ベトナムの店頭販促において、特に重要な役割を果たしているのが「プロモーターによる対面接客」と「テストマーケティングの実施」だ。実店舗では、商品を直接おすすめするプロモーター(販売員)の配置が非常に効果的で、サンプリングやデモンストレーション販売を通じて商品の魅力を直接伝えることで、購買につながりやすい環境をつくることができる。
加えて、日系商業施設ではポップアップストアなどを数週間から開催できる支援サービスも存在しており、本格展開の前に店頭販促の反応を見るテストマーケティングとして活用する企業が増えている。
しかし、ベトナムに進出した日系企業の多くは、思わぬところでつまずく。それは商品そのものではなく、「店頭」という現場だ。棚割りの徹底やPOPの維持、販売スタッフの定着といった、日本の小売現場では当たり前に機能している仕組みが、ベトナムでは思うように機能しないケースが少なくないという。

こうしたベトナム市場での課題に対して、営業・販売人材の派遣や店頭プロモーションを通じたソリューションを提供しているのが、ファッション・コスメ業界に特化したワールド・モード・ホールディングス株式会社(WMH)だ。同社は2020年にベトナム大手人材会社People Link社をグループ傘下に収め、現地での店頭支援体制を強化してきた。今回、WMHの執行役員 営業統括部部長・松本眞人氏に取材を行い、ベトナムにおける店頭戦略の基礎と、その中核を担う「フィールドマーチャンダイジング(FMD)」という考え方について聞いた。
なぜベトナムで店頭販促が重視されるのか
ベトナムでは対面接客が効果的である理由
ベトナムの小売市場は、伝統的市場や個人商店を中心とした「トラディショナルトレード(伝統小売)」から、スーパーやコンビニといった「モダントレード(現代小売)」へと移行する過渡期にある。棚に商品を並べるだけでは埋没しやすく、対面での説明や試飲・試食を通じて「知らないブランドを知ってもらう」プロセスが今なお重要な役割を果たしているのは、この移行期特有の事情だ。

口コミ重視の消費行動とコスト面の強み
ベトナムの消費者は人間関係や口コミを重視する傾向が強く、店員からの直接的な声かけが購買の後押しになりやすい。人件費が相対的に低く、販売人材を活用する費用対効果が日本などと比べて高いことも、店頭に力を入れる実務的な理由になっている。こうした背景から、「店頭」はベトナムでビジネスを伸ばすうえで避けて通れない側面となっている。
日本の小売現場では、棚割りの指示や販促物の設置ルールが本部主導で徹底されやすく、契約に基づいた運用が比較的安定している。一方でベトナムでは、棚割りの自由度が高く、契約慣行も日本ほど厳密ではないケースが多い。

「店頭販促」フィールドマーチャンダイジングとは?
フィールドマーチャンダイジング(FMD)とは、店頭における陳列の最適化・欠品対応・POPの設置・売り場スタッフへの働きかけなどを通じて、実際の売上につなげていく一連の活動を指す。松本氏は、「小売にとって大事なのは売上を作るための仕組み」だとし、同社が持つのは売上を作るためのノウハウを備えた人材、あるいはそうした人材をトレーニングして現場に送り込める体制だと説明する。
対面接客・プロモーションによる販促手法
具体的な売上施策は大きく二つの軸で語られた。一つ目は、エンドユーザーに直接商品の良さを伝える接客・サービス面のノウハウ。もう一つは、店頭でのプロモーション(PR)面だ。特にベトナムでは、デジタルではなく対面でのPRを兼ねた人材事業になっている側面が強く、チームを組んで週末などに店頭で陳列・補充やプロモーションを行いながら、接客もあわせて実施するスタイルが取られている。

プロモーションを担うPG・PBという存在
ベトナムでは、こうした店頭で商品を勧める販売スタッフを「PG(Promotion Girl)」「PB(Promotion Boy)」と呼ぶのが最も一般的で、業界用語としても定着している。ビールや飲料業界では特に歴史が長く、レストランや路上の飲み屋で特定ブランドを勧める店頭スタッフは「プロモーションスタッフ」として知られてきた。
より大規模なイベント系の人材は「キャンペーンスタッフ」等とも呼ばれ、食品や携帯キャリアの新製品発表などでも活用される。モダントレードの拡大に伴い、こうした店頭プロモーションは試食・試飲を組み合わせた体験型施策や、QRコードによるクーポン配布、SNS連動型キャンペーンなど、デジタルとの融合が進んだ「ショッパーマーケティング」へと洗練されつつあるという。
売れる売り場を作るMD・VMDの視点
さらに松本氏は「MD(マーチャンダイジング)面」の重要性にも言及した。どういう商品がどのように売れているかをレポートしながら、売れ行きの良い商品にはしっかりと在庫(奥行き)を持たせ、需要に応じて在庫配分を最適化していく。また、店頭でどう商品を見せるかという売り場づくりの工夫も、同社が専門性を持つ強みの一つだと語られた。

陳列を維持する常駐スタッフの役割
FMDの実務を支えるうえで欠かせないのが、派遣スタッフが売り場に常駐し、棚割りに沿った陳列が維持されているかを確認しながら在庫の補充状況をチェックしていく体制だ。
こうした定期的な巡回によるチェック体制は、陳列や在庫の状態を安定させるうえで重要な役割を果たしていると松本氏は語る。自社でこうした巡回リソースを持たなくても、現地の消費動向に合わせた効率的な売り場づくりを外部パートナーに委ねられる点は、日系企業にとって大きな利点になるといえそうだ。
なぜベトナムでFMDが特に重要なのか?
日本の常識が効かない店頭運用の現地事情
ベトナムでFMDが重要視される背景には、販売スタッフの流動性の高さ、言語や商習慣の壁など複数の要因が重なっている。本社の感覚のまま進出し、日本と同じ運用が現地でも機能すると考えてしまうと、思うように売上が積み上がらないという失敗パターンに陥りやすい。モダントレードの拡大が進み、スーパーやコンビニ、ショッピングモールといった近代的な売り場が増えるほど、常駐スタッフによる陳列維持の重要性はますます高まっていると言える。

テストマーケティングで見極める店頭の反応
「今まだ若干手探りな感じの会社が多い」というのが松本氏の実感だという。背景には、ベトナムに関するリアルな情報がまだ少ないという業界全体の状況がある。比較的多く入ってきている問い合わせは、雑貨系や、ジュエリー・アクセサリー系が中心で、ファッション(アパレル)そのものよりも動きがある印象だという。
相談のフェーズについても、いきなり本格出店というよりも、一定期間試してみる「テストマーケティング」的な相談が多いとのことだ。実際、日系商業施設ではポップアップストアなどを数週間から開催できる支援サービスも存在しており、本格展開前に店頭販促の反応を見るテストマーケティングとして活用する企業が増えているという。同社が強みとする小売・消費財向け営業販売人材は、まさにこうしたニーズと相性が良い。

アジア各国とベトナムの店頭販促比較
問い合わせ動向から見る各国の優先度
WMHは、東南アジアの中でファッション領域における相談・問い合わせの多い国・地域として、台湾・タイ、そして一時は中国・香港が上位だったが中国は最近減っており、代わって韓国が増えてきていると説明する。
マレーシアも同程度に増えてきている感覚があるという。人口規模などの観点からはマレーシアよりベトナムの方が優先度が高いと考える企業が多いものの、前述の法規制や独特の商習慣がネックとなり、参入障壁が比較的ライトなマレーシアの方が進出しやすいと見る企業も多いとのことだ。
ベトナムについては、観光産業への依存度が高いタイやシンガポールとは異なり、「マレーシアと近い位置づけ」でありながら「きちんと内需がある国」という認識が示された。市場としては経済発展とともに段階的にファッション需要が育っていく段階にあるという見立てだ。
ベトナムで店頭戦略を成功させるために
以上を踏まえると、ベトナムで店頭戦略を成功させるためには、日本と同じ前提を持ち込まず、現地の商習慣や人材の流動性を織り込んだ運用設計が欠かせない。棚割りやPOPの管理を継続的にモニタリングできる体制を持つこと、接客・PR・MDという複数の機能を一体として設計すること、そして本格出店の前にテストマーケティングを通じて市場の反応を見極めることが、遠回りに見えて着実な進出につながる。
こうした売り場常駐の仕組みを外部パートナーに委ねることで、自社のリソースを割かずに、現地の消費動向に合わせた効率的な売り場づくりを実現できる点も見逃せない。
良い合弁・提携パートナーを探すことも重要な選択肢の一つだが、それが見つかるまでの間、現地の販売人材やノウハウを持つパートナーと組んで店頭の最前線を固めていくことも、有効な打ち手になりそうだ。

ワールド・モード・ホールディングス株式会社
WORLD MODE HOLDINGS
ベトナムにおいて主に小売・ファッション・コスメ業界向けの人材派遣、研修事業、労務アウトソーシングを展開。
ホーチミン高島屋などでの最短2週間のポップアップストア出店・運営サポートや、現地での市場進出支援も行う。
