急速な経済成長を続けるベトナムでは、人件費の高騰2026年1月施行の新会計通達「Circular 99」による内部統制の法的義務化など、企業経営の透明化・効率化が喫緊の課題となっている。

こうした中、クラウドERP「ZAC」を展開する株式会社オロ(東京都目黒区、代表取締役社長執行役員:川田篤氏)が、2026年よりベトナム市場での販売を本格的に開始した。

InfoBank編集部では株式会社オロ 常務執行役員 クラウドソリューション事業部長の清宮理慎氏に取材を実施し、日本・ベトナム間で事業展開を行う企業が抱える経営課題と、ZACが提供する具体的なソリューションについて話を伺った。

筆者自身、日本とベトナムを行き来しながらコンサルティング会社で市場調査や進出支援プロジェクトに7年半ほど携わってきたが、「離れた拠点の状況が見えにくい」という課題は、コンサルティング、広告、ITオフショア開発など、日本とベトナムの間でプロジェクトを動かす方であれば一度は感じたことがあるのではないだろうか。今回の取材内容は、そうした課題に日々向き合う方にこそ読んで頂きたい内容になっている。

(お話を伺った方)

株式会社オロ 常務執行役員 クラウドソリューション事業部長

清宮 理慎

MASANORI SEIMIYA

2010年株式会社オロ入社。クラウドソリューション事業部(旧ビジネスソリューション事業本部)にて、顧客支援・保守・開発の各グループ長を歴任。

2021年副事業部長、2022年取締役兼事業部長に就任。2023年常務執行役員(現任)。

ベトナム業務効率化を支えるクラウドERP「ZAC」とは

ZACは、IT・広告・コンサルティングなど「知的サービス業」と呼ばれるビジネスに特化したクラウドERPだ。製造業や流通業を主戦場とするSAPやOracleのような大手ERPとは異なり、人件費が原価の大部分を占め、案件ごとにアウトプットが変わる業態向けに最適化されている点が特徴である。

2006年のサービス開始から約20年の歴史を持ち、2025年12月末時点での導入実績は1,100社以上、うち約20%は上場企業・上場グループ企業が占める。ユーザー企業の規模は、従業員21〜300名の中小・中堅企業が中心だが、1,000名超の大手企業グループまで幅広く対応している。

導入実績における業種内訳では、SIer・SaaSなどの「ソフトウェア・ITサービス」が最も多く、広告代理店や映像制作を含む「広告・コンテンツ制作」、税理士法人や経営コンサルティングを含む「コンサルティング・士業」がこれに続く。

ZAC導入企業の業種内訳「知的サービス業に1,100社以上の導入実績」

ベトナム拠点運営で生じる業務負担と3つの経営課題とは

取材の中で清宮氏は、ZACが解決する課題を「業務管理」「プロジェクト管理」「管理会計・経営判断」の3つのレイヤーに整理して説明した。いずれも、日本の親会社とベトナム現地法人という「離れた拠点間のマネジメント」で起こりやすい課題だという。

業務管理の領域では、請求漏れ・支払い忘れ、仕訳入力の二重作業、月次決算の遅延などが典型例だ。例えば、現地スタッフが経費や見積もりをExcelで集計し、日本本社向けフォーマットに変換して報告するという運用は今も多い。この二重入力の工程がミスや決算遅延の温床になりやすい。

プロジェクト管理の領域では、赤字プロジェクトの発生、案件別損益の把握不足、仕掛金額の見えづらさなどが挙げられる。アウトプットもインプットも案件ごとに毎回変わるという、知的サービス業特有の構造がこの課題を生む。

ZACが解決する日本・ベトナム間の企業の課題

例えば、ベトナムのオフショア開発案件では、現地エンジニアの稼働時間や外注費が複雑に絡み合い、リアルタイムで可視化できなければプロジェクト完了後に赤字が判明することもある。加えて、ベトナムではIT人材の人件費が年率10%程度で上昇しており、「これだけ人件費が上がっているのだから、コストを日本側にも転嫁してほしい」という交渉が現地企業に迫られる場面も増えている。その際、感覚論ではなく工数や原価に裏付けられたデータを示せるかが交渉力を左右する。

管理会計・経営判断の領域では、セグメント別の売上・利益が分からない、経営レポート作成に時間がかかる、採算悪化の原因分析ができないといった課題が生じる。

ベトナム現地法人の日系社長が、営業などの本来業務に加え、日本本社向けの管理レポート作成という間接業務まで抱え込むケースは多い。一方、親会社側は離れた現地の稼働状況や生産性が見えづらく、経営判断の材料が不足しがちだ。この情報の非対称性が、採算悪化の原因を特定できないまま放置される事態を招いているという。

ベトナム拠点の業務を可視化・効率化する6つの機能とフロー

これらの課題に対し、ZACは大きく6つの機能群で対応している。

①仕訳データの自動作成や財務会計システム連携による月次決算の早期化

②ワークフロー・電子承認や二重入力削減によるシステム統合・業務効率化

③プロジェクト損益管理や実行予算管理、着地見込・差異分析によるプロジェクト損益の可視化

④労務費配賦や間接費配賦・仕掛計算の自動化による個別原価計算の自動化

⑤営業管理・案件管理からセグメント別の売上・利益予測を行う未来の売上・利益予測

⑥豊富な経営レポートやBI分析による管理会計にもとづく経営判断

上記の通り、見積もり依頼からリソース積算、受注、実行予算、タイムチャージ、予実管理までを一気通貫でカバーする設計になっている。

ZACの機能群

例として、日系のコンサルティング会社がベトナム現地企業向けに月次の会計アドバイザリー業務を請け負っているケースを考えてみたい。従来は、コンサルタントが月初・月末の決算対応に稼働している時間は把握できても、月半ばに何の業務にどれだけ時間を使っているかが見えにくく、忙しくしている割に利益が出ていない、という状態が想定される。

ZACを使えば、コンサルタント一人ひとりの稼働をクライアント・案件ごとにタイムチャージとして記録できるため、「この案件にどれだけの工数がかかり、結果としてどれだけの利益が出ているか」をリアルタイムで可視化できる。月の途中でも着地見込みを確認できるため、採算が悪化しそうな案件があれば早期に人員配置や契約内容を見直すといった対応も可能だ。

1つのプロジェクトに複数案件・複数原価を紐づける構造

この一気通貫の管理を支えているのが、ZAC独自の「プロジェクト・案件・売上明細」という3階層のデータ構造だ。一般的な業務システムは売上と仕入が1対1で結びつく物販ビジネスを前提としているため、プロジェクト単位の損益管理には不向きなことが多い。これに対しZACは、1つのプロジェクトの下に複数の案件、さらにその下に複数の売上明細をぶら下げ、それぞれに仕入・外注費・労務費・経費といった複数の原価を紐づけられる構造になっている。

先ほどのコンサルティング会社で言えば、「B社向け顧問契約プロジェクト」の下に「月次決算サポート」「税務相談」といった案件を配置し、それぞれにかかったコンサルタントの労務費や交通費などの経費を個別に紐づけて管理できる。

これにより、契約全体としては黒字でも、実は特定の業務だけ工数がかさんで採算が悪化している、といった問題も粒度細かく発見でき、次の契約更新時の料金交渉や人員配置の見直しに活かせるようになる。

プロジェクト損益の可視化のイメージ(出所)株式会社オロからの提供資料

既存システムと共存しながら経営を透明化する仕組みとは?

ZACは、会計・人事給与システムなど既に企業に導入されている基幹システムを置き換えるのではなく、共存させる設計思想を採っている点も特徴だ。

SFA・CRMや工数管理システムから案件データ・工数データをZACに取り込み、ZAC側で作成した仕訳データや経営データをAPI・CSV連携で財務会計システムやBIツールに受け渡す構成となっており、ベトナムであれば現地の会計ソフト「MISA」や「FAST」、日本であればfreeeやマネーフォワードなどとの連携が可能だ。既に他システムを導入済みの企業でも、二重入力や手作業によるミスを防ぎながら、それぞれの業務ニーズに応えられる。

ZACは外部システムとの連携で多様なニーズに対応。豊富なパラメータ設定で業務に最適化。

また、ZACは個別のカスタマイズ開発を行わない代わりに、約2,000項目におよぶ「機能パラメータ」を企業ごとに設定することで、広告業・ソフトウェア開発・コンサルティングなど業界固有のニーズにも柔軟に対応できる仕組みを備えている。これにより、パッケージシステムでありながら初期導入コストを抑えつつ、各社の業務プロセスに最適化されたUI・機能を実現している。

クラウドERPであることのメリットも大きく、法改正への対応や最新の機能改善は自動バージョンアップの形で継続的に提供され、企業側は特別な対応をすることなく常に最新の状態でシステムを利用できる。取材で清宮氏が強調していた「通達99号のような急な法改正にもスピード感を持って対応できる」という体制は、まさにこの自動アップデートの仕組みに支えられている。

ベトナムの商習慣に対応するZACの5つのローカライズ機能

ベトナムでの展開にあたり、オロは主要な商習慣に合わせたローカライズ開発をすでに完了している。取材では、その具体的な機能について5つの事例を挙げて説明を受けた。(※一部リリース予定を含む)

ベトナム版ZAC 5つの代表的なローカライズ機能

①電子インボイス(eインボイス)対応

ベトナムでは税務局が指定する様式での電子請求書発行がすでに完全義務化されている。自社独自の仕組みで請求書を発行するという発想では対応しきれないため、電子インボイスシステムと連携できる機能をいち早く構築した。

②外国契約者税(FCT)対応

海外との取引にかかる外国契約者税は、業務内容によって適用レートや計算ロジックが変わる複雑な税制だ。ZACはこの計算を自動化する機能を実装している。

③新会計通達99号への対応(2026年1月施行)

2026年1月に施行された会計上のルールに関する新通達では、為替レートについて「TTM(中間レート)」や公示レートの適用が求められている。ZACはこの通達に対応する機能を研究開発の段階からいち早くリリースした。

④新収益認識基準への対応

これまでベトナムの経理実務では「請求=売上計上」という考え方が一般的だったが、国際会計基準(IFRS)との整合性を重視する流れの中で、発生主義に基づいた収益認識(前受請求や分割納品など、請求タイミングと計上タイミングのズレを是正する仕組み)への対応が求められるようになっている。

ZACは原価の進行度合いに応じて利益を計上する「工事進行基準」的な機能もあわせて開発した。清宮氏によれば、これは「ベトナム固有の問題というより、これまで比較的緩やかだった会計運用が国際基準に合わせて厳格化していく流れ」に対応したものであり、2025年10月の法案発表から翌年1月の施行までという短期間での機能開発を迫られたという。

⑤ローカル会計ソフトとの連携

ZAC側で仕訳データや債権債務の消し込みなどを行い、そのデータを現地のローカル会計ソフトに受け渡すことで、決算対応がスムーズに行える状態を作る仕組みも用意されている。

これらの機能に加え、日本語・英語・ベトナム語の3言語表示切り替えと、ベトナムドン(VND)・米ドル(USD)・日本円(JPY)といった多通貨対応も標準装備しており、経営層と現地スタッフの情報格差を解消する設計となっている。現地拠点(ホーチミン)には日本人とベトナム人双方のスタッフが在籍し、要件整理から導入支援までを一貫してサポートする体制も整えられている。

ベトナムでZAC導入が進む業種と今後の重点層

現在、オロは既にベトナムで事業展開を行う日系企業の複数社とZACの販売に関して契約を締結しているという。

業種としては、日本に本社を置きながらベトナムでWeb制作やITオフショア開発を手がける「IT系」企業は多い傾向にあるという。背景には、ベトナム政府が掲げるデジタル経済化(GDP比30%をIT産業が占めるという政策目標)に伴い、IT人材の人件費が年率10%程度のペースで上昇している実情がある。人件費の上昇分を日本側に適切に価格転嫁するための「交渉材料」としてZACを求める企業のケースも多いという。

次いで多いのが、日本の広告会社のベトナム支店など「広告系」企業だ。媒体費に加えてクリエイティブ制作や配信、イベント運営など原価構成が複雑になりやすく、プロジェクト単位での採算管理ニーズからZACが選ばれている。

3つ目は、会計や税務を専門とする「コンサル系」企業。月次決算業務が中心のため月初・月末は繁忙期となる一方、月半ばの稼働内容が見えづらいという課題があり、タイムチャージの可視化を目的に導入されることが多いという。

ベトナム主要3都市(ハノイ・ホーチミン・ダナン)のIT人材平均月額給与の推移

ベトナムの業務効率化と負担軽減に向けたZACの今後の展望

オロは2026年内、初期導入企業での成功事例の創出を進めるとともに、現地の急速な法改正や規制強化、企業規模拡大に伴う管理ニーズの変化にいち早く対応し、製品のさらなる発展を目指すとしている。人件費高騰規制強化という2つの大きな波に直面するベトナムのビジネスシーンにおいて、日本基準の品質と現地ローカライズを両立させたZACの動向は、今後もInfoBankとして注視していきたい。

冒頭でも触れた通り、筆者自身も元ベトナム進出コンサルタントとして現地メンバーが日々どの業務にどれだけの時間を割いているのか、それが適切な対応と言えるのかを遠隔から正確に把握することの難しさを、身をもって感じてきた一人だ。忙しくしているはずなのに利益が出ていない、あるいは頑張りが正当に評価されない、といったすれ違いは、日本側・ベトナム側の双方に生まれやすい。

今回取材したZACのように、稼働そのものをデータとして可視化し、日本とベトナムが同じ物差しで状況を確認できる仕組みは、まさにこうした現場の実感に根差した課題を解決するソリューションだと感じた。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。