ベトナムでの製造委託先探しや販路開拓に関心を持つ日本企業は多い一方で、取引の入り口で商慣習の違いに戸惑い、検討を早々に見送ってしまうケースも少なくない。
InfoBankでは、ベトナム企業専門のビジネスマッチングサービス「BizMatch(ビズマッチ)」を運営する株式会社ウォンズの代表取締役・二宮徳仁氏にインタビューを行った。日越双方の企業の間に立ってきた経験から見えてきた商慣習のギャップと、それを乗り越えるための考え方、取引を上手く進めるための前提づくりについて話を詳しく伺った。

ベトナム企業専門のマッチングサイト誕生の背景
――ウォンズの事業内容と、BizMatchを立ち上げた経緯、ベトナムを選んだ理由を教えてください。
ウォンズは愛媛県を拠点に、主に上場企業のお客様や取引先に向けて、IT分野に特化したBtoB事業とBtoBtoCサービスを展開しています。社名「WONS」は「World Office Network Service」の略で、国内のITサポート事業の基盤が整ったことを機に、世界の企業を繋ぐという創業時のビジョンに向けて海外へ舵を切りました。
2016年のマルタ短期留学とその後の世界各国の視察を経て、最初の進出先に選んだのがベトナムです。タイやフィリピンなどとも比較したうえで、日本企業の経営幹部が行き来しやすい距離にあること、文化や慣習が近い親日国であること、経済発展の伸びしろが大きいことに加え、若い世代がよく働くことも決め手となり、初めて海外取引に挑戦する企業にとって始めやすい国だと判断しました。
その後、ベトナムに進出したばかりの日本企業で約3年間、新規事業の立ち上げに携わって経験を積み、2020年1月にウォンズベトナムを設立しました。
直後にコロナ禍に入り、厳しいロックダウンが続くなかで、できることとして始めたのがベトナム企業専門の情報発信サイトBizMatchです。当時はベトナム企業に特化した詳細な情報サイトがなかったため、コールセンター方式で企業の選定調査や聞き取り調査を行い、データベース化しながら掲載企業を増やしてきました。
BizMatchの目的は、ハノイ、ホーチミン、ダナンをはじめとする主要都市で日本企業との取引を希望する企業を広く知っていただき、海外展開を検討する日本企業の足がかりをつくることです。日本企業のグローバル展開に伴走しながら、私たち自身も知見を蓄積し、事業を世界へ広げていきたいと考えています。

製造業の取引で表れる日本とベトナムの商慣習ギャップ
――取引の入り口で、日本企業とベトナム企業の商慣習の違いを感じるのはどのような場面でしょうか。
日本企業は自社のやり方を標準と考えがちなため、私たちは取引を始める前に、海外企業にとっての標準と双方の違いを日越の企業に丁寧に説明しています。
トップダウンの意思決定と信頼関係の築き方の違い
まず挙げられるのは意思決定のスピードの違いです。日本企業は協議・合意・稟議と時間をかけて慎重に進めますが、ベトナム企業はトップダウンで素早く判断します。日本側は課長や部長が先に商談に出て「持ち帰ります」となりがちですが、決裁権を持つトップにとって、その場で決められない商談はもどかしいものです。
会議も、日本企業は着地点を事前に調整しておきたいのに対し、ベトナム企業にとってはキーパーソン同士が理解を深めて合意点を探る場であり、会議中や会議後に条件が動くことも珍しくありません。
信頼関係の築き方にも違いがあります。日本企業は初動のやり取りで信頼できる相手かを見極めてから契約条件の協議に進みますが、ベトナム企業は利害が一致すれば、役割や責任範囲、支払条件などを契約書で明文化することを重視し、信頼関係は取引を重ねながら築くものと考えます。
また、会社対会社よりもキーパーソン同士の関係を重視し、受注に繋がりにくい見積依頼や条件の合わない話ははっきりと断ります。見積やサンプルはすぐに用意してもらえるという日本の感覚は通じにくいため、急ぎの場合は少額でも見積作成費を支払うようお勧めしています。

見積・支払条件・納期に表れる価格と時間の考え方
価格交渉では、日本企業が最初から実現可能な金額を期待するのに対し、ベトナム企業の初回見積は値引きや条件交渉を前提にバッファーを含んでいます。これを知らずに「割に合わない」と判断し、検討を見送ってしまう日本企業も少なくありません。
支払条件も大きなポイントです。日本では月末締め・翌月以降の後払いが主流ですが、ベトナム企業は少なくとも材料費について前払いやデポジットを求めるのが通例で、これは国際的にも標準的な運転資金の考え方です。
見積の有効期限も、日本企業が1か月程度を期待するのに対し、物価やエネルギー価格の変動を受けやすいベトナム企業は1週間以内に抑えたいと考え、期間を延ばすならその分のバッファーを見積に含めたいというのが本音です。
納期についても考え方が異なります。日本側は「なるべく早く」という依頼が多い一方、ベトナム側は自社にとって合理的な製造計画を優先し、その計画の中で確実に対応できる納期を希望します。例えば小ロットの案件は、生産ラインの空き時間に製造することでターゲット価格に合わせることがあります。この事情を知らないと「納期を守ってくれない」と誤解されやすいため、最初にお伝えしています。
品質・報告で起こりやすい「暗黙の了解」のずれ
品質面では、日本企業の「暗黙の高品質」がギャップを生みやすいと感じます。日本企業は製造方法や工程、完成品の状態を具体的に示さないまま図面を渡し、不明点を質問されても「いい感じで」「まずはサンプルを」と返して、出てきたものに修正をかけていくことがあります。
ベトナム企業は明確な指示を求めるため、基準が示されていない部分は対応しないか、自社のやり方で進めます。人材育成も、日本はOJTなど暗黙知に頼る部分が多い一方、ベトナムでは手順書やマニュアルが現場に浸透しています。そのため指標や指示書で基準を明確に示していただくようお願いしています。

報告のスタイルも異なります。日本企業は順調なときもこまめな報告を期待しますが、ベトナム企業は順調であれば基本的に報告せず、トラブルも現場が独自に修正しようとすることがあります。
問題解決においても、日本企業が原因分析と再発防止を求めるのに対し、ベトナム企業はまず目の前の問題を解決することを優先します。私たちは日本側にベトナム側の姿勢を尊重していただき、原因分析と再発防止は解決後に私たちも加わって必ず取り組むとお伝えしています。
日本企業とベトナム企業の商習慣比較
| 項目 | 日本企業 | ベトナム企業 |
| 意思決定 | 意思決定 協議・合意・稟議で時間をかけて慎重に進める | 経営者・責任のトップダウンで時間をかけずに早く判断をする |
| 契約 | 長期的な取引関係を視野に入れて、初動の段階での話し合いややり取りで信頼できる相手かを慎重に確認をしながら契約するか、しないかを決める。その後に契約書の条件について話し合いを進める | 相互の取引における利害関係が一致するかを見極めた上で、取引における契約書の中身(お互いの責任と役割、責任範囲、支払い条件などを明文化での)取引ルール設定を重要とする |
| 価格交渉 | 初動から現実的な価格を提示しやすい | 取引初動は値引き・条件交渉を前提としてバッファを持った価格設定をする傾向がある |
| 納期 | 早い納期を希望する。納期遅延を嫌う | 確実に進められる納期を希望する 納期よりも自社に合理的な製造計画で進める傾向がある |
| 品質 | 暗黙の高品質を要求。製造方法や工程、完成品の状態を具体的に示さない傾向がある。細かな寸法や仕上げ状態の基準が欠けた設計書や図面でオーダーする(細かく言わなくてもこのくらいは当たり前だろうと期待する) | 製造方法や工程など基準を具体的に示されていないことは対応しない。または自分たちのやり方で進める |
| 報告 | 順調であってもこまめな報告を期待する。トラブル報告はすぐに報告を期待する | 順調であれば報告はしない 現場がトラブル報告を上司や社長、顧客にすぐに伝えないケースがある(独自判断で修正対応をする) |
| 取引関係 | 会社対会社を重視。発注側の方がパワーバランスが強いと考える傾向がある | キーパーソン同士の信頼関係がかなり重要。すぐに注文に繋がらない見積もり要求、経済条件が合わないことは断る |
| 会議 | 会議の着地点を事前に調整しておきたい傾向が強い | 会議は話し合いで相手への理解を深めて合意点を見つける場にする傾向がある。そのため会議中や会議後に条件が動く傾向がある |
| 支払い | 納品された月末締めの翌月から2ヶ月後の支払いが一般的 | 前払い・デポジットなど材料調達前の一部支払い条件が一般的 |
| 問題解決 | 原因分析・再発防止 | まず目の前の解決を優先する傾向 |
| 教育 | OJT・暗黙知が多い | 明確な手順やマニュアルが有効 |
| 経営環境 | 物価やエネルギー変動の影響について、リードタイムがある 見積もり金額の保証期限を1ヶ月を期待する | 物価やエネルギー変動の影響について、すぐに影響を受けやすい 見積もり金額の保証期間を1週間以内に抑えたい |
ベトナム取引のギャップは契約・権限・数字で越える
――そうしたギャップを乗り越えるために、日本企業はどのような考え方を持つべきでしょうか。
「文化の違い」で済ませず、ルールを明文化する
ベトナム取引が上手く進まない原因を、単純に「文化の違い」と考えないほうがよいと思います。実際には、文化の違いに契約条件や権限、基準・品質の曖昧さが重なって問題になっています。逆に言えば、文化そのものを変えようとしなくても、契約、権限、数字、報告ルールをきちんと設計すれば、かなりの部分は解決できます。
私たちが最も重視しているのは、契約書で全ての取引ルールを設計することです。「当然この品質、この納期でしょう」という前提を置かず、品質基準、納期、検収条件、支払条件、責任範囲、再作業、報告期限を具体的に取り決めていただいています。

「Yes」の受け取り方にも注意が必要です。「できますか」に対する「できます」は、条件を完全に理解し、期限までの実行を保証したという意味とは限りません。重要な案件では、誰が、何を、いつまでに、どの品質で行い、できなかった場合はどうするかまで確認し合うことが大切です。
最終段階でベトナム側経営者の判断により条件が変わることもあるため、誰が最終決裁者かを早めに確認し、重要事項はトップ同士で合意しておくことも欠かせません。一方、ベトナム企業からは日本企業の決定が遅くYesとNoがわかりにくいと映ることもあり、私たちが要求事項を数値化・文書化して橋渡ししています。
納期と報告のルールは工程と時間を数値で決めておく
特に重要なのは、契約、品質、納期、報告、権限の5つのずれです。例えば「9月30日までに完成してください」と伝えると、日本側は30日に100%完成し検収できる状態を想定しますが、ベトナム側は「30日ごろに一度提出し、その後修正する」と理解しがちです。そこで「25日に一次提出、27日に日本側が確認、29日に修正完了、30日に検収完了」と工程まで決めておきます。工程の取りまとめは私たちが担い、これだけでも大きな効果があります。
報告も同様です。日本では問題が起きればすぐ上司に報告・相談しますが、海外の現場では「自分で解決してから報告しよう」と考えるスタッフも少なくありません。その結果、月曜日の問題に火曜日に自分で対応し、木曜日にようやく上司が気づくといったことが起こり、日本側は「なぜ月曜日に言わなかったのか」と感じます。
そこで「トラブル発生時は30分以内、システム停止は即時、重大インシデントは即時に責任者へ電話、通常のミスは当日中」というように報告の条件と時間を数値で定め、一緒にプレーするスポーツのルールのように契約書で明文化していただきます。ベトナム企業は契約内容を重視し、取り決めたことはきちんと守る責任感の強い国民性だと感じています。

ベトナム企業とのコミュニケーションスタイルと情報整理
――日本企業とベトナム企業では、コミュニケーションのスタイルにどのような違いがありますか。また、ウォンズではどのように情報を整理しているのでしょうか。
Zaloで進む対話型のビジネスコミュニケーション
ベトナムは、いわば昭和の時代に急にスマートフォンが入ってきたような感覚で、メールという商文化を飛び越え、LINEのようなメッセージアプリ「Zalo」や電話による直接的な対話でビジネスを進める文化が定着しています。
メールでリードタイムの長いやり取りをするよりもテンポよく話が進む一方で、情報が散らばりやすく、整理されないまま進むと少しずつ認識のずれが生じ、後になって「どこでボタンを掛け違えたのか」という事態になりがちです。
また、ベトナム企業は、重要な仕様や要求は発注側が文書や図面、仕様書で示す責任があると考えています。一方の日本企業は、オーダーした内容や注意点の整理は受注側が行うものという商慣習に慣れており、要件を整理しないままやり取りを進める傾向があります。
このスタイルの違いが誤解を生み、ベトナム企業に対する思い込みに繋がって、早い段階で検討を終えてしまう日本企業も少なくありません。せっかくのビジネスチャンスが取引に結びつかないケースは多いと感じています。

製造委託の認識ずれを防ぐフレームワークと見える化
そこで私たちが最も重視しているのが、日本企業からばらばらに届くオーダーの内容と、ベトナム側から届く情報を一つのフレームワーク上に集約する作業です。責任の所在を明確にするためには、情報の整理と合意形成が欠かせません。
例えば、日本側から別々に送られてくる図面を整理して一つの発注内容にまとめたり、輸送費などについて「何の費用がいくらか」まで細かく明確にして、価格に関する認識のギャップを防いだりしています。
資料は必ず日本語版とベトナム語版の両方を作成し、双方が同じ内容を見ながら確認できるようにしています。複数のフレームワークを持っていることも私たちの強みの一つで、何よりも「見える化」を心がけています。情報の見える化と合意形成は、日越双方が同じゴールに向かって仕事を進めるための土台だと考えています。

製造委託先と長く付き合うための取引の前提づくり
――取引を上手く進めるための前提づくりとして、ウォンズではどのような支援をしていますか。
リードタイムに余裕を持たせて取引を組み立てる
海外取引に慣れていない日本企業は、忖度や精神論といった日本流に合わせてくれる企業を「よい会社」と考えがちですが、それでは候補がベトナムの日系企業程度に限られ、価格競争力のある相手に出会えません。そこで私たちは、ギャップを日越双方に丁寧に説明して信頼関係の土台をつくり、日本企業にはグローバルな取引スタイルとリードタイムの考え方を理解していただいています。
急ぎの取引はベトナムでは成立しにくい一方、納期に余裕があればベトナム企業は価格を下げやすくなります。閑散期を狙ってまとめて発注する、関税や為替、部材価格の動きを見てタイミングを図るなど、調整できる幅を持たせて商談を進めるほうが上手くいきます。
東南アジアは物価や部材、エネルギー価格の変動が日本より速く大きいため、「日本ではこうなのに、なぜベトナムでは」という発想から一歩離れることが大切です。仕入れ商品のようにリードタイムを確保しやすい品目から発注を工夫すれば、結果的によい条件で調達できるとお伝えしています。

ベトナムは「安さ」から「品質を仕組みで作れる国」へ
取引を始める前には、日本企業がベトナム取引で何を目指すのか、コンセプトのすり合わせも行います。安い人件費によるコスト削減を目的に現地子会社を運営してきた企業の中には、為替や物価、エネルギー価格、現地人件費の上昇を受けて事業の見直しや撤退を選ぶケースも出ています。私たちがご提案しているのは「日本品質をベトナムで再現する」ことです。
日本企業の要求を理解し、業務を見える化・標準化したうえで、ベトナム企業が実行・再現できる形にフレームワーク化します。数値や指示書、写真で要件書や仕様書の合格ラインを明示し、検品基準を揃えてオンライン検品にも立ち会い、改善点を双方にフィードバックします。こうした仕組みをつくることで、ベトナム企業は「安いサプライヤー」ではなく、日本企業が安心して業務を任せられる海外パートナーになります。
人件費上昇が投資環境上のリスクとして認識されるようになった今こそ、「安いからベトナム」ではなく、「生産性と品質を仕組みでつくれるからベトナム」へと発想を変える必要があります。日本では高齢化に伴う工場の閉鎖も増えていくと見込まれ、安定供給の観点からも供給先を海外に分散しておく意義は大きいはずです。ここまで理解していただいた企業は、実際に取引が上手く進んでいます。

ベトナム販路開拓の伴走者、BizMatchの役割
――最後に、BizMatchが果たす役割と、日本企業へのメッセージをお願いします。
BizMatchが目指すのは、日本とベトナムのビジネスの架け橋です。ウォンズベトナムの経営理念「Holding Hands」のもと、フェアな取引による日越の経済発展と互恵関係づくりに貢献したいと考えています。どちらか一方に寄るのではなく、「日本51対ベトナム49」くらいのバランスでなければ取引は長続きしません。私たちは両国の企業に違いを丁寧に説明し、信頼関係を築きながら取引規模を広げていく現地ビジネスコーディネーターの役割を担っています。
取引の入り口で、誤解やギャップがあることを知らないまま検討を見送ってしまう企業が多いのは、とてももったいないと感じています。一社でも多くの日本企業が、ベトナムを起点に海外へ市場を広げるきっかけを掴んでいただければ嬉しいです。


ベトナム経済メディアInfoBank 編集長
三浦 賢弥
KENYA MIURA
山形県山形市出身。筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。
ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。
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