執筆:EACH VIET NAM COMPANY LIMITED
「駐在員のビザはいつ取れますか」とよく聞かれます。本人の書類はすでに揃っている、という前提での質問であることが多いのですが、実際にはそこから手続きが進まないことがあります。
ここで言う「ビザ」には、実は労働許可証とTRC(一時在留許可証)という、性質の異なる二つの証書が含まれています。どちらも本人の名前で交付されるため、本人の資格のように見えます。しかし条文を読むと、申請も、返納や保証の終了も、会社が行う建て付けになっています。さらに実務では、条文に書かれていない要求も会社に向けられます。この点を押さえておくと、スケジュールの組み方が変わります。
労働許可証とTRCの違い:就労許可と在留許可
労働許可証はベトナムで就労するための許可で、所管は労働当局です。一方、TRCはベトナムに在留するための許可で、所管は出入国管理当局です。根拠となる法令も、申請先の機関も異なります。
手続きは、労働許可証の取得、労働ビザでの入国、TRCの申請の順で進みます。TRCは労働許可証を前提に発給されるため、労働許可証がなければTRCの手続きは始められません。

労働許可証の申請と返納は雇用主である会社が行う
申請は雇用主が行い、外国人雇用の必要性も審査
政令219/2025/NĐ-CP第22条は、外国人の就労開始予定日の60日前から10日前までの間に、雇用主が申請書類を提出すると定めています。
申請書類の筆頭は様式第03号です。これは、外国人労働者を使用する必要性についての雇用主の説明書と、労働許可証の交付申請書を一体にしたものです(第18条)。つまり審査の対象は本人の経歴だけではなく、会社がなぜその外国人を必要とするのか、という点にも及びます。
条文上の処理期間は、書類が揃ってから10営業日です。ただし弊社が支援した案件では、書類の提出から取得までおおむね1か月かかっています。
労働契約の終了で失効、15日以内に会社が返納
同政令第30条により、労働契約が終了すると労働許可証は失効します。そして第31条は、失効から15日以内に、雇用主が本人から労働許可証を回収して交付機関へ返納すると定めています。返納時には回収に関する報告書を添え、回収できなかった場合はその理由を明記する必要があります。返納までが会社の義務です。
なお、契約終了で労働許可証が失効しても、労働当局から入管へ通知する規定はありません。在留に関する手続きを終わらせるのは、後述するとおり、保証機関である会社の役目です。
駐在員本人の書類準備だけでは手続きは進まない
本人が用意する書類としては、無犯罪証明、学歴・職歴の証明、健康診断書があります。日本で取得するものは公証や領事認証が必要なため、時間がかかります。
ただし、これらはあくまで申請の素材であり、申請そのものではありません。本人の準備が整っていても、会社が申請できる状態になければ、手続きは前に進みません。

TRCの申請と身元保証の終了も会社が担う
TRCは招聘・保証機関が出入国管理機関へ申請
出入国管理法47/2014/QH13第37条第2項は、外国人を招聘し身元を保証した機関が、出入国管理機関に直接申請すると定めています。本人が自ら申請する建て付けにはなっていません。TRCの受け取りについても受取人に要件があり、実務では会社のベトナム人社員が窓口に出向きます。
TRCの有効期間内でも、保証終了で在留根拠を失う
同法第45条第2項e号は、保証機関の責任として次のように定めています。外国人の在留証書に有効期間が残っていても、身元保証の必要がなくなった場合は、書面で出入国管理機関に通知し、関係機関と連携して出国を求める、というものです。
つまり、TRCの有効期間が残っていても、保証する側が降りれば、在留の根拠は失われます。
駐在員の入国後の準備:居住証明と入国スタンプ確認
入国後は、滞在先から公安(警察)への一時滞在届出が必要です。大家またはホテルが行う手続きで、届出を証明する書類(いわゆる居住証明)が出るまでには時間がかかります。
求められる形式は一律ではなく、弊社が確認している範囲では、オンライン出力のみのもの、大家の署名入りのもの、公安の署名入りのものの3パターンがあります。弊社の事例では、宿の契約関係が複雑だったため、居住証明を取るだけで1か月弱を要したことがありました。入国直後は居住証明を速やかに出してくれる宿に入り、その間に住まいを探すことをお勧めします。
また、入国審査ではパスポートに押されるスタンプの近くに、滞在期限の日付が手書きで記入されます。この日付は必ずその場で確認してください。弊社が支援した例では、記入された滞在期限が入国日と整合していませんでした。本来は今回の入国日から数えるべきところ、過去の別の入国日を起点に計算されたとみられる日付が記入されていたのです。これがTRC申請の段階で発覚し、訂正のために空港へ戻る必要が生じました。3か月の労働ビザであれば、入国日に90日を加えた日付が記入されているかどうかが確認のポイントです。

名義は駐在員本人でも、手続きの責任は会社にある
本人申請の日本とは異なる、ベトナムの制度設計
日本の在留資格は、会社が手続きを代行する場合でも、申請人は本人です。その感覚のままでは、なぜ会社側の事情が問われるのかが理解しにくくなります。しかしベトナムでは、労働許可証もTRCも、申請から返納、保証の終了まで会社に紐づいています。名前は本人のものでも、資格は会社のものと考えるほうが実態に近いといえます。
TRC申請の実務上の前提は現地雇用と社会保険
法令に明示された要件ではありませんが、TRCの申請では、会社がベトナム人従業員を雇用し、社会保険を納めていることが実務上の前提とされています。弊社が支援した例では、駐在員1名の新設法人だったため、現地従業員を1名採用して社会保険の納付を開始し、そのうえでTRC申請に進みました。当局が会社の身元保証能力を確かめていると考えれば、この要求にも一定の合理性があります。
入管窓口で会社の社員が申請内容を問われることも
TRCと同じく入管が所管する労働ビザの更新では、次のような例がありました。申請に出向いた会社のベトナム人社員に対し、担当官が、代行業者や同行者ではなく社員本人が答えるよう求めたのです。聞かれたのは、申請手数料の支払確認、オンライン申請の受付番号、申請関連のメールが会社のアドレスから送られていない理由、そして申請内容が事実に基づいているかどうかでした。これらの情報が事前に共有されていなかったため、社員はその場で答えに窮したそうです。
一方、同じ日に別の担当官が処理した案件では、こうした質問はありませんでした。確認の深さは担当官によって大きく異なります。ここで問われているのは、会社が自らの申請内容を把握しているかどうかです。代行業者を使う場合でも、申請番号や支払記録などは、窓口に行く社員と事前に共有しておく必要があります。
設立直後の法人は実績がなく、取得に時間を要する
設立直後の法人には、雇用実績も納付実績もありません。その分、労働許可証とTRCの取得には時間がかかります。会社設立が完了しても、すぐに労働許可証・TRCの手続きに移れるわけではない、と考えておく必要があります。

労働許可証・TRC取得に向けたスケジュール設計
ベトナム人の採用は会社設立と並行して進める
TRC申請の直前になって現地採用に着手すると、そこから数か月の遅れが生じます。設立手続きと並行して採用と社会保険の加入を進めておけば、その分の待ち時間は生じません。
労働許可証は着任日から逆算して申請準備を進める
申請できるのは、就労開始予定日の60日前から10日前までです。着任日が決まれば、会社がいつまでに申請書類を揃えておくべきかも決まります。前述のとおり、実務では1か月程度を見込んでおくのが安全です。
TRC取得に向け3〜5週間の連続滞在を先に確保
TRCについて、第37条第2項は書類が揃ってから5営業日以内に審査・発給すると定めています。しかし実務では、パスポートを10〜15営業日前後、当局に預けたままになり、その間はベトナムから出国できません。書類が揃ってから日程を探すのではなく、先に滞在期間を予定表に入れ、そこへ書類を間に合わせる順序で組んでください。
条文にない運用上の要求に、会社として備える
弊社が支援した駐在員の手続きでは、進行中に当局側の求める対応が変わりました。TRCの申請窓口に出向くのは当初は本人とされていましたが、途中から会社のベトナム人社員が行う形に変わり、必要な滞在日数も延びています。いずれも法令が改正されたわけではありません。

社会保険の納付実績、窓口での質疑、届出書類の形式など、本稿で見てきた要求の多くは条文に書かれていません。文書で公表されることもなく、タイミングや担当官によって変わります。現地の専門家に確認しながら進めていても、前提が変わることはあります。
これを「ベトナムだから」と片付けるのは簡単です。しかし要求の多くが身元を保証する会社に向けられている以上、備えることができるのも会社です。具体的には、着手を早めて変化に気づく時間を残しておくこと、そして窓口に出る社員と申請の内容を共有しておくことです。
書類は揃ったのに進まない。その原因の多くは当局の運用にあり、企業側でコントロールすることはできません。変えられるのは、それを受け止める会社の側の備えです。

EACH VIET NAM Co., Ltd 共同代表
川崎 大輔
DAISUKE KAWASAKI
一橋大学商学部卒業後、外資メーカー、投資顧問会社、自動車メーカーにて、会計、事業計画、財務分析、企業価値評価、税務、子会社管理、投資管理業務に従事。在職中に米国公認会計士試験および日本証券アナリスト協会検定試験に合格。
2020年以降はベトナムにて、日系企業向けの会社設立、許認可、バックオフィス運用、法務関連実務、現地法人管理を支援。支援実績は100件以上。
2024年、EACH VIET NAM Co., Ltd.を設立。会計・税務のライセンスを自社で保有し、進出前の検討段階から撤退局面まで日本語で対応している。
Webサイト https://eachvn.com/
