2026年5月2日の日越首脳会談で、高市首相とフン首相は「日本産ぶどう・ベトナム産ポメロ(ザボン)の市場にできるだけ早期にアクセスできるよう取り組む」ことで一致した。(出所:外務省「日越間の経済安全保障分野における優先協力事項リスト概要」)。

また、5月11日には山梨県の長崎幸太郎知事がフン首相と会談し、ぶどう輸出解禁への期待感を伝えた。フン首相は、日本側が国内での手続きを完了し市場を早く開放するよう、山梨県に働きかけを求めている。

日本・ベトナム両政府の間での協議は2020年10月の開始からすでに5年半が経過している。以前議論された、温州みかんのベトナム向け輸出の解禁は、協議開始から5年近くで解禁となった。こうした前例も踏まえると、今後どれだけスムーズに協議を進められるかが注目される。

山梨県の長崎幸太郎知事は、2026年5月7日から12日にかけてベトナムを公式訪問。首都ハノイにてレ・ミン・フン首相と会談し、ベトナム市場における山梨県産ブドウの輸出解禁を強く要請し、首相から前向きな回答を得たとしている。(出所)山梨県

山梨県知事、ベトナム訪問――フン首相にぶどう輸出解禁を要請

長崎幸太郎・山梨県知事がベトナムを訪問するのはこれで2度目となる。今回は、5月8日のタイニン省との協力覚書の取り交わし、5月10日のハノイ市との協議を経て、5月11日のフン首相との会談で締めくくられた。

山梨県における2024年のぶどう全体の生産量は43,600トンで、シャインマスカットの生産量が増えたことが輸出の伸びに寄与したとされる。

直近に公表された県産果実の輸出額は、2024年で23.7億円(前年比19.7%増)で過去最高を達成した。輸出先は香港13.2億円、台湾8.2億円が多く、2つの市場を合わせると山梨県からの輸出額の90%超を占めている(出所:「令和6年度 山梨県農業年鑑」)。

足元では果実の輸出が好調な一方で、台湾・香港以外の輸出先の開拓を目指し、山梨県はベトナムなどにも働きかけを強めている。

日本のブドウの輸出先と輸出量(出所)財務省貿易統計(2024年)よりInfoBank作成。

ベトナムのぶどう市場:中国産・韓国産が先行、日本産参入の壁

ベトナムにおける果物・野菜の輸入額は、2024年に24億2,000万ドル(前年比23.7%増)となった。国別の輸入シェアを見ると、中国が41%、米国が約22%、韓国が約2%を占める。

ぶどうは輸入果物の中でも主要品目で、年間輸入額は1億6,000万ドルを超えている。ベトナムではすでに韓国産を含む輸入ぶどうが流通し、JETROも日本産ぶどうの輸出をめぐる課題として、他国産との差別化や富裕層向けの訴求を挙げている(出所:JETRO「輸出品目別レポート(ぶどう)」)。

中国産シャインマスカットは2025年3月に卸値が1kgあたり約14,000VNDに下落した(日本円で約84円)(為替レートは1円=166VNDで換算、出所:Bloomberg、2026年5月21日時点)。

2021年の価格と比べると、およそ45%の下落だ。中国産ぶどうの広がりにより、低価格帯での競争も激化している。

ベトナムで既に流通する韓国産シャインマスカット(出所)ベトナム、ホーチミン市日系スーパーにてInfoBank撮影(2026年3月)

韓国産シャインマスカットは既にベトナム主要スーパーで販売

ベトナム市場におけるシャインマスカットは価格帯別に中国産(安価)、韓国産(高価格帯)に分類できる。特に韓国産は1kgあたり小売価格は数十万ドンで販売されている。

韓国産シャインマスカットはベトナム市場でコープマート、Aeon Citimart、Annam Gourmetなど主要小売チェーンで「贈答品・高級品」として販売されており、一定のプレミアムポジションを保ってきた。

現地メディアによれば、ベトナム市場で流通するシャインマスカットの約80%は中国産が占め、韓国産は残り20%という。

ベトナムにおける韓国産シャインマスカット1房で約50万ドン(約3,000円)(出所)ベトナム、ホーチミン市日系スーパーにてInfoBank撮影(2026年3月)

また、シャインマスカット以外にもベトナムは熱帯気候であるため商業的なイチゴ栽培が難しく、高品質なイチゴは基本的に輸入に頼っている。

韓国政府による積極的な海外輸出の推進や、オゾン殺菌技術などを活用した鮮度保持の向上により、2016年にベトナムへの輸出が解禁された。現在ではハノイやホーチミン市など主要都市のスーパーで一般的に見かけるようになっている。

ベトナムのスーパーに並ぶ韓国産の生いちご(出所)ベトナム、ホーチミン市日系スーパーにてInfoBank撮影(2026年3月)

ぶどうのベトナム輸出、合意後も検疫・通関手続きが課題

これまで、ベトナム向け日本産果実の輸出は

  • りんご(2015年)
  • 日本なし(2017年)
  • 温州みかん(2021年)

の3品目に限られていた。先に述べたとおり、過去の輸出解禁の際にも長い時間がかかっている。果実の輸出を解禁するには、検疫条件の決定や、園地・選果施設の指定、検疫証明や通関検査など、多くの手続きを経る必要がある。首脳間での合意があってもすぐに輸出を開始するわけではない。

また今回の交渉では、ベトナム側にもポメロ(ザボン)の対日輸出という要望がある。今回の合意はお互いの利益を伴う内容となっており、日本側も輸出を受け入れるための準備が必要である。

日本からベトナムへ輸出できる生果実は、厳格な植物検疫条件をクリアした「リンゴ」「日本ナシ」「温州ミカン」の3品目。
(出所)農林水産省の公開情報をもとにInfoBank作成。

日本産ぶどうは高付加価値路線で勝負できるか

農林水産省の資料によれば、日本で開発された果実などの種苗が海外に持ち出されて産地化され、国内の品種と競合する事例が紹介されている。先に述べたとおり、ベトナムを含む東南アジア市場では、中国産・韓国産のシャインマスカットが流通している(出所:農林水産省「植物新品種の海外流出対策」)。

日本産ぶどうは「本場の正規品」として海外産品と差別化でき、高価格帯のマーケットで地位を確立できるかが課題となる。