宮城県石巻市に本社を置くニイヌマが、ベトナム北西部のディエンビエン省で日本式スマート施設園芸の実証事業を進めている。経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」に採択された取り組みであり、事業主体はニイヌマ株式会社、共同実施者が現地法人のNIINUMA TOMOFARM(以下、Tomofarm)、そして協力会社としてNTTアグリテクノロジーが参画する体制をとる。
狙いは、ベトナム農業の大半を占める中小規模農家の収益性を、遠隔支援という手法で引き上げることにある。ただし取材を通じて浮かび上がったのは、栽培技術そのものに加え、「作ったものをどこに売るか」という販路の論点でもあった。ニイヌマベトナム/Tomofarm代表取締役の箕輪佑耶氏と、株式会社NTTアグリテクノロジーの緒方勇理氏に話を聞いた。
(お話を伺った方)

NIINUMA TOMOFARM COMPANY LIMITED 代表取締役
箕輪 佑耶
YUYA MINOWA
衆議院議員国会事務所で勤務したのち2013年ニイヌマ株式会社に入社。国内営業を経て2020年にニイヌマトモファーム(ベトナム)を設立し代表に就任。
高糖度フルーツトマト栽培を中心とした農業事業を行っており、施設園芸によるスマート農業技術との掛け合わせでの生産性向上や収穫量増加による農業事業の収益拡大、高付加価値な野菜生産を目指し、日本・ベトナム双方の企業・行政と連携し、データ活用した日本の農業技術・ノウハウの海外展開を推進。

株式会社NTTアグリテクノロジー
マーケティング統括本部 セールスソリューション部
兼NTT東日本(株) 営業戦略推進部
緒方 勇理
YURI OGATA
ニイヌマグループの事業構成とベトナム進出の経緯
金物卸からLED・太陽光へ広がった事業領域
ニイヌマグループの出発点は、建設資材・土木資材・金物等の卸売業である。そこから2002年にバリアフリー向けの住宅改修工事とデイサービスを手がける福祉事業へ、2009年にはLED照明「クレア」の開発・販売へと事業領域を広げてきた。
2014年には宮城県内に1.8MWの太陽光発電所を保有し、東北電力への売電を開始している。地域の建設・住宅インフラを支える事業者が、エネルギーと電気設備の領域へ段階的に軸足を伸ばしてきた格好だ。

海外事業の開始は2016年。LED照明の輸出・販売に加え、交通データビジネスやスマート農業事業の企画・展開に取り組んでいる。ベトナムでは2019年に100%出資子会社のNIINUMA VIETNAM CO., LTD.を設立し、工場・オフィス向けのLED照明器具や太陽光発電システムの販売・施工、センシングデバイスの販売、スマートランドリー事業、電気・通信工事事業を手がける。
続く2020年には約50.2%出資でNIINUMA TOMOFARM CO., LTDを設立し、トマト・なす・水菜などの栽培・販売と、農業技術研究、食品トレーディング事業を担わせた。ニイヌマ自身も日本国内で高糖度トマトの栽培に取り組んできた経緯があり、農業は海外で始めた新規事業というわけではない。
タイでもインドネシアでもなくベトナムを選んだ理由
箕輪氏は、タイ、ベトナム、インドネシアなど東南アジア各国を実際に回った上でベトナムを選んだと語る。判断の第一の理由は、100%子会社の設立がしやすいという制度面の条件だった。
第二に挙げたのが、市場としての成熟度の違いである。「タイは経済成長が進む一方で、日系企業の仕事という観点では現地化がかなり進んでいる。その点ベトナムはまだ日本企業の仕事が多く、これからの余地がある」。事業投資を行って腰を据えて展開していく先として、ベトナムが最も適していると判断したという。
地方部で繰り返し聞いた「農業をどうにかしたい」
数ある事業機会のなかで農業を選んだ理由について、箕輪氏はベトナム農業が抱える構造の特徴を挙げる。「ベトナムは農業が非常に盛んで食料自給率も高い。ところが、付加価値の高い製品がまったく作られていない」。生産量は十分にありながら、単価の高い商品が市場に出てこない。そこに事業機会があると見た。
もう一つの契機は、太陽光や照明の事業で地方部に足を運ぶ機会が多かったことだ。訪問先の関係者が口を揃えて「農業をどうにかしたい」と語ることから、現地に強い問題意識があると感じたという。実際、ディエンビエン省での太陽光・蓄電施設の実証から関係が始まり、同省側からスマート農業の相談が寄せられたという経緯もある。
「省内の事業で現場に行けば、必ず農業関係者が出てくる。土産物や物産もほとんどが農産物で、地方部の収入源は基本的に農業だ。農業をどうにかしたいという意識は、行政側にも非常に強い」。加えて、ベトナム北部の地方部は一戸あたりの保有面積が小さく大規模農業が成立しにくいことから、日本の技術が活きる余地があると考えた。

ベトナム北部の農業が抱える収益性と品質の課題
市場とブローカーが価格を規定する販路の仕組み
ベトナム北部の農業は、収益性・所得・品質のいずれにも改善の余地を残している。では、その根本にあるのは何か。箕輪氏の答えは明快で、販路構造に起因するというものだった。
「日本では農協がそれなりの価格で買い取るなど、課題はあるにせよ一定のサプライチェーンが構築されている。ベトナムでは、販路の最初に来るのが市場(いちば)だ」。作ったものはとりあえず全量を市場に納める流れになっており、そこへ納品するディーラーやブローカーは、品質を問わず極めて安い価格で買い取って市場へデリバリーする。
品質を上げても価格に反映されないのであれば、生産者が付加価値の高い作物に投資する合理性は生まれない。ここに、生産力がありながら高付加価値品が育たない構造がある。
さらに箕輪氏は、「皆で同じものを作り、同じ価格で共有する」という発想が根強く残っている点も挙げる。自ら価値あるものを作り、独自に販路を開拓して展開していくという動きは、まだ限定的だという。

一戸あたり0.44ヘクタールという零細な耕作規模
この販路構造は、経営規模の小ささと結びついている。ベトナムでは農業従事者が就業人口の41.9%を占める一方、農業のGDPシェアは11%にとどまる。農家一戸あたりの平均耕作面積は0.44ヘクタールで、紅河デルタでは97%が0.5ヘクタール未満だ。一戸ごとの生産量が限られるため、個別に販路を開拓する交渉力を持ちにくく、結果として市場への一括納品に依存する。
大規模経営が成立しているのは一部の大企業に限られ、その多くは韓国や欧州の技術を導入している。地方部で大規模農園を成立させようとすれば土地の開墾が必要になり、土砂崩れや洪水といった自然災害のリスクも避けられない。
中小規模農家が大規模化によって収益を改善する道は、現実的には開かれていない。だからこそニイヌマは、小さい土地でも導入できる環境配慮型の小規模ハウスと、遠隔栽培指導を組み合わせることで高付加価値生産を実現するという方向を選択したという。

栽培知識の蓄積が課題となるローカル農家の現状
もう一つ、現場に入って初めて見えた論点がある。ローカル農家における栽培知識の蓄積だ。箕輪氏は、農家の多くが農業を体系的に学ぶ機会を持たないまま、両親から教わった方法で営んでいるケースが多いと指摘する。
「ビニールハウスをしっかり建てている農家も多い。ただ、病気対策ができていない」。病気が発生しても対処の手立てがなく、そのままにするか、作物ごと切り替えてしまう。本来であれば半年から1年収穫できる野菜を、2〜3か月で切り上げてローテーションで回している例が少なくないという。
生産コストが回収しきれないまま次の作付けに移る形になり、収益が積み上がりにくい。「当初想定していた問題意識よりも、さらに手前の段階に課題がある。同時進行で進めてはいるが、その手前の課題感が大きい」。データ取得と栽培指導によって無駄なコストを削減し、生産性を上げる余地は、この点にこそあるというのが現時点の実感だ。
Tomofarmが実装する日本式スマート農業
日本品種の正規調達と精密な栽培管理という二本柱
ディエンビエン省の事業に先立ち、Tomofarmはすでにベトナムで日本式の農業を営んでいた。緒方氏によれば、その前段としてNTTアグリテクノロジーと協力企業がTomofarmの農場に技術を提供し、日本式の農業によって生産性を高める実証を行っていたという。ツールを含めて日本式農業が徐々に現地法人側にインストールされ、それをベトナム国内で横展開する契機を探していたことが、今回の事業につながった。
では「日本式の農業」とは具体的に何を指すのか。緒方氏はこれを2点に整理する。第一に、日本の品種を正しいルートから選定して使うこと。今回はフルーツトマト(高糖度トマト)の品種を日本の種苗会社から正規購入して栽培している。
第二に、より重要な点として栽培技術がある。環境制御と、それをどう使っていくかという技術について専門家から遠隔で支援を受けることを含め、日本式の丁寧で精密な栽培管理を徹底する。この二つを合わせて実現するのが、「日本式のスマート農業経営」だという。

環境制御で季節に左右されない生産を実現する
ハウス内外のセンシングやCO2センサーの活用について尋ねると、緒方氏は測定そのものより、その先を強調した。「センサーを置くだけでなく、そのデータを踏まえてどう栽培するかが重要。そこを日本の専門家が指導しながら進める点が肝になる」。設備を導入すれば成果が出るのではなく、取得したデータを栽培判断に翻訳する工程に価値があるという理解だ。
経営面での効果について、箕輪氏は二つを挙げた。一つは環境制御により季節に依存せず栽培できること。もう一つは、小さい面積で多くの収穫量を確保できることだ。耕作面積が限られる北部の中小規模農家にとって、この二点は収益構造に直接効く。
なお緒方氏は、ベトナムにスマート農業がまったく存在しないわけではないと補足する。大手の農業法人は相当なスマート化を進めている。ただしそれはレアケースであり、ベトナム農業の大半を占める中小規模農家は、雨除けのハウスを設置するのみで環境制御は行わないというのが一般的な状況だという。今回導入したハウスも日本では特別なものではなく、日本で一般的に使われている設備を、現地で調達しやすい部材と組み合わせて組み上げたものだ。

なぜフルーツトマトだったのか、作物選定の視点
葉物など他の選択肢もあるなかで、なぜトマトなのか。箕輪氏の答えは販売側の視点からのものだった。NTTアグリテクノロジーと組む前から自社でトマトを手がけていたという前提に加え、「ベトナムのトマトと日本のトマトは味が明らかに違う。差別化しやすく、販売する側として明らかに違うものを出せる点がシンプルに大きい」。
一方、緒方氏は技術的な観点から補強する。トマトは施設園芸作物として、環境制御による品質と量のコントロールと相性が非常に良い作物の一つであり、スマート農業という観点からも有力な選択肢だという。また、米のような屋外作物では面積の確保が重要になるのに対し、トマトは比較的狭い面積で高密度化して収量を上げることを目指せる。耕作規模が小さいという北部の制約条件と、作物特性がかみ合っている。
トマト以外の展開も進む。現在はナス、キュウリ、ミズナなど多様な品目を試しており、15種類程度を検証中だ。季節野菜が多く、ナスは冬場に作りづらい一方、ホーチミンであれば通年栽培が可能など、立地によって条件が異なる。自社農園は北部にあるため、今年は冬場にハウスを加温してナスを作ることを計画している。「味の違いがあるもの、日本の種を使うことで差別化できるものに注力している」。マーケットが受け入れるかという販路面も併せて調べている段階だという。
NTTアグリテクノロジーと農研機構による遠隔支援
ディエンビエン省の実証拠点と経済産業省の補助金
今回の実証は「遠隔支援により高収益農業経営を普及展開するスマート農業経営モデル確立の実証事業」として、2025年9月にディエンビエン省で開始された。カウンターパートは同省人民委員会、省農業局、省普及センターの3機関である。
採択されたのは経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」で、新興・途上国市場の活性化と日本との経済連携強化を目的とする制度だ。ニイヌマは以前にも国際協力機構(JICA)の支援を活用し、ベトナム山間部集落に太陽光発電システムを導入して生活環境を改善する事業を手がけており、ディエンビエン省との関係はその延長線上にある。

実証拠点は2か所。ディエンビエン省農業普及センター内の360平方メートルのスマートハウスでは、葉かび病への耐病性が高い高糖度中玉トマト(タキイ種苗「フルティカ」)を栽培する。もう1か所は民間農家の720平方メートルのスマートハウスで、こちらはタイ原産のTAKU SEED「HYBRID TOMATO SPINEL 130」を用いる。公的機関と民間農家の双方で並行して検証する設計だ。
Tomofarm自体の農園は、クアンガイ省のMang Den Farm(1500平方メートルのビニールハウスを賃借)と、ラオカイ省のVan Chan Farm(4.6ヘクタール、標高600メートル程度)に展開している。後者はバンチャン県人民委員会と連携し、地域の農業発展を目的として運営されている。
現地農園から専門家までをつなぐ二段構えの体制
遠隔支援の体制について、緒方氏は二段構えだと説明する。まず現地に設置したセンサーのデータを遠隔から参照できる環境を、NTTアグリテクノロジーの自社システムを通じて構築する。その上で、ディエンビエン省の農場をTomofarmが遠隔から確認する。さらにそのTomofarmに対して、日本の農研機構の専門家が栽培指導を行う。関係者全員が同じデータを見ながら進める形だ。
この構造の意味は、技術移転の経路にある。日本の専門家が現地農家を直接指導する形であれば、事業が終われば指導も終わる。間にベトナム法人を挟むことで、現地側に栽培判断の能力が蓄積され、横展開の担い手が育つ。遠隔支援という言葉が指しているのは、距離を越えた指導だけでなく、指導する側を現地に作る設計でもある。

週1回30分の定例会議が支える遠隔栽培指導
具体的な運用は、環境センサーによるデータ取得、環境制御システムを活用したスマートハウスの遠隔自動環境制御、遠隔栽培指導と定例会議、ネットワークカメラ等による遠隔監視、そして動画マニュアルによる栽培・経営ノウハウの伝達という5つの柱で構成される。定例ミーティングは毎週水曜日に30分間、Tomofarm、ディエンビエン省、農研機構の三者で実施されている。
導入設備は、環境データの取得・分析システム、各種センサーとカメラ、冷却装置(パッド&ファン)、遮光カーテン・シート、灌水システム、SaaS型の栽培マニュアルなど多岐にわたる。いずれも日本の施設園芸では標準的な構成だが、これらを現地調達可能な部材と組み合わせ、中小規模農家が導入できる価格帯とサイズに落とし込んでいる点が実証の要点である。

高付加価値の農産物を阻むベトナムの販路の壁
市場とスーパーで大きく異なる品質基準のギャップ
環境制御によって高品質なトマトを安定的に生産できるようになれば、低収益構造は解決に向かうのか。この問いに対する箕輪氏の答えは、生産面と販売面を明確に切り分けるものだった。経営面のメリットは確かにある。しかし「それをどう売っていくかについては、国全体としてまだ発展途上だ」。自社は高く販売できているものの、販路自体がまだ少ないという。
最も苦労している点として箕輪氏が真っ先に挙げたのも販路だった。大きな販路となるスーパーマーケット自体がまだ多くないうえ、市場(いちば)とスーパーマーケットとでは求められる基準が大幅に異なる。
スーパーに展開しているのは大手企業に限られ、日本でいう大手水準の基準・品質が必ず求められる。一方、市場では品質がほとんど問われない。この落差の大きさが難しいところだという。現状の販路は中小規模・中堅のスーパーマーケットが中心だが、そのマーケット自体がまだ小さい。

量と品種のバラエティを同時に求められる現実
スケール化について尋ねると、箕輪氏は日系大手小売との具体的なやりとりを明かした。繰り返し求められているのは二点。量をしっかり確保してほしいという点と、品種を多種類作ってほしいという点である。「縦の量だけでなく、横幅のバラエティも重要だ。それがないと取り扱いできないと明確に言われている」。品質に加えて、量と種類が相当重要になるという。
この要請は、小売のオペレーション特性から見れば自然なものだ。棚を任せる以上、通年で一定量が安定供給される必要があり、単品だけでは売場が構成できない。将来的に輸出を視野に入れればコンテナ単位での輸送となるため、量の確保はいずれにせよ避けて通れない。生産技術の実証と並行して、作付け計画と品目構成という経営設計が問われる段階に入っている。
規模拡大の前提となる農家全体のレベルアップ
量とバラエティを一社で満たすのは難しい。だからこそ箕輪氏は、自社のレベルアップと同時に、他の農家自体のレベルアップが不可欠だと語る。「自社も上がらなければならないし、他の農家も上がらなければ、大規模に作って大規模に販売することは難しい」。
人材育成のフェーズについても、現在のコンセプトはまず自社社員の育成にあるが、それだけでは規模が大きくならないため、ローカル農家に対する栽培支援も並行して進めている。
前述の通り、現場の課題は病気対策のような基礎的な領域にまで及ぶ。この差分を埋めるのは容易ではないが、日本の技術とITを駆使したデータ取得と、しっかりした栽培指導を組み合わせれば、無駄なコストの削減と生産性向上につながるというのが箕輪氏の見通しである。

ベトナムの小売の未来とスマート農業の次の一手
市場は残りつつもスーパーへ置き換わっていく
高品質な農産物を作れるようになっても、それを売り切れるだけの近代小売が育つかは別の問題だ。この点について箕輪氏は、市場(いちば)はずっと残るだろうとしつつ、スーパーマーケットへの置き換わりは進んでいくと見る。衛生環境をめぐる報道が今も見られる状況にあり、環境面での改善余地は残されているという認識だ。
置き換わりを駆動する要因として箕輪氏が挙げるのは、所得向上に伴う意識の変化である。経済成長によって健康への意識や長生き志向が高まり、お金を使って健康になろうという方向に向かえば、食のあり方も変わる。とりわけベトナムを含む東南アジアは日本と比べて所得階層の幅が広いため、富が集中している層の購買行動が市場の方向性を左右するとの見方を示した。

近代小売の店舗数が示すベトナムの現在地
現況について、箕輪氏はホーチミンが相当変わってきているとの認識を示す。大手コンビニチェーンは多数の店舗を展開して生鮮品も一部取り扱っているが、店舗数の伸びはここにきて一服しているという。一方、日系大手小売はスーパー業態の出店目標を掲げ、店舗網の拡大を進めている。近代小売の拡大は着実に進んでいるものの、日常の買い物を置き換えるだけの密度には達していないというのが現在地だ。
箕輪氏自身の肌感覚としては、大型商業施設は遊び場やブランド出店という意味で特別な存在になっている一方、肉・魚・野菜がスーパーでも市場でも同じものが並んでいるのであれば、価格差の分だけスーパーに行く動機が弱まる。「サプライする企業がレベルアップしなければ、スーパーも成長しないはずだ。そこがベトナムではまだ追いついていない」。小売の成長とサプライヤーの成長は、切り離せない関係にある。
なぜ他のアジア諸国はスーパーを選ぶようになったか
取材の後半、箕輪氏からも論点が提起された。ベトナムでは食品の購入場所として依然として市場の比率が高く、スーパーマーケットの利用は相対的に少ない。一方、マレーシアやタイ、台湾などではスーパーマーケットでの購入が主流になっている。「なぜ彼らは市場ではなくスーパーを選ぶようになったのか。そこが非常に興味深い」。
この問いは、ベトナム進出を検討する日本企業にとっても実務的な意味を持つ。InfoBank編集部としての見立てを補足すれば、置き換わりを促す要素は複数あると考えている。市場(いちば)で買う習慣を持つ世代が若い世代に入れ替わればスーパーはより身近になる。路地裏や賃料の安い立地にも出店できるミニスーパー業態が増えれば、人の流れそのものが変わる。
加工食品を含めた品揃え全体としてのスーパーの魅力が高まり、生鮮食品も市場より便利だと受け止められるようになれば、浸透は加速する。実際、ベトナムのスーパーは野菜や果物については輸入品を含めて評価できる水準にある一方、魚や肉については鮮度面での受容がまだ途上にある。近代小売への置き換わりはほぼ自明の方向だが、これらの連鎖が同時に進まなければ、日常的な広がりにはもう少し時間がかかるだろう。

栽培指導とITの掛け合わせが収入向上の鍵になる
現在のフェーズについて、箕輪氏は実証事業としての性格を強調する。「グローバルサウス事業自体はさまざまな検証を行うものだ。100%確立された技術もあれば、新しい技術もある。栽培や新技術を研究すること自体が一つのフェーズだ」。
一定の成果が出た点と、課題が見えた点の双方を検証できたという意味で有意義であり、一定の評価はできるとした。一方で、そのまま実装するとなれば変更が必要な点も出てくるという。
今後の展望として箕輪氏が最も重要だと位置づけたのは、栽培指導によって収穫量を増やし、品質を担保することだ。日本の品種の種を使い、それをしっかりと栽培指導することが最大の肝であり、その栽培指導と付加価値向上に絶対に欠かせないのがITの技術だという。

「栽培指導だけでは意味がない。データや映像を駆使することで、より正確な指導ができる。そのために何をすべきか、どのソリューションを使うべきかという点にほぼ一点集中している」。
付加価値のある作物を作り、収穫量を担保し、しっかり販売できれば、農家の収入向上と安全性の向上につながる。ベトナム農業の構造的な課題に対し、大規模化ではなく遠隔支援という経路で挑むこの実証が、中小規模農家に届く形で横展開されるかどうか。その成否は、ベトナムの小売がどれだけ速く近代化するかという、もう一つの時計とも密接に結びついている。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長
三浦 賢弥
KENYA MIURA
筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。
ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。
お問い合わせ先は こちら
