ベトナムの出生率は人口置換水準を下回り、都市部では核家族化も進む。子どもの数が減る一方で、1人にかける教育費や余暇費は手厚くなるとの見方が、子ども向けサービスの現場からも聞かれる。遊び場の選び方も「近くて安い」から「安全で学べる」へ。屋内プレイグラウンドを手がかりに、ベトナムの家族消費の変化を追う。
出生率1.93のベトナム、子ども1人への支出が厚みを増す
ベトナム統計総局によると、2025年の合計特殊出生率は1.93と、人口を維持できる水準とされる約2.07を下回った。ハノイやホーチミンなど都市部ではさらに低く、親世代と同居しない核家族世帯が一般的になりつつあるとされる。「人口1億人、平均年齢30代前半の若い国」というベトナム像は依然として正しいが、家族の形は変わり始めている。

【画像出所】ベトナム統計局、人口動態統計をもとにInfoBank作成。
イオンファンタジーが見る家族消費の「量から質」
この変化は、子どもを顧客とする事業者にとって、必ずしも市場の縮小を意味するとは限らない。少子化や核家族化が進むと、子ども1人あたりにかける教育費やレジャー費はむしろ増加する傾向にあり、質の高い施設やサービスが選ばれる「量から質へのシフト」が加速する──。ベトナムで屋内遊び場「kidzooona(キッズーナ)」などを運営するイオンファンタジーは、こうした見立てを示す。子どもの数が減れば売り上げも減るという単純な図式ではなく、1人あたりの支出が厚くなることで、サービスの質で差がつく市場へ移行するという読みだ。
ベトナムの親が遊び場に求めるもの 安全は前提に
では「質」とは何を指すのか。手がかりは、保護者が遊び場に求めるものの変化にある。厳しい暑さや雨、交通事情から屋外で子どもが遊べる空間が限られるベトナムでは、ショッピングモール内の屋内遊び場への需要は以前から根強かった。
そこに所得水準の向上と都市化が重なり、求められる役割は「単に子どもを遊ばせる場所」から「安全な環境で、親子一緒に学びや成長につながる体験ができる場所」へと移りつつある。安全に遊べることは前提条件として、その上に何を加えられるかが選ばれる基準になった、と同社はみる。
子どもの教育と親の憩い、遊び場の二つの付加価値
付加価値の一つは「学び」だ。アジアの中でも教育への関心が高いとされるベトナムでは、日常の遊びにも創造力や社会性、運動能力を育む役割を求める保護者が少なくない。屋内遊び場の側にも、世界の知育玩具を集めたコーナー、寿司店などのごっこ遊びで社会性を養うエリア、廃材を使って資源の大切さを学ぶ工作ワークショップといった形で、「遊びを通じた成長」を前面に打ち出す動きがある。もう一つは、保護者自身がくつろげることだ。子どもを遊ばせる間に親が休める場所があるかどうかが、施設選びの判断材料になりつつある。
地方都市タインホアに3業態 家族消費は大都市の外へ
こうした「質」への需要が大都市以外にも広がっているかを占う試みが、10月18日に開業した「イオンモール タインホア」での出店だ。イオンファンタジーベトナムは同モールに、屋内プレイグラウンド「KID’S BOX(キッズボックス)」と「kidzooona」、アミューズメント施設「mollyfantasy(モーリーファンタジー)」の3業態を同時に開き、タインホア省に初進出した。

成長率上位のタインホア省で子どもと親を一か所に
タインホア省は北部と中部を結ぶ結節点にあり、工業団地や交通インフラの整備を背景にGRDP(域内総生産)の成長率が国内でも上位にある。同社はファミリー層や中間所得層の広がりを理由に同省を魅力的な市場と位置づけ、3業態を同じモールに集めたのは、幼児・未就学児から小学生までの子どもとその保護者を一か所で受け止め、施設を「遊び場」にとどまらない地域コミュニティにするためだと説明する。
KID’S BOXには桜並木や瓦屋根の街並みを模した内装を採用し、抹茶や大福を提供する和カフェ「茶の輪」を併設した。子どもの遊びと親の憩いを同じ空間に置く設計は、前述の保護者ニーズの変化を地方都市で試す形になっている。

イオンファンタジー、2030年にベトナム111店舗へ
もっとも、同社はベトナムで出店を一律に加速させているわけではない。中期経営計画ではアセアン事業の方針を従来の「成長重視」から「利益率重視」へ転換し、出店数やエリアの拡大そのものではなく、国ごとの成長フェーズや競争環境に応じたメリハリのある戦略を重視するとしている。
成長重視から利益率重視へ 地方都市と都市部を使い分け
ベトナムでの具体策は3つある。地方都市へのローエンドモデルの出店、都市部の大型店への業態転換、イオングループ施設での複数区画出店だ。これに競合と近接する既存店への活性化投資を加え、2030年度末までにプレイグラウンド68店、アミューズメント施設43店の計111店舗を目指す。地方では投資を抑えた店舗で裾野を広げ、都市部では規模と質で競合に対抗するという使い分けだ。
少子化が進む市場で子ども1人あたりの支出増を取り込めるかどうかは、施設の「質」をどう定義し、立地ごとにどう作り分けるかにかかっている。タインホアの3業態は、その答えを地方都市で試す場と位置づけられるだろう。
※本記事は、株式会社イオンファンタジーへの書面取材(2026年10月)および同社の公表資料をもとに作成しました。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長
三浦 賢弥
KENYA MIURA
山形県山形市出身。筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。
ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。
お問い合わせ先は こちら
