外食大手のロイヤルホールディングス(ロイヤルグループ)が、ベトナムで出店を加速させている。2025年4月にホーチミン市で1号店を開いてから1年余りで、店舗数は10に達した(2026年10月9日の執筆時点)。

洋食から和食居酒屋、焼肉、寿司、ラーメン、とんかつまで業態を広げながら、同じエリアに集中して出店するドミナント戦略をとる。現地でロイヤルグループの事業を率いる中西喜丈氏(ROYAL SOJITZ VIETNAM General Director)に、短期間で多業態を展開できた理由と、今後の展望を聞いた。

ホーチミンで点から面へ、ロイヤルのドミナント出店

グローバル戦略の重要拠点として選ばれた飲食市場ベトナム

ロイヤルグループは「経営ビジョン2035」でグローバル戦略を成長の柱に掲げる。中期経営計画(2025〜2027年)では、グローバル人材の採用・育成を進めながら、海外事業は直営とフランチャイズ(FC)の両輪で成長と収益性を追求する方針を示した。

2027年度には海外で直営50店舗、FC100店舗、進出国・地域は累計10カ所を目指す。直営事業はアジアと北米を対象に、グループのノウハウを生かして現地のニーズや物件にあわせた業態開発を進める。その直営展開の重要拠点と位置づけるのがベトナムだ。

中西氏はベトナムの魅力として、まず経済の伸びしろを挙げる。高い経済成長が続き、人口構成も若い。若年層の労働力が豊富なうえ、外食の比率が高く、外食に使う金額も大きい。所得水準も年々上がっており、外食需要は今後も拡大が続くとみる。

グローバル戦略の全体像(画像出所)ロイヤルグループ経営ビジョン2035 中期経営計画2025〜2027

2025年に6店舗、2026年は4店舗と続く出店ペース

2024年に双日と共同出資で現地法人を設立し、2025年4月に洋食の1号店「THE ROYAL」をホーチミン市中心部に開業した。その後は「いねや」ブランドで和食の業態を次々と投入し、2025年に6店舗、2026年に入ってからも4店舗を出店した。

4月には炭火いねやと焼肉いねやの2店舗目を相次いで開業し、5月に拉麺いねや、6月に豚カツいねやと、ほぼ毎月のペースで新店が続いている。2026年12月期第2四半期(中間期)決算説明会資料によると、8月7日時点で10店舗に達し、出店は「点」から「面」の展開に移っている。2026年内にはさらに数店舗の出店を予定する。

号店店名業態
1THE ROYAL洋食
2博多いねや和食居酒屋
3炭火いねや炭火焼
4焼肉いねや焼肉
5鮨いねや寿司
6ROLL&TEPPANいねやロール寿司・鉄板焼き
7炭火いねや(2店舗目)炭火焼
8焼肉いねや(2店舗目)焼肉
9拉麺いねやラーメン
10豚カツいねやとんかつ

1号店の店名「THE ROYAL」には、ロイヤルの原点という意味を込めた。ミドル〜アッパー層に向けて、グループの名を冠した上質な店からベトナムでの歩みを始め、そこを起点に和食の多彩な業態へと幅を広げてきた。

2025年4月、ホーチミン市中心部に開業した1号店「THE ROYAL」(画像出所)ロイヤルホールディングス 2025年4月8日付リリース

その中核となる「いねや」は、日本国内で博多・熊本・鹿児島に展開する和食店で、2001年の1号店開業以来、ご飯や味噌汁、漬物、豆腐といった日本料理の定番を大切にしてきた。ベトナムではそのコンセプトを受け継ぎ、居酒屋から炭火焼、焼肉、寿司、ラーメン、とんかつまで、日本の多彩な食文化を1つのブランドで網羅する。

豚カツいねやの「豚ロースカツ定食」(左)と「豚カツ煮定食」(右)。ご飯と味噌汁、漬物を添えた定食で提供する(画像出所)ロイヤルホールディングス

ブランドではなく立地から決める「立地キック」の発想

調査と現場の手応えを両輪に、複数の業態を一気に展開

短期間で多業態を展開できた背景には、スピードを重視する出店の姿勢がある。ロイヤルグループは国内でレストランチェーンから専門店まで多様な業態を運営しており、その知見を生かして、どの業態がベトナムの消費者に受け入れられるかを市場調査と並行して確かめてきた。

中西氏は、市場調査を出店判断の土台としつつ、調査結果だけに固執しないことが大切だと話す。ベトナムの外食市場は変化が速く、机上の調査だけで先を読むのは難しい。そこで1つの業態で検証を重ねるのではなく、複数の業態を一気に出し、実際の店舗で消費者の反応を確かめながら次の一手を決めていく。店舗で得た手応えを次の出店に生かしていく流れが、1年余りで10店舗という速さにつながった。

例えば3号店の炭火いねやは、1本2万ドンの串焼きを中心とした炭火焼と、一皿10万ドンの小皿料理を均一価格で提供し、2号店の博多いねやよりもカジュアルに日常使いできる店として開業した。同じ「いねや」の名でも価格帯や利用シーンを変えて出すことで、消費者の反応を比べながら業態を磨いていける。

立地キック方式による最適化、ドミナント出店のメリット(画像出所)2026年12月期第2四半期(中間期)決算説明会資料

路面店とドミナント出店がもたらすスピードと効率

出店手法には2つの柱がある。1つ目は、ブランドより先に立地を決める「立地キック」だ。優良立地の確保を先行させ、その後でプレミアムカジュアル、スタンダード、ファストフードの中から最適な業態を選定・開発する。特定ブランドに合う物件を探す従来の「ブランドキック」方式で起こりがちな、立地と業態のミスマッチを抑えられる。現地のニーズや物件にあわせて業態を開発するという方針を、具体的な出店の仕組みに落とし込んだ形だ。

2つ目は路面店である。モールでは入居まで空きを待つ必要があり、店名やメニューの変更にも制約がある。人気の商業施設では、入居までに長い期間を要するケースもある。路面店なら出店の機会を確保しやすく、店名や商品も柔軟に変えられる。焼肉いねやでスープとして出して好評だった、牛スジやテールを煮込んだ一杯を「拉麺いねや」として独立させたのも、こうした柔軟さがあってこそだ。

2026年6月に開業した10号店「豚カツいねや」。路面店として出店している(左は看板メニューのとんかつ)※画像はイメージ(画像出所)ロイヤルホールディングス

ホーチミン市内に店舗を集中させるドミナント出店では、物流・サプライチェーンの最適化、人材の融通や管理の効率化、エリア内でのブランド露出の最大化といった効果も見込む。同じ「いねや」の看板を掲げた店が街なかに増えるほど、業態が違っても1つのブランドとして認知が積み上がっていく。

ベトナムの消費者に響く日本の味と集客の勘所

反応がよい牛肉と寿司、業態ごとに広がる客層

現地で特に反応がよいのが牛肉と寿司だ。ベトナムでは牛肉料理がもともと日常的に親しまれ、ステーキハウスもにぎわうなど、市場としての土台は厚い。焼肉いねやは、カルビやロース、ハラミといった定番部位から希少部位までをそろえ、量より質にこだわった焼肉を提供しており、すでに2店舗目を出店した。

拉麺いねやの「特製拉麺」(左)と「牛テールらーめん」(右)。(画像出所)ロイヤルホールディングス

寿司は中西氏がベトナム人に合うとみる料理の1つで、鮨いねやはローカルの富裕層から支持を集める。富裕層の中には訪日を通じて本場の寿司に触れた人もおり、現地にも寿司店が多いことから、寿司は身近な存在になっているという。6号店のROLL&TEPPANいねやでは、ロール寿司に鉄板焼きのライブ感を組み合わせ、寿司をより気軽に楽しめる業態も用意した。

ターゲットはミドル〜アッパー層で、商品や価格帯、店の設えを業態ごとに変えることで、それぞれ異なる客層をとらえている。多業態での展開は、幅広い顧客層に日本の食文化を届ける手段にもなっている。

バイク社会ならではの立地とSNSの生かし方

集客の面で中西氏が重視するのは立地だ。ベトナムではバイクや車での移動が中心で、歩きながら店を選ぶ日本のような行動は少ない。そのため、路地の奥のように見つけにくい場所より、分かりやすい立地のほうが集客で有利になる。味やサービス、店の設えと並んで立地を重視し、立地を起点に出店を組み立てる「立地キック」の考え方は、こうした現地の特性にも合っている。

SNSの活用も進める。ベトナムではKOLやインフルエンサーの発信力が大きく、業態や価格帯に応じた発信の工夫が求められる。インフルエンサーが店の一品を実際に味わって紹介したことをきっかけに、その料理の注文が伸びた例もある。具体的なメニューが実際の食体験とともに伝わると、来店や注文に結びつきやすい。こうした手応えを踏まえ、マーケティングにも一段と力を入れている。

中計目標に向け、ベトナムから広がるロイヤルの成長

手応えある業態を軸に、モール出店とハノイも視野

1年余りで10店舗を展開するなかで、手応えのある業態も見えてきた。来年からはそうした業態に軸足を置き、出店の精度をさらに高めていく。立地戦略も次の段階に入る。これまでは路面店が中心だったが、今後はモールへの出店も視野に入れ、それに合う業態の開発も進める。交通網の整備が進めば、立地の選択肢も広がる。出店エリアについても、ホーチミンに加えて、将来的にはハノイも視野に入れる。

事業基盤の強化も進む。パートナーの双日とは食材の調達などで連携しており、そのネットワークを生かした業態の広がりも期待される。人材面では、店舗の現場を率いるローカル人材の採用と育成に力を入れる。グローバル人材の採用・育成はグループの成長戦略の柱の一つでもあり、ベトナムでの取り組みはその実践の場となる。

海外直営50店舗・FC100店舗の目標とベトナムの役割

中長期的には、飲食以外への展開も視野に入る。ホテルや空港内のラウンジ・飲食店など、ロイヤルグループが日本で手がけてきた事業をベトナムで展開できる可能性もあり、機会があれば取り組みたい考えだ。当面は飲食に集中しながら、外食で築いた拠点と知見を将来の事業の広がりにつなげていく。

ロイヤルグループはFC事業でも、国内外ブランドのパッケージ化や同一国内でのマルチブランド展開を進める方針だ。1つの都市で複数の業態を同時に運営するベトナムでの経験は、こうした海外展開のモデルづくりにも生きてくるだろう。

70年以上にわたって外食チェーンや専門店を運営してきた国内のノウハウを、立地キックとドミナント出店という仕組みで素早く現地に持ち込み、実際の店舗で磨いていく。1年余りで10店舗という出店ペースは、そのスピードを端的に示している。海外直営50店舗という2027年度の目標に向けて、ベトナムはロイヤルグループのグローバル戦略をけん引する拠点として、存在感をさらに高めていきそうだ。

ベトナム経済メディアInfoBank 編集長

三浦 賢弥

KENYA MIURA

山形県山形市出身。筑波大学大学院でのベトナム研究・ホーチミン市師範大学での留学を経て、JETRO(日本貿易振興機構)に入構。

ベトナム進出コンサルティング・市場調査会社に7年間携わり、2026年1月にベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBase創業。代表取締役に就任。

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