電動バイクがベトナムの通勤を塗り替えつつある
ベトナムの街角では今、静かな変革が進んでいる。エンジン音をたてながら走り抜けるガソリンバイクの間に、音もなく滑るように走る電動バイクが確実に増えている。かつては珍しい存在だった電動バイクが、今や通勤の足として、若者のファッションアイテムとして、そして環境意識の象徴として市民権を得つつある。
その成長ぶりは数字にも明確に表れている。2026年1〜4月の二輪車市場の累計販売台数(ベトナム二輪車製造業者協会:VAMM加盟5社+EV勢)は128万台に達し、前年同期比で実に23.3%の大幅増を記録した。このペースが続けば、年間販売台数は400万台を超える見通しだ。
市場全体の拡大を牽引しているのは、電動バイク(EV)だ。2026年第1四半期のEVセグメントは前年比177%増という爆発的な伸びを記録している。

ホンダ・ヤマハも電動バイクへ——ベトナム市場で本格始動
この急成長を最前線で引っ張っているのが、ベトナム発の自動車・バイクメーカーVinFastだ。同社は2025年にベトナム国内で40万6,453台の電動バイクを販売し、2024年比で約5倍という驚異的な成長を遂げた。
VinFastの成功を支えているのは、豊富なモデルラインナップとインフラ整備の両輪だ。現在10種類以上のモデルを展開するなか、とりわけEvoシリーズが全体の半数以上にあたる25万台超を販売する大ヒット商品となっている。コンパクトで手頃な価格帯のEvoシリーズは、電動バイクを通勤の足として活用したい都市生活者のニーズに的確に応えており、「電動バイクは高い」「不便」というイメージの払拭に大きく貢献している。
販売面でも同社は全国600か所以上のディーラーを整備し、充電ステーションやサービスセンターを併設することで、消費者が抱えがちな「電池切れへの不安」を軽減する体制を整えている。
さらに現時点ですでに約4,500か所のバッテリー交換ステーションを設置しており、2026年第1四半期末までに4万5,000基へと拡大する計画を掲げる。この規模のインフラ投資は、他のプレイヤーが短期間で追いつくことを困難にする強固な競争優位を生み出している。

出所:VinFast公式サイトをもとにInfoBank作成。
ベトナムの電動バイク需要、規制とガソリン高で加速
一方、ガソリンバイク市場では依然としてホンダが圧倒的な存在感を示している。ベトナム二輪車工業会(VAMM)加盟の5社(ホンダ・ヤマハ・Piaggio・スズキ・SYM)による2025年の総販売台数は261万5,000台にのぼり、うちホンダだけで約225万台を販売した。ガソリンバイク市場におけるホンダの地位は揺るぎない。
しかしホンダも電動化の潮流を無視するわけにはいかない。2026年初めには電動スクーター「CUV e:」の正式販売価格を発表した。バッテリーなしで約4,500万ドン(約27万円)、バッテリー込みで約6,500万ドン(約39万円)という価格設定は、幅広い消費者層を意識したものだ。
さらに2026年中には、ベトナム国内で組み立てた新型電動バイク「UC3」の投入も予定している。「UC3」は最高出力6,000ワットのリアハブモーターを搭載し、最高速度は時速80キロメートル。0〜20km/hの加速性能は排気量160ccのガソリンバイクと同程度とされ、都市部での日常使用に十分な実力を持つ。
ヤマハも2026年よりハノイとホーチミン市の「Yamaha Town」を起点に、「Neo’s」モデル向けのバッテリー交換・充電サービスを開始する予定だ。24時間ロードサービスも組み合わせることで、電動バイクユーザーの利便性向上を図る。
市場関係者の中には、「VinFastが多様なモデルと充実したインフラで先行しているため、短期的にホンダが追いつくのは難しい」との見方もある。ホンダは2027年以降にさらなる電動モデルの投入を計画しており、電動バイク市場での本格的な巻き返しはこれからとなりそうだ。

ホンダの電動二輪車「CUV e:」(出所)Minh Long Motor
ベトナムの電動バイク需要、規制とガソリン高で加速
ベトナムにおける電動バイク需要の拡大には、政策面と経済面の両方から強い追い風が吹いている。
政策面では、ハノイ市が2026年7月1日から環状1号線内側を低排出ガスゾーンに指定し、特定のエリアや時間帯においてガソリンバイクの走行を制限・禁止する方針を打ち出した。環境規制の強化は、消費者が電動バイクへの乗り換えを検討する大きなきっかけとなりうる。
経済面では、2026年3月以降のガソリン価格の大幅上昇が消費者の電動バイクへの関心をさらに高めている。燃料費の節約という実利的なメリットが、購入判断を後押しする要因となっているのだ。結果として、需要が供給を大きく上回る状況となっており、4月には複数のEV専業メーカーが主要ディーラーでの在庫不足と納車待ちを報告している。

出所: InfoBank作成。
インフラ拡充が電動バイク市場をさらに拡大する
電動バイク市場の拡大において、インフラの充実は単なる付随的な要素ではなく、市場成長そのものを規定する根幹的な要素だ。VinFast、ホンダ、ヤマハの各社が相次いでバッテリー交換ステーションや充電インフラへの投資を強化しているのは、この現実を各社が認識しているからにほかならない。
インフラの整備が進めば電動バイクの利便性が高まり、購入をためらっていた消費者の背中を押す。購入者が増えればメーカーは規模の経済を活かしてコストを下げ、さらに多くの消費者が手に届く価格帯の製品を提供できるようになる。市場の拡大がさらなるインフラ投資を促し、インフラの充実が市場をさらに広げる——この好循環がベトナムの電動バイク市場でいよいよ本格的に回り始めている。
2026年は、ベトナムの電動バイク市場にとって歴史的な転換点として記憶される年になるかもしれない。
