ベトナム中部ゲアン省の包装資材工場で、3月、中東から届くはずの樹脂が途絶えた。ホルムズ海峡の封鎖がもたらした原料不足は、減産に追い込まれた日本の石油化学プラントにとどまらず、ベトナムの地方都市の工場にも及んだ。ベトナムは原油輸入の8割をクウェートに頼り、出光興産と三井化学が出資するギソン製油所もその原油で動く。日本企業が進出先に選ぶ国の供給網の急所が、包装資材から透けて見える。

原油の8割をクウェートに頼るベトナムの製造業

2月28日に始まった米・イスラエルとイランの戦闘は、3月7日のクウェート石油公社(KPC)による不可抗力宣言へとつながった。ベトナムは2025年、原油輸入の約8割をクウェートに依存していた。

出光興産が出資する製油所も原油調達の経路は同じ

影響は燃料にとどまらない。国内燃料の35〜40%を供給するギソン製油所は、出光興産とKPCが35.1%ずつ、三井化学が4.7%を出資し、クウェート産原油の処理を前提に設計されている。同製油所はポリプロピレン(PP)の出荷について第2四半期まで不可抗力を宣言した。

ゲアン省のゲアン包装(NAPCO)は2003年創業。敷地3ヘクタールに約500人を抱え、PP織袋を月600万枚、1トン袋(フレコンバッグ)を15万枚生産する。主原料のPPは国内2製油所で8割を賄うが、輸出マネージャーのDien氏は「両工場とも原油を中東から輸入しており、結局は同じ影響を受ける」と話す。内袋用のポリエチレン(PE)は中東からの直接輸入で、「価格以前に供給不足が問題になった」。

円形織機でPP織布を織り上げる作業員。一人前になるまで6カ月から1年を要するという。【画像出所】ゲアン包装による提供

包装資材の原料調達先を中国・ロシアへ広げる

同社は中国とロシアの樹脂輸出業者との取引を広げ、単一調達源への依存を下げ始めた。ベトナム樹脂協会(VPA)も3月18日に緊急の座談会を開き、会員企業に短期的な在庫積み増しと調達先の多様化を呼びかけた。業界全体では原料の7〜8割を輸入に頼り、税関統計によると2025年の樹脂輸入は966万トン、125億ドルに達する。チャイナ・プラスワンの受け皿として輸出を伸ばしてきた製造業の足元に、中東への依存が横たわっている。

電子産業と人材を競うベトナムの地場包装メーカー

原料の次にDien氏が挙げた課題は人手だ。ゲアン省にはラックスシェア、フォックスコン、ゴアテックといったアップルのサプライヤーが集積している。資金力のある電子工場が若年層を引き寄せ、「若者は軽作業の電子工場やサービス業を好む」と同氏は語る。

最低賃金は2026年1月に平均7.2%引き上げられた。同社は採用活動と従業員向けの支援制度を強化する一方、生産工程の自動化で人手への依存を減らす方針だ。外資誘致の成功が、裾野を支える地場産業に人材難という形で跳ね返っている。

ゲアン省ヴィン市のバクヴィン工業団地にあるNAPCOの工場。敷地3ヘクタールに約500人が働く。【画像出所】ゲアン包装による提供

日本の物流の省人化を支えるベトナム製の包装資材

日本に輸入される1トン袋の4枚に1枚は、こうしたベトナムの工場でつくられている。財務省貿易統計によると、2025年のフレキシブルコンテナ(HS6305.32)の輸入は6,324万枚、487億円で、数量では中国が71%、ベトナムが26%を占める。金額では ベトナムの比率は29%に高まる。

ドライバーの労働時間規制で2024年度に輸送能力が14%、2030年度には34%不足するとの国土交通省の試算を背景に、米の流通では30キロの紙袋から1トン袋への置き換えが進む。日本の省人化投資は、ベトナムの包装工場が安定して動くことを前提にしているとも捉えられる。

価格競争から規格と安全性で選ばれる包装資材へ

ジェトロの2025年調査によると、ベトナムの製造業作業員の月額基本給は平均302ドルで、中国の629ドルとの差はおよそ2倍にとどまる。Dien氏も「以前は労働コストに競争力があった」と過去形で語る。同社が力を入れるのは、静電気対策や食品対応など、使う側の安全と作業効率を高める仕様の厳しい製品だ。

世界のフレコン市場は2026年の69億ドルから2036年に104億ドルへの拡大が見込まれ、化学品やリチウム電池向けの帯電防止品、食品グレードなど認証で選ばれる製品が伸びる。米国がベトナム産ラミネート織袋に最大292%の反ダンピング税を課す一方、欧州向けは自由貿易協定で関税ゼロとなり、仕向け先の重心は日欧へ傾く。

【画像出所】shutterstock

日本企業との協業にゲアン包装が見いだす次の成長

「業界は深化の方向に進み、単純な製品が減って高機能な製品が増える」。Dien氏の10年後の見立ては、価格ではなく規格と信頼で選ばれる段階への移行を示している。同社はすでに日本企業への販売実績があり、原料面ではギソン製油所の樹脂を扱う日本の販売代理店と取引を続ける。次の目標に掲げるのは日本市場向け製品の開発だ。

Dien氏は、要求水準は高いものの一度信頼関係が築かれれば長く取引が続く点を日本の顧客の特徴に挙げ、資材の調達と製品開発の両面で日本企業との協業を広げたい考えを示した。原料、人材、規制という三つの構造変化のなかで、ベトナムの裾野産業は転換期を迎えている。

※本記事は、ゲアン包装株式会社(NAPCO)への書面取材(2026年10月)および同社の公表資料をもとに作成しました。

【取材対象者】

ゲアン包装株式会社(NAPCO)

Nguyen Xuan Dien

Export Manager

ゲアン包装株式会社(NAPCO)はポリプロピレン(PP)製織布袋や大型フレコンバッグ(ジャンボバッグ / FIBC)の大手製造メーカー。

Webサイト https://vietnamjumbobag.com/

【執筆・編集】

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

山形県山形市出身。筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。

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