本記事の執筆・監修者
株式会社InfoBase 代表取締役

三浦 賢弥

Kenya Miura

・ベトナム市場調査・戦略立案約8年関わり、中小中堅企業から大手企業まで累計500社以上のベトナム進出支援に携わる。

・ベトナム留学、修士号取得、政府機関、民間コンサル会社を経てベトナム歴10年超。

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ベトナムのコングロマリット企業とは?

ベトナムにおけるコングロマリット企業の分類(出所)InfoBank作成。

ベトナムのコングロマリット企業とは、不動産、通信、エネルギー、製造業、金融、小売、農業など複数の産業にまたがって事業を展開する大規模な複合企業体を指す。日本の財閥に近い構造を持つことが多い。

社会主義のベトナムでは、コングロマリット企業を国営系と民間系の2つに分類できる。

  • 国営コングロマリット:ベトナム政府が主導して設立した巨大複合企業で、経済の基幹産業を担う。都市開発、インフラ、デジタル化、再生可能エネルギーなど、政府の重点政策と連動した投資を行う。
  • 民間コングロマリットは、1986年の改革開放(ドイモイ)以降に成長した民間財閥的企業群である。

両者ともベトナム経済を支える大きな存在であり、日本企業の事業展開におけるますます重要なパートナーとなりつつある。

ベトナムのコングロマリット企業の代表例と事業領域

ベトナムにおける主要なコングロマリット企業の代表例(出所)InfoBank作成。

民間系コングロマリット

ビングループ、マサングループ、FPTコーポレーション、ソビコグループ、ホアファットグループ、リー冷蔵電気工業、TH Group、Sungroup、PAN Group、BRG Group、T&Tグループ、TTCグループなどが挙げられる。

これらは創業者主導の経営体制で、不動産、製造、流通、エネルギー、テクノロジーなど複数分野に事業を展開しているパターンが多い。

国営系コングロマリット

ベトナム国家エネルギー産業公社、EVN(電力)、ビナコミン(石炭)、ベトテル(通信)、ペトロリメックス(石油販売)、天然ゴムグループなど。

これらは国が出資する企業で、エネルギーやインフラといった基幹産業を担う構造となっている。

ベトナムのコングロマリット企業の特徴と強み

ビングループはベトナムの民間コングロマリット企業の典型例。創業者一族による強固なガバナンス、不動産を基盤とした多角化戦略、政府との密接な連携を備え、自動車から教育・医療・運輸まで幅広い事業セクターを手掛ける。(出所)Vietnam.net

ベトナムのコングロマリット企業には、日本の旧財閥とも異なる特徴がある。主には以下の3つのような特徴だ。

(1)創業者・オーナー家による強力なガバナンス:現在も創業者一族が経営の実権を握るケースが大半であり、意思決定が極めて迅速である。日本企業の慎重な意思決定プロセスと比べると、その速度にはギャップがある。

(2)不動産を核とした多角化戦略:多くのコングロマリットは不動産事業で資金を蓄積し、そこから他分野へ事業を展開する。ビングループがその典型例である。

(3)政府・党との密接な関係性である:国営系は共産党・政府との関係が強く、政策と連動した経営を行う。民間系も許認可や土地取得において政治的コネクションが重要となるため、日本企業がパートナーシップを検討する際には、これらのネットワークが大きな影響を持つ。

ベトナムのコングロマリット企業が果たす3つの重要な役割

トーラム・チン書記長(2026年4月就任)の指導体制下で、ベトナムは民間コングロマリット企業の成長を戦略的に推進。不動産・製造・エネルギーなど多セクターを手がける大手企業を軸に、マクロ経済の持続的発展と2030年に向けた経済構造の高度化を目指している。(写真)[Vietnam.Vn]

今後、2030年を見据えたベトナム経済を理解するには、コングロマリット企業の把握がますます重要になる。主な理由として、以下の3つを挙げたい。

  • マクロ経済の成長の実体を担っているから
    • ベトナムは近年6~7%前後の高成長を遂行している。この成長を牽引しているのが、不動産・リテール・製造・エネルギーなどを横断する大手コングロマリット企業である。
    • 都市開発から住宅、モール、EC、決済、金融までを一気通貫で支配するビジネスモデルを構築することで、成長を実現している。
  • 公共投資・インフラ政策の実行主体になっているから
    • 2026年4月にはトーラム書記長・レ・ミン・フン首相らによる新指導部が発足されたが、現在の新指導部は2030年にかけて、高度かつ持続可能なベトナム経済の発展をコングロマリット企業の発展とともに実現させたい方針を掲げている。
  • 市場の不確実性が特に大きい新興国環境での複数事業ポートフォリオによるリスク分散が重視されているから
    • 米中対立やエネルギー問題、地域紛争など、国際情勢の不確実性が高まる中で、複合企業の多角的な事業ポートフォリオは異なる収益構造を持つ。

国営系を上回る:ベトナム民間コングロマリットが成長する理由

ベトナムにおいてGDPの1%以上に相当する売上を持つ企業(出所)InfoBank作成。

ベトナム政府は2025年5月に採択した「決議68号」で民間企業を発展の原動力と位置づけ、国家方針として「民間企業を成長エンジンにする」方針を打ち出している2030年までに約200万社の民間企業を育成し、その中から国家を代表する大手20社程度を選定するという戦略である。

では、民間コングロマリットはなぜこの政策下で成長し続けるのか。その答えのヒントは、国営系コングロマリットとの経営格差にあると考えている。

国営企業は株式化・改革が進みつつも、依然として官僚的な意思決定プロセスが足かせになり、改革は「漸進的で遅い」のが実態である。

これに対し、民間コングロマリットは創業者主導の経営体制で迅速な意思決定を実現している。加えて、大胆な多角化、M&A、海外展開を積極的に推進し、EV、航空、再生可能エネルギーといった規制が整う前から先行投資する攻めの経営姿勢が特徴である。

この経営スピードと柔軟性が、政府の成長エンジン戦略と相まって、民間コングロマリット企業の急速な拡大を促進している。

ベトナム民間企業の売上規模:ビングループはGDP比2.6%

ファム・ニャット・ブオン氏(Pham Nhat Vuong)は、ベトナム最大の民間コングロマリット「Vingroup(ビングループ)」の会長であり、ベトナム初の自動車メーカー「VinFast(ビンファスト)」を創業した同国トップの資産家。フォーブス誌の長者番付にランクインする世界的なビリオネアでもある。 (写真)現地メディアNhip Song Kinh Doanh

現地メディアCafe Fの集計データによると、現在ベトナムGDPの1%を超える売上を持つ企業は約14社存在し、そのうち国営企業が9社、民間企業が4社、国際合弁企業が1社となっている。

その中で、ベトナム最大のコングロマリット企業(複合企業)であるビングループ(Vingroup)は2025年度年次報告書の中で、グループの2025年売上高がベトナム全体のGDPの約2.6%に相当するという数字を示している。

ベトナム政府が出している2025年の経済社会情勢報告によれば、ベトナムの2025年GDP(名目価格ベース)は約1,285兆ドン(約5,140億ドル)に達する見込みで、2024年(4,760億ドル)比で380億ドルの増加となる計算になるため、この規模を基準にすると、GDPの1%に相当するためには、最低でも128兆4,760億ドン(約48.78億ドル)の売上が必要となる。

ベトナム経済を支える国営系エネルギー企業

ベトナム石油ガスグループ(PVN、通称:ペトロベトナム)は、2025年4月に「ベトナム国家産業エネルギーグループ」へと改称されたベトナム最大の国営エネルギー企業(出所)PVN公式サイトを基にInfoBank作成。

売上上位の企業リストのトップには、ベトナム国家エネルギー産業公社(旧:PVN)とEVN(ベトナム電力グループ)が含まれ、2025年の確定値はまだ出ていないものの、PVNは連結売上高を約651兆ドン(約260億ドル)(GDP比5.1%)と発表。EVNも連結売上高が645兆1,950億ドン(約258億ドル)に達する見込みで、同じくGDP比約5%に相当する。

EVNとPVNはいずれもベトナムのエネルギー産業において中心的・基幹的役割を担う国家経済グループであり、国が100%の資本を保有している。

また、GDP比1%超の売上を持つ企業群の中には、石油・ガス関連企業が5社含まれている。

  • ペトロリメックス(310兆ドン/約124億ドル
  • ゴーソン製油化学(188兆ドン/約75億ドル
  • ペトロベトナム(151兆ドン/約60億ドル
  • ビンソン製油化学(142兆ドン/約57億ドル
  • ペトロベトナムガス(135兆ドン/約54億ドル)である。

石油・ガス関連だけでリストのほぼ半数を占めている。このうちペトロベトナム、ビンソン製油化学、ペトロベトナムガスはいずれもベトナム国家エネルギー産業公社(旧:PVN)の子会社だ。

電力分野では、EVN本体に加え、EVN傘下の南部電力総公社(EVN SPC)が2025年の売上高188兆ドン超(約75億ドル超)(GDP比1.5%)を記録した。

また、石炭・鉱物資源採掘を主力とするビナコミン:Vinacomin(ベトナム石炭鉱産グループ)は2024年の売上高が145兆ドン超(約58億ドル超)(GDP比1.3%)、2025年の連結売上高は161兆400億ドン(約64億ドル)と見込まれており、同じくGDP比約1.3%となっている。

国営企業で最後に挙げられるのは通信グループのViettel(ベトテル)で、売上高220兆4,000億ドン(約88億ドル)(GDP比1.7%)を誇り、国内経済における同社の存在感を示している。

民間系コングロマリットの躍進

ビングループ傘下の代表企業(出所)InfoBank作成。

しかし、2025年のベトナム経済を語る上で最大の注目点は、民間企業セクターの急成長にある。

ビングループは売上高331兆1,838億ドン(約133億ドル)(GDP比2.6%)を達成し、前年同期比75%増という驚異的な成長を遂げた。民間企業として初めて国営エネルギーグループと肩を並べる存在となった。

注目すべきは、ビングループの中でVinhomes(ヴィンホームズ)も153兆ドン(約61億ドル)(GDP比1.2%)と無視できない貢献を果たしている点だ。

民間グループの中でビングループに続くのは、モバイル・ワールド・インベストメント(Mobile World Investment Corp)(MWG、家電・携帯販売チェーン)で売上高156兆4,580億ドン(約63億ドル)(前年同期比16%増)、そしてHoa Phat(ホアファット、鉄鋼グループ)が156兆1,160億ドン(約62億ドル)(同12%増)となっており、2025年の建設・公共投資回復を反映した結果となっている。

日本企業が向き合うべき課題

日本企業にとってのコングロマリット企業の位置付け(出所)InfoBank作成。

こうしたベトナム経済において存在感が大きいコングロマリット企業であるが、日本企業にとっても重要な存在となりつつある。

ベトナムでの事業展開において、不動産開発、モビリティ、エネルギー、スマートシティなどの領域で、技術・資本を持つ日本企業とローカルネットワークを持つベトナム・コングロマリットの協業が増えつつある。

日本企業にとってのコングロマリット企業の位置づけは多面的だ。

  • 合弁・JVパートナーとしての役割:日本企業がベトナムで事業を行う際、合弁相手として機能し、政府との関係や許認可取得における重要なパートナーとなる。
  • 顧客・販路としての役割:サプライヤーやBtoBサービスの提供先として、また小売流通網などの販路として、日本企業の事業展開を支える重要なポジションを担うことがある。
  • 強力な地場系競合:小売やEC、金融、モビリティ、デジタルサービスなどの領域では、日本企業にとって対抗すべき強力な競争相手にもなり得る。

ビングループをはじめとする民間コングロマリットの躍進は、単なるビジネス機会の出現ではなく、日本企業がベトナムでの事業パートナーを選定・構築する際に、日本経済の構造と従来の発想では対応し切れない複雑性をもたらしつつある。

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