ベトナム政府は、住宅政策の方向性を「家を所有させる」ことから「賃貸住宅」を提供することへと変えつつある。

背景には住宅価格の高騰がある。英国ナイト・フランクによれば2026年第1四半期、ハノイにおける新築マンションの平均価格が、1平方メートル当たり4,274米ドル(約68万5,000円、前年同期比で38.6%上昇)と過去最高を更新した。

一方で、低・中所得層や若年世代、工業団地の労働者にとっては住宅不足がなお深刻だ。ベトナム政府はいま、賃貸住宅を社会保障の戦略的な柱に据えようとしている。

ベトナム住宅政策、「所有」から「賃貸」へ

トー・ラム共産党書記長(出所:Vietnam Plus “Rental housing must become strategic pillar through 2030: Top leader”)

政策転換のきっかけは2026年5月、トー・ラム共産党書記長 兼 国家主席の発言だった。ラム氏は2030年までの住宅政策において、賃貸住宅を戦略的な柱に据えるよう求めた。住宅を「売るための住宅」から「住むための住宅」へ転換する方針を示している。

政策のターゲットとして念頭に置いているのは、

  • 低所得層・都市労働者・移民労働者といった人々が住む地域
  • 工業団地・大学・病院などが集積し住宅需要が大きい地域

である

書記長の発言を受け、レ・ミン・フン首相は5月25日にハノイで会議を開き、賃貸住宅を長期的な戦略分野と位置付けた。6月1日には、北部重点経済圏(ハイフォン・クアンニン・バクニン・ニンビン・フンイエン)の5つの自治体に対し、賃貸住宅に関する計画を見直すよう指示した。住宅に対する需要調査や実施に向けたロードマップなどを含む詳しい開発計画を、6月中に取りまとめることとなる。

ベトナムの住宅高騰、背景にある所有志向

[グラフ: ハノイ・ホーチミン市のマンション新築平均価格と前年同期比上昇率(2026年第1四半期)。出所: NNA ASIA/原データはナイト・フランク。円換算は1米ドルあたり160.36円(2026年6月10日Bloomberg)で算出]

住宅価格の上昇は数字にはっきりと表れている。英国ナイト・フランクによると2026年第1四半期、ハノイの新築マンション価格は、1平方メートル当たり4,274米ドル(約68万5,000円)と過去最高を更新した。前年同期比で見ると、38.6%の値上がりである。

ホーチミン市も、1平方メートル当たり4,078米ドル(約65万4,000円)、前年同期比で11.8%上昇となっている。ハノイでは高級住宅に対する需要が、ホーチミン市では住宅ローン金利の上昇による高級・超高級帯への供給偏重が、それぞれ値上げの背景とされる。

住宅価格が急騰している背景には、都市部での供給不足や投資需要の強まりに加え、住宅を「購入して所有するもの」と捉える価値観の根強さもある。ベトナムでは従来、持ち家は安定や社会的成功の象徴とされ、賃貸よりも購入を重視する傾向が強かった。

不動産は居住手段であると同時に投機や資産保有の対象でもある。投機目的によって都市部の住宅が購入されると、値上がりが進み、手頃な価格帯の住まいが足りなくなってしまう。「所有」から「賃貸」への住宅政策の転換は、政府が住宅を取得することへの圧力と、投機としての住宅需要をともに和らげるねらいがある。

賃貸重視へ、ベトナムの新たな住宅制度設計

出所:VnEconomy “Định hướng phân loại phát triển nhà ở theo 4 nhóm”よりInfoBank作成

今回の政策では、賃貸住宅を重要な柱に据える。政府が掲げている新たな制度では、住宅を4分類に整理することから始まる。フン首相は5月の会議で、住宅を賃貸・商業・公営・政策住宅のグループで整理する方向を示した。

具体的な取り組みの案も出始めている。例えば、

  • 15〜20年以上の長期的な賃貸制度
  • 商業住宅事業に賃貸を一定割合組み込む案
  • 財務省による財政・税制優遇
  • ベトナム国家銀行(SBV)による長期賃貸事業者向けの優遇融資

を検討・要請し、いずれも7月に状況を報告する。

社会住宅のミスマッチを賃貸住宅で解消を目指す

今回の住宅政策よりも前から、政府は住宅の提供に取り組んできた。ベトナムでは低・中所得層向けに優遇措置付きで供給される「社会住宅」が以前から存在する。

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