執筆:EACH VIET NAM COMPANY LIMITED
ベトナムで銀行口座を開こうとして、「TRC(Temporary Residence Card、一時在留許可証)がないと無理です」と言われた経験を持つ方もいるかと存じます。
ところがこれは、ベトナムの法令がそう定めているわけではありません。実際には、パスポートだけ(あとはベトナム電話番号とEmailアドレス)で決済口座を開設できる銀行が存在します。一方で、定期預金やデビットカードとなると話が変わります。この線引きを知らないまま渡航すると、当地で時間を何日も無駄にすることになります。
ベトナムの銀行口座開設にTRCは必須ではない
決済口座(日本で言う普通口座)の開設を定めているのは通達17/2024/TT-NHNN(通達25/2025/TT-NHNNにより改正)です。外国人個人について求められるのは、①パスポートまたは外国の権限ある機関が発行した身分証明書、②次のいずれかの書類、の2点です。
②にあたるのは、(a)有効な入国ビザ、(b)これに代わる効力を持つ書類、(c)ビザ免除を証明する書類の3種類で、このうち注目すべきは(c)です。ビザ免除での入国が条文上そのまま対象に含まれており、日本人が45日のビザ免除で滞在している状態は、この要件を満たしています。TRCや長期ビザの保有を一律の条件とする規定も、居住期間の下限を設ける規定も、決済口座については存在しません。
銀行の内部運用と支店ごとの差が実態を左右する
にもかかわらず断られるのは、銀行側の内部運用や担当者の判断によるものです。外国人の口座は書類確認や後続の管理に手間がかかるため、窓口で断るほうが早い、という力学が働きます。
弊社が確認している範囲では、国有系の4大商業銀行のうち少なくとも1行で、日本人がノービザの状態で決済口座を開設できています。ただし全支店で同じ対応が取れるわけではなく、同じ銀行名でも支店が変われば結論が変わります。
なおこの銀行では、滞在期限まで30日以上残っていることを条件としており、ビザ免除45日で入国した場合は入国から15日以内に窓口へ行く必要がある計算です。これも通達にある要件ではなく、銀行側が設けている条件です。
パスポートのみで開設できる銀行の決済口座
決済口座の開設に必要な持ち物はこの3点のみ
必要なのはパスポート、ベトナムの携帯電話番号、メールアドレスです。携帯番号は現地で調達することになるため、SIMの取得を口座開設より先に済ませておく必要があります。なお、口座開設時に顔認証の登録が必要となります。
ネットバンキングや送金・現金引き出しも可能
通貨はベトナムドン建て、外貨建てのいずれも開設できます。この段階の口座でネットバンキングが利用できるほか、スマートフォンでのQRコード決済も有効になるため、ベトナム国内での支払いはある程度これで足ります。国内送金・着金も可能で、日本からWISEを利用してベトナムの口座でドンを受け取っている例もあります。
海外送金の可否は銀行や開設口座によって条件が異なるため、実際に使う経路については事前に確認してください。現金の引き出しについても、決済口座が開設できた時点で店頭にパスポートを提示すれば窓口で出金できます。ATMはカードを前提とするため利用できませんが、カードがなくても現金を手にする経路はあるということです。
ベトナムの決済口座の段階でできること一覧
- ベトナムドン建て・外貨建て口座の保有
- ネットバンキングの利用
- QRコード決済
- ベトナム国内の送金・着金
- 日本からの送金受け取り
- 店頭窓口での現金引き出し(パスポート持参)
TRC・一時在留許可証がないとできないこと
デビットカードとキャッシュカードが作れない
決済口座を開設できても、カードは発行されません。日本でいうキャッシュカードにあたるものも同様です。カード類の発行には、TRCまたは長期ビザが求められます。
定期預金の開設には居住資格6ヶ月以上が必要
定期預金は、根拠となる法令自体が別です。通達49/2018/TT-NHNN第3条は、預入できる外国人個人を「6ヶ月以上の期間、ベトナムでの居住を許可された者」と定めています。TRCは通常2年程度で発給されるため、保有していればこの要件は自動的に満たされます。

実務でこの条文を意識する場面がほとんどないのはそのためですが、裏を返せば、TRCや長期ビザを求められる理由はここにあります。なお弊社が確認している範囲では、預入期間はTRC・長期ビザの期限までが上限として扱われています。これは条文上の定めではなく、銀行実務としての運用です。
| 種類 | 根拠法令 | 外国人の居住資格要件 |
|---|---|---|
| 決済口座(普通口座) | 通達17/2024(25/2025改正) | なし パスポート+ビザまたはビザ免除証明 |
| 定期預金 | 通達49/2018 第3条 | あり 6ヶ月以上の居住許可 |
銀行によっては警察発行の居住証明も必要になる
さらに、ホテルやアパートが窓口となり取得する公安(警察)発行の居住証明の提出を求める銀行もあります。これは部屋の貸主や管理会社の協力が前提になるため、賃貸契約の段階で対応可否を確認しておくと後で困りません。ホテル滞在の場合、海外の宿泊予約サイトを経由した予約では取得できないことがあるため、滞在先で証明を出してもらえるか事前に確認しておくと確実です。
TRCを取得してもベトナムドン現金預入は不可
ベトナムドン現金の預け入れができない理由
TRCを取っても解決しない例外が一つあります。ベトナムドン現金の預け入れです。弊社が確認している範囲では、TRC取得後も、窓口に現金を持ち込んで自分の口座へ入金することは、一部の銀行を除いて受け付けられていません。
外為管理の通達16/2014/TT-NHNN第7条は、外国人のVND口座に「入金」できるものを「外貨売却代金、物品・サービス提供による振込収入、給与・賞与・手当、その他の合法的なVND収入」と列挙しています。一方、「出金」できるものは「ベトナム国内での支出のための支払いまたは現金引き出し」と記載しています。
入金側に「現金」という文言がないことが、銀行が現金を断る一因だと考えられます。また、一部の銀行が応じているのは、資金の出所を確認したうえで「その他の合法的なVND収入」として処理しているためと推測されます。
もちろん、銀行側も手間がかかるのであまりやりたがらない、ということもあるとは思います。なお同じ通達でも、外貨については税関確認を条件に条文上は認められていますが、国外から持ち込んで税関の確認を受けた現金に限られます。入金経路が国外からの送金か国内の他口座からの送金に絞られる以上、手元のドン紙幣を口座に戻せない前提で資金の流れを設計する必要があります。
| 項目 | パスポートのみ | TRC・長期ビザあり |
|---|---|---|
| 決済口座(ドン・外貨) | 一部の銀行で可 | 可 |
| ネットバンキング・QR決済 | 一部の銀行で可 | 可 |
| 国内送金・着金 | 一部の銀行で可 | 可 |
| 現金引き出し(店頭窓口) | 一部の銀行で可 | 可 |
| デビットカード | 不可 | 可 |
| 定期預金 | 不可 | 可 |
| ベトナムドン現金の預け入れ | 不可 | 原則不可(一部の銀行を除く) |

ベトナムの定期預金金利と税務上の取り扱い
ベトナムの定期預金金利水準(2026年8月時点)
2026年8月時点で、6ヶ月定期の金利は主要行で年7%を超える水準にあります。一般的なオンライン預金で6%台後半、預金証書で7%台半ば、預入額や商品条件によっては8~9%に達するものもあります。過去6年を振り返ると、この水準はおおむね4~10%の範囲で推移してきました。金利は動くため、実際の預入時には必ず最新の提示レートを確認してください。
個人の預金利息は非課税、法人は課税対象になる
個人がベトナムの銀行から受け取る預金利息には、個人所得税がかかりません。表示された金利がそのまま手取りになります。日本の預金利息が源泉徴収される点と比べると、実質的な差はさらに大きくなります。
ただし法人は別です。法人が受け取る預金利息は益金に算入され、法人税の課税対象になります。現地法人の余剰資金を定期預金で運用する場合、この違いが前提になります。
| 対象 | 預金利息の課税 |
|---|---|
| 個人 | 個人所得税の対象外 |
| 法人 | 益金算入、法人税の対象 |
渡航前に決めておくべき口座開設戦略と送金方法
口座開設の可否は、在留資格そのものより、どの銀行のどの窓口に行くかで決まる部分が大きいのが実情です。滞在日数が限られている場合、当たった窓口で断られた時点で予定が崩れます。
短期滞在で決済口座だけ作るのか、TRC取得後にカードと定期預金まで含めて揃えるのか。この二つは手順も必要書類も別物です。渡航前にどちらを目指すかを決めておけば、当地での動き方が変わります。あわせて、資金の入れ方も決めておく必要があります。

EACH VIET NAM Co., Ltd 共同代表
川崎 大輔
DAISUKE KAWASAKI
一橋大学商学部卒業後、外資メーカー、投資顧問会社、自動車メーカーにて、会計、事業計画、財務分析、企業価値評価、税務、子会社管理、投資管理業務に従事。在職中に米国公認会計士試験および日本証券アナリスト協会検定試験に合格。
2020年以降はベトナムにて、日系企業向けの会社設立、許認可、バックオフィス運用、法務関連実務、現地法人管理を支援。支援実績は100件以上。
2024年、EACH VIET NAM Co., Ltd.を設立。会計・税務のライセンスを自社で保有し、進出前の検討段階から撤退局面まで日本語で対応している。
Webサイト https://eachvn.com/
