ベトナム南部のドンナイ市は、2026年4月に国内7番目の中央直轄市へ昇格し、同年12月にはロンタイン新国際空港の開港を控えている。ホーチミン市に次ぐ産業・物流拠点として存在感を増すこの地で、双日はロテコ工業団地、ロンドウック工業団地に続く3番目の工業団地「ロンドウック3工業団地(Long Duc 3 Industrial Park)」の開発を進めている。
脱炭素とスマート化を掲げる次世代型工業団地は、南部の製造業の立地をどう変えていくのか。開発・運営を担うLONG DUC 3 INDUSTRIAL PARK J.S.CのGeneral Director、矢野雄一郎氏にインタビューし、立地選定の背景から開発の進捗、入居企業の動向、ドンナイ市の産業戦略、今後5年の南部製造業の展望までを聞いた。
ドンナイ市とロンドウック3工業団地の基本情報
中央直轄市となったドンナイ市の経済と産業構造
ドンナイ市はホーチミン市の東側に位置し、行政再編を経て人口約449万人を擁する広域都市となった。2026年4月30日には国内7番目の中央直轄市に昇格し、南部の経済を支える都市として、その役割は一段と大きくなっている。
多国籍企業と裾野産業が早くから集積してきたことで、部品調達やサプライチェーンを構築しやすい環境が整っており、豊富な労働力と合わせてFDI(外国直接投資)の受け皿としての基盤は厚い。2030年に向けては経済成長とデジタル化を両輪とする目標を掲げ、工業団地の数も大きく増やす計画である。主な指標は以下のとおりだ。
| 項目 | 内容 |
| 行政ステータス | 中央直轄市(2026年4月30日昇格、国内7番目) |
| 人口・面積 | 約449万人、12,737.18km² |
| 2030年の経済目標 | 年平均GRDP成長率10〜12%、デジタル経済のGRDP寄与率30%以上 |
| 工業団地 | 稼働中32カ所、2030年までに48カ所を計画 |
| 産業構造 | 多国籍企業と裾野産業が集積し、部品調達・サプライチェーン構築が容易。労働力も豊富 |
| 中核インフラ | ロンタイン新国際空港(2026年末稼働予定)、カイメップ・チーバイ港 |
開発面積245haのロンドウック3工業団地の概要
ロンドウック3工業団地は、双日がローカルデベロッパーのLong Thanh Golf Investment and Trading JSCと共同で開発する工業団地である。ドンナイ市における双日の工業団地としては3番目となり、ロンタイン新国際空港と並ぶ中核案件として同市の「優先プロジェクト」に位置づけられている。
ホーチミン市中心部から約35km、車で45分ほどの距離にあり、ロンタイン新国際空港へは15分でアクセスできる。取材時点(2026年10月)では造成工事が進んでおり、フェーズ1の約145haは2027年2月末から3月にかけて整備の目途が立つ見込みだ。
| 項目 | 内容 |
| 名称 | ロンドウック3工業団地(Long Duc 3 Industrial Park/LD3IP) |
| 開発 | 双日とLong Thanh Golf Investment and Trading JSCの共同開発 |
| 事業会社 | LONG DUC 3 INDUSTRIAL PARK J.S.C |
| 所在地 | ベトナム・ドンナイ市 |
| 面積 | 開発面積約245ha(フェーズ1約145ha、フェーズ2約100ha)、土地販売面積約180ha |
| 開発状況 | 造成がおおむね完了し、排水・電気の配管埋設工事中。フェーズ1(約145ha)は2027年2月末〜3月に整備の目途(2026年10月時点) |
| アクセス | ホーチミン市中心部まで約35km(車で約45分)、ロンタイン新国際空港まで15分。カイメップ・チーバイ港、カトライ港、フックアン港へのアクセスも良好 |
| 海抜・地盤 | 海抜約10~30mの比較的高いエリアに位置しており、過去の洪水実績なし。硬質地盤で耐荷重性が高い |
| 位置づけ | ドンナイ市の優先プロジェクト。「グリーン・カーボンニュートラル工業団地」をビジョンに掲げる |

双日がドンナイ市で3つ目の拠点を展開する理由
双日はベトナム、インドネシア、フィリピン、タイのアジア4カ国で計12拠点の工業団地を展開してきた。ドンナイ市ではロテコ工業団地、ロンドウック工業団地の2件を開発し、いずれも土地は完売済みで、入居企業の間には日系のサプライチェーンが形成されている。
高付加価値産業のベトナム移転が加速するなか、双日は、新空港を中心とした大規模インフラと投資インセンティブを併せ持つドンナイ市において、3つ目の工業団地への参画を決めた。矢野氏はその背景として4つの要因を挙げる。

30年来の行政との関係と3つの工業団地を横断する運営体制
第一の要因は、ドンナイ市の行政との関係である。双日はロテコ工業団地への出資参画以来、人民委員会をはじめとする行政機関から助言を受けながらインフラ整備を進めてきた。30年にわたって積み重ねてきた行政との協働が、新たな開発を進めるうえでの基盤となっている。
第二の要因は、既存の2つの工業団地の経営資源を生かせることだ。ロテコ工業団地は操業30年を迎え、ロンドウック工業団地も分譲・開発が一巡し、一定の竣工段階にある。矢野氏は「新しい工業団地を軸に人材を循環させながら、現地化を進めている」と語る。
実務面では、ロンドウック3工業団地の開発・販売をロンドウック工業団地の体制が担い、ロテコ工業団地の職員もロンドウックに出向いて業務にあたる。3つの工業団地を横断する運営体制を築くことで、既存案件で培ったノウハウと人材を新たな工業団地の立ち上げに振り向けているのである。
洪水リスクの低い高台と交通の要衝としての将来性
第三の要因は、ハザードマップ上の優位性である。ロンタイン新国際空港の周辺は干ばつや洪水のリスクが比較的低く、ハザードマップで網掛けの対象から外れている。矢野氏はこれを「土地の良さ」と表現する。ロンドウック3工業団地の敷地は海抜約10〜30mの高台にあり、自然排水が良好で過去に洪水の実績はない。地盤も硬く耐荷重性が高いため、工場建設時の杭打ちコストなどを抑えられる点も、入居企業にとっての利点となる。
第四の要因は、交通の要衝としての将来性である。新国際空港に加えて新港の整備も進んでおり、物流拠点としての発展が期待されている。工業団地からはカイメップ・チーバイ港、カトライ港、フックアン港へのアクセスも良く、空港と港湾を用途に応じて使い分けられる立地は、輸出入を伴う製造業や物流業にとって選択肢を広げるものだ。
新空港の開港を控え、工業用地として高まる期待
ドンナイ市の周辺では、広域交通インフラの整備が続いている。ドンナイ市と南部最大級の深海港であるカイメップ・チーバイ港を結ぶビエンホア-ブンタウ高速道路や、ホーチミン市西部のタイニン省とドンナイ市をつなぐベンルック-ロンタイン高速道路がその代表例だ。ホーチミン市内から新空港に至る道路も、片側2車線から5車線への拡幅工事が目に見える形で進んでいる。
2026年12月の開港を目指すロンタイン新国際空港が工業団地に与える影響について、矢野氏は入居企業のなかでも特に物流関連事業者の動きに波及するとみる。空港開港の効果は、まず物流分野から工業団地の需要に表れるとの見立てである。
もう一つ、ドンナイ市の工業用地としての価値を押し上げているのが、周辺都市の土地利用の変化だ。ホーチミン市や旧ビンズン省(現ホーチミン市)など都市化が進む地域では、行政のゾーニング方針が工業用地から住宅・商業用途へと移りつつある。矢野氏は「こうした流れの中で、工業用地としての役割がドンナイに期待されており、そこに強みがある」と述べる。都市部で工業用地の確保が難しくなるほど、インフラ整備が進む近郊のドンナイ市に製造業の受け皿としての期待が集まるという見方だ。
造成工事の進捗と食品・半導体・物流の入居ニーズ
ロンドウック3工業団地の用地では、土地の切り盛りなどの造成工事がおおむね完了した。現在は排水や電気などの配管埋設工事に入っており、フェーズ1の約145haについては、2027年2月末から3月にかけて整備の目途が立つ見込みである。矢野氏は進捗を順調と評価している。
現在造成工事を担う施工会社は、ロンタイン新国際空港のターミナル施工に携わる企業の一社でもあり、矢野氏はターミナル内部を視察した際、その充実ぶりに驚いたと振り返る。
入居後の事業基盤となるユーティリティは、専用の110/22kV変電所からの電力供給、双日グループによる地下パイプラインなどを通じたCNG(圧縮天然ガス)の供給、工業団地全体を網羅する光ファイバー網などを計画しており、24時間365日の管理体制のもとで運用される。

入居企業の国籍や業種に特段の条件は設けていない。問い合わせが多いのは食品、半導体、物流の3分野で、食品はホーチミン市に近い立地を生かした内需向けの需要が中心だという。ドンナイ市の優先プロジェクトに指定されたことによる許認可面の優位性については、「ドンナイ市は外資誘致に力を入れており、許認可や誘致に関する支援を提供してくれていると強く感じる」と語る。
同時に、優先指定の有無にかかわらず、市内の各工業団地に等しく支援が行われているとの認識も示した。工業団地側でも、許認可申請の準備・代理申請や行政機関との連携、日本語対応が可能な専任スタッフによる継続支援など、進出検討段階から入居後までを一貫して支える体制を整えている。
次世代型工業団地としての脱炭素とスマート化の構想
双日は工業団地を「ビジネスプラットフォーム」と捉え、安価な労働力と土地を提供する従来型のモデルから、エコとスマートを統合した次世代型への転換を図っている。ロンドウック3工業団地はその考え方を具体化する団地であり、「グリーン・カーボンニュートラル工業団地」をビジョンに、ECO(環境配慮)、CN(脱炭素)、SMARTの3本柱を掲げる。2050年のネットゼロを見据えた設計で、エコ工業団地認証の取得も前提としている。

脱炭素の面では、DPPA(電力直接購入)制度や再エネ証書(REC)の計画的な活用、初期投資不要の屋根置き太陽光の導入、天然ガスの供給などを通じて、入居企業のサプライチェーン全体の脱炭素化を支援する。エネルギー管理システムを基盤に、使用状況を可視化・最適化する仕組みも組み込む。
将来構想には、110/22kV変電所やCNG・LNG、蓄電池、水素・e-メタン、コージェネレーションを備えたグリーン・エネルギー・センター、浄水センター・再生水システムのほか、電子機器・半導体や食品産業、環境配慮型工場を想定したグリーン・イノベーション・ゾーンも描かれている。入居企業同士が交流・協業する産業共生の場づくりも、構想の一部である。
ドンナイ市の産業戦略と5年後の南部製造業
FDI誘致を加速するドンナイ市と双日グループの役割
ドンナイ市はFDIのさらなる獲得を主要目標に掲げ、それを支える高度人材の育成に取り組んでいる。矢野氏は「交通インフラが整備されれば人口が増加し、産業が集積する。それをスピード感を持って進めることが市の目標であり、産業集積地の形成において我々も貢献できる」と述べる。食品に加え、半導体のような高付加価値産業の集積も視野に入れている。
双日グループとしても、工業団地事業にとどまらず、ドンナイ市を中心とする南部地域で生活産業をはじめ幅広い分野に貢献する方針であり、各営業部門が連携して事業を展開している。工業団地を起点に、入居企業や地域の暮らしを支える事業へと関わりを広げていく考えであるという。
土地使用権の期限到来で進む南部製造拠点の集約
矢野氏は、南部製造業の地理的な再編が今後5年程度で進むとみている。ホーチミン市内や旧ビンズン省の既存工業団地では土地使用権の期限が順次到来し、今後、土地利用の転換が進むことが見込まれる。これに伴い、現在は分散している製造拠点が、ドンナイ市を含む複数の地域に集約されていくという。
港湾、空港、道路の整備が進む地域に製造業が集まり、住宅・商業用途とのゾーニングもより明確になっていく。矢野氏はこの変化を、日本の川崎市の臨海部や武蔵小杉の歩みに重ねる。かつて工場が立ち並んでいた両地域では、工場跡地が住宅・商業施設や高層マンションへと転換し、工場の多くは別の地域へ移転した。都市の拡大に伴って工業用地が住宅・商業用地に置き換わり、製造拠点がインフラの整った周辺地域に再配置されるという同じ構造が、ベトナム南部でもこれから進むとの見方である。
ロンドウック3工業団地は、この再編の受け皿となることを見据えた団地といえる。2026年末の新空港開港と、2027年春に予定されるフェーズ1の整備を経て、次世代型工業団地としての構想がどこまで形になるのか。南部での拠点の移転や新設を検討する日本企業にとって、その動向は引き続き注目に値する。
【ロンドウック3工業団地について】

双日株式会社
ロンドウック3工業団地
LONG DUC 3 INDUSTRIAL PARK J.S.C
WEB:https://ld3.longduc-ip.com.vn/
E-mail:sojitz.ip@sojitz.com
【本記事の編集・執筆】

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長
三浦 賢弥
KENYA MIURA
山形県山形市出身。筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。
ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。
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