富裕層が増えるベトナム、高級消費・資産管理・不動産で商機
英国のナイトフランク(イギリス不動産総合コンサルタント会社)が2026年4月に発表した “The Wealth Report 2026” によれば、ベトナムの超富裕層は2026年に1,233人、2031年には1,960人に達する見通しとなった。
超富裕層(Ultra High Net Worth Individual)とは3,000万米ドル(約46.8億円、1ドル=156円で換算、以下同じ。出所:Bloomberg、2026年5月6日時点)以上の純資産を持つ人たちと定義している。今後5年の予測では59.0%の増加を見込んでおり、世界4位の伸びとなる。過去5年(2021〜26年)の実績も29.2%増と高水準だ。
2025年には、1人当たりGDPが初めて5,000ドルを突破した。経済成長率も8.46%という追い風の中で、富裕層の厚みが急速に増している。

ベトナムは超富裕層の増加率、東南アジア2位
世界全体における超富裕層の人口は、この5年で551,435人から713,626人へとおよそ3割増加した。毎日89人が新たに超富裕者層への仲間入りをしている計算だ。
ベトナムでは2026〜31年にかけて、超富裕層の人口が59.0%増えると予測されており、東南アジアではインドネシアに次ぐ2位の伸びとなる。ベトナムで流動資産が1,000万米ドル(約12.7億円)を超えている、つまり超富裕層の次に資産が多いグループは5,459人とされる(2025年時点)。更にベトナムでは超富裕層だけでなく、その下にいる富裕層の裾野も厚みを増している。
ベトナム富裕層の資産源——不動産・株式
Forbesが発表した2026年の世界長者番付には、ベトナムは過去最多となる8人がランクインした。
トップはVingroup会長のファム・ニャット・ヴオン氏で、資産は約277億米ドル(約4兆3,800億円)で、世界ランキング93位であった。同氏の資産拡大には、EV事業などに取り組むVingroupの株価上昇が大きく寄与したと見られる。

従来の不動産・製造業に加え、銀行を含む金融セクターも、富裕層の重要な資産源として存在感を増している。番付ランキングに新たに入った3人のうち、ゴ・チ・ズン氏はVPBank会長である。過去ランキング入りを果たしている富豪にも、Techcombank会長のホー・フン・アン氏が含まれている。銀行・金融関連の株式が、ベトナム富裕層の資産形成を支える要素になっていることがうかがえる。
高級消費・資産管理・不動産——ベトナム富裕層拡大が開く市場
富裕層の拡大は、日本企業にとってもビジネスチャンスだ。
高級消費の分野では、ベトナムのラグジュアリー市場規模は、2023年に9.6億米ドル(約1,500億円)に達したと推計されている(ナイトフランクによる推計)。富裕層・上位中間層の増加を背景に、国際的な高級ブランドの出店や投資意欲も高まっている。例えばハノイではDior、Louis Vuitton、Tiffany & Co.などが相次いで開店している。
資産管理の面で見てみると、ベトナム株式市場はフロンティア市場からセカンダリー新興市場へ移行する見通しとなった(FTSE Russellによる分類)。
これによりベトナム株がETFやインデックス商品に組み込まれるようになり、海外からの資金流入や市場流動性の向上が期待される。証券や投資信託、富裕層向け資産管理サービスなどで、日本の金融機関にも事業機会がより広がるだろう。

不動産サービスにも動きが見られる。ホーチミン市など中心部・新都心エリアでは住宅価格の上昇が続いている。そもそもベトナムはブランド不動産に関するプロジェクト数が世界第4位で、アジアの中でも高級不動産市場が発展している国と言われている。
Cushman & Wakefieldによると、ホーチミン市中心部のマンション一次販売価格は、2026年1Qに平均約7,300米ドル/㎡へ上昇し過去最高水準となった。1年前の同じ時期と比べて約53%の上昇である。富裕層向けの高級物件を取り扱うサービスは、今後も需要が見込める。

中間層は2035年に人口の半数超も、富裕層の海外志向も強まる
McKinseyは、ベトナムでは中間層の拡大が続き、2035年までに人口の半数超がグローバル中間層に入ると推計している。中間層の拡大は可処分所得を増やし、消費を押し上げる要因となる。今後さらなる富裕層を生み出す動きにつながるであろう。
一方で、消費者はより価格や価値に敏感になっており、店舗やブランドを切り替える傾向も強い。こうした市場環境を踏まえ、若い富裕層のように価格感応度が低い顧客に向けた、プレミアム商品を投入する余地があると指摘している。

一方で、富裕層が拡大することで負の側面もある。Henley & Partnersは、2024年にベトナムから300人規模の富裕層の流出が起きると予測した。同社はその背景として、
- より大きな経済機会
- 世界水準の教育・医療へのアクセス
- より高い生活の質
- パスポートの弱さによる移動のしづらさを避ける
などを求めた動きであると考察している。

今後ベトナムでは、国内の消費者階級や富裕層が増えていく一方で、富裕層の中で海外志向がより根強くなるであろう。富裕層が拡大するとともに海外流出が進む状況は、日本企業が高級消費、教育、医療、資産管理、不動産サービスなどで参入戦略を考えるうえで重要なポイントとなる。
