蒸し暑い休日にひと息つきたい時や、旅先の記憶を懐かしむ時に。そんな気分に応えてくれる一杯として、ベトナム産のヤングココナッツが今、日本の暮らしにじわじわと溶け込み始めている。日本が輸入するココナッツの実に8割以上がベトナム産という事実は、意外と知られていない。
かつては東南アジア旅行の思い出やリゾートの一杯だったこの果実は今、都内の銭湯とのコラボやビアガーデン・レストランの限定メニューといった形で、新しいタッチポイントを広げつつある。株式会社ドールへの取材をもとに、ベトナム産ヤングココナッツが日本にたどり着くまでの道のりと、その先に広がる新しい消費のかたちを追った。
(取材協力)

取材協力
株式会社ドール
事業内容:青果物の生産、加工、販売及びマーケティング活動
ストローをさすだけで手軽に楽しめ、すっきりとした甘みと、ほんのりコクのあるまろやかな味わいのベトナム産ココナッツを展開。
世界有数のココナッツ産地としてのベトナム
世界生産量に見るベトナムの立ち位置
ココナッツの生産地は、赤道を挟んで南北約25度以内に広がる「ココナッツベルト」と呼ばれる地帯にほぼ集中している。栽培には平均気温25〜27℃、年間日照時間2,000時間以上、年間降雨量1,500〜2,500mlという条件が必要で、この気候帯を外れると実をつけること自体が難しい。
2023年の世界生産量は約6,467万トンにのぼり、インドネシア(28%)、フィリピン(23%)、インド(22%)の上位3か国だけで全体の7割以上を占める寡占的な構造だ。ベトナムのシェアは3%程度にとどまるが、この限られた栽培適地の一角に確かな足場を築いている産地といえる。

メコンデルタが育む「ココナッツの聖地」
ベトナム産ココナッツの主産地となっているのが、国土南西部に広がるメコンデルタ地域だ。メコン川が運ぶ栄養豊富な土壌、灌漑に恵まれた豊富な水資源、そして一年を通じて温暖な気候——ココナッツの生育に必要な条件を、この地域はそのまま満たしている。なかでもベンチェー省は「ココナッツの聖地」とも呼ばれ、周辺では稲作やエビ・魚の水産養殖と並ぶ基幹産業としてココナッツ栽培が根づいている。
今回取材したドールも、タイ・フィリピン・ベトナムという東南アジアの主要輸入元を比較検討したうえで、味わいの良さを決め手にベトナム産を選定したという。同社はもともと単品ごとの果実にこだわりを持って事業を展開してきたフルーツ専業メーカーであり、バナナやパイン、ドラゴンフルーツといった主力商品と並ぶ形でココナッツにも力を注いできた経緯がある。近年はフィリピンを軸としたバナナ・パインの自社産地に加え、ベトナムや台湾方面の商品にも力を入れており、ココナッツはそのなかでも重要な一品に位置づけられている。

ベトナムのヤシの木は、苗を植えてから約3年で実をつけ始め、その後30〜35年にわたって収穫が続く。1本の木から年間で約100個、房単位では雨期に10玉、乾季に4玉ほどが実る計算だ。追熟しない果物で、実の中にはココナッツウォーター(ココヤシ水)がたっぷりと入っている。熟すにつれてこの水分は胚乳へと姿を変えて量が減り、やがて身の厚い「オールドココナッツ」になっていく。胚乳からはココナッツミルクやココナッツオイルが採れ、栽培から加工まで無駄なく活用されているのも、この果実の特徴のひとつだ。

ベトナムの日常に息づくココナッツ文化
こうした生産地としての厚みは、そのままベトナム人の暮らしの風景にも直結している。南部ホーチミンの街を歩けば、屋台や飲食店の店先に緑色の実を山積みにした光景に出会うのは珍しくない。鉈で手早く切り込みを入れてストローを差すだけの生ココナッツジュースは、コーヒーやお茶と並ぶ定番の飲み物として親しまれており、路上には天秤棒やリアカーにココナッツを積んで売り歩く行商人の姿も見られる。蒸し暑い午後にひと息つく手段として、観光客向けの土産物というよりも、地元住民の暮らしに溶け込んだ日常的な飲料だ。
日本では非日常の演出として提案されているヤングココナッツだが、生産国であるベトナムでは、木からもぎたてをそのまま冷やさずに飲める身近な果実として、ごく当たり前に日常に溶け込んでいる。

なぜ増える?ベトナム産ココナッツ輸入
輸入の8割超を占めるベトナム産
日本が輸入するココナッツの実に84.8%(2023年)がベトナム産だ。次いでタイが14.3%を占め、この2か国でほぼ市場を占有している。世界生産量で見ればベトナムは3%程度にすぎないが、日本市場に限れば圧倒的な存在感を放っている。その理由は明快で、輸送距離の近さと確立された物流オペレーション、そして関税の低さにある。
ドールへの取材でも、ベトナムから日本への海上輸送はわずか7〜9日ほどで、メキシコやペルーなど中南米産地からの3〜4週間と比べて地理的な近さがそのまま鮮度の強みになっているという指摘があった。マンゴーやパパイヤといった熱帯果実の多くは植物防疫上、日本への持ち込みに熱処理が必須となるが、ココナッツにはその制約がないことも、輸入のしやすさを後押ししている。
輸入量の推移を見ると、2014年にはわずか52トン(金額にして721.3万円)だったものが、2023年には1,856トン・2億6,007万円まで拡大した。特に2021年前後からの伸びは急激で、この年は1,900トン・2億6,324万円と過去最高を記録している。背景にあるのは、ベトナム農業農村開発省が「2030年までに主要な現金作物を開発するプロジェクト」にココナッツを新たに加えたことと、ベトナムココナッツ協会が中国・日本・EU向けの輸出促進に本腰を入れ始めたことだ。生産国側の戦略的な後押しと、消費国側の物流・コスト面での好条件が重なり合い、ベトナム産ココナッツは着実に日本の食卓や店頭に流通量を増やしてきた。

需要を支える在日ベトナム人コミュニティ
興味深いのは、これがベトナム産フルーツ全体の輸入拡大という、より大きな流れの一部でもある点だ。例えばベトナム産マンゴーは日本の輸入数量国別で2位につけているものの、量販店の店頭ではタイ産やメキシコ産のマンゴーを見かけることの方が多い。実際には在日ベトナム人や中国人コミュニティ向けのミニショップを通じて流通しているとみられ、2021年にはコロナ禍で帰国できなかった在日ベトナム人・中国人による自国商品消費の高まりを背景に、輸入量が急増したのではないかと推測される。
こうした動きの土台にあるのが、在日ベトナム人人口そのものの急拡大だ。2025年末時点で、国籍別在留者数はベトナムが約68万人にのぼり、フィリピン(約35.6万人)や韓国(約40.7万人)を上回って、中国(約93万人)に次ぐ第2位の規模となっている。工場労働者の多い静岡・愛知や北関東エリアでは、こうした需要の高まりがとりわけ顕著だ。ヤングココナッツの輸入急増は、単なる一商品のヒットにとどまらず、ベトナムと日本の結びつきが年々深まっているという、より広い文脈の中に位置づけて見ることができる。

ベトナム産ヤングココナッツの製造工程
手作業で仕上げる収穫とカット工程
収穫から店頭に並ぶまでの工程には、意外なほどの手間がかかっている。開花から8〜9ヶ月で収穫可能となった実は、木に登って房ごと丁寧に切り落とされる。地面に落とすことはご法度で、集荷場に運ばれた実はまず皮がカットされ、円錐形に磨き上げられる。
ここからが職人技の見せどころだ。ココナッツには「発芽孔」と呼ばれる目が3つあり、そのうち1つだけが柔らかくなっている。パッキングセンターでは、その柔らかい目のギリギリのラインまで手作業で皮を削っていく。削りすぎれば穴が空いてしまい、逆に削りが足りなければストローが通らない——熟練スタッフの技術が問われる工程だ。
現地では大きなココナッツを鉈で割ってストローを刺すのが一般的な飲み方だが、ドールはあえてこれだけの手間をかけ、小さく可愛らしい形状に仕上げることで差別化を図っている。輸送中に傷みやすい柔らかい部分をあえて仕上げの最終段階まで多めに残しておくといった配慮も、品質を保つための工夫のひとつだ。
乾燥・エイジングが支える品質管理

削り終えた実はラックの上で2日間ほど乾燥させる。現地では「エイジング(Aging)」とも呼ばれるこの工程を経ることで、内部にヒビや割れといった品質不良があれば表面に現れてくるため、出荷前のふるいの役割を果たす。
同時にココナッツウォーターが熟成され、風味が増す効果もあるといわれている。目を削るラインの見極めと、乾燥によるエイジング——この2つの手間を実践しているサプライヤーは決して多くない。実際、業界に例のない「推奨消費期限」を独自に商品へ表示しているのもドールならではの取り組みで、皮を薄く剥いているぶん要冷蔵・低温管理が欠かせず、収穫から日本の店頭に並ぶまで一貫して2〜3℃の低温帯で管理されている。
日本の日常に浸透するベトナム産ココナッツ
サウナや外食シーンで広がる新たな接点
かつては東南アジア旅行のお土産やリゾートホテルの一杯だったヤングココナッツが、今では思いがけない場所で日本の日常に溶け込み始めている。
象徴的なのが、都内の人気銭湯とコラボレーションした「Coconutの湯」だ。サウナや銭湯という非日常の空間は、ドールが「南国気分」を訴求する場として選んだ舞台であり、湯上がりに冷えたヤングココナッツで喉を潤す——そんな新しい体験の提案になっている。

外食・小売の現場でも広がりは着実だ。2025年7月には、二子玉川ライズで開催されたビアテラスでは数量限定メニューとして販売された。また、2026年7月からはレストランチェーンのシズラーでも夏季限定メニューとして登場している。こうしてヤングココナッツは、既存のフルーツ売り場を飛び越え、非日常的な体験の一部として消費者と出会う機会を増やしている。
この背景には、単品としての訴求力の弱さをどう補うかという課題意識がある。ドールのマーケティングチームは、グローバルボーイズグループ・JO1のメンバーを起用した「バナナ番長」のような企画も含め、若年層の果物離れ・スーパー離れが進むなかで、非日常的な場を新しいタッチポイントとして活用する発想に力を入れている。
実際、同社が実施した消費者調査でも購入意欲がもっとも高いのは20代女性という結果が出ており、「休日に南国気分を感じたい時」に飲みたいという回答が25.8%ともっとも多かった。革新的な商品をラインナップに加えることで若い女性ユーザーの獲得につなげたいという狙いが、こうした販路選びにも表れている。
ベトナム産ココナッツが運ぶ南国気分
お土産やリゾートの記憶として消費されてきたヤングココナッツは今、銭湯やビアガーデン、レストランのメニューを介して、日々の暮らしにそっと寄り添うフルーツへと役割を広げつつある。

左より、桜新町店、新宿東宝ビル店、東京国際フォーラム店。
※桜新町店では販売を終了いたしました。 ※桜新町店以外の店舗では9月23日(水)までの販売を予定しております。
その背景には、日本の果物消費量が全体として減少傾向にあり、支え手であるシニア層に対して若年層ほど果物離れが進んでいるという構造的な課題がある。
国内農家の高齢化(平均年齢67歳前後)も相まって、量販店における果物構成比は現在の輸入40〜45%程度から、将来的には50〜60%まで輸入比率が高まる可能性があるとドールは見ている。こうした市場全体の変化のなかで、非日常の場を切り口に新しい世代とのタッチポイントを模索する工夫が、ヤングココナッツというひとつの商品を通じて具体化されている。
仕事帰りのひとときや、ふとした気分転換の瞬間に、ストローを一本差すだけで味わえる南国気分。かつて旅先でしか出会えなかった体験が、今では自宅の冷蔵庫や近所の銭湯、行きつけの飲食店で手に入るようになった。ベトナム産ヤングココナッツは、そんな「小さなベトナムへのトリップ」を日常の中に運んでくる存在になりつつある。ぜひ日本にいながら、気軽にこの南国の味を楽しんでみてはいかがだろうか。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長
三浦 賢弥
KENYA MIURA
山形県山形市出身。筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。
ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。
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