NTTドコモとベトナムのメディアコングロマリットDatVietグループが設立した合弁会社VIE BOARD CORPORATIONは、ホーチミン市内でデジタル屋外広告(DOOH:Digital Out of Home)の運用を開始した。既に2026年5月より、ホーチミンメトロ駅構内の10か所にデジタルサイネージを設置し、DOOHの運用を開始している。

今回、InfoBankは株式会社NTTドコモと合弁会社VIE BOARD CORPORATIONに直接取材を行い、ベトナムにおけるデジタル屋外広告の現状と今後の展望について話を伺った。前半ではベトナムの屋外広告市場の最新動向について整理するとともに、後半ではインタビューとして直接取材を行なった。

取材対象者

※掲載のプロフィールは、2026年6月10日の取材時点の情報です。

株式会社NTTドコモ
マーケティングイノベーション部
アライアンス担当課長

北村 真彦

MASAHIKO KITAMURA

2023年7月:NTTドコモ転籍。MI部アライアンス担当課長

NTTドコモではグローバルDOOH事業の戦略立案・運用リーダーとして、VieBOARD設立・事業立ち上げをリード

VIE BOARD CORPORATION
事業戦略部マネージャー

井手 悠輔

YUSUKE IDE

2025年4月:着任。事業戦略部門マネージャー

LIVE BOARDへの出向を経てVieBOARDプロジェクトに着任

VieBOARD全体の事業運営管理及び戦略部門マネージャー

ベトナムのデジタル屋外広告市場にNTTドコモ系VieBOARD参入

VieBOARDとは?NTTドコモとDatVietグループによるベトナムの合弁会社

前提として、株式会社NTTドコモ(以下、NTTドコモ)は、ベトナムのメディアコングロマリット企業であるDatVietグループDATVIET VAC GROUP HOLDINGS CORPORATION(以下、DatVietVAC)およびDATVIET OOH CORPORATION(以下、DatVietOOH)と共同で、合弁会社VIE BOARD CORPORATION(VieBOARD)を2024年8月に設立した。

今回の取り組みは、NTTドコモにとって初めての海外DOOH事業への参画であり、VieBOARDにとっても自社保有のデジタルサイネージを運用する初めてのケースとなる。

NTTドコモは日本国内で、電通・博報堂と共同運営する「LIVE BOARD」を通じてDOOH事業を展開してきた実績を持つ。今回、このノウハウをベースに、海外でも視認者数やユーザー属性を高精度に推計できる独自技術「ドコモデータサイエンス」を開発し、VieBOARDへの展開を進めている。

NTTドコモのDOOH事業(LIVE BOARD) ※株式会社NTTドコモによる資料提供

ベトナム・ホーチミンメトロ駅構内10カ所にデジタル看板を設置

先述の通り、VieBOARDは2026年5月1日より、ホーチミン市内でデジタルサイネージの運用を順次開始している。第一弾として、2024年12月に開業したホーチミンメトロ1号線の全14駅のうち、利用者数が特に多いベンタイン駅、オペラハウス駅、バソン駅、スイティエン駅の4駅、計10カ所にサイネージを設置した。

各駅構内で人通りの多い改札付近などに配置されており、最大サイズ縦2メートル×横6メートルに及ぶ。

VieBOARDは今回、ホーチミン市に対してデジタルサイネージを活用した文化振興に関する提案も行っており、ベトナム行政との連携を図りながら事業を展開している点も特徴である。

ホーチミンメトロ駅構内のデジタルサイネージ(サイズ:最大 6,000mm(W)×2,000mm(H)) ※株式会社NTTドコモによる写真提供

NTTドコモ独自技術「ドコモデータサイエンス」でベトナムの屋外広告効果を可視化

本事業の最大の特徴は、NTTドコモが独自に開発した「ドコモデータサイエンス」を活用する点にある。これは、海外で流通するGPSデータなどを用いて、サイネージ周辺の視認者数や、視認したユーザーの性別・年代・趣味といった属性情報を高精度に推計する技術だ。

算出されたデータは、World Out of Home Organizationが提唱するグローバルガイドラインに準拠した国際水準の指標「VAC(Visibility Adjusted Contact/のべ広告視認者数)」として提供され、VieBOARDはこのデータに基づき広告配信や効果測定を行う。従来の屋外広告では難しかった、データドリブンな広告運用の実現が期待されている。

LIVE BOARDによる日本国内でのスクリーン展開 (出所)LIVE BOARD公式サイト ※2026年6月13日アクセス

ベトナムの屋外広告市場とは?デジタル化が進む現状と将来性

ベトナムで主流だった従来型の屋外広告(看板・ラッピング広告)

ベトナムでは、ホーチミンやハノイといった大都市で交通渋滞が日常的に発生しており、道路沿いの大型看板は移動中の消費者の目に自然と入りやすいことから、ブランド認知度向上に有効な広告手法として長く重視されてきた。

具体的な形態としては、幹線道路沿いの大型ビルボード店舗のファサードや壁面に設置される看板、バス・タクシーのラッピング広告などが代表的だ。これらは制作・設置コストが比較的安く、長期掲出を前提とすることで単価の割安感がある一方、「何人が見たか」「どの時間帯に効果があったか」といった効果計測の手段が乏しいという課題を抱えていた。

ホーチミンやハノイなどの都市部では大通りに設置された巨大な看板(ビルボード)がよく見られる光景である。渋滞や信号待ちの時間が長く、長い視認時間(滞留視認)を得られることから、現地の主要な広告媒体として活用されている。
(写真出所)【左画像】Shojiki.vn 【右画像】Vietnam.vn

拡大が続くベトナムの屋外広告・デジタル看板市場の規模と成長要因

調査会社によって推計値には差があるものの、ベトナムのOOH・DOOH市場が成長を続けるという点では各社の見方が一致している。

Mordor Intelligenceによれば、ベトナムのOOH・DOOH市場は2026年3億5,023万ドル規模となり、年平均成長率(CAGR)5.73%で拡大、2031年には4億6,277万ドルに達すると見込まれている。

デジタルOOHに限定したIMARCの推計でも、2024年時点1億750万ドル規模の市場が、2025年から2033年にかけて年平均成長率10.14%という高い成長率で拡大し、2033年には2億8,240万ドルに達するとされている。

ベトナムのOOH・DOOH市場規模(2026年〜2031年)の推移

成長を後押しする要因としては、まず急速な都市化消費拡大が挙げられる。都市部の人口増加に伴い広告のリーチ対象が拡大し、経済成長による購買力の向上が広告予算の増加につながっている。

また、スマートシティ構想の推進やメトロ路線の拡張小売形態の近代化といったインフラ整備が進むことで、従来の看板に代わり、スクリーン(デジタル画面)を使った広告媒体へのシフトが進んでいる。

さらに、エレベーターやモール、メトロ駅といった滞在時間の長い場所は、幹線道路沿いの看板よりも露出時間が長いため広告主に好まれる傾向があり、こうした高接触スポットへのデジタルサイネージ設置が増加していることも市場拡大の一因となっている。

ホーチミン市メトロ1号線は、ベトナム最大の都市ホーチミン市で2024年12月22日に正式開業したベトナム初の地下鉄(都市鉄道)
※写真出所 Tuoi Tre Online

ベトナムの屋外広告はどう変わる?デジタル看板へのシフト

従来型の静的な看板広告は「掲出された」という事実は確認できても、実際に何人が視認したか、どの時間帯に効果が出ているかを把握する手段がほとんどなかった。これに対しDOOHは、デジタル画面とデータ分析を組み合わせることで、精緻なターゲティングや動的なコンテンツ配信、リアルタイムでの効果測定が可能になる点が大きな違いである。

一方で、規制面での違いも見逃せない。ベトナムの広告全般は広告法(Law on Advertising No. 16/2012/QH13)および関連政令・通達によって、媒体・内容・言語などが細かく規制されている。2025年の法改正では、屋外デジタル看板における安全性チェックの義務化等が新たに定められ、街頭広告・電子サイネージを運用する企業には今後、定期点検や安全管理が法的責任として課されることになった。

さらにDOOH特有の規制として、ネットワーク化されたデジタル機器に対する再生ログの1年間保存や広告主の身元確認義務(政令342/2025)も課されている。

2025年12月26日に発行された政令No.342/2025/ND-CPは、広告法の一部条項を詳細規定する政令で、2026年2月15日施行。化粧品・食品・乳幼児用品・医薬品など特別な商品の広告内容規制、オンライン広告事業者の文化スポーツ観光省への届出義務や年次報告義務、海外からの越境広告管理などを定めている。 LuatVietnam ※写真出所 UNIQUE VIETNAM

【取材】NTTドコモ×VieBOARDに聞く、ベトナムのデジタル屋外広告市場

こうした成長期にあるベトナムDOOH市場の最前線で事業を率いるのが、NTTドコモ マーケティングイノベーション部 アライアンス担当課長の北村真彦氏と、VieBOARD 事業戦略部マネージャーの井手悠輔氏である。

北村氏は2023年7月にNTTドコモへ転籍し、グローバルDOOH事業の戦略立案・運用リーダーとしてVieBOARDの設立・事業立ち上げをリードしてきた。井手氏は2025年4月にLIVE BOARDからの出向を経てVieBOARDプロジェクトに着任し、事業全体の運営管理と戦略部門のマネジメントを担っている。

両氏に、ベトナムDOOH市場の現状と将来性、そして日本とベトナムにおけるデータ活用の違いについて話を伺った。

NTTドコモは日本国内での位置情報に基づくユーザー行動を理解するサービスの提供を通じて、海外での横展開を目指す。
(出所)NTTドコモ提供資料に基づいてInfoBank作成。

NTTドコモがベトナムのデジタル屋外広告市場に参入した背景

Q1. そもそも、なぜベトナムのDOOH市場に参入したのですか?

北村氏(NTTドコモ)

日本国内ではLIVE BOARDという会社で屋外広告のDOOH事業を展開し、一定の実績を積んできました。その実績を海外に展開しようと考えたのが今回のきっかけです。

ベトナムを選んだ理由は大きく2つあります。1つは、DOOH業界全体の世界平均成長率が当時およそ12%程度とされる中で、東南アジアの成長率が特に高く、さらにその中でもベトナムは複数の候補国のうち最も高い成長率を示していたことです。

もう1つは、ベトナム自体が大きく発展していくタイミングにあったことです。ホーチミンメトロの開業が見込まれていた時期と重なり、社会インフラが整備されるタイミングはDOOHが発展しやすいと考えました。

ベトナム政府の計画ではホーチミン市において長期的に計8路線(メトロ1〜6号線、モノレール2路線、トラム1路線)の建設が予定されている。(出所)Saigon Metro System

Q2. ハノイではなく、ホーチミンを選んだ理由は何ですか?

北村氏

パートナー企業であるDat Vietグループの本拠地がホーチミンであったことも一つの要因です。また、メトロについてもハノイは既に開業している一方、ホーチミンはこれから整備が進む段階だったため、まずホーチミンで体制を構築し、将来的に他都市へ拡大していく方針としました。

井手氏(VieBoard)

東南アジアの中でタイやインドではなく、なぜベトナムなのかという点については、各国の法令や市場の寡占状況も大きく関係しています。タイやインドはすでに大手プレイヤーによる市場の寡占が進んでおり、新規参入の余地が限られています。

一方でベトナムは、法律自体は存在するものの、その運用や内容が頻繁に変わっており、多くのプレイヤーがまだ手探りの状態で市場に参入しています。逆に言えば、今が市場参入の好機だと考えました。

また、ハノイのメトロは中国のODAで整備されたものですが、ホーチミンのメトロは日本のODAによるもので、システム面でもNTTグループが関わっている部分があります。こうした親和性も踏まえ、ベトナム、しかもホーチミンを最初の拠点に選びました。

DatVietVAC(DatVietVAC Group Holdings)は、ベトナム最大級のメディア・エンターテインメント・テクノロジーのエコシステムを構築する企業。1994年の設立以来、同社はベトナムを代表するメディア・エンターテインメントグループとして高く評価されており、「コンテンツ事業」と「コミュニケーションサービス」の2つを中核事業として展開している。(ロゴ出所)DatVietVAC公式サイト

Q3. ベトナムの社会インフラの中で、今後の成長要因として注目している分野はありますか?

北村氏

メトロが面的に拡大していくことに加え、空港などの交通インフラ全般、そしてスマートシティ化・DX化の流れに注目しています。これまで紙で行われていた屋外広告がデジタル化され、単なる「画面」ではなくデータを活用して広告効果を高めるという流れが他国でも進んでおり、ベトナムもまさにその進化が始まるタイミングにあると考えています。

バイク社会ベトナムにおけるデジタル看板のデータ活用の工夫

Q4. ベトナムは「バイク社会」というイメージが強いですが、それはDOOH事業にどう影響しますか?

北村氏

これは市場環境を見た時に最初に感じた、日本との最も大きな違いです。日本では「歩行者・車・電車」という移動手段がベースになりますが、ベトナムは屋外の移動が圧倒的にバイク中心です。そのため、日本のLIVE BOARDの事例をそのまま転用することはできませんでした。

データの推計方法についても、日本の手法をそのまま当てはめるだけでは、ベトナムの市場実態に合いません。バイクの移動速度を前提に、スクリーンの前にどれくらいの時間人がいるのか、どの程度視認されるのかといった推計を、バイク社会に合わせてチューニングする必要があります。

井手氏

ベトナムでは公共交通機関を使うという概念自体が、日本人が思う以上に薄いというのも特徴です。バスは利用されていますが、基本的には自前のバイクで移動します。そのため、データの算出には他国以上に工夫が必要になります。

ベトナムはバイク中心の移動社会で、現状では日本と比較すると公共交通利用が少なく、通勤・通学・買い物などの行動パターン(生活導線)が日本と大きく異なる。(写真出所)Bao Thanh Nien

Q5. NTTドコモの「ドコモデータサイエンス」とは、具体的にどのような技術ですか?

北村氏

日本国内では、NTTドコモは携帯キャリアとして基地局データやGPSデータを持っており、これをもとスクリーンの前に“どのような人が”何人くらいいるかを高い精度で算出できます。

一方、ベトナムではNTTドコモは携帯キャリア事業を行っていないため、キャリアデータは持っていません。そこで活用しているのが、海外でも流通しているGPSデータです。一方で、GPSデータだけで人の数を推計しようとすると、実際の人流データと比べて大きな誤差が出てしまいます。

ただし、日本国内で同様の事業を展開してきた中で培ったノウハウやアルゴリズムを、海外で得られるGPSデータに組み合わせることで、実態に近い精度での推計が可能になっています。これが今回の海外展開の強みの一つです。

海外企業でも入手可能な3rd Partyデータ(GPSデータ)のみでの推計に比べて、ドコモデータサイエンスによる推計の方が精度が高く、実際の視認者数データとの誤差を大幅改善(出所)NTTドコモによる資料提供。

井手氏

国内ではキャリアデータだけでなく、GPSデータ、国勢調査データ、カメラ、Bluetoothなど、場所ごとに使えるさまざまなデータを組み合わせています。屋外・屋内・地下・河川沿いなど、設置場所によって使えるセンシングデータが異なるためです。

ベトナムでは、まずどのデータが現実的に活用可能かを精査し、最もデータ量が確保できるGPSをベースに、目視でのカウンター調査やカメラによる補完を行っています。

ただし、ベトナム特有の課題もあります。スコールのような豪雨が降るとカメラのデータが取れなくなったり、電磁波の影響でカメラが停止してしまうこともあります。また雲が厚いとGPSの位置情報がずれることもあり、地図アプリで地図が突然飛ぶような現象が起きるのと同じ原理です。

ホーチミン市を含むベトナム南部では、毎年5月から10月頃に高温多湿な季節が存在。日本の梅雨のように1日中雨が降り続くことは少なく、主に午後に1〜2時間程度の激しい「スコール」が降るのが特徴。(写真出所)Bao Thanh Nien

Q6. 移動手段以外で、ベトナムならではの「データの取りにくさ」はありますか?

井手氏

都市計画が日本のように緻密に整理されている訳ではないため、ある場所が突然空き地になったり、建物がなくなったりすることもあります。大規模イベントが広場で頻繁に行われることもあります。こうした突発的なイベントによる人流の変化と、GPSデータの誤差そのものを一つひとつ見分けていく必要があるため、相当な時間がかかります。

また、雨季・乾季の違いも大きいですね。同じ場所でも、時期によって人の動き方がまったく変わります。あまりに気温が高い日は、人が外に出てこない、という現象も見られます。

Q7. 私がベトナムに住んでいた頃から気になっていたのですが、ベトナムではエレベーター内の広告をよく見かける印象があります。これには何か理由があるのでしょうか?

井手氏

日本との大きな違いの一つです。日本には電波法という明確なルールがありますが、ベトナムでは屋外設置に関する法整備が十分でなく、グレーな部分が多いのが現状です。

屋外に設置すると電波法に類する規制に引っかかる可能性があるため、まずは屋内、つまりエレベーター内に広告を設置する形でスタートする事業者が多かったのです。

また、配信にはインターネット回線が必要ですが、ベトナムは人件費が日本よりも安いため、インターネット契約をするよりも、定期的にUSBを差し替えに行く方法でコンテンツを更新する「オフライン更新型」のサイネージが多く見られます。

ベトナムのオフィスビルや高級マンション、商業施設などのエレベーター内・ホールに設置されたデジタルサイネージやポスターを活用した広告の例。(写真出所)Brand com

日本企業へ:ベトナムのデジタル看板活用の可能性

Q8. 今後、メトロ以外にどのような場所への設置を検討していますか?

井手氏 LIVE BOARD時代から変わらず大切にしている考え方は、「スクリーンを点として捉えない」ことです。生活者が通勤・通学でどう移動し、旅行時には空港をどう利用するか、という行動の流れを捉え、公共交通機関や空港、バス・電車、繁華街を点と点で結んでいくイメージです。

それに加えて、イオンモールさんのような生活圏に入ってくる施設やコンビニエンスストアへの設置も今後検討していきたいと考えています。

ただ、VieBOARDはまだ立ち上がって数年の会社のため、まずはインパクトのある屋外の大型サイネージで知名度を高めることを優先しています。空港についても、すでに今後開業が予定されているロンタイン国際空港や既存のタンソンニャット空港などへの展開を見据えています。

ベトナム最大の都市であるホーチミン市では、総敷地面積5,000ヘクタールのロンタイン空港の本格稼働が近づいている。ロンタイン空港は将来的にすべての国際線の発着を行う予定であり、東南アジア屈指のハブ空港として機能することを目指している。(写真出所)Cafe F

Q9. 広告を出稿している企業は、どのような業種が多いですか?

北村氏

ボリュームとして今後増えていくのは、ベトナムのローカル企業だと見ています。中でも広告出稿が多いのは、消費財メーカーや食品関連、金融系の企業です。

井手氏

日系企業もベトナム市場への進出が加速しており、大切なお客様になる見込みです。日本は広告市場の規模として世界でも上位に入るため、日本企業の広告出稿量自体が大きいことが理由の一つです。

実際のところ、ベトナムのOOH(屋外広告)市場では、費用対効果を厳密に求める文化はまだあまり根付いていません。Web広告ではクリック単価のような効果指標の概念が普及してきていますが、OOHにデータを組み込んで価値を高めていくことこそ、VieBOARDという会社が目指している役割だと考えています。

2026年3月にホーチミン市現地で筆者(三浦)が撮影。撮影時点では商業施設のテナント誘致が進んでおらず、地下空間には広大な余白が目立つ。

Q10. 数あるデジタル広告の手法の中で、DOOHの強みはどこにありますか?

北村氏

これまでDOOHは「ターゲティングができないメディア」として位置づけられることが多く、広告主が大規模なキャンペーンを行う際の選択肢として優先度が低い傾向にありました。一般的に、広告費全体のうちDOOHに配分される割合は数%程度とされており、これは日本も含め多くの国で共通する傾向です。

しかし、DOOHにデータを組み合わせることで、テレビの視聴率に相当するような「インプレッション(実際にどれくらいの人が見ているか)」を定義できるようになります。これにより、テレビ広告やデジタル広告と同じ指標で比較・検討できるようになり、予算配分の見直しにつながる可能性があります。

2026年3月にホーチミン市現地で筆者(三浦)が撮影。ホーチミン市メトロ「ベンタイン駅」の現況。駅構内にはデジタルサイネージが設置されており、写真にも広告画面がいくつか確認できる。

Q11. 今後、日本企業に向けて伝えたいことはありますか?

北村氏

日系企業によるベトナム消費市場への進出は進んでいるものの、その後の市場への浸透方法やブランド認知に課題を抱えている日本企業は多いと感じています。特に近年は食品、消費財、飲食チェーンなど、新たに参入する企業が増えており、どの程度の予算をどこに配分すべきか、戦略に悩むケースが少なくありません。

DOOHにデータを組み合わせることで、都市部の中間層を狙ったターゲティングがある程度可能になります。ブランド認知に課題を感じている企業にとって、ベトナムでのデジタルサイネージ活用は、まだ多くの企業にとって見落とされている選択肢の一つだと考えています。

ホーチミン市で今後発展が予測される交通指向開発(TOD)概念図。TODの進展により駅周辺に人口・商業・オフィスが集積し、人流そのものが再編されていく。生活動線の変化はDOOHの新たな設置機会の拡大にも直結することが予測される。

まとめ:ベトナムのデジタル屋外広告(DOOH)市場の今後

ベトナムでは今後、ホーチミンメトロの複数路線化やロンタイン国際空港の開業、幹線道路の拡張など、社会インフラの整備が一段と加速していく見通しだ。こうした変化は、人々の通勤・通学や移動の経路、滞在する場所そのものを大きく変容させ、生活導線は拡大と再編を繰り返していくことになる。

従来型の看板広告は、一度設置すれば長期間そのままという「静的な広告」であるため、こうした生活導線の急速な変化に追随することが難しい。一方、DOOHはデータに基づいて視認者数や属性をリアルタイムに把握し、配信内容や設置場所を柔軟に見直していくことができる「動的な広告」である。

変化のスピードが速いベトナムにおいては、人の流れが変わるたびに広告戦略を再構築できるかどうかが、ブランド認知や販促効果を左右する重要な要素となる。インフラの拡大とともに生活動線が変わり続けるベトナム市場だからこそ、データドリブンで効果を可視化できるDOOHの価値は、今後さらに高まっていくはずだ。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。