ベトナム飲料市場の転換点──健康志向が進む

生活習慣病の増加が映すベトナムの健康志向

かつてのベトナムを象徴した、慢性的な貧困と食糧不足の時代はすでに過去のものとなった。伝統的な家庭料理に加え、安価な加工食品やファストフード、多様化する外食文化が日常に溶け込み、ベトナムはいまや「飽食の時代」を迎えている。

その一方で、食生活の欧米化にともなう高カロリー・高脂質な食事や砂糖の過剰摂取が広がり、肥満や糖尿病といった生活習慣病の増加が新たな社会課題として浮上している。こうした裏返しとして、ベトナムの生活者の間で健康への意識はかつてないほど高まりつつある。

ベトナム飲料市場は2035年に257億ドルへ、ノンアルコールが牽引

一方で、ベトナム飲料市場は今後も成長が続く見通しだ。ベトナムの飲料市場は2026年から2035年にかけて年平均成長率(CAGR)4.7%で拡大し、2035年には約257億1,000万米ドル規模に達すると予測される。なかでもノンアルコール飲料は5.3%と、市場全体を上回る成長が見込まれている。

ベトナム飲料市場では、非アルコール飲料が6割超を占める
【ベトナム飲料市場売上予測(2025~2029年)】(出所)StatistaよりInfoBase作成

健康政策としての砂糖税と、ベトナム飲料業界の対応

政策面でも、健康志向を後押しする動きが加速している。2025年6月14日、第9回国会で改正特別消費税法が可決された。同法により、アルコール度数20%以上の蒸留酒およびビールは2026年初頭に65%の税率が課され、以降は毎年5ポイントずつ引き上げられて、2031年には90%に達する。

ノンアルコール分野でも砂糖入り清涼飲料への圧力が強まり、砂糖含有量が100mlあたり5gを超える飲料(ベトナム基準)には、2027年に8%、2028年に10%の特別消費税が段階的に導入される。「甘さ」と「安さ」に支えられてきた従来の清涼飲料市場は、いま構造的な転換点を迎えつつある。

キリンが投入する「免疫をサポートする止渇飲料」KIRIN iMUSE

こうした市場と政策の潮流のなかで、新たな一手を打ったのがキリンホールディングス株式会社(以下、キリン)である。

ベトナムでキリンブランドの清涼飲料を販売するグループ会社Interfood Shareholding Company(以下、インターフード社)は、キリン独自素材「プラズマ乳酸菌」を配合した「KIRIN iMUSE(イミューズ)」を大幅に刷新し、「KIRIN iMUSE Refreshing Drink Lemon & Yogurt Flavored 430ml」を2026年6月15日(月)より展開する。プラズマ乳酸菌を1,000億個配合し、ヨーグルトテイストにレモンの風味を重ねた、すっきりとした清涼感のある一品だ。

「KIRIN iMUSE Refreshing Drink Lemon & Yogurt Flavored 430ml」の商品特長と展開について
(出所)キリンから提供された画像をもとにInfoBank作成。

「KIRIN iMUSE(イミューズ)」は、2019年9月にベトナムで発売されたキリン初の海外向け商品であり、発売以来着実に販売網を広げ、2025年には取扱店舗数が発売当初比で約20倍にまで拡大している。今回のリニューアルでは、強みである「免疫サポート」という価値を軸としつつ、より日常的に手に取りやすい「止渇(しかつ)飲料」としての魅力を前面に打ち出した。

「免疫をサポートする止渇飲料」という新たなブランドポジショニングを確立し、生活者が日々の水分補給のなかで自然に健康習慣を取り入れられる商品への進化を図る。容量はベトナムのソフトドリンクの標準的なサイズに合わせた430ml、価格は1本12,000ベトナムドン(24本パックは288,000ベトナムドン)で、小売店を中心にスーパーやコンビニエンスストア、学校・工場の食堂などでの展開を見込む。

キリンは長期経営構想「Innovate2035!」のもと、「プラズマ乳酸菌入り飲料」をヘルスサイエンス事業の中核カテゴリーに据え、今後は東南アジアを中心に展開を加速させる方針だ。健康意識が高まるベトナム市場において、今回のリニューアルはその戦略の行方を占う試金石となる。

ベトナム飲料市場の最新動向と健康志向の高まり、そして今回のリニューアルに込めた狙いについて、インターフード社 Sales & Marketing General Managerの大森 慎也氏に詳しく話を伺った。

Interfood Shareholding Company 大森 慎也 Sales & Marketing General Manager

キリンに聞く──ベトナム飲料市場と止渇飲料への挑戦

暑いベトナムで支持される、渇きを潤す健康飲料へ

Q1. 今回のリニューアルでは、免疫サポートに加えて「日常的に手に取りやすい清涼飲料」としての価値を打ち出されました。その判断の背景には、ベトナム市場のどのような特性やニーズがあったのでしょうか。

(大森氏)

今回は新商品の投入ではなく、2019年からベトナムで販売してきた製品を、かなり大胆にフルリニューアルしたという位置づけです。従来は280mlのサイズ感で展開していました。

ただ、あらためてベトナムの清涼飲料市場の生活者を見つめ直すと、清涼飲料に求める価値の上位に来るのは、即効性、つまり喉の渇きを潤すという、飲み物が本来もっとも期待されている部分でした。

ベトナムは気候が非常に暑く、日常的に清涼飲料を頻繁に飲む文化が根づいています。そこに近年の健康志向の高まりが重なり、渇きを癒すという飲料の基本価値に、おいしさだけでなく健康価値まで求める生活者が確実に増えていると認識しています。

そこで今回のリニューアルでは、私たちの強みである「免疫サポート」という価値はそのままに、より日常的に喉の渇きを潤すソフトドリンクとして手に取っていただけるよう、「渇きを潤す」という価値を前面に打ち出しました。

容量も430mlへと変更し、パッケージも一目で清涼飲料と認識いただけるデザインに刷新しています。中身についても、ゴクゴクと飲めて、しっかりと渇きを潤せる味覚へと作り替えました。

ベトナムの気候は南北に細長いため地域によって大きく異なるが、共通して「高温多湿」で、年間を通して日本の夏以上に蒸し暑い熱帯および亜熱帯性気候に属している。(写真出所)Znews.vn

南北で異なる気候、それでも全国で高い飲料ニーズ

Q2. ベトナムは南北に長く、地域によって気候も大きく異なります。飲料メーカーの視点から見て、市場特性に南北差はあるのでしょうか。

(大森氏)

おかげさまで、現在は全国で販売させていただいております。北部には四季があり、冬場は10度台前後まで冷え込むため、夏場に比べると清涼飲料へのニーズがやや落ち着く面はあります。

一方、南部は年間を通じて平均気温が30度前後で、屋外で働くワーカーの方々を中心に、飲み物への需要が非常に大きい地域です。とはいえ、渇きを潤したいというニーズ自体は南北を問わず旺盛で、北部中心・南部中心といった偏りは特にありません。全国的に清涼飲料へのニーズは大きいと捉えています。

オフィスから運動、休憩まで──幅広い飲用シーンを想定

Q3. 本商品は、どのような生活者に、どのようなシーンで飲んでほしいと考えていますか。想定するターゲット像を教えてください。

(大森氏)

メインターゲットは、25歳から40歳ほどの働く男女です。若年層から40代までの、いわば働き盛りの世代を見据えています。というのも、屋外で働く方もオフィスで働く方も、日々さまざまなストレスや環境の変化にさらされ、免疫が下がりやすい状況に置かれているからです。そうした心身ともにタフな環境で働く方々の免疫をサポートできる存在でありたいと考えています。

飲用シーンを一つに絞り込むことは考えていませんが、たとえば会社オフィスでのリフレッシュはもちろん、健康意識の高い方が増えているベトナムでは運動時の一本としても十分に想定できますし、屋外で働くの方々の休憩時のリフレッシュにも自然と溶け込むはずです。幅広いシーンで手に取っていただける商品だと考えています。

ベトナムにおける「KIRIN iMUSE(イミューズ)」の初発売日は、2019年9月。キリングループが独自素材「プラズマ乳酸菌」を配合し、ベトナム市場向けに現地のグループ会社(インターフード社)を通じて展開した「iMUSE」ブランドとして初の海外向け商品となった。
(写真出所)キリン公式サイト

プラズマ乳酸菌1,000億個、免疫と清涼飲料の両輪で訴求

Q4. 今回のリニューアルは、これまでの「免疫」訴求から軸足を移すのではなく、「免疫」と「清涼飲料」の両輪で訴求していく、という理解でよろしいでしょうか。

(大森氏)

そうです。今の商品の全面に出ている「バリア」のようなマークと文字で、免疫をサポートしますということは既に書いてあります。

今後のマーケティング(YouTube、TikTokなどでのPR)でも、メインの訴求はまず免疫をサポートし、非常に日常の毎日を(健康的に)過ごそうというストーリーラインを想定しています。どちらかというと、まずは競合との差別化ができるLC(プラズマ乳酸菌)が1,000億個入っている、そのドリンクの効果・効能によりあなたの免疫機能をサポートしますという機能をまず前面に出していきます。

それを摂るのに、日頃簡単に手に入る清涼飲料という形でこのドリンクをとっていただける、という両面を訴求していきます。まず訴えていきたいのは、我々のこのドリンクは免疫をしっかりサポートできるという点です。

リニューアル前の「KIRIN iMUSE」(280ml)。プラズマ乳酸菌1,000億個を配合し、「免疫サポート」を前面に訴求してきた。
(写真出所)Kirin Vietnam

店頭・サンプリング・SNS──健康価値を伝える三つの接点

Q5. 飲料は、じっくり調べて選ぶより感覚的に手に取る商品だと思います。健康価値や機能性を生活者に伝えるうえで、最も重要な接点はどこにあるとお考えですか。

(大森氏)

私自身、ローカルの生活者の目線に完全になりきることは難しいのですが、どの時代であっても、商品を知っていただく入り口として店頭が果たす役割は非常に大きいと考えています。

まずは、コンビニエンスストアの棚やスーパーマーケットの大量陳列で製品が並び、新発売であることを認知していただくこと。次に、人が多く集まる場所でのサンプリングイベントです。実際に製品を口にし、手に取っていただく機会をつくっています。そして三つ目が、Facebook、YouTube、TikTokという三大SNSを活用した情報拡散です。

この「店頭での陳列」「サンプリング活動」「SNSでの拡散」という三つの接点を通じて、生活者が情報に触れ、実際に店頭で商品を手に取るところまでつながるよう、全体を設計して進めています。

色とりどりの飲料が並ぶベトナムのスーパーマーケットの棚。多様化する嗜好と競争激化を映す一方、健康志向の高まりが新たな潮流を生んでいる。(写真出所)Tap Chi Thuong Truong

所得向上と健康志向を先取りする、リニューアルの時機

Q6. 発売から数年を経た製品を、いまこのタイミングでリニューアルされた狙いはどこにあるのでしょうか。

(大森氏)

ベトナムでも消費者の健康意識が年々高まっていることを、さまざまな場面で見聞きし、私自身も肌で感じています。今後さらにベトナム経済が成長し、生活者の所得が増えていけば、健康的な飲料や健康的な暮らしへの関心はいっそう高まっていくと、ある程度予測できます。

そうした変化を先取りし、早い段階から健康志向の生活者を取り込んでいきたい。その思いから、できる限り早いタイミングでリニューアルに踏み切ろうと、昨年から準備を進めてきました。

砂糖税がベトナム飲料市場に迫る、購買の転換点

Q7. ベトナムでも砂糖税(シュガータックス)の導入が控えています。健康志向の高まりも相まって、飲料業界の対応は今後加速していくとお考えでしょうか。

(大森氏)

政策面でも、市場を動かす変化が起きていると捉えています。2025年6月に、砂糖税の特別消費税導入が公表されました。生活者にとっても、購買行動を変える重要な転換点になると私たちは見ています。

砂糖を100mlあたり5g以上含む製品には特別消費税が課される。つまり、店頭での購入価格も上がっていく可能性が高いということです。そうなれば、健康的で、かつこれまでと変わらない価格で買える商品へと切り替えたい、という動機がお客様に働くかもしれません。まさに転換点だと考えています。私たちとしても、できる限りお客様の健康に貢献できる形で、減糖をはじめとする中身の見直しをしっかり検討しながら進めていきたいと考えています。

【まとめ】健康志向のベトナム飲料市場を先取りする、キリン

健康意識の高まりと砂糖税の導入が重なり、ベトナムの飲料市場はいま大きな構造転換の入り口に立っている。その潮目を先取りするように打たれたキリンの一手が、健康志向を強めるベトナムの生活者にどう受け入れられていくのか。

今回のリニューアルの行方は、同社の東南アジア戦略のみならず、成長を続けるベトナム飲料市場の新たな可能性を映すものとして、引き続き注目を集めそうだ。

改正特別消費税法は2026年1月1日に施行されるが、砂糖入り清涼飲料(砂糖含有量100mlあたり5g超)への課税適用は2027年から。税率は2027年に8%、2028年に10%へと段階的に引き上げられる。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。