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2026年4月24日、ベトナムの国会は2026〜30年の中期公共投資計画を可決した。総額は8,220兆VND(約48兆9,000億円)にのぼる(1円=168 VNDで換算、以下同じ。出所:Bloomberg、2026年5月6日時点)。

2021〜25年における計画と比べると、予算の総額は3倍に拡大した一方で、プロジェクト件数は3割を目安に削減する。

「集中・選別」「執行率100%目標」をキーワードに、波及効果の大きな交通インフラを中心に公共投資を加速させる見込みだ。

知日派テクノクラート出身の新たな首相(レ・ミン・フン首相)が指揮する最新の公共投資計画。その進捗はベトナムの今後の発展に大きな影響を与える。

ベトナム公共投資の制度的枠組み

ベトナムの公共投資(đầu tư công)は、2014年に法制度が整備された。その後ほぼ5年ごとに大きな改正が重ねられ、2025年1月にも新たな法律が施行されたばかりだ。まずは制度の基本的な構造から確かめる。

GDPの40%を支える:ベトナムにおける公共投資の定義と役割

出所:ベトナム公共投資法(Law No. 58/2024/QH15)第5条を基にInfoBank作成。

ベトナムにおける公共投資とは、公共投資法(Law No. 58/2024/QH15)の第5条により対象が8類型として定められており

  • 国家資金を用いた経済社会インフラ整備
  • 政府機関への投資
  • PPP案件への国家参画
  • 上記の計画に関する策定業務

などを指す。以前は6類型だったが、2024年の法改正により、優遇信用政策の地方財源運用と将来法令への包括条項が分離・新設された格好となった。

党や政府は公共投資を単なる予算項目ではなく、成長戦略の中核であると位置付けている。ベトナムのインフラ投資(公共・民間合計)はGDP比5.7%に達し、アジアでも上位の水準にある。

2026年1月の第14期党大会において、2026〜30年の社会投資をGDP比約40%、うち公共投資20〜22%とする数値目標を決議した。積極的な姿勢が見て取れ、ベトナムの公共投資に対する力の入れようが伝わってくる。

中期投資計画の策定プロセスと党の影響力

ベトナム共産党第14回大会 出所:VIETNAM.vnĐại hội XIV của Đảng Cộng sản Việt Nam thành công rất tốt đẹp

公共投資は5か年の中期投資計画(MTIP、Medium-Term Investment Plan)をもとに、単年ごとの計画を立てる形で運営されている。

MTIPは2016年から運用が始められた。現在のMTIPは国会で採択された「2021〜2030年国家マスタープラン」に基づいて策定されている。

公共投資の中期計画の策定には、ベトナム共産党の方針が大きな影響を与える。党の全国代表大会とMTIPの策定は、どちらも5年ごとに実施されており、政治と公共投資計画の強いつながりを示している。

たとえば2026年1月の第14期党大会では、

「年平均GDP成長率10%以上」 「社会投資をGDPの40%とする」

という目標が決議された。この決議に沿う形で、前期よりも規模をさらに拡大させた公共投資計画が提案・採決されている。

公共投資を扱う主管省庁と意思決定の構造

ゴ・ヴァン・トゥアン財務大臣 出所:VTC News “Dành 8,22 triệu tỷ đồng cho kế hoạch đầu tư công trung hạn giai đoạn 2026-2030

ベトナムでは、計画投資省(MPI)が投資の促進や公共投資の計画・調整において、中心的な役割を担ってきた。ただし2025年の組織再編で、MPIは財務省(MoF)に統合されている。

投資案件の承認プロセスにおいては、予算規模や案件の内容により

  • 国会の承認が必要
  • 首相の承認が必要
  • 省レベルの人民委員会の承認が必要

など、異なる意思決定を求められるケースがある。

日本人投資家がベトナムで会社設立に加わるなど、現地で投資プロジェクトに参画する場合には、投資登録証明書の発行を受けなければならない。投資案件によってはさらに、上記の承認を事前に得る必要もある。手続きの慎重なチェックと念入りな準備が求められる。

2021〜25年計画の成果と限界

新たな公共投資計画について知るためにまず、2021〜25年における計画を振り返っておきたい。

前期における計画においても、総額2,870兆VND(約17兆1,000億円)となる投資規模の拡大を掲げていた。しかし実際には、予算の消化率に苦しみ続けた5年間でもあった。

17兆円規模の前期計画:エネルギーと交通を中心とした重点配分

出所:ベトナム政府公開情報に基づいて InfoBank作成。

2021〜25年における中期計画の総額は、国会承認ベースで2,870兆VND(約17兆1,000億円)であった。中央予算は1,500兆VND(約8兆9,000億円)、地方予算は1,370兆VND(約8兆2,000億円)となり、別途150兆VND(約8,900億円)の予備枠も国会審議において示された。

一方でプロジェクト件数は5,000件ほどに絞り込まれた。プロジェクト1件あたり平均予算規模は、2016〜20年の前期と比べて2.4倍に拡大している。

重点となる分野は主に、エネルギーと交通インフラである。2021〜30年第8次国家電力開発計画(PDP8)は10年間で、1,350億ドル(約21兆円。1ドル=156円で換算、以下同じ。

また、農業・農村開発分野や、メコンデルタの気候変動対策などにも資金が振り向けられた。

なぜ予算は使われなかったのか:土地収用・汚職・制度的障壁

出所:上記出所先を基にInfoBank作成。

予算規模は拡大する一方で、現実の予算消化は計画に追いつけない状態が続いた。2016〜19年の平均執行率は72%にとどまり、2020年は73.6%、2021年は71.0%、2022年は70.8%と低水準が続いた。

2025年も10月16日時点では執行率が50.7%(455兆VND、約2兆7,000億円)と低空飛行が続いていた。しかし年末に駆け込みで執行が進み、最終的には94.8%に達している。

執行率が低かった要因としては

  • 土地収用が予定どおり進まなかった
  • 計画の変更に伴い、予算の調整がスムーズにできない
  • 汚職の摘発により官僚が慎重な姿勢になった

などがあげられる。一方で、直近の執行率は高い水準となっており、政治的リーダーシップが発揮された結果と言えるだろう。

大型インフラの完成と残された構造課題

ホーチミンメトロ1号線の車両 出所:Ho Chi Minh City Metro Guide

2021〜25年の決算を見ると、ベトナムは大型インフラ案件で確かな実績を残した。

ホーチミン市メトロ1号線(ベンタイン〜スオイティエン、19.7km)は2024年12月22日に、ベトナム初の地下鉄路線として開業した。

南北高速道路は、2026年4月30日までに12の区間が出そろう見込みと発表された。建設中のロンタイン国際空港も、2025年12月に試験飛行を経て、初めてのフライトを受け入れる式典を迎えている。

しかし一方で、先に述べた要因から

  • 予算が分散してしまい投資案件の効果が薄くなった
  • 予算の執行率が低かった

などの点が問題となっていた。これらの課題を踏まえ、政府は次期計画においても「集中・選別」「執行率100%目標」「指導者の責任強化」といった方向性は変えていない。

2026〜30年中期公共投資計画:投資集中とインフラ優先の5年間

2026年4月24日、ベトナム国会は2026〜30年における新たな中期計画を可決した。総額は8,220兆VND(約48兆9,000億円)に達し、前期からほぼ3倍に拡大する。一方で、投資件数を3割以上減らす「集中・選別」戦略がその骨格となる。

日本との縁も深い、フン新首相が指揮をとる5年計画の中身は、規模・方針・前期との比較の3つの視点から整理できる。

48兆9,000億円の内訳:中央・地方予算と財政規律との両立

出所:ベトナム政府公開情報に基づいて InfoBank作成。

国会で承認された2026〜30年中期公共投資計画の総額は、8,220兆VND(約48兆9,000億円)となった。内訳は

  • 中央予算が3,800兆VND(約22兆6,000億円)
  • 地方予算が4,420兆VND(約26兆3,000億円)

である。

5年間の財政枠組みを見ると、国家予算の歳入が1京6,400兆VND(約97兆6,000億円、GDP比18%)、歳出が2京1,200兆VND(約126兆2,000億円)とそれぞれ想定されており、開発投資は歳出の約40%を占める。

計画通りに進めば、社会投資全体のGDP比はおよそ40%に高まることになる。ベトナムでは公共投資が社会投資全体の約20〜22%を占めており、公共投資のGDP比は約8〜9%に達する計算だ。

2025年において日本では一般政府による公共投資はGDP比で約4%である。ベトナムは日本の2倍以上の規模で、インフラ整備に資金を振り向ける姿勢を見せている。

一方で、財政赤字をGDP比5%に抑える目標もあわせて掲げており、高成長と財政規律の両立が問われる難しい状況でもある。

「集中・画期的進展・95%執行」:国会が政府に課した3つの条件

ロンタイン国際空港 出所:VIETNAM.VNMáy bay đầu tiên sắp liên tiếp đáp đất sân bay Long Thành

国会の決議において、これまでの計画における流れを受けて「集中投資・分散回避」の方針を求めた。

2021〜25年には4,652件あった中央予算によるプロジェクトを、今後は3,000件未満まで圧縮する。その分、大きな波及効果が期待できる案件に資源を集中させる方針が示された。

決議で掲げたもうひとつのキーワードが、経済社会インフラの「画期的進展(đột phá)」である。「画期的進展(đột phá)」はベトナム政府や共産党がよく用いる表現だ。デジタルIT技術やAIなどを通じて、経済を飛躍的に伸ばしていく様子を指している。

技術の発展を通じた経済成長を実現するには、新たな技術を支える公共インフラが欠かせない。公共投資計画が重視される理由がここにある。

計画で取り組まれる案件が具体的にあげられているだけでなく、予算の執行率を95%以上とする点も政府に求めている。

フン首相も4月24日には、「公共資金投資が100%執行されるよう、指導者たちへの説明責任をより強く求める」と表明した。公共投資計画は「立派な金額やプロジェクト」を見せるだけでなく、「計画どおりに遂行し画期的に進展させる」までを問う段階に入った。

規模3倍・件数3割減・フン首相主導:新計画が示す3つの変化

牽引役となるフン首相 出所:VIETNAM.vnÔng Lê Minh Hưng được bầu làm Thủ tướng Chính phủ

新たな公共投資計画の特徴を、前期の計画と比べてみると、

  • 投資規模の拡大
  • さらなる選別と集中
  • 計画の牽引役

の3つに整理できる。

第一に投資規模の拡大である。前期の2,870兆VND(約17兆1,000億円)から、今期は8,220兆VND(約48兆9,000億円)へおよそ3倍に拡大している。社会投資全体で見ると、5年間の累計で3京8,500兆VND(約229兆2,000億円)に達する見通しだ。

第二に件数を重んじる方針から脱却し、波及効果が大きな案件へ集中する見込みである。特に、以下にあげる公共交通インフラへと、重心を移しているのが印象的である。

  • 全国における5,000kmの高速道路網
  • 北南高速鉄道
  • ハノイ・ホーチミン市の都市鉄道
  • ラオカイ〜ハノイ〜ハイフォン鉄道
  • ラックフェンなどの国際積み替え港
  • ロンタイン国際空港

第三の特徴は、新たな公共投資計画を率いるのが、知日派テクノクラートのレ・ミン・フン首相である点だ。

フン首相はハティン省出身。1996〜97年に埼玉大学大学院政策科学研究科(後の政策研究大学院大学)で公共政策の修士号を取得した。2016年に46歳で中央銀行総裁に就任し、同行史上最年少の記録をつくった実務派である。2026年4月7日に出席議員495人全員の賛成で第9代首相に選出された。

経歴・実績ともに申し分なく、前期から持ち越された課題である「執行しきれない計画」を覆すべく、手腕を発揮してくれると期待できる。

フン首相の評価指標化が問う:計画主導型インフラ開発の転換点

今回の公共投資計画の決定を通じて、印象に強く残ったのは、ベトナムにおける公共投資が「プロジェクトのPR」から「計画の着実な遂行」へとフェーズを変えつつある点である。

8,220兆VND(約48兆9,000億円)という数字の大きさが語られがちだが、より重要なポイントは「これだけの案件を本当に、計画どおりに進められるのか」にある。前期の5年間が示したのは、計画と現場のギャップこそが大きな課題だという厳しい現実だった。

日本においても、政府の決算案を実際に見ると、計画に沿って予算を執行できていないケースが問題となっている。決して簡単に解決できる課題ではない。

フン首相が就任直後に表明した、「公共投資の100%執行」を指導者への評価指標とする取り組みに注目したい。野心的な計画をつくるのは政治の役割、使い切るかどうかは現場任せ、というこれまでの役割分担を変えようとしている。

もちろん100%執行を目標に掲げることで、異なる歪みを政策の現場にもたらしてしまうかもしれない。たとえば、「100%執行」の目標を現場に強く押し付けてしまうと、計画にない無駄な支出により予算を消化しようとする懸念がある。

短期的には新たな問題が生じるかもしれない。しかし、波及効果の大きな公共投資を着実に進められた暁には、最新鋭の公共インフラがベトナムにおける経済成長を力強く牽引していくと期待できる。

参考文献

以下が参考文献一覧(リンク付き)です。


法令・制度

党・政府文書

公共投資計画(2021〜25年)

執行率・構造課題

公共投資計画(2026〜30年)

インフラ実績

人物・その他

統計・データ

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