ヤクルトのベトナム事業が好調だ。ヤクルト本社が2026年5月に公表した速報によれば、ベトナム事業の2026年1〜3月の1日当たり販売本数は135.8万本前年同期比で10.0%の増加となった。同社が海外事業を展開する国と地域の中で、ベトナムが最も高い伸び率を記録している。

好調を支えるのは、ヤクルトレディによる訪問販売モデルと、現地市場に合わせた商品ローカライズの戦略である。

本記事では前半でInfoBank編集部がベトナムヤクルトの事業構造と成長要因を整理し、後半では株式会社ヤクルト本社 国際事業推進部の梅田武志部長へのインタビューを通じて、好調の背景から2030年に向けた市場展望まで詳しく伺った内容をお届けする。

お話を伺った方(取材対象者)

株式会社ヤクルト本社 国際事業推進部 部長 梅田 武志

数字で見るベトナムヤクルトの事業基盤

ベトナムヤクルトは2006年6月に設立、2007年9月に営業を開始した。出資構成はヤクルト本社が80%、ダノンが20%となっている。

生産拠点は南部ホーチミン市内のVSIP工業団地にあり、1日150万本の生産能力を持つ(2026年3月末時点)。ヤクルト本社から提供された最新データ(2025年12月末時点)によれば、

  • 現地社員数は約1,550人
  • ヤクルトレディは2,688人
  • 取引店舗は6万2,595店

となっている。2026年Q1に達成した135.8万本/日という販売本数は、生産能力のおよそ90%に相当する。

ベトナムヤクルトの乳製品売上本数(1日平均)

2007年の営業開始当時わずか1千本だった1日販売本数は、2026年1〜3月に135.8万本へ。右肩上がりの成長が続く。

販売の4割を占めるヤクルトレディの訪問販売

ベトナムヤクルトの販売は、

  • ヤクルトレディによる訪問販売が4割
  • 小売などによる店頭販売が6割

を占める。対面で商品の魅力を伝えるこの販売手法が同社の特長だ。都市部はもちろん、農村に近いエリアでも販売網が広がっている。

対面で商品の魅力を伝えるには、スタッフへの教育が欠かせない。ベトナムヤクルトでは、社内資格である「ヤクルトライセンス」を整備している。ライセンスがあると資格手当が得られる一方で、資格を得るには商品に対する知識を学ばなければならない。ヤクルトレディへの教育を促す仕組みとして機能している。

ヤクルトレディからなる宅配組織の強化により、新規取引先の開拓にもつながり、ベトナムにおける好業績に至っている。

赤い帽子のヤクルトレディが、笑顔の女性客に「ヤクルト」を手渡す一コマ。訪問販売の温かい接点が伝わる。(写真出所)ヤクルト本社

「ヤクルトライト」とピーチ風味——ベトナム向けローカライズ

ヤクルトのビジネスモデルに加えて、商品のローカライズも好調の要因である。2024年4月、ベトナムで「ヤクルトライト」を発売し顧客層を広げた。糖類を半減・カロリーを25%カットした健康志向商品で、売上は好調だ。

(写真出所)ヤクルト本社による提供

2026年4月には、東南アジアで初の「ヤクルト ピーチ風味」を投入した。年間販売目標は1日7.8万本である。

標準小売価格(店頭・税込み)は「ヤクルト」・「ヤクルトライト」・「ヤクルト ピーチ風味」の3商品いずれも統一されており、5本パックが2万6,000ドン、10本パックが5万2,000ドンだ。

ベトナムでは中間層の拡大とともに健康志向の高まりが進んでおり、こうした健康志向×ローカライズの組み合わせも、事業拡大の追い風となっている。

(出所)ヤクルト本社によるデータ提供
2026年4月に投入された「ヤクルト ピーチ風味」。ピンクのパッケージがベトナムの売り場に登場した。(写真出所)Yakult Vietnam

成長余地は大きい、ベトナムにおけるヤクルトの現在地

もっとも、ベトナム市場におけるヤクルトの浸透は、まだ始まったばかりともいえる。ベトナムの人口は1億人を超え、日本に迫る規模だ。日本では約890万本/日(2025年4月~2026年3月)が販売されるヤクルトブランドに対し、ベトナムの販売本数は134.7万本/日(2025年1~12月)。人口比で見れば、伸びしろは極めて大きい。

近年はベトナムの現地メーカーも乳酸菌飲料市場に参入し、競合は増えている。それでも、ヤクルトレディによる訪問販売ネットワークや、現地の嗜好に合わせた商品展開は、引き続き同社ならではの強みだ。

梅田部長は、ベトナムヤクルトにて2030年に1日200万本という販売目標を掲げ、地方への販売網拡充を次の成長エンジンと位置づける。好調の背景にある組織づくりの考え方から、商品開発の舞台裏、そして2030年に向けた展望まで——以下では、梅田部長へのインタビューを通じて詳しく伺った。

ヤクルト本社 国際事業推進部 梅田武志部長が語るベトナム市場の展望

ベトナムの成長を牽引する「組織づくり」

──ヤクルト本社が海外展開する国と地域の中で、ベトナムは最も高い成長率を記録しています。現地での訪問販売などさまざまな要因が考えられますが、最大の成長のトリガーは何だとお考えですか。

(梅田氏)

やはり組織づくり、ベトナムヤクルトが体制づくりに成功できているところが大きいと思います。私たちにとって特長的な販売チャネルが「ヤクルトレディ」による訪問販売です。日本では昔からあるので馴染みのある方も多いと思いますが、ベトナムは進出してまだ歴史が浅く、当初は「そもそもヤクルトとは何か」というところから始まりました。

そこから地道に、「ヤクルト」という商品をベトナムの人々に知ってもらい、ヤクルトレディ一人ひとりを教育して増やしてきました。昨年12月末時点で2,688人になります。日本に比べればまだ10分の1ほどの規模ですが、着実に増やせています。このヤクルトレディが全体の売上の約4割を占めており、ここを起点に販売実績を伸ばしています。

(出所)ヤクルト本社によるデータ提供をもとにInfoBank作成。

──ヤクルトレディチャネルの強みは、どのような点にあるのでしょうか。

(梅田氏)

やはり対面で「ヤクルト」の価値を伝えられることです。話を聞いたお客さまの中には「ヤクルトレディから買おう」という方もいれば、「お店で買おう」という方もいます。あるいはその方が別の誰かと話して、ヤクルトレディを知らない人でも「ヤクルト」に興味を持ってくれる。そうした波及効果もあると思います。

東南アジアに適した訪問販売モデル

──日本発のモデルですが、ベトナムを含むアジアでも有効な販売手法なのですね。

(梅田氏)

当社は米州でもヨーロッパでも事業を展開していますが、ヤクルトレディのシステムは東南アジアにおいて比較的向いていると感じます。在宅されている方が多いことに加えて、訪問されること自体への抵抗が少ない。都会でもあまり閉鎖的ではありません。

何度か出張した際にヤクルトレディに同行する機会がありましたが、日本でいう「井戸端会議」のような光景がよく見られます。ベトナムでは道沿いの家の前に5〜6人の女性が集まって話している光景をよく目にします。そこにヤクルトレディと一緒に行っても、自然に話を聞いてくださる。そうした国民性が、ヤクルトレディというシステムに合っているのだと思います。

スーパーの冷蔵棚に並ぶ「ヤクルト」と「ヤクルトライト」。競合ブランドと並び、乳酸菌飲料市場での存在感を示す。(写真出所)ヤクルト本社

普及を支えた「物珍しさ」とヘルスクレーム

──乳酸菌飲料はベトナムでは新しく、口コミでも広がりやすかったのでしょうか。

(梅田氏)

当初はなかなか売上が伸びず苦労しました。ただ、やはり「物珍しさ」もあったと思います。加えて、「ヤクルト」はヘルスクレーム(健康強調表示)も取得しており、下痢や便秘のリスクを下げる、感染症に対する抵抗力を高める、といった効果を訴求できます。ヘルスクレームを取得できるのは、それだけ効果が出ているということでもあります。

実際に、お客さま自身に体感していただける部分もあるのではないでしょうか。これはベトナムに限りませんが、ヤクルトレディに同行してお客さまに話を聞くと、「楽しく飲んで調子がよくなった」という声をありがたいことにいただきます。そうした評判が着実に広がっていくのだと思います。

「Thêm Lựa Chọn, Thêm Vui!(選べる楽しさ、もっと!)」をキャッチコピーに、ベトナムで展開する3商品をアピールする広告ビジュアル。ベトナムでの珍しさも普及に繋がった。(写真出所)Yakult Vietnam

ブランドを象徴する独自のボトルデザイン

──ベトナムでもコンビニやスーパーの売り場に行くと、御社の「あの形」が一つのスタンダードになっているように感じます。他社の乳酸菌飲料も似た形状ですね。

(梅田氏)

「こけし型」と呼んでいますが、これは当社独自のデザインです。1968年にインダストリアルデザイナーの剣持勇氏(剣持デザイン研究所)に依頼し、飲みやすさと生産のしやすさを考えて作られました。

くびれがあることで、生産ラインに配置していく際のガイドとなって固定できる。小さい容器なので、まっすぐな形だとつかみにくいのですが、くびれがあることで扱いやすくなる。このデザインが「乳酸菌飲料」を象徴するものになっています。

──消費者は「これはヤクルトの商品だ」ときちんと認知しているのでしょうか。

(梅田氏)

日本でもありがちですが、他社の乳酸菌飲料の商品であっても「ヤクルト」と呼ばれてしまうことがあります。そうした中でも、乳酸菌飲料といえば「ヤクルト」、と認知されていく。そのうえで「本当の『ヤクルト』はこれですよ」とお伝えしていく形です。

1968年に剣持勇氏がデザインした「こけし型」ボトル。くびれのある独自の形状は、乳酸菌飲料を象徴するデザインとなっている。
(写真出所)ヤクルト本社

東南アジア初のヤクルト ピーチ風味

──ベトナムでピーチ風味が登場しました。フレーバー展開の経緯を教えてください。

(梅田氏)

最初にピーチ風味を出したのは中国で、2024年5月でした。なかなか評判が良かったので、ベトナムヤクルトからの希望もあって導入しました。もともと「ヤクルト」はあまりフレーバー展開をしてこなかったのですが、お客さまの興味・関心、ちょっとした楽しみが「ヤクルト」を飲むきっかけになるだろうということで、中国で試しに展開したところ好評だったのです。

ピーチに決め打ちしたわけではなく、何種類か試作してスタッフに飲んでもらい、評判が良かったのがピーチでした。ピーチといっても、ピーチだけの味ではなく、あくまで「ヤクルトらしさ」「ヤクルトの味」を感じながらピーチも分かってもらえる——そういうバランスがあるので選ばれたのだと思います。

──南国のベトナムですから、てっきりマンゴーやドラゴンフルーツのような果物を想像していました。

(梅田氏)

日本の企業だからこそ、ベトナムにはない桃の味であることに一つの意味があると考えています。例えば日本に外国企業がやってきて、ガラナのような馴染みのない味を出したら珍しく感じますよね。そうした珍しさはあるのかなと思います。

健康意識の高まりと2027年の砂糖税

──ベトナムでは肥満や子どもの肥満率が課題となり、2027年からは砂糖税の導入も報じられています。健康意識や予防医療への関心の高まりは、健康を訴求できる御社にとって追い風になるのでしょうか。

(梅田氏)

健康志向の高まりという方向性は追い風だと思います。とはいえ現地に聞くと、肥満が問題になりつつあるのも事実のようです。健康への関心は確かに追い風ですが、食品を選ぶには生活にある程度の余裕が必要です。

お金に余裕がないうちは、とにかくお腹を満たすことが重要ですから。経済発展著しいベトナムはそこから一歩踏み出して、食事を楽しみ、健康に良いものを選ぶ段階に入ってきたと思うので、そこは追い風です。

一方で、肥満にフォーカスされると、どうしても糖分が注目されがちです。「『ヤクルト』は糖分が多い」という話も出てくるかもしれません。そこは正しい情報を発信していく必要があります。糖分が入っていることは否定しませんが、容量が小さいので、大した量ではありません。また、乳製品は健康に良いということで、砂糖税の対象から除外されています。

ベトナムヤクルトの今後の商品ラインアップ

──今後、高付加価値商品の拡大も視野に入りますか。

(梅田氏)

ベトナムではすでに「ヤクルトライト」があり、糖分を気にされる方に向けた商品を販売しています。高付加価値商品というと菌数を多くしたものになってくると思いますが、今のところベトナムヤクルトは売上が順調に伸びており、現行のラインアップを必要としている方、まだ試されていない方がたくさんいらっしゃいます。まずはそこが先決だと考えています。もちろん、将来的には、そうした形でも展開を検討していきたいと思います。

多様な乳製品が並ぶ商品の棚。「ヤクルト」も他ブランドと肩を並べ、ベトナムの日常に浸透している様子がうかがえる。
(写真出所)ヤクルト本社

ブランド浸透には時間 ── 都市化率という課題

──日本では圧倒的なブランドでも、ベトナムでの浸透には時間がかかるものなのですね。

(梅田氏)

設立から営業開始まで含めると、ベトナムでの歩みは約20年になります。それでも、地方に行けばまだ知らない人も多いと思います。ホーチミンを中心に始めたので、ホーチミン市の方はかなり知ってくださっている印象ですが、地方はこれからです。

現地から聞くのは、都市化率は年々上昇傾向ではあるものの、現状では4割ほどということ。人がそれだけ分散しているので、ヤクルトレディを含めて、ビジネスとして難しい側面はあります。広範囲に動けるような仕事ではありませんので。

ヤクルト本社に展示された巨大ボトルのオブジェ。創業90年以上の歴史を持つ同社のブランド力を象徴する光景だ。(出所)ヤクルト本社にてInfoBank撮影。

人材育成を支える「ヤクルトライセンス」

──体制面、特に人との接し方の部分がうまく機能しているのですね。

(梅田氏)

研修にはかなり力を入れています。特にこの10年ほどで、ベトナムヤクルトとして「ヤクルトライセンス」という制度を導入しました。商品知識やお客さまへの対応など、一定の知識を得ないとヤクルトレディになれない、社員も一定の知識を得ないと昇進できない、といった仕組みで人材育成に注力しています。

ヤクルトレディは大体お昼に営業所へ集まり、ロールプレイングを行って「ここが良かった」と互いに共有することもあります。いくらヤクルトレディを採用しても、「ヤクルト」に対する知識がないまま売るだけでは、なかなか買ってもらえませんから。創業90年以上、ほぼ「ヤクルト」一筋でやってきましたので、研修にそのエッセンスが詰まっていると思います。

(出所)ヤクルト本社によるデータ提供をもとにInfoBank作成。

2030年に1日200万本——ベトナム市場の展望

──最後に、今後のベトナム市場をどう見ているか、目標と合わせてお聞かせください。

(梅田氏)

私たちは「本数」、とりわけ人口比を大事にしています。対象とする市場の中で、何人くらいの方が飲んでくださっているかを重視しているのです。2025年末で1日あたり134.7万本。これを、2030年には1日200万本にしたいと考えています。200万本というのは毎日200万本販売されているという意味で、つまり200万人の方に飲んでいただくということ。そこを目標に頑張っています。

日本では最新で1日890万本ほどです。これは「ジョア」や「ミルミル」など乳製品すべてを含めた数字で、ヤクルトブランドだけでも720万本以上売れています。ベトナムに張り巡らせた組織力と現場の声を生かし、地方への販売網拡充を次の成長エンジンとして、目標達成を目指していきます。

(出所)ヤクルト本社によるデータ提供をもとにInfoBank作成。

取材を終えて|1億人市場に挑む、ベトナムヤクルトの現在地

編集後記

今回の取材を通じて印象に残ったのは、日本では知らない人がいないほどのブランドを築いたヤクルトであっても、ベトナムでの道のりは「ヤクルトとは何か」を伝えるところから始まったという事実だ。

設立から数えて約20年。その歳月をかけて同社が積み上げてきたのは、ヤクルトレディを核とする組織体制と、「ヤクルトライト」や「ヤクルト ピーチ風味」に表れる現地市場へのローカライズである。

圧倒的な知名度も、新たな市場では一朝一夕には通用しない。対面で商品の魅力を伝える地道な営業と、現地の嗜好や健康志向に寄り添った商品開発によって、ベトナムヤクルトは着実にブランドを浸透させてきた。経済発展が著しいベトナム市場において、これまで培った組織力と現場の声を地方へどう広げていくか。2030年・1日200万本という目標の先にも、1億人市場の伸びしろは大きい。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。