千房ホールディングス(大阪市)は、2035年をめどに海外店舗を100店舗規模へ拡大する方針を掲げる。国内事業の深化と並行して海外展開を積極的に推進することで、グローバルな成長を加速させる戦略だ。
2026年5月下旬から6月上旬にかけては、米ロサンゼルス、ベトナム・ハノイ、中国・寧波で新店を相次いで開業し、海外店舗数は11店舗となった。
資本効率を高めつつ出店スピードを確保できるFCも含め、マレーシアやタイへの再挑戦や欧州進出も視野に入れる。お好み焼きの冷凍食品の輸出にも注力し、海外店舗の拡大で知名度を高めながら「外食」と「外販」の相乗効果を狙う。
そのなかでもベトナムは、千房が10年以上にわたって市場を耕してきた重点エリアだ。
InfoBank編集部はベトナム事業を統括する千房ホールディングス 事業統括本部 グローバル事業部 部長の山下賢祐氏に取材を行い、ハノイでの店舗展開やローカライズの考え方を聞いた。
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千房ベトナム3号店、お好み焼き11年のノウハウを集約
千房は2026年6月1日、ベトナム3店舗目となる「千房 ハノイ イオンモール・ハドン店」を開業した。2015年のベトナム1号店出店以来、約11年を経て、初めてベトナム最大規模を誇る大型モールへの出店となる。
お好み焼・鉄板焼に加え、刺身や天ぷら、焼き鳥など多彩な日本食をそろえ、家族連れでにぎわうモールで総合的な食体験を提供する。
同社はこの3号店を、これまで培ってきたノウハウを「集約した店舗」と位置づける。背景には、鉄板焼き・お好み焼きという業態ならではの難しさがある。山下氏は「鉄板焼きやお好み焼きは属人性が高く、焼き方やひっくり返すタイミング一つで味が変わる」と説明する。横展開やパッケージ化がしにくく、年に何店舗も開けるような業態ではないからこそ、一店一店を着実に積み上げてきたという。

(写真出所)千房ホールディングス株式会社提供。
それでも千房は「愚直に日本の味を伝える」という方針のもと、体系的な教育・研修を続けてきた。その結果、現在では千房側が細かく指導に入らなくても、現地パートナーのメンバーだけで同じクオリティの店舗を立ち上げられる体制が整ったという。
山下氏は、これこそが年月をかけて築いてきた「集約されたノウハウ」の正体だと語る。季節や入手できる食材によって調理法は変わるものの、日常的な研修と細かな味の確認によって味のブレを抑えている。

ベトナムでは「日本食屋」 メニューの幅がローカライズになる
千房のローカライズ戦略は、味そのものよりもメニュー構成に色濃く表れる。山下氏は「千房のイメージとしては、日本では『お好み焼き屋』だが、ベトナムでは『日本食屋』に近い位置づけ」と話す。お好み焼き以外のメニューを幅広くそろえること自体が、一種のローカライズになっているという。
背景にあるのは食文化の違いだ。日本では家族や友人と「お好み焼きを食べに行く」という外食が成り立つが、海外では「お好み焼き以外はないのか」と受け取られがちだという。山下氏は「4人で来店して全員が満足できるよう、日本より広いメニュー展開にしている」と語る。刺身や天ぷら、焼き鳥といった日本食をそろえるのも、こうした顧客心理への対応にほかならない。
一方で、味づくりにおいては「ローカライズする部分」と「生粋の日本の味でいく部分」を明確に切り分けている。中心を担うのはベトナム在住の日本人で、味は日本に近く、日本人が食べてもおいしいと感じるレベルを保つ。
お好み焼き店ならではの演出であるマヨネーズのパフォーマンス「マヨビーム」も健在だ。これはベトナム特有のものではなく、基本的に世界のどの国でも実施しているといい、習熟には練習を要するという。

駐在員からベトナム人中間層へ─千房が10年で拡大した客層
ターゲットとする顧客層は、この10年で大きく変化した。山下氏によれば、当初の中心は日本人駐在員や現地在住の日本人、韓国人など、もともとお好み焼きに親和性のある層だった。
転機となったのは、ベトナム経済の成長に伴う中間層・富裕層の拡大だ。これを契機に、千房はローカルのベトナム人客の取り込みを拡大した。。
メニューを限定せず、一人でも多くの人に日本食としてのお好み焼き・鉄板焼きを体験してもらう方針へと切り替えたという。山下氏は「10年かけて浸透し、今ではその地域で『みんなが知っている有名店』『行ってみたい日本食屋』というイメージが定着している」と手応えを語る。

拠点はハノイ─決め手はイオンモールの集客力
ベトナムに進出する日系企業はホーチミンを起点とするケースが多いが、千房の拠点はハノイにある。3号店の出店先となったイオンモール・ハドン店は、来客数がアジアでも最大級とされる大型商業施設だ。
山下氏は「ハノイのモールならイオン、その中でもここ、という圧倒的な集客力が決め手になった」と話す。イオンモールは中部のダナンにも新たに出店するなど、アジアで積極的に店舗網を広げているという。

(画像出所)イオンモール株式会社
千房のベトナム展開を支える「柔軟性」というパートナー戦略
山下氏は千房の強みを「柔軟性」だと位置づける。「大阪の粉もん文化・鉄板焼き文化を体験してもらう」という目的さえ守られていれば、現地パートナーが自由に判断してよい範囲を広くとっているのが特徴だ。
変えてほしくない核の部分と、自由にしてよい部分とのバランスがオーナー側にとって取り組みやすく、双方の思惑が合致しているという。同社が掲げるスローガン「大阪のテッパンを世界のテッペンへ」についても、ベトナムのパートナーは当初からその精神を体現してくれていた、と山下氏は振り返る。

お好み焼き「千房」2035年に海外100店舗を目指す
千房は2035年までに海外100店舗という目標を掲げる。その根底にあるのは、出店そのものをゴールとしない姿勢だ。山下氏は市場調査やターゲティングについて「ゼロではいけない。最低限の調査をしてターゲティングし、その層に何が響くかの仮説を立てることが重要だ」と語る。
目指すのは単なる出店数の拡大ではなく、「立ち上げた店で顧客に満足してもらい、利益を得て、次の店舗をつくるサイクル」を回すことだ。立ち上げ=成功ではないからこそ、中長期的な発展を見据えながらも、スタートのスピードを保つことを意識しているという。

(写真出所)千房ホールディングス株式会社提供。
ベトナムを足がかりに千房のお好み焼きは世界へ広がるか
ベトナムでは日本食ブームがなお拡大を続けており、日系飲食チェーンの進出も加速している。2035年に海外100店舗を達成するうえで、11年をかけてブランドを浸透させてきたベトナムは、同社にとって引き続き重要な拠点となるだろう。大阪発の粉もん文化を世界にどう届けていくのか、千房の挑戦を今後も注目していきたい。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長
三浦 賢弥
KENYA MIURA
筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機)に入構。
ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。
