原料の最大手輸入・供給企業であり、SIBA HOLDINGSを介してこの供給網とつながることで、良質な飼料原料を安定的に確保しやすくなる。

さらにSIBA HOLDINGSは、生鮮食品店チェーン「Siba Foods」も運営しており、2020年12月の設立から短期間でハノイ・ホーチミン・ヴィンの主要都市に店舗網を広げ、BAFの豚肉製品を主力商品として扱う販売チャネルとしても機能してきた。原料調達から販売網までを出資先企業に開放するこの仕組みこそが、SIBA HOLDINGSが単なる資金の出し手にとどまらない理由であり、出資先にとっての価値を高めている。

タンロングループの事業セグメント

畜産大手BAFの事業概要

BAF Vietnam Agricultural JSCは、2017年設立、2021年にホーチミン証券取引所(HOSE)へ上場した畜産企業で、飼料生産から畜産、食品加工までを一貫して手がける「3F(Feed-Farm-Food)」モデルを展開している。豚の飼育頭数でベトナム畜産企業トップ3に位置し、年間供給量は商業豚約100万頭に達する。母豚1頭あたりの年間離乳頭数はベトナム平均の約1.5倍にあたる31〜34頭を記録するなど、技術力の高さが成長を支えている。

ベトナム大手のコメ生産・輸出─A An Food JSC

A An Food JSCはコメの生産・取引・輸出を担う企業で、ジャポニカ米の生産・輸出ではベトナム国内トップの地位を占め、年間生産量は80万トンを超える。栽培地から乾燥施設、精米加工センターまでを一貫体制で運営しており、Siba Holdingsが2023年に筆頭株主となって以降、グループ内でのコメ事業の中核を担っている。

農業機械分野を支えるSiba High-tech

Siba High-tech Mechanical Group JSCは、ベトナムの農業機械分野における先駆的企業として位置づけられている。飼料生産や畜産、コメ加工といったグループ内の各事業を技術面から支える機能を担っており、農業の機械化・自動化を進めるタンロングループの戦略において、ハード面からの下支え役を果たしている。

食品・消費財・カシューナッツ事業

Siba Holdings傘下の中核3社に加え、タンロングループには食品・小売を担うSiba Food Vietnam JSC、日用消費財事業を展開するOcoba Foodstuff JSC、カシューナッツ事業のViet Phi Agriculture JSC、そして農産物商品取引そのものを手がける事業が並ぶ。

中でもViet Phiは、カシューナッツ原料の取引とカシューナッツ仁(種子の中身)の輸出でベトナム国内トップ5に入り、輸出先は60カ国を超えるなど、コメや畜産とは異なる領域でもグループの国際競争力を示している。これらの事業は、BAFやA Anが築く一次産業のバリューチェーンと連動しながら、加工食品や消費財という付加価値の高い分野へグループの事業領域を広げる役割を担っている。

ベトナム農業(BAF)とは?ベトナム畜産最大手の企業概要

BAFのビジネスモデル:クローズド循環型3Fモデル

BAF Vietnam Agricultural JSC(以下BAF)は、2017年に設立されたベトナムの畜産企業である。2021年にはホーチミン証券取引所(HOSE)へ上場を果たし、ベトナムの主要企業100社で構成されるVN100指数の構成銘柄にも名を連ねている。

設立からわずか数年でここまでの地位を築いた背景には、飼料生産から畜産、食品加工・流通までを自社グループ内で一貫して手がける「クローズドループ型」のビジネスモデルが特長として挙げられる。原料調達から店頭に並ぶ製品まで、生産の全工程を自らコントロールできる体制を早い段階から整えてきたことが、同社の急成長を支えてきた。

市場ポジションと製品構成

現在の市場ポジションを見ると、BAFは母豚の飼育頭数でベトナム畜産企業トップ3に位置し、農場運営にハイテクを取り入れる技術力の分野では国内トップの評価を得ている。製品構成は現状、出荷・肥育用の生体豚(ライブホッグ)が86%を占め、加工肉が14%とまだ発展途上の段階にあるが、フレッシュミートに加えてRTC(Ready to Cook:調理して食べる加工品)RTE(Ready to Eat :そのまま食べられる加工品)といったカテゴリーへの展開も進めており、単なる生体豚の供給企業から付加価値の高い食品メーカーへの転換を図っている。

2030年・2040年に向けたビジョン

BAFの商品構成(全SKUに占める割合)

BAFが掲げるビジョンは、2040年までにベトナムを代表する食品コングロマリット企業になることであり、その通過点として2030年には商業豚1,000万頭の飼育体制と、ライブホッグと加工肉の比率を50対50にすることを目標に据えている。

飼料・畜産・食品一貫の3Fモデル

BAFの事業の根幹をなすのが、Feed(飼料)・Farm(畜産)・Food(食品)の頭文字を取った「3Fモデル」である。飼料調達から畜産、食品加工・流通までの全工程を自社グループ内で完結させることで、原料コストの安定と品質管理の両立を可能にしている。

Feed(飼料)― 自給自足による原料コストの安定化

BAFは飼料の自社生産比率100%を実現しており、専門家チームが独自に開発した配合により、動物性タンパク原料や抗生物質、成長促進剤を一切使用しない植物性飼料を採用している。飼料原料の調達においては、国内穀物輸入量の25%以上を占める最大手のタンロングループの調達力を活用できる点も大きな強みだ。

自社所有の飼料工場はGLOBALG.A.P・FSSC22000という国際基準の認証を取得しており、栄養品質と原料コストの両方を自らの手でコントロールできる体制を築いている。

Farm(畜産)― 高い生産性を支えるハイテク農場

BAFが運営する養豚場(写真出所)Công ty Cổ phần Nông nghiệp BAF Việt Nam

畜産の現場では、欧米基準に準拠したハイテク農場を自社で保有・運営している。2019年にはデンマークのSKIOLD社と提携して農場管理技術の移転を進め、2023年には世界最大級の畜産企業である中国のMuyuan(牧原食品集団)と戦略的パートナーシップを締結、2024年には合弁事業を通じてベトナム初となる多層階養豚モデルの開発にも着手した。

こうした技術導入の成果は数字にも表れている。母豚1頭あたりの年間離乳頭数は31〜34頭と、ベトナム平均の20〜22頭のおよそ1.5倍に達し、商業豚の生産量は2023年の30万頭から2025年には80万頭へと、年平均成長率63%というペースで拡大している。

Food(食品)― トレーサビリティ対応の付加価値戦略

BAFの主要な食肉製品

食品段階での最大の特徴は、農場から店頭までの全工程を追跡できるトレーサビリティ体制にある。農場・と畜・加工・包装という各段階の情報をQRコードで紐づける仕組みにより、BAFのチルドポークは市場で唯一、生産履歴を完全に遡れるフレッシュミートブランドという地位を確立した。

製品ラインナップはフレッシュミートに加え、RTC(調理して食べる加工品)、RTE(そのまま食べられる加工品)を合わせた計41SKUに広がっており、生体豚中心の収益構造から付加価値の高い加工食品へと軸足を移しつつある段階にある。

流通網の拡大戦略 ― 卸売中心から小売・多チャネルへ

BAFの販売構成は現状、86%が卸売チャネル、14%が小売チャネルという内訳になっており、依然として卸売業者を通じた直接販売が中心を占めている。この構造を転換し、より付加価値の高い小売販売の比重を高めていくことが、同社の流通戦略における当面の課題となっている。

精肉店フランチャイズ「Meatshop」による伝統小売の取り込み

BAFが展開する精肉店フランチャイズ「Meat Shop」(写真出所)Công ty Cổ phần Nông nghiệp BAF Việt Nam

その柱の一つが、精肉店フランチャイズ「Meatshop」の全国展開だ。ベトナムでは消費者の最大90%が今なお伝統的市場(ウェットマーケット)で生鮮豚肉を購入しており、こうしたGT(伝統小売)チャネルは生鮮豚肉の普及において依然として重要な役割を担っている。

BAFはこの伝統的な小売接点を取り込む形で、0〜4℃の冷蔵ディスプレイキャビネットを備えたフランチャイズ型の精肉店を全国に展開し、その店舗数はすでに約1,000店舗に達した。精肉店やクリーンフード店、ミニマートなど多様な業態が加盟できる柔軟な仕組みを採用することで、従来型の精肉店とは一線を画す鮮度・衛生管理と製品の見せ方を実現している。

タンロングループのエコシステムを活用したマルチチャネル展開

タンロングループが展開するSIBA.mart(写真出所)CafeF

もう一つの柱が、タンロングループのエコシステムを活用したマルチチャネル展開である。近代小売(MT)のSIBA.martを32店舗、キーアカウント(KA)向けのレストラン「Com Ngon Siba」を24店舗、Eコマースの「OCOBAmart」を運営し、グループ内の販売網を通じて製品を届けている。

これに加えて、AEONやWinMart、TOPS、MM Mega Market、GS25、Go!、Fujimartといった外部の大手小売とも提携し、全国200店舗以上でBAF製品を取り扱う体制を構築した。伝統的市場への浸透とグループ内外のマルチチャネル展開を組み合わせることで、卸売依存からの脱却と、より収益性の高い小売販売への転換を同時に進めている点が、BAFの流通戦略の特徴といえる。

財務実績と2030年に向けた成長戦略

BAFの財務実績

BAFの財務実績を振り返ると、EBITDAは2020年から2025年にかけて年平均成長率27%という力強いペースで拡大してきた。この間、総売上高そのものは2020年の4億9,500万ドルから2025年の1億9,400万ドルへと数字上は縮小しているように見えるが、これは事業構造の転換を反映した結果となっている。

3F事業(Feed-Farm-Food一貫モデル)の売上高は2020年の1,600万ドルから2025年には約1億9,400万ドルへと拡大し、2025年時点では総売上高のほぼ全体を3F事業が占める構成へと変化した。この5年間で周辺事業を整理し、収益性の高いコア事業へと経営資源を集中させてきたことになる。

2030年に向けた売上・EBITDAの成長シナリオ

この基盤の上に立ち、BAFは2026年から2030年にかけてさらなる高成長シナリオを描いている。総売上高は2026年の3億4,700万ドルから、2027年6億9,100万ドル、2028年11億9,900万ドル、2029年18億9,600万ドルと段階的に拡大し、2030年には26億5,300万ドルに達する計画だ。

2030年までの売上高見通し

生産能力の拡大計画が支える成長シナリオ

この成長シナリオを裏付けるのが、生産能力の拡大計画である。飼料生産では総生産能力を現在の年間80万トンから400万トンへと大幅に引き上げ、畜産部門では母豚飼育頭数45万頭・総飼育頭数250万頭・商業豚1,000万頭という規模を目指す。

食品加工の分野でも、と畜能力を1日8,000頭規模まで拡大し、自社の流通拠点を21,000カ所まで広げる構想を示している。原料調達から加工、販売網までの垂直統合を、生産能力の裏付けとともにさらに強化していく方針であり、BAFが目指す「ベトナムを代表する食品コングロマリット」への道筋は、この生産能力拡大計画の実現度合いにかかっているといえるだろう。

日本企業とのパートナーシップに向けて

タンロングループは、コメと畜産という伝統的な一次産業を出発点としながら、投資会社SIBA HOLDINGSを通じた戦略的な出資と、国際的な技術提携、そして垂直統合されたバリューチェーンの構築によって、地域を代表する農業・食品コングロマリットへと歩みを進めてきた。中核を担うBAFは、クローズドループ型の「3Fモデル」によって生産性と品質管理の両面で優位性を築き、流通網の多角化と大胆な生産能力拡大計画によって、2030年に向けたさらなる成長を描いている。

コメ・畜産・農業機械・カシューナッツなど、複数の分野で国内トップクラスの実績を持つ企業群を傘下に収めるタンロングループのエコシステムは、原料調達から加工、流通までを一体的に提供できる点で、日本企業にとっても有力なパートナー候補となり得る存在だ。同社との戦略的なパートナーシップの構築に関心がある日本企業は、お問い合わせフォームよりご連絡いただきたい。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

山形県山形市出身。筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。

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