ベトナムへの製造業進出先としては、ホーチミン市周辺の南部か、ハノイ・ハイフォンを中心とする北部が大きな選択肢とされてきた。ところがここ数年、ベトナム中部で大手デベロッパーによる工業団地開発とグローバル企業の大型投資が相次いでいる。
ダナン市にはベトナム初の自由貿易区が設立され、古都フエ市にはベトナム最大手の工業団地デベロッパーであるVSIPが進出を決めた。中部は「ベトナム第三の製造拠点」になり得るのか。工業団地の選定から工場建設、操業開始までを支援する株式会社シーエムプラス海外戦略室の田山恵里子氏に、ベトナムの産業立地に起きている構造変化と、工業用地を選ぶ際の実務上の勘所を聞いた。
※本稿では、田山氏がベトナム中部各地での現地視察や、行政機関・工業団地デベロッパーへのヒアリングを通じて独自に収集・整理してきた情報をもとに、中部の産業立地の実態を紹介する。
田山 恵里子氏(株式会社シーエムプラス 海外戦略室)

ベトナム中部が製造拠点として注目される理由
約2,000kmの海岸線と省再編で進む沿岸・内陸の一体開発
ベトナムを北部・中部・南部に大きく分けると、中部は全土約3,300kmの海岸線のうち約2,000kmを占める。北端のタインホア省から、ゲアン、ハティン、クアンチ、フエ、ダナン、クアンガイ、さらにその南へと沿岸の省・市が連なる。
この海岸線に沿って港湾、工業団地、経済区が並び、国道1号線が南北を縦断して各地の主要都市と工業地域を結んでいる。田山氏は中部を「海との結びつきが非常に強い地域」と表現し、まずこの地理的なイメージを持つことが理解の出発点になると話す。
田山氏によれば、この地理に新しい意味を与えたのが、2025年7月の行政改革である。ベトナム全国63の省・中央直轄市が34に再編され、中部では、従来は内陸部だった中部高原の地域と沿岸部が一つの省を構成するようになった。
中部高原を含む各省が海へのアクセスを持ち、沿岸部の港湾・工業地帯と内陸部を一つの行政単位として一体的に開発できる体制になった。全省が海に面する以上、港をどう活用して新規投資を呼び込むかが各省の目玉になっていく、というのが田山氏の見立てである。

全国の4分の1弱を占める工業団地と、田山氏が見る2つの変化
中部というと工業団地が少ない地域という印象を持たれがちだが、田山氏は「実態は異なる」と話す。2025年9月時点でベトナム全国では324の工業団地が稼働している。
一方、ジェトロが2025年3月に発行した工業団地データブックには、中部の稼働中工業団地として70超の名称が掲載されている。時点も出所も異なるため単純比較はできないが、単純計算でおおよそ全国の4分の1弱がすでに中部で稼働している計算になる。
田山氏は、中部が注目される背景としてまず交通・物流インフラの整備を挙げる。南北高速道路の整備が進み、ダナンではリエンチュウ港の開発が動いている。北部ハイフォンのラックフェン港、南部のカイメップ・チーバイ港がベトナムの二大港湾とされるが、リエンチュウ港はラックフェン港に匹敵する規模の大型深水港として位置づけられている。
ただし、田山氏が現地を見ていて「この地域が変わり始めている」と特に感じる理由は、インフラとは別に2つあるという。一つは、国内最大手やアジアで豊富な開発実績を持つ大手工業団地デベロッパーが、コロナ禍の後半から現在にかけて相次いで中部に新たな投資をしていること。
もう一つは、観光・サービスやITのイメージが強かったダナン市が、「製造・物流」を新たな成長分野として明確に位置づけ、自由貿易区や新規工業団地の開発に具体的に動き始めたことである。ハイテク産業や高付加価値製造を看板に掲げる省は珍しくない。しかし中部では、デベロッパーの投資が工業団地という形になり、その受け皿に大型企業の投資が実際に乗っている。構想にとどまらず現実に動いている点を、田山氏は評価している。

VSIPら大手が相次ぐベトナム中部の工業団地開発
ゲアン省に見るVSIP・WHAの継続投資と進出企業の変化
デベロッパーの動きが最もよく分かる地域として、田山氏が挙げるのがゲアン省である。VSIP(Vietnam Singapore Industrial Park)は、ベトナムのBecamex IDCとシンガポールのSembcorp Developmentの合弁で開発・運営するベトナム最大手の工業団地デベロッパーで、1990年代中盤に南部で開発を始め、現在は北部・中部へと展開を広げている。
ベトナム全国で26工業団地、総面積は約1万4,300ヘクタールに達する。そのVSIPが2015年、ゲアン省で750ヘクタール規模の「工業・都市・サービス複合開発」に着手し、その後ゲアンII、ゲアンIII、さらに2026年にはゲアンIVへと投資を拡大してきた。
タイ最大手の工業団地開発・物流施設運営会社であるWHAも、2017年にゲアン省で最初の工業団地開発に参入し、2024年末には第2工業団地の承認を取得した。同年には隣接するタインホア省でも新規工業団地の承認を得ており、北中部で投資を広げている。
田山氏が強調するのは、進出の事実そのものよりも投資の続き方である。「注目したいのは、単に大手デベロッパーが中部へ進出しているということだけではなく、一度進出した地域で第2、第3、第4と追加投資を続けていることです。これは、中部の将来性に対する評価を考えるうえで、一つの重要な材料になると思います」。用地の販売と入居が見込めなければ、追加投資は続かない。追加投資が重なっていること自体が、需要の手応えを示していると読める。
電子・ハイテク企業の進出と人材蓄積の広がり
田山氏によると、VSIPとWHAの進出を境に、ゲアン省に進出する企業の性質は変わりつつあり、Luxshare(ラックスシェア、立訊精密工業)、Goertek(歌爾)、Foxconn(鴻海精密工業)系企業が進出してきた。Luxshareは中国・深センに本社を置く電子機器受託製造・精密電子部品メーカー、Goertekは音響・光学部品やVR・ウェアラブル機器を手がける中国企業で、Foxconnは世界最大の電子機器受託生産企業として知られる。
従来はハイテク産業の投資先と見られていなかった地域に、グローバルな電子・ハイテク企業が大型投資を行っている。Luxshareだけで1万人を超える雇用を生んでおり、工場労働の経験者が少なかった地域に、製造業で経験を積んだ人材が着実に蓄積されつつある。
工業団地や企業の進出は、その地域の人材市場そのものを変えていく。進出先を検討する際には、どのような性質の企業が稼働し、人材がどう変化しているのかを見ることが重要だと田山氏は指摘する。
タインホアからクアンガイまで沿岸に連なる新規工業団地
田山氏が各地で確認してきたこうした動きは、ゲアン省にとどまらない。VSIPはゲアン省の南に隣接するハティン省、ダナン市の南に隣接するクアンガイ省へと展開し、2026年1月にはフエ市で投資家承認を取得した。同年5月末にはフエを含む5件の投資登録証明書が一括して交付され、VSIPの案件は全国26件となった。
日本企業では住友商事の動きが目を引くと田山氏は語る。同社は1990年代にハノイのタンロン工業団地から事業を始め、第一・第二・第三と北部を中心に開発を重ねてきた。日系大手の電子・電気・精密機械メーカーを多く受け入れてきた、商社系デベロッパーの筆頭格である。
その住友商事が、フエ市の北に隣接するクアンチ省でVSIP、AMATAと共同でQTIP(クアンチ工業団地)を開発している。さらに2025年には、中部の最北端にあたるタインホア省で第四タンロン工業団地の開発に乗り出した。北部で実績を積んだ事業者が南下して投資を続けている点に、田山氏は注目している。
ダナン市では、南部でPhu My 3工業団地を開発してきたThanh Binh Phu My(タインビン・フーミー)が中部へ進出し、Hoa Ninh工業団地とダナン自由貿易区の製造ゾーンで開発に着手した。フエ市では、国内18か所で工業団地を手がけるベトナム大手Viglacera(本社ハノイ)がPhong Dien工業団地を開発している。
| デベロッパー | 特徴 | 中部での主な動き |
| VSIP | ベトナム政府とシンガポール政府の協力を背景に発展した大手工業団地デベロッパー。ベトナム 最大規模の26工業団地を開発・運営 | ゲアン省で第1期~第4期にわたる開発を進めるほか、ハティン省、クアンガイ省にも展開。2026年にはフエ市でVSIP Hue工業団地の開発を本格化 |
| WHA | タイ最大手の工業団地・物流施設デベロッパー | ゲアン省に2017年進出、2024年にはWHA Industrial Zone 2 – Nghe An の承認を得る |
| 住友商事 | 北部を中心にタンロン工業団地を開発。日系製造業の誘致に長年の豊富な実績 | クアンチ省ではQTIPを共同開発、タインホア省で第四タンロン工業団地を開発中 |
| Thanh Binh Phu My | 南部でPhu My 3 Specialized Industrial Parkを開発 | ダナン市でHoa Ninh工業団地開発の他、ダナン自由貿易区の製造ゾーンの開発にも参画 |
| Viglacera | ベトナム国内で18工業団地を展開するベトナム大手デベロッパー | フエ市でPhong Dien工業団地を開発 |
(出所)田山氏への取材およびシーエムプラス提供情報をもとにInfoBank作成
田山氏は全体像をこうまとめる。「タインホア、ゲアン、ハティン、クアンチ、フエ、ダナン、クアンガイと、中部の沿岸部に沿うように、ベトナム国内だけでなく、シンガポール、タイ、インドネシア、フィリピンなどで豊富な開発実績を持つデベロッパーによる新たな工業団地が連なり始めています」。

法人税法改正で変わったベトナム中部の立地の経済性
税制優遇の変更が示す中部の立地上の優位性
中部の今後を語るうえで田山氏が最も重視したのが、優遇税制の変更である。従来、対象となる工業団地に入居する製造業は、「2年間の免税とその後4年間の50%減税」、いわゆる「2免4減」を受けることができた。ところが改正法人所得税法により、2025年10月以降に認可されるプロジェクトは、工業団地への進出を理由とするこの優遇の対象外となった。
優遇はハイテク産業やR&Dなど絞られた分野か、社会経済的に条件の厳しい地域に限定される方向になっている。田山氏は、ここで立地の差が生まれると指摘する。ホーチミン近郊やハノイ近郊には、条件の厳しい地域に該当するエリアがほぼ見当たらない。
ホーチミン近郊やハノイ近郊には、条件の厳しい地域に該当するエリアがほぼ見当たらない。対して中部には、優遇を受けられる地域がまだあり、しかもそこにインフラの整った大手の工業団地が存在する。「工業団地に入れば優遇がある」という前提がなくなったことで、どの地域に立地するかが税負担を左右するようになった。
コスト優位と対応品質が押し上げる中部の価値
田山氏によれば、コスト面の差も大きい。中部の土地価格は立地にも依るが南部・北部の2分の1から3分の1の水準にある。最低賃金の地域区分が低いエリアも多い。このため、多数のワーカーを必要とする業種や広い敷地を要する業種では、初期投資と操業コストの両面でメリットが出やすい。こうした条件を見込んで中部を選択肢に入れる企業は今後ますます増えていく、というのが田山氏の見通しである。
もう一つの変化が、入居後の対応品質だ。これまでの中部はローカル資本の工業団地が中心で、入居後のサポートや日本語でのコミュニケーションの面から、日本企業にとっては検討の俎上に載りにくい面があった。そこにVSIPや住友商事のように日本語でのケアが可能な事業者が加わった。田山氏は、これまで選択肢に入らなかった中部が確実な選択肢になってくると整理する。
ダナン市の産業発展|観光・ITから製造・物流へ拡大
コロナ禍を契機に進んだ産業構造の転換
観光・サービス、IT、金融の街として知られてきたダナン市が、なぜ製造・物流へと軸足を広げているのか。田山氏は、大きな転機は新型コロナウイルスだったとしつつ、その背景にはダナンを中部地域の成長拠点として発展させようとする国の中長期戦略があると説明する。
2019年に発表された「2030年までのダナン市建設・発展、2045年までのビジョン」は、ダナンをベトナムおよび東南アジアの主要な社会・経済拠点へ発展させる方向性を示した。観光・サービスに加えて、港湾・物流、ハイテク産業、IT・電子・通信が重点分野に位置づけられている。
その直後に訪れたコロナ禍の影響は深刻だった。2021年の宿泊施設利用客は2019年比で約85%減、外国人に限れば約97%減となった。2020年には、当時の全国63省・中央直轄市のうち58省・市がプラス成長を維持した。そのなかでダナン市の域内総生産はマイナス成長となり、全国で2番目に低い成長率を記録している。観光への依存度の高さが数字で示されたこの経験が、産業構造改革を後押しする契機になったと田山氏は見る。

発展ビジョンとコロナ禍で問われた産業構造
田山氏の整理によると、政策はその後段階的に具体化していった。2024年5月に自由貿易区の形成が国家レベルの政策として示され、翌6月には国会決議が採択された。決議は、リエンチュウ港と連携するダナン自由貿易区を設立し、ハイテク・高付加価値製造、物流、金融、貿易などを呼び込む新制度を導入する方針を定めている。
そして2025年6月、首相決定によってベトナム初の自由貿易区がダナンに正式に設立された。クアンナム省との合併で市域が広がったことも、製造・物流の用地確保の面で追い風になっている。
「観光・サービスを中心に発展してきたダナンが、その強みを維持しながら、港湾・物流、製造業、ハイテク産業といった新たな産業の柱を加えようとしている。そのための具体的な受け皿として自由貿易区がつくられた。この一連の流れが、現在のダナン市の産業政策の変化を非常によく表していると思います」(田山氏)。
ダナン自由貿易区の7エリアと既存工業団地との違い
ダナン自由貿易区は一つのまとまった区域ではない。異なる機能を持つエリアで構成され、全体の面積は約1,881ヘクタールである。内訳は次のとおり。
- 物流ゾーン
- 製造および物流ゾーン
- 製造ゾーン
- 商業・サービスゾーン
- デジタル技術・イノベーションゾーン
前述のThanh Binh Phu Myが開発に着手したのは、このうちの製造ゾーンである。
既存の工業団地との最大の違いとして、田山氏は手厚い優遇制度を挙げる。
| 項目 | 内容 |
| 法人所得税(対象分野) | ハイテク、R&D、裾野産業、クリーンエネルギー自動車、航空・鉄道機器、ロジスティクスセンターなど。税率10%を30年間適用し、4年間免税、その後9年間50%減税 |
| 法人所得税(対象分野以外の新規投資) | 税率10%を15年間適用し、4年間免税、その後9年間50%減税 |
| 個人所得税 | 専門家・高度人材などは10年間50%減額 |
| 土地使用期間 | 最長70年 |
(出所)田山氏への取材およびシーエムプラス提供情報をもとにInfoBank作成」
とりわけ重要なのは、対象分野に該当しない新規投資案件にも、税率10%の15年間適用と4免9減が認められている点である。田山氏は「これは製造業にとって、かなり大きなメリットだと思います」と話す。一般の工業団地では立地のみを理由とする優遇がなくなった。そのなかで、区域内への投資そのものに優遇が付く自由貿易区は、制度面で際立った存在になっている。
フエ市の発展と工業団地開発|VSIP進出が示す変化
教育・医療・生活基盤が支えるフエ市の製造立地
フエ市は、1802年から1945年までベトナム最後の王朝であるグエン朝の都が置かれた街である。王宮をはじめとする歴史的建造物はユネスコ世界文化遺産に登録されている。ダナンの華やかさとは趣が異なり、ゆったりと時間が流れる古都という印象を持つ人が多いだろう。ただ田山氏は、フエには以前から中部を代表する教育・医療都市というもう一つの顔があったと話す。
田山氏がまず挙げるのが、教育の中心であるフエ大学だ。在籍学生は5万人を超え、2026年度の新入生は約1万6,500人にのぼる。日本大学の全学部の新入生数、あるいは広島県内の全大学の新入生数とほぼ同じ規模である。医学・薬学に加えて、科学、工学・技術、農林、経済、外国語と分野も幅広い。製造業の立地を考えるうえで、大きな人材供給基盤になる。
医療では、フランス統治下の1894年に創設されたフエ中央病院が中部の高度医療を担う国立の基幹病院である。北のバクマイ病院、南のチョーライ病院に次ぐ位置づけで、心臓血管、がん、臓器移植にも対応する。日本政府とJICAは20年以上にわたり、施設・医療機材の整備や人材育成を支援してきた。
近年はAI診断の技術指導も行われている。フエ医科薬科大学の大学病院もあり、医学教育と臨床が一体となった基盤がある。さらに、2025年12月に市中心部で260床の民間総合病院であるフエ国際総合病院が完成し、2026年1月に診療を開始した。地上16階・地下2階の建物で、キャッシュレス診療に対応し、救急があり、英語も通じる。駐在員を送り出す企業にとって心強い材料になる。

住環境の伸びしろと加速する産業基盤の整備
生活環境では、2024年に中部最大級のイオンモールHueが開業し、利便性が高まった。外国人向けの住居、長期滞在用ホテル、インターナショナルスクールは、今後の投資が期待される領域である。
工業団地に企業が入居して周辺に住環境が整っていくのか、都市の将来性を見込んだデベロッパーが先に動くのか、順序はまだ見えていない。田山氏は、住宅地が密集していないぶん、マスタープランさえあれば計画どおりに開発が進みやすいという利点も指摘する。
田山氏は、産業面の基盤整備も着実に進んでいると話す。政府は、フーバイ空港とダナン空港の中間に位置するChan May–Lang Co経済区を、フエの「工業・港湾・物流」の主要な成長エンジンにする方針を示している。チャンマイ港の拡張や物流センターの開発が進み、Kim Long Motorによる自動車製造・組立への大型投資も見られる。
VSIP進出の意味と、販売中の2工業団地の特徴
こうした基盤が整ってきたところに重なったのが、2026年1月のVSIP Hueの承認である。田山氏はこう振り返る。「今年、VSIPがフエ市に進出したというニュースを聞いたときは正直驚きました。VSIPはすでに中部のゲアン省やクアンガイ省で開発を進めていましたが、フエ市での開発は、フエ市も変わると確信した気持ちです」。
フエでは、ViglaceraのPhong Dien工業団地に続き、2021年にGilimex Hue工業団地が承認されるなど、製造業の受け皿が段階的に整備されてきた。そこへ最大手が加わった。大学を中心とした教育環境と高度医療体制、歴史・文化の厚みを持つ都市で、製造拠点としての基盤強化が約束されたと田山氏は受け止めている。
現時点で具体的に検討できる工業団地として、田山氏は自ら視察した2か所を挙げる。
一つ目はPhong Dien工業団地である。
- 立地・インフラ:フエ市中心部から北へ約37km、面積は約284ヘクタール。国道1号線と南北鉄道に近く、電力・給排水などのインフラは整備済みで、すぐに工場建設を検討できる用地がある。
- 税制優遇:経済・社会条件が困難な地域として投資優遇の対象となってきた。法人税17%の10年間適用と2免4減が受けられる。
- 最低賃金:地域区分はグループIII。2026年の法定最低賃金は月額414万ドンで、グループIの531万ドンと比べて約22%低い。
- 進出事例:医療用・産業用手袋を製造する中国系のKanglongdaが、約35ヘクタール、2億ドル規模で進出している。米国にも輸出しており、求人情報からは1,000人を超える規模の雇用が確認できる。
このKanglongdaの事例は、フエで大規模な製造人材を確保できることを示している。田山氏は同団地を、初期投資を抑えながら中部進出を検討する企業にとって現実的な選択肢の一つと評価する。

Phong Dien工業団地(出所)株式会社シーエムプラス提供
二つ目はGilimex Hue工業団地である。
- 立地・規模:2022年着工の新しい団地で、総面積は約461ヘクタール。フエ市中心部から南へ約15km、Phu Bai国際空港からわずか約2kmの場所にある。
- 開発元:Gilimexは1982年創業のベトナム企業で、縫製・輸出事業を基盤に成長した。2019年から工業団地開発に参入し、すでに複数箇所を手がける勢いのあるデベロッパーである。
- 進出事例:EON Industry Vietnamが6ヘクタール超の敷地にヘルメット工場を建設し、2025年から操業している。700人超を雇用し、生産能力の拡大も計画している。

Gilimex Hue工業団地とPhong Dien工業団地の比較
| 項目 | Phong Dien工業団地 | Gilimex Hue工業団地 |
| デベロッパー | Viglacera | Gilimex |
| 面積 | 約284ha | 約461ha |
| 立地 | 市中心部から北へ約37km。国道1号線・南北鉄道に近い | 市中心部から南へ約15km。Phu Bai国際空港から約2km |
| 主な強み | 税制優遇、最低賃金グループIII、インフラ整備済み、土地価格の競争力 | 空港至近、新しいインフラ、大区画の確保 |
| 進出事例 | Kanglongda(手袋、1,000人超規模) | EON Industry Vietnam(ヘルメット、700人超) |
| 向いている企業像 | 労働集約型で初期投資・操業コストを抑えたい企業 | 航空アクセスやまとまった用地を重視する企業 |
(出所)田山氏の現地視察およびシーエムプラス提供情報をもとにInfoBank作成
なお、各工業団地のユーティリティに関する公開情報は、シーエムプラスが運営する「海外工場建設プラットフォーム」に掲載されている。
ベトナムの工業団地・工業用地選定で見落としやすい点
マスタープランと図面から読み取るべきこと
立地、土地価格、電力・給排水、地盤、洪水リスク、物流アクセス、労働力、契約条件と、工業用地の選定で見るべき項目は多い。ただし田山氏によれば、具体的な検討段階で視察を調整すれば、工業団地側は面談の場で開示可能な情報を豊富に示してくれる。
一般的な質問事項への回答は、すでに資料として用意されている。そのうえでさらに一歩踏み込んで押さえておきたいのが、資料には表れにくい部分である。今回の取材で特に示唆に富んでいたのが、このエンジニアリング視点からの指摘だった。
田山氏が挙げる第一のポイントは、マスタープランは完成時の姿にすぎないということだ。工業団地は段階的に開発されるのが常で、全区画を一度に工事するわけではない。半分だけ伐採してインフラ工事を行い第2期はその後、というケースがある。
伐採と地ならしは全域で済ませるがユーティリティの接続は一部だけ、というケースもある。気に入った区画を選んだものの、接続する道路の整備は次の段階だったということが起こり得る。どのエリアからどのスケジュールで開発が進むのかを、引き渡し可能時期とあわせて確認しておくべきだと田山氏は話す。
田山氏が挙げる第二のポイントは、マスタープランを立体的に読むことである。図面上は平らでも、広大な団地には必ず高低差がある。排水処理場は通常、低い側に設計されるため、そこから遠い区画ほど標高が高い。どこを盛り土し、どこを削って土を運んだのかという土地の成り立ちまで把握しておけば、区画の評価は変わってくると言う。
第三は、入口を1か所取れるのか2か所取れるのか、ユーティリティの接続ポイントがどこにあるのかが分かる図面を求めることだ。田山氏によると、こうした詳細図面は営業担当者の手元にないことが多く、営業担当者との会話だけでは正確な情報を得にくいという。
田山氏の経験では、団地側とのやりとりが深まるほど、開示される情報の範囲も広がっていく。NDAを結んで早い段階から詳細な情報を共有してもらう方法もある。そこまで至らない段階でも、計画を具体的に伝えることで、より踏み込んだ情報を得やすくなる。必要なユーティリティの容量は具体的に伝え、供給可能かどうかの確約を取ることも欠かせない。
数字に表れない移動時間と人材の蓄積状況
第四は、通勤時間帯と雨季の移動時間である。資料に「1時間」「1時間半」とあっても、実際の通勤時間、とくに降雨時の所要時間は大きく異なる。その時間帯に自ら足を運べない場合は、地図アプリで実際の混雑状況を確かめるのが現実的な方法だと田山氏は話す。
第五は、周辺の人材ストックである。食品加工や精密機械の工場を建てるつもりが、そのエリアにはこれまで縫製工場しかなかった、となれば経験者のいない場所で採用を始めることになる。どのような企業がどの程度の雇用規模で稼働してきた地域なのかを見ておくと、採用と立ち上げの見通しを立てやすいと言う。
| 確認項目 | 確認する内容 |
| 開発の順序 | どのエリアから、どのスケジュールで開発されるか。接続道路・ユーティリティの整備時期、引き渡し可能時期 |
| 高低差と造成 | 区画の標高、排水処理場との位置関係、盛り土・切り土の履歴 |
| 接続ポイント | 入口の数と位置、電力・給排水の接続点が分かる図面、必要容量の供給確約 |
| 実際の移動時間 | 通勤時間帯、雨季・降雨時の所要時間 |
| 人材ストック | 周辺で稼働する企業の業種と雇用規模、経験者の蓄積 |
加えて、主要な契約条件は検討の初期段階から確認しておくことが望ましいとする。そのうえで田山氏が勧めるのが、選定における「絶対的な条件」について社内のコンセンサスをまとめておくことである。投資金額はもちろん重要だが、選定は土地価格や物流費だけで決まるわけではない。駐在員の住環境、日系企業の進出状況、担当営業とのコミュニケーションの良しあしが、最終的な選定を左右した例も見られるという。
情報に振り回されないための一次情報と専門家の使い方
田山氏は、ベトナムでは情報がないことよりも、古い情報や個別事例を一般論として受け取ってしまうことのほうがリスクになると話す。実際、そうした情報に振り回される場面を非常によく目にするという。
投資段階では投資法、企業法、労務、税務と関係法令が多岐にわたる。工場建設の局面に入ると、各所から情報が入ってくる。このコンサルタントの話とあちらの話が違う、工場訪問で直接聞いた話は法令に合っているのか、といった食い違いがしばしば生じるという。
そこで田山氏が勧めるのは、一次情報にあたり、情報の出所を確認することである。ベトナムでは法律があり、その説明として政令、通達、ガイダンスが続く。元をたどれば法令上の決まりは一つであり、地域によって変わるものではないというのが田山氏の考えだ。
何が正しく、何を基準に動くべきかは、一次情報を手繰れば見えてくる。難しいのは、条文を読んでも解釈が定まらない場合だ。そのときは、自社が投資しようとしているエリアで行政がどのような見解を示し、現実の運用がどうなっているのかをヒアリングする価値が大きいと田山氏は指摘する。一次情報を理解したうえで自社なりの解釈を組み立てておけば、周囲からさまざまな情報が入ってきても整理がつく。
専門家との役割分担とシーエムプラスの支援
とはいえ、読むべき法令は多く、最新のものはベトナム語でしか公開されていないことも多い。法人設立、投資手続き、税務、工業団地との契約、建設関連法規、環境・消防、各種許認可と、必要な専門知識は幅広い。制度や行政運用の変化も速い。
田山氏はこう話す。「大切なのは、すべての専門知識を自社で持つことではなく、『何を自社で判断すべきか』『何を専門家に確認すべきか』を切り分けることだと考えています」。評判の良い工業団地でも、紹介された区画が自社の工場形状に合わないことは起こる。ものづくりと建築の両方に関わる領域だからである。
シーエムプラスは、工業団地の比較・選定から、投資・法人設立、工場設計、各種ライセンス、工場建設、操業開始までを一貫して支援している。必要に応じて各分野の専門家とも連携する。「情報収集や制度の理解そのものに時間を費やすのではなく、企業が本来行うべき事業判断に集中していただく。そのために私たちを活用していただきたい」(田山氏)。

【取材後記】ベトナム中部の製造拠点化をどう進出判断に活かすか
田山氏が現地視察とヒアリングを重ねて得た情報から見えてきたのは、ベトナム中部の変化が構想の段階を越え、投資の実績として積み上がっているという事実である。VSIP、WHA、住友商事といった大手デベロッパーは、一度進出した地域で追加投資を重ねている。その受け皿にグローバルな製造企業が入り、地域に製造人材が蓄積され始めた。ダナン市は自由貿易区という制度面の受け皿を整えた。フエ市は教育・医療の厚みにVSIPの進出が加わった。
制度とコストの面でも、中部を検討する理由は増えている。工業団地への入居だけでは法人税優遇を受けられなくなった今、優遇対象地域と整備された工業団地が併存する中部は、都市部よりも競争力のある土地価格とあわせて有力な選択肢になる。労働集約型や大規模敷地型の製造業にはとくに当てはまる。
一方で、工業用地の良しあしは資料だけでは判断できない。開発の順序、高低差、接続ポイント、実際の移動時間、人材ストックといった「資料に記載されていない情報」を現地で確かめ、一次情報に基づいて判断する必要がある。南部か北部かという二択に中部を加えて比較することが、これからのベトナム製造拠点戦略の出発点になりそうだ。
ベトナム中部の工業団地の最新動向については、シーエムプラスの『海外工場建設プラットフォーム』でも継続的に紹介されている。中部エリアの動向を継続的に追いたい方は、参考にしてほしい。
※「海外工場建設情報プラットフォーム」について

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医薬品・医療機器・再生医療等製品・化粧品から、食品、データセンター、半導体まで、生産施設のエンジニアリング・プロジェクトマネジメント、各種規制・薬事のコンサルティング、教育サービスを提供。
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本記事の編集者・執筆者について

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長
三浦 賢弥
KENYA MIURA
筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。
ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。
お問い合わせ先は こちら
