執筆:EACH VIET NAM COMPANY LIMITED
かつてベトナムに駐在・投資していた方が、数年ぶりに旅行や出張で再入国した際、その場で出国停止対象者であると告げられるケースが散見されます。原因の多くは、過去の未納税金や会社清算の未了といった「本人が気づいていない積み残し」にあります。
ベトナムの制度上(2026年8月時点)、通知が本人の手元に届かないまま出国停止の措置が確定していく仕組みになっています。本稿では、この状態が生まれる構造を法令に沿って整理し、直面した場合の対応と、渡航前の確認点を示します。
ベトナム出国停止が判明するのは入国審査の窓口
「税金の未納でブラックリストに載る」と聞くと、多くの方は入国を拒否される場面を想像します。しかし出国停止は入国を妨げるわけではありません。ベトナムへの入国は認められ、そのうえで入国審査の窓口で係官が照合を行った時点で、出国停止の対象者として登録されていることが判明します。
EACH VIET NAM COMPANY LIMITEDが実際に関与したケースでは、数年前にベトナム法人を畳んで帰国したはずの日本人経営者が、陸路国境からベトナムに入国した際にこの状態に直面しました。窓口で検知され、その場で「出国禁止対象者発見記録」が作成され、署名を求められるというケースです。記録には通知元の税務支局名と、その支局へ出頭して処理せよという指示が記載されていました。
この場合、ベトナムを出国できないことが帰国の際に判明した訳ではありませんが、旅行や出張の初日に、日本に帰れない状態であることが確定した形で入国することになります。
重要な点としては、この方はその数年前には何事もなくベトナム出国ができていたということです。国境の記録にも、前回の出国は通知の発出前だったと明記されています。通知は本人が国外にいる間に出されるため、肝心の本人に届かないという構造になっています。
ベトナム出国停止の通知が本人に届かない理由
出国停止の措置を定めているのは政令49/2025/NĐ-CP(2025年2月28日公布、同日施行)です。同政令第3条は対象者を四つの類型に分け、それぞれ異なる基準を設けています。法人の法定代表者について原則となるのは、未納額5億VND以上かつ納付期限から120日超という基準です。この水準だけを見れば、多くの中小規模の会社には縁のない話に思えます。
ところが同条第3項には、まったく別の基準が置かれています。「登録住所で活動していない法人の法定代表者」については、金額の閾値が適用されないという記載があるためです。期限を過ぎた未納があり、税務当局が出国停止を適用する旨を通知してから30日を経過して未完了であれば、それだけで対象となります。5億VNDという基準は、この類型では対象外になります。
個別通知はなく、公告だけで手続きが進む仕組み
特に問題になる点としては、この通知の方法にあります。同政令第4条第2項は、この第3項該当者に対する予告について、「登録住所で活動していない納税者」に関する通知を発出した直後に、税務当局のウェブサイト上で公告すると定めています。電子税務アカウント経由での個別通知は第1項・第2項の類型に向けられたものであり、第3項には規定がありません。
構造を整理するとこうなります。①会社が登録住所から消えている状態を税務当局が認定する。②その代表者は、金額にかかわらず出国停止の対象となる。③予告はウェブサイトに掲載される。④30日が経過し、当局は出入国管理当局へ書面を発出する。この流れの中で、本人の郵便受けにも受信箱にも、何も届くことはありません。
もっとも登録住所で活動していないと認定された会社に、送達先として機能する住所はもう存在しないため、これを完全にベトナム行政の不備と呼ぶことも難しいという点が事実としてあります。
ベトナム出国停止の典型的な発生経路と未納の蓄積
弊社が確認している範囲で、最も多い経路は以下の通りとなります。
ベトナムからの帰国にあたり現地の代行業者へ会社の閉鎖手続きを依頼し、社印と企業登録証明書(ERC)の原本を引き渡す。ところが業者側で手続きが完了しないまま放置される。会社は登記上「生きたまま」残り、事業税や各種申告の義務が毎年発生し続ける。未申告と未納が積み上がり、税務当局が「登録住所で活動していない納税者」と認定し、代表者に出国停止の措置が取られるというケースです。
完了を示すのは二つの書面の現物のみ
強調したいのは、「引き渡した」と「完了した」はまったく別だということです。法人の閉鎖が終わったことを示すのは、税コード終了通知と企業登録抹消通知という二つの書面であり、この現物を受け取っていない限り、手続きは終わっていません。
名義だけ代表者として貸していた、必要な個人所得税の申告が漏れていた、といった経路もありますが、共通するのは、本人にとって「もう関係のない会社」が登記上は自分の名前で存続し続けている点です。
ベトナムで出国停止となった場合の対応手順
対応の順序は決まっています。第一に、通知元の税務支局を特定します。窓口で交付される記録に記載されているため、まずこれを確保します。
第二に、委任関係を整えたうえで管轄税務署へ照会し、面談を行います。重要なのは、担当官の署名と会社印の入った正式な面談議事録を取得することです。口頭の説明だけでは、後の工程で何を根拠に進めているのかが曖昧になります。議事録には、提出すべき申告書の種類と対象期間が具体的に列挙されます。
電子税務アカウント再発行という難関
第三に、列挙された過年度分をすべて提出します。具体的には付加価値税申告、法人税確定申告、財務諸表、その他必要となる個人所得税申告といった内容です。
ここで最初のボトルネックが現れます。過年度の申告は電子申告が前提であり、そのためには電子税務システムのアカウントとUSB電子署名トークンが必要です。数年前に閉じたつもりの会社では、まずこれが手元にありません。しかもパスワードの再発行手続き自体にトークンを要する場合があり、悪循環に陥ります。
実際にかかる費用の目安
費用面にも実際との乖離があります。あるケースの概算では、事業税の本税と延滞金に、法人税・付加価値税・個人所得税それぞれの申告遅延に対する行政罰を加えて4,000万VND強となりました。本税は小さくとも、申告遅延の罰金が税目ごとに積み上がる構造となっています。これとは別に、電子署名の購入費や手続き支援の専門家報酬も発生します。
ビザ免除45日以内に解除まで収める必要がある
ベトナムからの出国停止解除は、税務署の処理が終われば自動的に完了するものではありません。出国停止の措置は、税務当局から出入国管理当局へ伝達され、そこから各国境検問所へ配信されるという経路を辿ります。解除も同じ経路で進むため、税務署との折衝を終えた時点で、次に入国管理当局側の処理が控えていることになります。
政令49/2025第4条第4項は、納税義務が完了した場合、税務当局は直ちに解除通知を発出し、出入国管理当局は受領から24時間以内に解除を実行すると定めています。両当局の情報システム間での電子的なデータ伝送も規定されており、条文だけを読めば速やかに解けるように見えます。
ただし、税務当局の通知から出入国管理当局の通知が出るまでに約10か月を要したケースも過去にはありました。これは同政令の施行前の出来事であり、現在の電子連携がどこまで機能するかは別途見極める必要があります。「条文にあるから即日解ける」という訳ではありません。
ビザ免除45日との競合が最大の制約
そして、滞在期限との競合が最大の制約になります。ビザ免除で入国した日本人の滞在可能期間は、決議44/NQ-CP(2025年3月7日付)により入国日から45日です。出国停止を理由にこの期限が自動延長されることはありません。過年度数年分の申告と納付、さらに二つの当局の処理を、実質的に45日以内に収めるという計算になります。処理が長引けば超過滞在という別問題が重なるため、期限直前まで待たず、早い段階で入国管理当局へ状況を説明しておく必要があります。
ベトナム渡航前に確認したい出国停止リスク3点

このような事態を避けるためにはどうするべきでしょうか。実はベトナムへの渡航前の数分で防ぐことができます。国家企業登録ポータル(https://dangkykinhdoanh.gov.vn/)で自分が関与した会社を検索して二つの欄を読み、そのうえで手元の書面を一つ確認するだけです。
一つ目は「Tình trạng hoạt động(活動状況)」の欄。ここで注意したいのは、閉鎖が完了した会社もサイトから消えるわけではないという点です。政令01/2021/NĐ-CP第41条は企業の法的状態を七つに区分しており、手続きが完了していれば「Đã giải thể, phá sản, chấm dứt tồn tại(解散・破産・存在の終了)」と表示されて記録は残ります。
検索結果に出てくること自体は問題ではなく、読むべきはこの欄の値です。危険なのは「Không còn hoạt động kinh doanh tại địa chỉ đã đăng ký(登録住所で事業活動を行っていない)」で、これが政令49/2025第3条第3項の類型に当たります。
二つ目は「Đại diện theo pháp luật(法定代表者)」の欄。退任したつもりでいても、登記上の変更が完了していなければ、自分の名前がそのまま残っています。
三つ目は、閉鎖を依頼した会社について、税コード終了通知と企業登録抹消通知の現物が手元にあるかです。企業登録の抹消と税コードの終了は別の手続きであり、出国停止の根拠となる納税義務は税コード側に紐づきます。書面が両方そろっていなければ、どちらかが途中で止まっている可能性があります。業者に手続きを任せたまま結果を受け取っていないのであれば、渡航前に取り寄せておくべきです。
出国停止案件に関し、解除にあたって求められる追徴額そのものも、軽くはありません。しかしそれ以上に重いのは、「終わったはずのこと」が終わっていなかったという事実を、入国したその場で、帰国できない状態として知らされることです。逆に言えば、この三点を入国前に確かめれば、事態の多くは回避できます。
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EACH VIET NAM Co., Ltd 共同代表
川崎 大輔
DAISUKE KAWASAKI
一橋大学商学部卒業後、外資メーカー、投資顧問会社、自動車メーカーにて、会計、事業計画、財務分析、企業価値評価、税務、子会社管理、投資管理業務に従事。在職中に米国公認会計士試験および日本証券アナリスト協会検定試験に合格。
2020年以降はベトナムにて、日系企業向けの会社設立、許認可、バックオフィス運用、法務関連実務、現地法人管理を支援。支援実績は100件以上。
2024年、EACH VIET NAM Co., Ltd.を設立。会計・税務のライセンスを自社で保有し、進出前の検討段階から撤退局面まで日本語で対応している。
Webサイト https://eachvn.com/
